第474話 【南雲隊その9】一難去ってまた一難! 地獄の連戦!! 異世界・ゴラスペ第一砦

 異世界・ゴラスペ。

 粉塵巻き上がる砂漠の真ん中で、南雲隊は疲弊していた。


「はぁ、はぁ……。やはり、今の私では『古龍化ドラグニティ』は二分の一が限界だ。と言うか、二分の一でも煌気オーラのほとんどを使い果たしてしまった……」


 お疲れの古龍の戦士・ナグモ。

 から、元に戻った南雲修一監察官。


「南雲さん、南雲さん。あたしと芽衣ちゃんもほとんど煌気オーラ切れですにゃー」

「みみみっ。ごめんなさいです」


「いや、何を謝ることがある。君たちは素晴らしい働きをこなしたんだぞ。なにせ、逆神くんと小坂くん抜きでアトミルカのシングルナンバーを倒したんだ。これは私たちにとって大金星と言っても良い。……変態だったけどね、相手は」

「ええ。まごう事なき変態でございましたわ。お師匠様の言っておられたことが全て真実だったなんて。女の敵ですわよ、このお排泄物なお侍の方」


 姫島幽星は既に意識を失っているが、そこで大きな問題が発生していることに気付いた南雲。

 わずかな望みに全てを託し、3人の乙女たちに聞いてみた。


「何かの間違いでさ。この中で、封印スキルとか煌気オーラ無効化スキル。なんなら捕縛スキルでもいいんだけど。使える子っていない?」

「うにゃー。六駆くんがいないから、後始末ができないぞなー!!」


 クララパイセンの言う通りである。

 これまで強敵と戦った後は逆神六駆が、時に縛り、時に監獄にぶち込み、時に煌気オーラそのものを吸い取ったりしながら、アフターケアをしていた。


 が、最強の男は現在戦線離脱中。


 姫島幽星は変態だが、その実力は本物。

 そこを踏まえると、このまま放置していけば自然回復したのち、何かしらの方法で体力と煌気オーラを補充して再び戦線に復帰する可能性が高い。


「山根くん! ちょっと! 逆神くんと通信開いてくれる!?」


 南雲はサーベイランスを呼んだ。

 サーベイランスはすぐにやって来たが、彼の望みは叶わない。


『逆神くんなら、さっき医療室へ運ばれていきましたよ。なんでも、治療を担当した本部待機中のAランク探索員たちではどうしようもないらしいっす。聞くところによれば、メタルゲルの外皮って流体金属だから自然排泄されないらしいんすよ』


 南雲は天を仰いだ。

 少し涙がこぼれたが、それは砂が目に入ったからだろう。


 心を落ち着けた南雲は、とりあえず言うべきことを言うことにした。



「これまで一度だって倒れたことのなかった逆神くんがさ! メタルゲル食べて瀕死ってどういうこと!? おかしいでしょ!! あの子、周回者リピーター時代の29年で何を学んでたの!? 食事とか、1番気を遣うところでしょうが! サバイバル生活ではさ!!」

『あー。南雲さんが相当弱ってるっすねー。ちょっと気の毒なんで、クレームは自分が聞いてあげるっすよ。さあ、好きなだけどうぞっす』



 南雲はいつになく優しい山根健斗オペレーターに「……ありがとう」と言ったのち、「ところでね、ナンバー6の処遇に困ってるの、私たち」と報告した。

 その問題は意外にも呆気なく解決されることになる。


『南雲さん、逆神くんから装備一式を預かってるっすよね? さっき『ジキラント』使ってましたし』

「ああ。預かってると言うか、逆神くんが放置してたのを拾ったんだけどね」


『だったら、伍って書いてある【黄箱きばこ】がないっすか?』

「ちょっと待ってね。……うん。あったけど」


『その中に、四郎さんの作った煌気オーラ無効化仕様の簡易捕縛装置が入ってるんすよ。名前は『遮断鋼室ゼロルーム』って言うんすけど。それ使えば、逆神家の皆さん規模の煌気オーラも封じることができるっすよ』


 南雲は「そうだったのか! 良いのがあるじゃないか! 逆神くんってば、何も教えてくれないんだから!!」と少し元気になった。

 山根が注意事項を続ける。



『ちなみに、その装置はですね。逆神流以外の人が使うと、そりゃもうごっそり煌気オーラ持ってかれます』

「いないんだよぉ! 逆神流使いが!! 唯一、木原くんだけ残ってくれてるけどね、もう煌気オーラがないの!! ああ、もう! 私もこれで煌気オーラ切れだよ!!」



 南雲は「これ、撤退するにしても【稀有転移黒石ブラックストーン】の使用すらキツいぞ……。どうするのよ……」と絶望しながら、『遮断鋼室ゼロルーム』を発現した。

 これにより、姫島幽星は完全にリタイア。


 だが、先行きの不透明さが過ぎて、南雲修一も精神的にはリタイア寸前であった。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 その頃、姫島幽星敗北の一報を受けたくそネガティブでお馴染み、アトミルカナンバー5。

 パウロ・オリベイラは。



「もうダメだ。最悪だ。姫島さんにボクのパンツあげてたら、こんな未来は待ってなかったのかもしれない。……よし、逃げよう」


 後ろ向きに全力疾走をキメる準備をしていた。何なら既にリタイアしている。



 だが、そこで上官に苦言を呈すのは副官の19番。

 彼は今年42歳になる。

 パウロよりもかなり年長であるため、言葉にはその経験に裏打ちれた重みがあった。


「5番様! これは好機です!」

「19番さん……。ボクの人生に好機なんてないんですよ……。中学校の時にですね。親友だと思ってたマテウスくんがお前の恋に協力してやるぜ! とか言うから、好きな子の名前言ったんです。そしたら次の日には全校生徒が知ってたんです……。その哀しみで煌気オーラが目覚めたんですよ、ボク。ね? 好機と見せかけた罠にはもう慣れっこなんです……」


 だが19番も折れない。

 実は彼、砦の通信担当司令官も兼務しており、各地の状況を把握していた。


 既にクモリメンスが陥落し、ゲレではアトミルカの最新技術で人造人間となった9番が倒されている。

 ヴァルガラの襲撃こそ防いだものの、各拠点にいる部隊は確実にその地の司令官が仕留めるべきだと、戦いのセオリーを彼は熟知する男。


「5番様。あなたのお望みはなんですか?」

「ええ……。急ですね。そうだなぁ。美人じゃなくていいから優しい嫁さん貰って、どこか穏やかな土地でゆっくりと過ごしたいなぁ……。仕事はたまにするくらいで。ははっ。絶対に無理ですよ……」


「この19番。残りの人生全てを賭して、5番様の望みを叶えてご覧にいれます!!」

「そんなこと言って……。騙されませんよ……」



「ですが! その希望に賭けるか、このままゴラスペを奪われて2番様の怒りを買うか!! この勘定が分からぬ方ではありますまい!! 5番様!!」

「うわぁ。本当だ。そうだった。選択肢がそもそもないんでしたよ……」



 19番の説得、ついに実る。

 「おい! 大至急、5番様の装備を用意しろ! 用意したらお気が変わらぬうちにお召し換えを手伝え!! 急げ、急げ!!」と号令を飛ばす19番に身を任せていると、いつの間にかパウロの決戦準備が整っていた。


 さらに19番は働く。

 ゴラスペに一機だけある戦闘機の起動準備を既に済ませていた彼は、パウロを無理やりコックピットに押し込んだ。


「……これ、墜落するんじゃ」

「しません! 私も同乗しますゆえ!! 嫁探しも明るい未来の展望も! 全て小官にお任せください!!」


 こうして、パウロを乗せた戦闘機が発進する。

 目的地はもちろん、第一砦。


 南雲隊に最大の危機が迫っていた。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 その頃、南雲隊は六駆の遺していったお好み焼きで体力の回復を図っていた。

 微々たるものだが、何もしないよりはマシである。


「みんな! お好みソース以外のものは口にしないでね!! 絶対に!!」

『南雲さん。残念なお知らせがあるんすけど』



「ああああ!! 敵襲だろ!? くそぅ! 分かったよ! 私が命に代えても彼女たちだけは守るから!! 五楼さんに遺言を伝えといてくれる!?」

『すごい! 南雲さんがいつになくがむしゃらっすね! いやー! 今までお仕えできて楽しかったっす!!』



 「まだ死んでないでしょうが!! 今わの際が早いんだよ!!」と叫ぶ南雲。

 そこに、戦闘機のけたたましいエンジンの鼓動が聞こえて来た。


 南雲隊にとってそれは、死神の鎌の音に他ならなかった。

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