第476話 【久坂隊その9】異世界・クモリメンス制圧完了! 一時撤退、新たな任務へ!! 日本探索員協会本部

 異世界・クモリメンスには捕らえられた探索員の収容施設が2つある。

 そのうちの1つを制圧し、ついでに司令官の7番ギッド・ガードナーを倒した久坂隊。


 ここまでくれば、残り1つの収容施設Bを陥落させるのは簡単。

 久坂剣友監察官と逆神四郎は「お年寄りを労わろう」と言う観点から収容施設Aにて待機することとなり、加賀美政宗Sランク探索員が代理の隊長を務め残った方の施設の攻略に向かう。


 28番が最上位ナンバーの施設Bは抵抗を見せるものの、それはほんの数十分しか維持できず、加賀美の降伏勧告にあえなく応じた。

 ちなみに、収容施設Bはレジャープールが目玉であり、ドリンクバーとソフトクリームバー、軽食バイキングが完備されていたと言う。


 こうして、異世界・クモリメンスを完全制圧した久坂隊。

 彼らは今一度本部に連絡する。


「もしもーし。本部、聞こえちょるかー。できればのぉ、雷門の以外のオペレーターがええんじゃがー」

『はい。こちらは日引春香オペレーターです』


「よっしゃ! 助かるのぉ! 日引の嬢ちゃん! 五楼隊はどがいな感じになっちょるんじゃ?」

『現在、敵の幹部と戦闘中です。既におおまかな索敵は終えましたので、今は数人のオペレーターが対応中です。私もすぐに戻らないといけないのですが』


「そりゃあ忙しいところ、すまんかったのぉ」

『いえ! お気になさらず! 雷門監察官が号泣しながら男子トイレの個室へと立て籠もられましたので!』



「なーにをやっちょるんじゃ……。雷門の……」

『オペレーター室の端末を1つ故障させてしまわれたので、自責の念に駆られた結果だそうです。楠木後方防衛司令官がそっとしておこうと判断しました』



 状況を報告する久坂。

 それを手際良く聞き取り、端末に入力する日引。


 主だった作業が終わると、「後方防衛司令官に代わります」と彼女は言った。


『こちらは楠木秀秋監察官です。まずは久坂さん。お疲れさまでした。現在のところ4部隊の中であなた方だけが異世界を攻略完了させています。流石ですね』

「いやぁ。ワシよりも隊員の評価を頼むで。こやつら、そりゃあもう頑張ってくれたけぇのぉ。特に、加賀美隊所属の山嵐の。あやつはよぉ戦ったわい。Aランク昇進はまだ厳しいかもしれんが、ちぃと余計に評価しちょってやってくれぇ」


 山嵐助三郎Bランク探索員は大きな戦果こそ挙げられなかったものの、随所での働きを久坂に大きく評価されていた。

 彼は現在、加賀美に肩を抱かれて涙している。


『分かりました。それでは、今後の久坂隊ですが』

「おぉ。どうしたらええかいのぉ? さっき、日引の嬢ちゃんにも言うたがのぉ。割と全員元気じゃぞ?」


『まずは、一度本部へ戻って頂けますか? 現状、どの部隊もアトミルカのシングルナンバーと交戦中でして。久坂隊が支援に向かう先については慎重に精査したいと考えております。また、体力、煌気オーラの回復も万全にして頂きたい。こちら、Aランクの治癒スキル使いが待機していますので、ひとまず帰参後は医療室へと。そののち追って指示を出します』

「おお、了解じゃ。ほいじゃあ久坂隊。帰還するで!」


 通信を終えた久坂は、隊員たちをまず労った。


「聞いての通りじゃ。ワシらの任務はとりあえず達成されたけぇのぉ。それもお主らの頑張りのおかげじゃわい。よぉやってくれたのぉ! 今度、美味いウナギ食わせちゃるけぇ、楽しみにしちょってくれぇ! ほいじゃあ、加賀美の。任せるで」


 加賀美が【稀有転移黒石ブラックストーン】を握ると、煌気オーラ力場が発生した。

 彼は全員がしっかりと範囲内にいる事を確認したのち、協会本部へと転移するべく煌気オーラを込めた。


 久坂隊、異世界・クモリメンスから帰還する。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 日本探索員協会本部。

 転移座標に指定されている3階に無事着地した久坂隊。

 数時間ぶりに慣れ親しんだ建物に帰った彼らは、張り詰めていた緊張から解放され自然と笑顔が増える。


「……オレ、どうにか最後まで戦えました!!」

「そうね! 山嵐くん、とても頑張っていたと思うわよ!」

「山嵐くん! 君は大きく成長したね! これからも頑張って行こう!!」


 久坂と四郎が加賀美隊の爽やかな反省会の様子を見て目を細めていると、55番が駆け足で戻って来た。

 激戦を終え、7番戦では味方全員をカバーする防御スキルで煌気オーラを使い果たしたはずなのに、元気に伝令役を買って出る55番。


 既に彼の実力はSランク相当に到達している。

 元々アトミルカでフィジカルを鍛えられていたため、実にバランスの良い探索員としての完成形へとひた走っている彼は「まずは医療室へ向かって欲しいとのことだ!!」と報告した。


「よっしゃ。ほいじゃあ、行くで。なんぞ甘いもんでも食べたいのぉ」

「そうですの。ワシら年寄りには、熱い日本茶と和菓子でもあれば充分ですわい。ほっほっほ」


「四郎さんはさすがじゃのぉ! よぉ分かっちょるわ! ひょっひょっひょ!」

「久坂さんも四郎さんも、本当に70超えてるんだろうか……。すごい体力だ……!!」


 山嵐に「いつか君もそうなれるように、また修行だね!」とエールを送る加賀美。

 彼らは達成感を共にして、医療室の扉を開けた。


 そこには。


「……うゔぉ。……あ。久坂さん。……じいちゃん。……お疲れさま。……うゔぇ」

「六駆くん! 喋っちゃダメだよぉ! わたし、ずっと手を握ってるからねっ!!」


 未だ瀕死の逆神六駆がいた。


 これには百戦錬磨の久坂剣友も驚きを隠しきれない。

 まさか、あの逆神六駆がここまでダメージを受けて、部隊から離脱していようとは。

 いくらなんでも想定外であった。


「おぉ、どがいしたんじゃあ!? 六駆の小僧がやられたんか!? 嘘じゃろ!? 一体、どんな敵と戦うたらそうなるんじゃ!?」

「ふぇぇ。久坂さぁん……」


 莉子は涙を拭いながら、久坂に告げた。



「六駆くん、メタルゲルの外皮を食べちゃって……! うぅ……!」

「なーにをやっちょるんじゃあ、六駆のぉ。ワシの驚きを返して欲しいわ。いや、別の驚きがもう来ちょるけぇええか。何でメタルゲル食おうっちゅう話になるんじゃ」



 そこにやって来るのは楠木後方防衛司令官。

 彼は由々しき事態について説明した。


「逆神くんがこの調子でして。南雲隊の状況が良くありません。重ねて、雨宮隊とは通信が途絶しております」

「六駆の小僧はええとしてじゃ。雨宮のが? なんじゃ、雲行きが怪しいのぉ」


「逆神くんの食あたりも深刻です。なにせ、メタルゲルの外皮は液体金属。どうやって除去したら良いのか分かる者がいません。雨宮くんでも居てくれれば話は変わるのですが」


 そこで立ち上がるのは、我らがじいちゃん。


「ワシが診てみましょうかの! 昔、うちの息子。大吾が似たような事をしましての。逆神流には『ゲート』と言う転移スキルがあるのはご存じじゃと思うのですが、それを応用して体内から異物を取り出しますじゃ」



「……逆神流はアレじゃのぉ。絶対今のまんま一子相伝にしちょくべきじゃわい。万能過ぎるじゃろ。こんなん探索員の間で流行ったら大事じゃぞ」

「ええ。まったくもって久坂さんのおっしゃる通りです」



 ドン引きする監察官たちを置き去りにして、四郎が治療に取り掛かる。

 彼が言うには「まあ30分もあればどうにかなりますぞい」との事だった。


「しかし、修一のところはギリギリじゃろ? ワシが行こうかいのぉ?」

「それも含めて検討中です。いずれにしても、援軍は急務だと考えております」


 久坂隊は任務を終えても仕事をする。

 逆神六駆復活の目途がようやく立ったが、果たして色々と間に合うのだろうか。

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