第473話 【雨宮隊その8】決着 ~最強スキルと策謀と~ 異世界・ヴァルガラ

 『紫ってなんかセクシーな紫バチバチパープル』は、名前から漂う頭の悪さを置いておくにしても、頭のおかしいスキルだった。

 雨宮順平上級監察官は、自分の体内に残っている煌気オーラを過剰に再生することで活発化を誘発させ、本来の数倍まで煌気オーラの出力を引き上げていた。


 当然だが、理論も理屈も無視した強引過ぎるスキル。

 何の代償も無しに使えるはずはない。


「……見事。と、まずは評しておこう。だが、雨宮。どう見てもその形態を長らく維持できるとは思えんが?」

「さっすがダンディ。分かってるー。例えば、ダンディに逃げの一手を打たれたら、もう私に勝ち目はないかなー」


 2番は「ふっ」と笑い、「その状況で私を挑発するか」と笑みを浮かべた。

 続けて『魔斧ベルテ』を具現化させるアトミルカの大黒柱。


「よかろう。お前の口車に乗ってやる。先ほどまで見せていた厄介な抹消スキルは使えそうにないようだな。であれば、真っ向勝負。猛者との闘いは私の臨むところ!!」

「あららー! もう完全にイケおじキャラ取られてるよこれー! でも、ダンディの配慮には感謝! じゃあ、時間もないし行くよー!! そぉぉれぃ!!」


 『紫ってなんかセクシーな紫バチバチパープル』は極端な煌気オーラ強化スキルであり、その煌気オーラを身に纏えば身体能力も向上する。

 雨宮が地面を蹴ると一瞬で2番の懐に潜り込む。


「よいしょー!! 『剛力ぶん回し殴打ガチムチサイクロンヒット』!!」

「がぁっ! さすがに……これは強烈……!! しかし、この近距離! 外しはせんよ! 『一陣の拳ブラストナックル』!!」


「あだだだっ! ちょ、ダンディ!! これだけ出力上げた煌気オーラ膜突き破って来るとか、正気!? なにそれ、どこで鍛えてるの? どこのジム?」

「ふっ。そう言って飄々としているが、体が早速変化しているぞ。鼻から出血が見られる。思いのほか早くに副反応が出たな」



「ああ、これ? これはね、作戦の後のおっぱい祭を想像したら鼻血が出ただけ!!」

「ふっ。そういうことにしておこうか。……続きをしよう」



 雨宮の体は限界に近い。

 ダンジョン攻略の際には3人分の煌気オーラ膜を常に発現し続け、極大スキルも数発撃っている。


 それに加えての実戦中に新スキルの使用。

 煌気オーラ総量よりも、肉体の方のリミットが迫っていた。


 だが、『紫ってなんかセクシーな紫バチバチパープル』を発現してからわずか数分ではあるものの、この上級監察官は2番を相手に優勢を維持し続けていた。

 このまま戦闘を継続すれば2番も重傷を負うのは必至。


 その様子を見ていた3番が動いた。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 地割れの対岸では、川端一真監察官と水戸信介監察官の決死行が続いていた。


「ボンバァァァァァァァァ!! アタァァァァァァァックゥゥゥゥゥ!!!」


 8番のスキルは単純明快。

 ただ膨大な煌気オーラを放出し、鍛えられたフィジカルと共に敵を襲う。


 日本探索員協会の木原久光監察官に限りなくタイプは似ている。

 そのため、2人の監察官も対応策は熟知しておりギリギリの状態で持ちこたえる事が出来ていた。


「水戸くん。これが恐らく私の最後のスキルだ。後は君が頼みの綱になる」

「分かりました! くれぐれも煌気オーラ超過にはお気を付けて!!」


 煌気オーラが枯渇した状態でなおスキルを発現しようとすると、煌気オーラ超過と言う現象が起き、肉体および煌気オーラ発生器官に甚大なダメージを負う事になる。

 この寡黙な仕事人は、それをやりかねない。


「私にも搦め手はある!! 喰らえっ! 『泡風呂40分コースバブルブルブルシャワー』!!」

「うわっ!? 3番様! 前が泡だらけで、なんだか幻想的です!!」


 川端の得意とする水スキルの応用で、凄まじい量の泡を具現化する仕事人。

 そのトリッキーさは雨宮のスキルを感じさせ、水戸は「川端さん、さすがだ! そんな事までできたんですか!!」と尊敬のまなざしを向けた。



「ああ。これはな。ジェニファーちゃんとお風呂コースのオプションの際に使っているスキルだ。ちなみにこの鼻血も煌気オーラ超過ではなく、興奮したら出て来た」

「川端さんのスキルがどんどん汚れていく気がするのは自分だけですか? 女子探索員の前では由来を話さない方が良いですよ」



 尊敬のまなざしをすぐに引っ込めた水戸は、代わりにムチムチウィップを振るう。

 狙うはメタルゲルの鎧で覆われていない8番の足首。


「よし! ぐぉおぉぉりゃあ!! 『肘をぶつけた時の痺れスパーキングパラライズ』!!」

「うわっ! 3番様! 体が痺れて動けません!!」


 先ほどまでは8番の隣で戦いに参じる様子を見せていた3番だったが、気分が変わったのか今は手元の端末を操作している。

 8番が悲しそうな目で上官を見つめている事に気付いた3番は「はぁ」とため息をついたのち、『圧縮玉クライム』を取り出した。


「これを使いなさい。私用に開発したものですから、壊さないでくださいよ」


 それは一見するとメリケンサック。

 『ライオネットダスター』と言う名の、ハウルライオネットの牙を数十個ほど惜しみなく使った煌気オーラ放出系のイドクロア装備。


「これはカッコいいですね!! あ、3番様! 照り焼き食べた手で装着してしまいました!!」

「くっ……! あなたを置いていくのがものすごく不安なのですが。私は少しだけ戦線を離脱します。いいですか。絶対にその2人を倒しておきなさい」


 そう言うと、3番は『噴射玉ホバー』で飛び去って行った。


「川端さん、敵が逃げます!!」

「無理だ。残念だが、今の我々では追撃などできるはずもない。それよりも、まずは目の前のマッスルお化けをどうにかせねば。私たちが倒れたら、雨宮さんの敵が増える事になる」



「川端さん……! おっぱいの事以外もちゃんと考えていたんですね!!」

「失礼だな、水戸くん。ちゃんとおっぱいの事を第一に考えながら戦っているぞ、私は」



 8番の拳からは煌気オーラ弾が繰り出される。

 極めて鋭いが、本来はその弾道を自在に変化させるのが『ライオネットダスター』の特徴であり、8番はその優位点をまったく使いこなせていない。


「なんてすばしっこいヤツらなんだ! イライラしてきた!!」


「これは助かるぞ。先ほどまでの突進に比べれば、軌道が読めるこちらの方がはるかに楽だ」

「ええ! この隙に体勢を立て直しましょう!!」


 煌気オーラ枯渇の川端。

 残り僅かな水戸。


 だが、監察官の経験と実績がこんな時こそ生きる。

 かと思われたが、戦闘は意外な形で終幕を迎えることとなった。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 3番が戦場の上空に戻って来た。

 続けて、拡声器で侵入者たちに警告する。


『監察官ども。攻撃を停止しなさい。さもなければ、この男を殺しますよ。さあ、ハーパー理事。命乞いをなさい』


 『噴射玉ホバー』に括りつけられているのは、拉致された国際探索員協会の理事。

 フェルナンド・ハーパーである。

 彼は怒鳴るように叫んだ。


『この者の指示に従え!! 私は国協の理事だぞ! この命の重みを理解しろ!!』

「結構。期待以上に泣き叫んでくれますね」


 地上にいる2番はすぐに事情を察し「戦いを愚弄されるとは、まさにこの事だな」と舌打ちをした。

 雨宮もスキルを解除する。


「あららー。ダメだねー、これは。川端さん、水戸くん。私たちの負けだよ」


 対岸の2人は反発する。


「お言葉ですが、雨宮さん」

「自分たちが投降しては、他の部隊が!!」


 だが、上級監察官は首を横に振った。


「だめよーだめだめ。9割脅しだろうけどさー。仮に私がきっかけで理事が死んじゃったら、京華ちゃんや久坂さんに迷惑かけちゃうもん。あーあー。上級監察官の辛いとこだよねー。ダンディ、君のとこの作戦勝ちだよ。降参しまーす」

「私としても甚だ不本意だが、致し方ない。この勝負は預けるが、お前たちの身柄は拘束させてもらうぞ」


 雨宮隊がここでまさかのリタイア。

 だが、雨宮順平は作戦自体を諦めたわけではない。


 「うちの子たちは強いからねー。私がやらなくても、きっと大丈夫でしょ」と、残りの部隊を無条件で信頼する。

 その考え方は、間違いなく組織のトップに立つ人間のそれであった。

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