第467話 【五楼隊その6】五楼隊再集結! 4番&9番も戦場へ! 異世界・ゲレ

 通常時が既に瀕死なのに、慣れない攻撃スキルを使ったためより瀕死の和泉正春Sランク探索員。

 彼を『結晶シルヴィス』で運びながら、阿久津浄汰は極寒の異世界を行く。


 2人とも実力者であるがゆえに、まだ現場まで遠くとも戦闘の様子を察する事ができるため、状況はだいたい把握している。


「あぁ? 親父の野郎、本隊と合流しやがったなぁ? んで、その親父にものっすげぇ煌気オーラのスキルがぶっこまれてねぇか?」

「これは五楼上級監察官のスキルでごふっ。大吾さんにどうして攻撃を……」


「……和泉さんよぉ。あんた、ちょっと善人過ぎるぜぇ? こんなもん、簡単な問題だろうがよぉ。上級監察官様が親父を生理的に嫌った結果だろ。なんつったって、親父は全裸だからなぁ。俺だってあれがいきなり現れたら躊躇なく攻撃するぜぇ」


 あっくん、五楼の心境をズバピタで当てる。

 阿久津はルベルバックでは逆神六駆に、カルケルでは逆神大吾に酷い目に遭わされた、逆神流被害者の会でもいわばエリート。


 逆神流に関わるとろくなことがない事を熟知している。


「げふっ。ああ、失礼。想像したら血を吐いてしまいました」

「つまんねぇ事を言っちまったなぁ。まぁ、上級監察官様がいるんだ。俺らはゆっくり行こうぜぇ。治癒スキルは苦手だけどよぉ。『結晶シルヴィス』の温度をちょいと上げとくぜぇ。頼むから、俺の前でくたばらねぇでくれよなぁ」


 和泉は「申し訳ありません」と弱弱しく笑ってから、阿久津に言った。


「阿久津さん。あなたはいい人ですね。とても優しいげふっ」

「あぁ? 冗談はヤメてくれぇ。俺ぁ重大スキル犯罪者だぜぇ? 目の前でそんだけ吐血の大盤振る舞いされちゃあよぉ、あんたが死んじまった責任を追及されるのが俺になるだろうが。それだけの事なんだよなぁ」


 「素直ではない方でげふっ」ともう一度笑う和泉に対して、「ちっ。調子狂うぜぇ」と悪態をつく阿久津。

 彼らが凄惨な現場に到着するのはもうすぐだと言う、悲しい未来を諸君には先に告知しておくこととする。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 五楼隊は、サイボーグ06シリーズを相手に戦っていた。

 4体しかいなかった敵だがいつの間にか9体まで数が増えており、彼らは敵陣のディスアドバンテージを思い知らされる。


「おおおおい! 京華ちゅわん!! 屋払くんでも、青山ちゃんでもいいけど!! ちょっとさ! オレをこの氷からだしてくんねぇ!? 寒いのよ!! ほら、オレ服着てねぇから!!」



 なお、大吾は06シリーズの『速射冷凍砲バゼルコールド』集中砲火を浴びて氷漬けになっていた。



「屋払! 青山! 痴れ者の戯言に耳を貸すな!! 命を落とすぞ!!」

「しかし、隊長! 大吾さんも戦力になるんでよろしくぅ?」


「……確かに。そういう見方もできるかもしれん。だが、痴れ者は放置しておけ。見ろ。サイボーグどもも生理的に受け付けんのだろう。氷漬けになってなお、痴れ者に砲撃を続けている。良い囮だ」


 五楼の指摘通り、サイボーグたちは9体中、実に8体が大吾に攻撃を続けていた。


「リーダー機より、全機へ。対象の生存を確認。理解不能。対象をアンノウンと判定。不確定な脅威の排除を最優先に設定」

「了解。攻撃を続行」


 雪玉が直撃するたびに大吾の周りに煌気オーラ力場が発生し、全裸中年の周囲を覆う氷の層が一回りずつ大きくなっていく。

 このメンバーの中で特に優しい青山仁香は、そんな大吾を心配する。


「五楼さん! やっぱり見捨てられませんよ!!」

「青山。貴様の優しさは美徳だ。しかし、戦場では時に情けを捨てる事も必要だと知れ。……見てみろ」


 五楼は眉をひそめて大吾を指さした。

 その先には。



「おおおい! ちょっと、みんなぁ! なんかオレの周りが幻想的な感じになってきてんだけど!? ほら、イケおじの裸の氷漬けってさ! なんかヨーロッパの美術館とかにありそうじゃね!? やっべ! もしかして今のオレ、映えてる!?」

「……あれは多分、何をされても死なん。人間だと思うな。青山。貴様の優しさはいつか愛する者ができたら、そいつに注いでやれ。痴れ者には一滴もやるな」



 尊敬する上官にそこまで言われると、青山も納得する。


「了! 青山仁香、戦闘に集中します!!」

「よし。それで良い。だが、数が多いな。まずは私が一掃しよう。貴様たち、少し下がっていろ」


 そう言うと、五楼京華は煌気オーラ刀を解除して腰から細剣を抜いた。

 久しぶりの登場過ぎてお忘れの方しかいないだろう。


 これは南雲修一製作の、五楼京華専用武器。

 細剣『ソメイヨシノ』である。


 使用者の煌気オーラを吸う事により、刀身を自在に伸ばす事ができる。

 相手は未知のサイボーグ戦士。手加減は不要と判断した上級監察官。


「悪いが、一気に決めさせてもらうぞ!! はぁぁっ! 皇帝剣フェヒクンスト!! 粉々になるが良い!! 『兆花繚乱・狂い咲きアウフブリューエン』!!!」

「ガガガ。重大な欠損が発生。リーダー機より命令。自爆シークエンスに移行」


 9体のサイボーグを1度で粉砕した五楼の皇帝剣フェヒクンスト

 だが、アトミルカ製の機械兵器は自爆するのが十八番。


「ちっ。往生際の悪い!!」


 タイミングよく、彼らが戦場に到着する。


「あぁ。こりゃあ美味しい場面に出くわしたなぁ? 上級監察官様よぉ。査定アップ、頼むぜぇ? おらぁ! 『結晶大封殺シェアラボロス』!!」


 阿久津浄汰の結晶スキルは実に万能であり、想像力と煌気オーラを費やせばその発現のバリエーションは限りなく無限に近い。

 スキルによる追撃の構えを解除した五楼は、阿久津に対して正当な評価をする。


「礼は言わんぞ。ただし、貴様の仕事ぶりは確かに記憶した」

「あぁ。あんたは私情抜きで勘定してくれそうだからなぁ。助かるぜぇ。……いや。たった今、気分が最悪になったんだがよぉ。なんだぁ? こりゃあ」


 あっくん、氷漬けの大吾を発見する。

 同時に大吾も親友のあっくんを発見し、視線が交差した。


「おおお! あっくぅん!! 助けに来てくれたのか!! やっぱりあっくんはいいヤツだなぁ!! 出して、出して!! ここから出して!! 京華ちゃんの炎スキルで辛うじて平気だけど、そろそろお腹が冷えてきちゃった!!」



「……阿久津。私が何を言おうとしているか分かるか? 大幅な戦功の加算を約束する」

「おいおい。そりゃあパワハラじゃねぇかよぉ。……マジかよ。冗談じゃねぇぜ」



 そう言いながらも、刑期の短縮は阿久津浄汰の望むところ。

 彼は『結晶シルヴィス』を操作して、『拡散熱線アルテミス』で大吾の解凍作業に取り掛かった。


 その時である。


 【転移白石ホワイトストーン】を使用して、4番。

 および、アトミルカ初の人間ベース型人造人間。9番が飛来した。


 4番は「隙がありますね」と判断するや否や攻撃に移行した。


「喰らいなさい!! 『刺突爆散玉スパイクラッシュ』!!」

「これはいけません。げふっ。『異空間吸引圧縮トラクタービーム』!! ごふぁっ」


 和泉の咄嗟の機転で、4番の不意打ちは未遂で終わる。

 だが、今のスキルで和泉の煌気オーラは完全に枯渇した。


「ふん。まだあの空間スキルが使えましたか。しかし、有能な部下が1人いなくなりましたよ? どうします? 上級監察官」

「……青山。和泉を介抱してやってくれ。あいつは良くやってくれた」


「は、はい!! 和泉さん、しっかりしてください!!」

「ご心配にはおよびげふっ」


 和泉が倒れた代わりに、戦線復帰する者もいる。


「おい、てめぇ。病人いたぶるとはよぉ。少しばかり趣味が悪ぃんじゃねぇかぁ?」


 共に戦えばそこに友誼が生まれるものである。

 阿久津浄汰の言葉には明らかな怒気が含まれていた。


「おいおいおい! この野郎!! 和泉さんになんてことしやがんだ!! このコンピューターおじさんが!! まだオレにボコられてぇみたいだな! おおん!?」

「くっ! さ、逆神大吾……!! しまった……! 先にこちらを仕留めるべきでしたか!!」


 五楼と阿久津は「本当、それに尽きる」と4番の不手際を心の中で糾弾するのだった。

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