第469話 【久坂隊その7】重さが増す温泉リゾート! 7番ギッド・ガードナー、罠と一緒に参上する! 異世界・クモリメンス

「た、助けてくれぇ!! オレは囚われていたアメリカの探索員!!」

「まーた出よったわい。55の」


「任せて欲しい! 久坂剣友!! 『ローゼンランツェ・一輪いちりんし』!!」

「ひげぇあっ!! なん……で……」


 55番の薔薇スキルによって、名乗る前に倒された名もなきアトミルカ構成員。

 久坂の代わりに愛弟子が答える。

 もう聞こえてはいないだろうと思われるが。



「あなたで探索員を装って襲い掛かって来た者は、12人目だからだ!!」

「ええ加減にせぇよ。5人くらいまでじゃぞ。どうにか付きおうちゃる限度は。それをお主ら、次から次へと……。性格が悪いのぉ。ここの指揮官」



 だが、そこは優しい久坂隊。

 迎撃は主に55番と土門佳純Aランク探索員が務めているが、いずれも温泉に叩き落すだけで致命傷を与えないように配慮されている。


「参ったのぉ。ひょっとするとじゃけど、普通に捕虜をぶっ飛ばしちょる可能性があるっちゅうのがいやらしいわい」

「こんな時に限ってサーベイランスが使えないと言うのも不運ですね」


 加賀美政宗Sランク探索員の言葉に、全員が頷く。

 施設に突入する寸前に福田弘道オペレーターが『申し訳ないのですが、雨宮隊がアトミルカの本拠地に突入しました。少しばかりこちらの現場を離れます。すぐに代わりの者を寄越しますので』と報告して来た。


 久坂も「そういうことなら仕方がないのぉ」と応じた。

 が、代わりのオペレーターがやって来ない。


 サーベイランスを使えば、煌気オーラをデータベースで照会して本物の捕虜を区別することができるのにと思わずにはいられない。

 そんなもどかしい状況がやっと改善されたのは、さらに10分後。

 捕虜だか敵だか分からない18人目を土門の『アイアンツインテール』で弾き飛ばしたタイミングであった。


『お待たせしました。こちら、本部のオペレーター室です』

「おお! 来たか! ちぃと遅いのぉ! 福田のの代理なんじゃから、しっかりしてもらわんと困るで!」


 サーベイランスのモニターに、良く知った顔が映った。

 声の主は、全身全霊で謝罪する。



『せ、せやかてぇ! わた、私はぁぁ!! サーベイランス使った事、ほとんどあらへんからぁぁぁ!! イッグブーン、ナァッフフゥゥ! これでも、いっしょう、一生懸命にィィィハァンンンムゥ、マニュアル読んでぇ! ただ、ただ役に立ちたィッポメェンスゥィ!! その、その一心でぇぇぇ!! ナ゛ッ!!』

「……雷門の。お主、なーにしとるんじゃ」



 オペレーター室では、各部隊がそれぞれアトミルカシングルナンバーとの戦闘を開始したため一時的な人手不足に陥っていた。

 特に、1人で20人分の仕事をこなす福田弘道オペレーターが雨宮隊の専任になったため、19人のオペレーターが彼の穴を埋める事となる。


 そうなると、手の空いている者は皆無。

 ただ1人。楠木秀秋後方防衛司令官の隣でバナナを食べていた雷門善吉監察官を除いては。


 楠木から「雷門くん。できるかい?」と優しく問われた彼は、「出番ですか! やれます!! 私がやります!!」とエヴァンゲリオンに乗りそうな勢いで志願したものの、まるでやれなかった。


 やっと通信機能の回復に至ったのが、雷門監察官の精一杯である。


「雷門さん! 煌気オーラ感知で温泉に浮いている者の照会をお願いできますか!?」

「ああ! 加賀美くん!! 任せてくれ!! 私の部下たちの前でこれ以上醜態は晒さないぞ!! ……あ、あれ? こっちか。……違うな。あ゛っ!!」



 サーベイランスがドゥンと悲しい声で鳴いて、力なく床に転がった。



 久坂剣友監察官は、隊員の士気を維持するために檄を飛ばす。


「お主ら! 戦場にゃ想定外の事態はつきものじゃけぇ! 取り乱さんようにせぇ!! 雷門のの事は忘れるんじゃ!! こりゃあもう、貰い事故みたいなもんじゃわい!!」

「了解しました! 土門さん、山嵐くん!! 雷門さんには、この戦いが終わったら好物のホタテの貝柱を差し入れに行こう!! それまでは、死んだものと思うんだ!!」


 正義の人である加賀美に「あいつは死んだから罪は問うな」と言わしめる男。

 その名は雷門善吉監察官。


 だが、わちゃわちゃとしている中でも着実に敵の数を減らしている久坂隊。

 温泉には、多くの倒した敵が浮いている。


 その中に本物の探索員はたったの2名しか含まれていないので、これはもう誤差の範囲である。


「22番。やれ」

「はっ! 『超重力煌気力場グラビティルーム』発動させます!!」


 だが、サーベイランスに気を取られて油断したところが一切なかったかと言えば、そうも言い切れない。

 久坂が「しもうた!!」と叫んだ時には、既に7番ギッド・ガードナーの罠が完成していた。


「悪いな。侵入者の諸君。オレは正々堂々ってのが大嫌いでね。ああ。ちなみに、一網打尽ってのは好きだ。どうだ? とっておきの兵器の味は」


 姿を現す7番。

 彼の策により、久坂隊の周囲には重力属性の煌気オーラ力場が発生。


 通常の3倍の重力が彼らの動きを鈍らせる。


「す、すみません。オレはここまでのようです……」

「山嵐くん!! くっ! 確かに、これは自分でもかなり堪えるな……!! 土門さん、山嵐くんを頼む!!」


 押しつぶされた山嵐助三郎Bランク探索員が、うっかり温泉に落下した。

 この重力下では沈んだまま浮いてこない可能性もあるため、速やかに土門が救助へ向かう。


「よしよし。数が減ったな。では、オレが相手をしよう」

「こりゃあ……。ちぃとまずいのぉ。加賀美の。お主は四郎さんの援護じゃ。四郎さん、心苦しいが頼めるかのぉ?」


 老兵たちの戦場におけるコミュニケーションに多くの言葉は必要ない。

 「お任せくだされじゃ」と言って、四郎は1番負担の大きい役割を引き受ける。


 久坂隊の大一番が始まった。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 7番は特殊な鎧を身に纏っていた。

 単純な効果を付与した装備だが、この場においては非常に強力。


「オレの鎧は予め設定しておいた属性の煌気オーラを1つだけ無効化することができる。つまり、オレはお前らの3倍の速さで動くってわけだ。鎧を赤くしてないのは勘弁してくれ。時間がなかった。この罠も鎧もうちのマッドサイエンティスト殿の製作だから、効果は保証するぜ」


 久坂は小声で55番に指示を出す。


「55の。ワシらのやるべき事は、できるだけ四郎さんから敵の目を逸らさせる。これだけじゃ。ほいじゃったら、どがいしたらええと思うか?」

「派手なスキルで敵の目を引けば良いと愚考する!!」


 「よう分かっちょるのぉ」と笑みを浮かべる久坂は続けて「行くでぇ!!」と叫んだ。


「うぉぉぉ!! 『ローゼンクロイツ・大満開だいまんかい』!!」

「ひょっひょっひょ! 花を隠すにゃ花の中っちゅうてのぉ!! 『梅花ばいか』!! ぐぅ、年寄りにゃあキツいのぉ。とりあえず三十二枚咲きじゃ!!」


 55番の放ったバラの花束の十字架に紛れて、久坂の『梅花ばいか』が舞う。

 7番は「なんだ、こりゃ」と首をかしげて、右手から風スキルを放つ。


「おらよっ!! 『ウィンドキラー・シンティラ』!! なるほどな。この花束はデコイか。よく考えるぜ。『ヘビーカッター』!! おらおら! 連発でいくぜ!!」


 7番の使ったものはいずれも探索員の基礎スキルであり、久坂を驚かせた。


「さてはお主も元探索員っちゅうことか。面倒じゃのぉ」

「はっはっは。まあ、そう言うなよ。……お? おおお!! あんた!!」


 7番が目を見開いて興奮する。

 続けて、その興奮を口に出した。


「おいおい! マジかよ! あんた、日本の久坂剣友だろ!? オレ、あんたのファンだったんだよ! ハハッ! マジか! すげぇ偶然だな!! この槍もな、あんたの久坂流の教本見て若い頃から鍛えてたんだよ!! 本物に会えるとか! 嬉しいぜ!!」


「ワシ、ファンじゃ言われてこがいに迷惑なんは初めてじゃぞ……」

「確かにそうかもしれん! だが、久坂剣友! あの男の構えを見てくれ!! あなたの槍術とそっくりだ!!」


 久坂はもう一言だけ呟く。

 「じゃーから、嫌なんじゃよ……。自分のコピーとか、面倒過ぎるじゃろがい」と。

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