第475話 【大吾と決死隊その4】宝石のように輝く逆神大吾! 弱すぎるゆえの最強!! 異世界・ゲレ

 阿久津浄汰は智謀、策謀を巡らせて戦いをこなす。

 そんな彼が、「これまでの戦闘データから数多のスキル情報をインプットされた」と言う人造人間9番。

 チェイス・ブラッシュの対応策。


 そのきっかけを掴んだかもしれない。


 4番は「んっふっふ」と笑い、五楼京華上級監察官に語りかける。


「よろしいのですかぁ? まさか、あなたが戦いに加わらなくても9番を倒させるとお考えなのでしょうか? そうだとしたら、上級監察官の計算能力はわたくしが考えているよりもはるかに低いと言わざるを得ませんねぇ。このままでは、味方がまた倒れますよ。あなたの目の前で。んっふっふ」


 言葉巧みに精神的な揺さぶりを仕掛けてくる4番だが、五楼は眉ひとつ動かさない。


「黙れ! 痴れ者が!! 私がなにゆえ向こうの戦闘に加わらねばならん!!」


 あまりにも毅然とした態度に唾を飲み込む4番だが、舌戦は続く。


「なるほど、なるほど。信頼ですか。結構なものだとは思いますがねぇ。部下の過剰評価はそのまま部下の命の安全に直結しますよ? いいんですかぁ? 大切な仲間がお亡くなりになっても」



「臨むところだ!!」

「ええ……。わたくしが仕掛けておいてアレですが、それでいいのですか……?」



 4番は「大吾と阿久津は五楼の部下である」という認識が前提の上で口撃をしかけているが、そもそもその前提からして違うのである。

 阿久津には「悪い事をした」と言う罪悪感はあるものの、彼は重大スキル犯罪者。


 大吾に至っては言うに及ばず。



 何かの弾みで死んでくれたら、協会を挙げてパーティーを開催するまでは彼女の中で既に計画書が完成している。



 ゆえに、五楼京華は動かない。

 9番と戦う外様の協力者阿久津浄汰死ねばいいのに逆神大吾の決着を見届ける義務があると彼女は確信していた。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 かつての自分の戦闘スタイルを思い出し始めたあっくん。

 早速、閃いた妙案を実行に移す。


「よぉ、親父ぃ。あんた、その訳の分からねぇ……。いや、その珍しいスキル。そいつぁ逆神流って事で良いのかぁ?」

「ヤダ! あっくんってば! お目が高い!! オレのパチンコ属性に気付いちゃった!?」



「どこまでもしょうもねぇ属性だなぁ。んな属性、勝手に作んじゃねぇよ。誰も使わねぇからよぉ」


 今日のあっくんは非常に冴えている。



 大吾は胸を張った。

 胸よりもビール腹が前に出て、その仕草で何を伝えたいのかは不明である。


「逆神流ってのは、オレや親父や六駆が使うスキルの総称なんだよ! オレら、特殊な煌気オーラ構築術式でスキル発現してっからさ! それを纏めて逆神流って呼んでるだけで、例えば今閃いたスキルも広義の意味では逆神流ってことになるぜ!!」

「あぁ。よーく分かったぜぇ。あとな、親父よぉ。あんたが難しい言葉使って解説して来るとなぁ。なんか、自分がものっすげぇバカなんじゃねぇかと思えてくるから、もう2度と解説しねぇでくれ」


 大吾は「あっくん! ひどいじゃない!」と胸を押さえた。

 それを見て、阿久津はこめかみを押さえた。痛むらしい。原因の所在は明らか。


「俺に作戦があんだよなぁ。それにゃ親父よぉ。あんたのスキルが必要になる。なんでも良いからよぉ。新しい逆神流のスキルをバンバン使って、あの機械野郎に攻撃を絶え間なく続けてくれ。……あぁ。カルケルで大活躍した親父ならよぉ、そのくれぇ朝飯前だよなぁ?」


 豚をおだてて木に登らせる事の切なさを痛感するあっくん。

 ちなみにこの豚は木登りが得意であった。


「おつしゃあ! 任せとけぃ! この大吾さんのオリジナリティ溢れるスキルで、あのターミネーターを魅了しちまえば良いんだな!!」

「……あぁ。魅了ねぇ。もうそれで良いぜぇ。早速始めてくれぇ」


 逆神大吾、動きます。


「いくぜぇ!! 『地獄の落とし穴エッ・ソノリーチハズレンノ』!! おらおらぁ! 哀しみの穴に落ちやがれぇ!!」


 大吾の初手はパチンコ属性。

 落とし穴が無秩序に発現されると言う、実にしょうもないものだった。


「……っ! 予測が不可能。データにない。がぁぁっ! どうして、ただの穴を作る? 落ちたところでダメージもほぼない。意味が分からない」

「げっへっへ!! ここからだっての!! 『銀玉大洪水タマブチマケルヤツ』!! オレ様の煌気オーラがたっぷり込められた銀玉の雨を喰らって酔いな!! オレ様の美技に!! 酔いなぁ!!」


 さらに追撃もしょうもない。

 9番はこの戦いが人造人間としての初陣。


 彼は「それまでの戦闘の経験は人造人間として邪魔になる」と言う理由で、4番によって記憶を除去されている。

 ゆえに、データにない未知の危機に晒されると、そのプログラムには綻びが生じる。


「がっ……!! ダメージは軽微。だが、予測がつかない事態は重大な問題。まずは情報収集を……!!」

「あぁ。そうなるよなぁ? そいつぁ悪手だぜぇ? 機械野郎よぉ」


 大吾の猛攻は止まらない。

 通常であればそろそろ辟易してきた敵にしばかれて吹っ飛ぶ頃合いだが、9番はとにかく守勢へと展開を回していく。


 逆神大吾と9番。

 考えられないほど相性の良い対戦カードであり、人造人間にとってこれほどの天敵はいないかと思われた。


「そらそらぁ! いくぜいくぜぇ!! 『納豆迷殺陣ネバネバブロック』!! ふーははぁ! 動けねぇだろう!? そしてくせぇだろう!? これはな! この前朝飯で納豆をジャージにこぼして、そのままパチンコ屋に行って後悔した時のスキルだ!!」

「日本の発酵食品……? なぜ、それを具現化する? 意味を探す事の意味が発見できない。考える事とは、一体何のために……」



 9番。あまりの意味不明なスキルの嵐で哲学的な事を口にし始める。



 高性能なボディと、戦闘に特化させるべく改造された頭脳。

 その全てが反転し、9番を窮地へと追い詰めていく。


「トドメだ!! 喰らいやがれぇ!! 『耳毛が生えてくる意味パラダイムプリズン』!! こいつでお前の体は拘束される!! 具現化された耳毛によってな!!」


 そう言って、バンッと指さしポーズをキメる大吾。

 ご存じだろうか。逆神大吾の戦績を。


 彼は、ついに初勝利を飾ろうとしていた。

 アトミルカのシングルナンバー相手にである。


「あぁ。頃合いだなぁ。黙って煌気オーラ溜めまくってても全然こっちにゃ気付かねぇんで、助かる通り越してなんか申し訳なくなってたぜぇ。こいつぁ模倣するのは無理だろうなぁ? 『結晶外殻シルヴィスミガリア』がねぇと使えねぇ極大スキルだぁ。親父ぃ、下がってろ」

「あっくん! ずりぃなぁ! いいとこ持ってくんだからぁ!!」


「あぁ。分かってるぜぇ。こりゃあ親父ぃ、あんたの手柄だよ」

「えっ? そうなん!? ヤダ、あっくんってばやっぱ良い子!! ちゅき!!」


 阿久津は酷く縁起の悪いもの全裸中年オヤジの投げキスを見たおかげで、精神の集中がかつてないほど密度の濃いものになる。

 彼は体を覆っていた『外殻ミガリア』を分解し、頭上で1つの球体へ変換する。


「これでくたばりやがれぇ! おらぁぁぁ!! 『外殻太陽灰燼ヘーリオス・スタヒス』!!」

「がっ……!! 回避行動が間に合わない。マスター。来援を乞う……」


 迫る阿久津の『外殻ミガリア』を核にした極大スキル。

 4番が慌てて駆け付けようとする。


 なにせ、9番の改造には膨大な費用とイドクロアが投入されている。

 破壊されたり、ましてや敵の手に落ちるなど、悪夢以外の何ものでもない。


 だが、睨みあっていた相手が上級監察官である事を忘れるのは失策である。


「やらせるか!! ソメイヨシノ、煌気オーラを吸って伸びろ!! 『一本桜いっぽんざくら』!!」

「ぐはっ! くぅ! 邪魔をしないでください! ああ! 9番!!」


 9番は着弾と共に爆ぜる『外殻ミガリア』によって、何百何千何万と繰り返しダメージを受ける。

 それが続いた後は、普通の人間と同じ結末が待ち構えていた。


「ぐあっ……」


 倒れる9番。

 全身から火花が散っており、どう見ても再起不能である。


 逆神大吾、ついに初勝利を飾る。


 なお、逆神大吾ファンの諸君。

 ヒーローインタビューはしばらくお待ちいただきたい。

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