第483話 【新・久坂隊その1】最強の高校生カップル準備完了! いざ、敵の本丸へ!! 異世界・ヴァルガラ

 復活を遂げた逆神六駆は、体力気力、そして煌気オーラとフルチャージ完了。

 小坂莉子はそれなりに消耗しているはずなのだが、それでも煌気オーラ総量は未だに六駆に匹敵している。


 「こりゃ、莉子ちゃんもアナスタシアさんの影響受けとりますな。たった一泊二日で潜在能力が解放されとるじゃて」と逆神四郎は察していた。


 事実、逆神アナスタシアの特異体質である「同じ空間にいるだけで周囲の煌気オーラを強化する」力はその影響力と影響を及ぼす範囲のいずれもが規格外。

 4軒隣にある公民館に集う呉の老人会を現世で最強の戦う老人集団に変貌させるほどであり、ならば元から素質のあった小坂莉子が対象となれば。


 考えるまでもなく、莉子さんは最強の階段を駆け上がっていた。


「ところで久坂さん! 南雲さんたちは無事ですか? さすがに僕もちょっと責任感じてまして。死んじゃってたら申し訳ないなって」

「おお、修一のとこはのぉ。四郎さんが助っ人のツテがある言うけぇ、お願いしちょいたんじゃ。四郎さんの言う事なら大丈夫じゃろ」


 大丈夫どころか、世界のパワーバランスを揺るがす集団が旅行気分で襲来している。


「あっ! もしかして、ばあちゃん?」

「ほっほっほ。六駆、さすがに察しがいいの!」


「ほぇぇ……。おばあちゃんが来てくれたんだぁ! だったら安心だねっ! きっと、みんな元気だよ!! よかったぁ!!」

「本当だね! 僕たちが抜けるって、南雲隊にとってはかなりリスキーだったからなぁ!!」


「ねー! えへへへへへっ!」

「あっはっは! いやー! 参った、参った!!」



 六駆くんに引っ張られるように、莉子さんから常識と言う素質だけが消えて行く。



「それで、ヴァルガラですっけ? どんな編成で行くんですか?」

「ワシとお主と莉子の嬢ちゃん。あとは55のを連れて行く予定じゃ。四郎さんにゃ、ダンジョンから連戦で『男郎花おとこえし』を使うてもろうちょるからのぉ。これ以上のご無理はさせられん」


「なにそれ、じいちゃん! 新しい武器作ったの?」


 ちょっと待て。

 お前が「いらんからやる」と言って祖父に押し付けた呪いの斧だろうが。


「まあの、六駆のことじゃて。心配するだけ余計とは思うが、気を付けるんじゃぞい。何が起きるか予想のつかん。それが人生じゃ」

「……分かってるよ、じいちゃん! 僕も今回の事で色々と学んだから! まだまだ、世の中には知らない事がいっぱいだね!!」


 メタルゲルの外皮食っただけで、何か成長イベントをこなしたような口ぶりである。


「ほいじゃの。早速行こうかい。2人とも、準備はええか?」

「もちろんですよ! 倒れてた分だけこれから稼がないと!! 僕としたことが、ボーナスチャンスを見逃すなんて!!」


「わたし、六駆くんのサポート頑張りますっ!! だって、六駆くんが稼ぐお金って……。わたしたちが隠居するためのお金だもん! えへへへへへへっ」

「お、おお……。莉子の嬢ちゃん、ついに六駆の小僧に感化され過ぎて隠居する方向に考えを変えたんか……。協会の未来の芽は小坂です!! とか言うちょった五楼の嬢ちゃんが聞いたら泣きそうじゃのぉ。金の卵を温めたのが六駆のやったっちゅうのが悲劇の始まりじゃったか……」


 それから、55番が必要な準備を済ませたのを確認した久坂の指示で4人は本部建物の外へ出た。

 久坂の手には【稀有転移黒石ブラックストーン】が握られており、転移座標は雨宮順平上級監察官が死闘の合間にどうにか構築した、ヴァルガラ異界の門付近である。


 ついに2人揃って隠居する事を決めた最強の高校生カップルを連れて。

 久坂隊、再出陣の時は今。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 異世界・ヴァルガラでは。

 本拠地に戻った2番が各地の状況を苦い表情で確認していた。


「度し難い体たらくだな。既に、6番、7番、9番が倒された上に、4番がほとんど戦闘不能。……それで、ゴラスペの映像はなんだ? どうしてお年寄りの集団にあの5番がここまで押されている? あの地に攻め込んで来ていたのは、南雲監察官のチームだっただろう」



 2番もドン引きする、呉・老人会の大ハッスル。



「つまり、このヴァルガラに残っている私と2番様。そして8番の3名が残存しているシングルナンバーの全てだと言う事になります」

「言われんでも分かっている。ザールを戦力に数えるとしても、4人か。間違いなく次の刺客がやって来るのは必定。……面倒な事になったものだ」


 ため息をつく2番。

 そんな彼に、テレパシーが送られてきた。


 他ならぬアトミルカのリーダー。1番によるものである。


 彼女は2番としか連絡を取らない。

 ゆえに、通信の手段も彼にのみ分かるテレパシーを用いる。


「すまんが、少し席を外すぞ。3番。敵襲の際にはしばらくお前が指揮を執れ」

「承知いたしました。1番様によろしくお伝えください」


「ふっ。目ざとい男だ。ご機嫌がよろしければな。ザール。場合によってはお前も戦闘に加われ。私の教えたスキルを使えば、監察官クラスとでも渡り合えるだろう。ただし、時間には気を付けろ。私は若い才能を失いたくはない」

「はっ! お心遣い、感謝いたします!!」


「ああ。いざとなれば、3番でも盾にして退避しろ。お前はこれからの男だ。なにもアトミルカと運命を共にする必要もない」

「やれやれ。2番様がここまで私情を挟まれるとは。10番。君は幸せ者である自覚をしっかりと持つのですよ」


 もう一度「はっ!」と言って敬礼する10番に手を振ってから、2番はハナミズキの屋敷へと向かって行った。

 タイミングが良いのか。それとも悪いのか。


 久坂隊が転移座標に着陸したのは、それから5分後の事である。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 ヴァルガラの穏やかな景色が久坂隊を出迎えた。


「うわぁ! いいところですねぇ! ほら、莉子! あそこ見て! なんかモコモコした鳥がいるよ! 可愛いなぁ!」


 雨宮とまったく同じ感想を述べる六駆。

 ある程度のレベルを超える達人になると、まずモコモコした鳥に目を奪われるものなのだろうか。


「ほわぁー! ホントだぁ! ちっちゃくて可愛いね!! モコモコだぁー!!」

「写真撮っておこう! あとで南雲さんたちに見せてあげなくちゃ! ……あ。そうそう。莉子の方が可愛いよ!!」



 この男、戦闘面ではこれ以上成長の余地がないからと言って、どんどん恋人の扱い方が上手くなっていくのは何故か。



「も、もぉぉぉ! 六駆くんってばぁ! 作戦行動中だよぉ? ちゃんと集中しなくちゃダメでしょ! えへへへへへへへっ!!」


 このカップルの反対側では、久坂剣友監察官が遠い目をして空を眺めていた。


「どうかしたのだろうか? 久坂剣友!」

「いやのぉ。あの2人見ちょると、なんかのぉ。ワシも隠居して、のんびり暮らそうかのぉーとか、思うてしまうんじゃ。ちゅうてものぉ、独り身のワシが隠居したら、なーんもする事ないし、話し相手もおらんのぉ。とか思うちょったら、ちぃと虚しくなったわい」


「久坂剣友! 私がいる! あなたが隠居する時には、私も探索員を辞するつもりだ!! 衣食住の管理は任せて欲しい! それから、犬か猫でも飼うのはどうだろうか!!」

「55の……。お主、師匠を泣かせようとするっちゃあ、悪いヤツじゃのぉ! ほうじゃの、どうせなら、犬も猫もようけ飼うか! 貯金なら捨てるほどあるからのぉ! ひょっひょっひょ!!」



 新たな編成の久坂隊に唯一足りないものは緊張感であった。



 敵の本拠地にやって来て、景色を楽しんだのちに未来予想図を描く4人。

 そんな彼らがアトミルカに捕捉されていないはずがない。


 3番が既に出撃準備に入っていた。

 彼は、8番と10番に戦支度を整えさせながら、自分の装備も盤石の構え。

 本拠地ならではのアドバンテージを活かすのは、卑怯でも何でもない。


 敵の本丸を舞台に、探索員協会とアトミルカの第2ラウンドが始まろうとしている。

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