第468話 【雨宮隊その7】疲労困憊の監察官たちVS2番・3番・8番 異世界・ヴァルガラ

 異世界・ヴァルガラでの戦いは奇策や奇襲は用いられず、言い方を変えれば実に平凡な形で始まった。


「行きなさい。8番。あなたの硬質スキルと私の作った鎧は完璧なバランス。あなた1人でも充分に彼らを無力化できるでしょう」

「了解しました!! ボンバァァァァァァ!! ……3番様」


「……あなた。スキルを発動させるために煌気オーラを溜めながら振り向くのはヤメなさい」

「すみません! あの、実は怪鳥の照り焼きを持って来たんですが! 食べても良いですか!?」


「どこにそんなものがあるのですか。……まさか」

「はい! この鎧のポケットに入れて来ました!!」



「8番!! あなた、そのメタルゲルの鎧に、いったいどれだけの貴重なイドクロアが使われたと思っているのですか!?」

「すみません! お腹が空いていたものでして! おっ、冷えても美味いです! 3番様も1つどうですか?」



 3番は頭を抱えた。

 「鎧にダイレクトで突っ込まれていたものを食べる気になれません」と答えた彼に、「えー。残念です! 2番様なら食べてくれますかね?」と、自分で分断した地割れの向こうの2番を見つめる8番。


「……分かりました。私も1つもらいましょう。満足したなら、攻撃を」

「3番様!! この、レモンを絞ってかけるとさらに美味しいですよ!!」


「……もう手がベタベタですよ。これは、シングルナンバーの配置転換が必要ですかね」


 8番が天然っぷりを発揮している間に、川端一真と水戸信介の両監察官はしっかりと打ち合わせを済ませていた。

 それを待っていたかのように、8番が攻撃を仕掛ける。

 彼はいい人なのかもしれない。


「ボンバァァァァァァ!! ファイアァァァァァァァ!!!」


「くっ! 想定よりもかなり速いですよ!!」

「落ち着け、水戸くん。冷静さを欠いておっぱいは微笑んでくれない。私に任せろ。君は君の仕事に集中するんだ」


 そう言うと、川端は大きく飛び上がった。

 これは、彼の必殺技の構えである。


「あれ? 3番様! 敵が減りました!!」

「上ですよ!! あなた、本当に鈍いですね!!」


「遅いっ!! ジェニファーちゃん、私に力を!! 『断崖蹴気弾だんがいしゅうきだん極大乳房フェスティバル』!!」

「ぼ、ボンバァァァァァァ!? あ、足が埋まりました! 3番様!!」


 川端は出し惜しみをしない。

 彼を含め、雨宮隊は全員が煌気をかなり消耗している。


 ならば、先手必勝。

 初手で決めに掛かるのが正解だと仕事人は考えた。


「よし! 予想通り、重量のある鎧の分、縦の攻撃に弱い!! 水戸くん!!」

「はい! ムチムチ鞭!! 絡みつけ!! 『鞭で縛るとかもうアレな緊縛ポゼシヴスネーク』!!」


 水戸の鞭が8番の体を縛り上げる。

 そのまま煌気オーラを吸収し始める、何でも割と器用にこなす最年少監察官。


「3番様! 縛られました!!」

「報告は結構! 8番。いい加減に本気を出しなさい!!」


「よろしいのですか!? では!! ハイパー!! ボンバァァァァァァ!!!」


 先ほどの突進とは比較にならない煌気と速度をもって、水戸に向けて悪意が迫る。

 彼は鞭での拘束を解けば苦労が水泡に帰すると言う考えが脳裏をかすめ、動きが2テンポほど遅れた。


「しまっ……た……!!」

「水戸くん!! 手荒になるからダメージは覚悟してくれ! 『一身暴発脚いっしんぼうはつきゃく』!!」


 水戸の前に飛んできた川端の体から、激しい煌気オーラの放出が行われた。

 全方位に煌気オーラ弾を発射する、捨て身スキルである。


「3番様!! 結構痛いです!! あっ! 鎧に穴が!!」

「なかなかやりますね。私も加わりましょう。追い詰めた鼠は厄介です」


 一方、川端は今のスキルで煌気が枯渇していた。

 鼻からは大量の血が流れだしており、水戸は彼の身を案じる。


「か、川端さぁぁん!! 自分のために!! すみません、すみません!!」

「気にするな、水戸くん。それから、この鼻血はな。ジェニファーちゃんのロケットおっぱいを想像していたら興奮し過ぎて出ただけだ」


「ええ……。なんか失望しました」

「それはないじゃないか。私、自爆したんだぞ? 君のために」


 かなり旗色が悪くなってきた雨宮隊の隊員2名。

 こうなると、隊長の来援に期待したいところであるが。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 雨宮順平上級監察官と2番は、棒と斧で壮絶な斬りあいを繰り広げていた。


「さすがにやるな……!! 悪いが、手数を増やすぞ。『魔斧ベルテ』!! 『多重衝撃デュアルインパクト』!!」

「あらー! 両手に斧は反則だよ、ミスターダンディ! では、私も!! 『黒く塗りつぶしたらとりあえず解決の黒ケシケシブラック』!! 広域展開!!」


 雨宮の黒い光線が2番の体を覆い、彼の発現していた『魔斧ベルテ』が形を歪め始めた。

 彼はすぐに状況を理解し、煌気オーラを消して雨宮に突進する。


煌気オーラそのものに干渉するスキルとはな! だが!! 私はスキルに頼らずとも戦える!! ふんっ!!」

「あだだっ! ちょっと、ダンディ! それは反則でしょ! 白兵戦でも強いとか、チートだよチート!!」


 吹き飛ばされた雨宮の手から光線が消えた。

 彼の抹消スキルの弱点は、発現している状態が極めて無防備になるところである。


 ゆえに、1対1の戦いにはあまり適していない。

 だが、それは使用者である雨宮が1番理解している。


「よいしょー! 『物干竿ものほしざお』!! の、スペア!! これに! そいやっ! 『黒いお掃除棒ケシケシスティック』!!」

「ほう。煌気オーラを抹消するスキルを武器に付与したのか。器用な事をする。ならば、これはどうする? 『魔斧投擲トマホーク』!!」


「そりゃあ受けるしかないじゃないの! そいっ! やっ! そいっ! はっ!!」

「ふっ。そうだろう。では、この拳も受けられるか? 『一陣の拳ブラストナックル』!!」


 大量の斧を投げつけた後で、それを全て囮にした2番は風属性と爆発属性を併せ持つ拳の一撃を繰り出した。

 並の相手にならば、これで確実に仕留めていただろう。


「痛いなぁー! ダンディ! 普通にお腹殴って来るとか!!」

「……よもや、あの一瞬で拳の煌気オーラまで抹消したのか?」


「ああ、違う違う! それはね、ダンディの煌気オーラ拳を再生させたのよ! 変質、構築する前のただの煌気オーラにね! 私、再生スキル使いだからさ! クレイジーダイヤモンドに親近感があってねー!!」


 2番は一旦後方へ飛び、雨宮と距離を取った。

 「ふっふっ」と彼は満足そうに笑う。


「お前たちのところの若い猛者。逆神と言ったな。あの男はでたらめな力で圧倒する戦法だったが、お前の戦い方は実にトリッキーだ。さすが、上級監察官になるだけの事はある。次の行動の予測がまったくつかんとは」


 雨宮は『物干竿ものほしざお』を杖にしてもたれかかりながら、会話に応じる。


「逆神くんは特別だからねー。あの子と比べられたら、おじさんなんて雑魚だよ、雑魚。ちょっと珍しい属性を習得したから、抜け道探して試行錯誤してるだけなんだよねー。ダンディは強いよ。少なくとも、私よりは確実に」


 2番は『魔斧ベルテ』を再び具現化し、煌気オーラを蓄えていく。


「謙遜か? それとも、降伏宣言か? いや、お前はそんなつまらん事を言う男ではないだろう。私を失望させるな」

「あららー。本当に嫌な相手だなぁ、ダンディ。こういう正統派のスキル使いが1番強いって昔から相場は決まってるんだから。……まあ、悪あがきはするけどね!」


 そう言うと、雨宮は自分の体を再生スキルで覆いつくした。


「なんだ? いまさら回復だと? まあ、よかろう。好きにするが良い」

「違うんだよねー。これはさっき思い付いた新スキル! 過再生の応用で、ギリギリまで煌気オーラを活性化させてみちゃう!! 『紫ってなんかセクシーな紫バチバチパープル』!!」


 雨宮の煌気オーラが一気に膨れ上がった。

 2番もたじろぐ規模の煌気オーラ爆発である。


「……ふっ。見たところ、捨て身技だな?」

「ダンディ、知らないの? 世の中、捨て身になってからが本番だよ!!」


 強者対強者の激戦に決着の時が近づいていた。

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