第470話 【ナグモ隊その8】古龍の戦士・ナグモ、限界の寸前へ! 異世界・ゴラスペ第一砦

 6番姫島幽星のイドクロア妖刀『血染ちぞ一文字いちもんじ』が光る。

 その赤い発光が収まらないうちに、彼は刀を振るった。


「貴殿、刀は大きければ良いと思っておるか? 違うな。刀は切れ味よ! 『飛散血風刃フライングブラッド』!!」


 姫島が刀を一振りするたびに三日月状の斬撃が飛来し、ナグモに襲い掛かる。

 さながら逆神流の『太刀風たちかぜ』が血液スキルで再現されたようであった。


「ぐっ! 手数が多い……!! だがっ!! でぇい! せぇりゃ!!」

「ほう。その刀、なまくらではないな。某のスキルを受けてなお、刀が生きておる。それだけに惜しい。使い手がこの程度では! まだまだ行くぞ!!」


 さらに血の斬撃の数は増していく。

 好きではないレバーを毎日大皿いっぱい食べている、姫島の地道な努力。

 血液スキルに必要な煌気オーラ、および出血の限界をじっくり待つ持久戦、その選択が愚策だと言う事はナグモも承知していた。


「せっかくの『ジキラント』が、これでは盾にしかならない! 私の古龍煌気オーラの出力が足りていないのか……!!」


 既にナグモはダンジョンで一度、『古龍化ドラグニティ』を使用している。

 その際、逆神六駆は既に察していた。


 「ああ。南雲さんはまだ古龍の煌気オーラを使いこなせていないなぁ。もう一段階ギアを上げないと、そこそこ強い人とは戦えないぞ」と。



 なお、それを本人に伝えずにお腹壊して戦線離脱している最強の男。



「くくっ。やはりこの程度! いかな名刀でも、振るう者の技量が足りねば持ち腐れよ!!」

「……やはり、やるしかないのか!!」


 ナグモは戦闘中の3人の乙女たちの様子を見た。

 彼女たちも奮戦を続けている。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「囲め、囲め!! このいい女、もう煌気オーラがないぜ!!」

「よっしゃ! 任せろ!! こっちの気の強い女もいい体してるが、性格がちょっとな!!」


 相変わらずゴラスペに駐留しているアトミルカ構成員から絶大な人気を集めているクララ。

 既に煌気オーラが枯渇しているため、特に何もできない。


「うにゃー! 小鳩さん、頑張ってにゃー! 小鳩さんが負けちゃうと、あたしのファーストおっぱいが奪われるにゃー!!」

「分かっておりますわ! クララさんのおっぱいは、わたくしがお守りいたします!!」


 ところで、誰かお忘れではなかろうか。



「……みみっ」



 煌気オーラを感知したり、煌気オーラを消したりという小技に関しては既に師匠の六駆レベルに到達しつつある、最年少探索員。

 彼女は少し距離を取り、参戦のタイミングを計っていた。


 木原芽衣も煌気オーラ総量は人並みなため、攻撃に際しては機会と配分量を熟考しなければならない。

 彼女の場合はクララ以上に一撃に使用する煌気オーラが多いので、なおのこと。


「まったく、鬱陶しい方たちですわ! なんてお排泄物!! 『銀華ぎんか』十六枚咲き!! 『銀色氷結突シルバーコキュートス』!!」

「おがっ! 足元が凍っちまった! おい、お前! ちょっと溶かせ!」


「おお、任せとけ! まったく、1人でオレらを相手にするとはな! バカな女だ!!」

「げへへっ。まったくもってその通りだぜ!!」


 小鳩は「まったく、本当にお排泄物な方々ですわ」と同じ言葉を繰り返し、笑う。

 彼女の視界にはハッキリと、小さいが頼りになる仲間の姿が映っていた。


「みみみみっ!! 『分体身アバタミオル二重ダブル』!! みみみみみみぃっ!!」


 木原芽衣、6人に増える。

 実体のあるドッペルゲンガーのため、単純に木原芽衣の戦闘力を持つ乙女が6倍になる計算。


 彼女も煌気オーラをこれでほとんど使い果たす事になるが、ハッキリと勝算のある行動であった。

 芽衣は迷いなくドッペルゲンガーと共に、一人一殺の構えを取る。


「おっ、なんだこのガキ! さっき戦車にいたずらしたヤツじゃねぇか!」

「ガキ過ぎてちょっとな。もう3年したら相手してやるよ! ひひっ!」


「お排泄物……。相手との力量差も分からないですの? あなた方のうち半分は足元が凍り付いていて動けませんのよ?」

「みみみみぃ! 『発破紅蓮拳ダイナマイトレッド』!! みみみみみっ!!」



 クララの周りをかごめかごめしていた構成員たちが同時に吹き飛んだ。



 敵の撃破を確認すると、芽衣は速やかに『分体身アバタミオル』を解除する。

 1人に戻った芽衣は冷たい視線でゲスな男たちを眺めて、一言。


「みみっ。またつまらぬものをぶっ飛ばしてしまったです。みみみっ」

「うにゃー! 芽衣ちゃん、さすがだにゃー!! パイセン、どうにかおっぱいを守り通せたぞなー!!」


 クララが芽衣を抱きしめる。

 守り通した胸部に顔を埋めながら、「やっぱりこの弾力は落ち着くです。みみっ」とクララの柔らかい体を独り占めする芽衣なのであった。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 隊員たちの戦いぶりを見た、ナグモ。

 彼も覚悟を決めていた。


「……分かった。私も後の事を考えて余力を残すのはヤメだ。今、この場にて! 目の前のあなたを倒す事のみに注力する!!」

「くくっ。さも秘策があるような言い方だが。そのような妄言で某が怖気づくとでも?」


「妄言かどうか、その身で確かめるといい!! はぁぁぁぁっ!! 『古龍化ドラグニティ二分の一ハーフ』!!」


 ナグモの体を纏っていた古龍の煌気オーラがさらに変質した。

 肉体にの変化が起きる。角は長くなり、目の周りには黒い隈取が現れた。


「ふ、ふははっ! 貴殿、本当に隠し玉を用意しておったか! 良いぞ、良い! それほどの力を某の刀で斬り刻むことができるとは! この上なき愉悦よ!!」

「……ふっ。力に溺れる者は愚かだ。どうしてその虚しさにあぁぁぁい!! 危ない! 持っていかれるところだった!!」



 この形態のナグモは、気を抜くと気分が高揚して上々アゲアゲになるのである。



「時間がないから、速やかにこの戦いは終わらせてもらう! さもなければ!」

「どうだと言うのだ?」


「私の面白映像が増える!! もうこれ以上、これ以上増やしてたまるものか!!」

「何を申しておるのか分からぬが、散れ!! 『超高血圧二百六十アルテマプレッシャー』!!」


 姫島の奥義がさく裂する。

 だが、ナグモは慌てない。


「……ふぅ。精神を研ぎ澄ませ。ジェロードさんの刀に煌気オーラを伝達させる!!」


 大太刀『ジキラント』は、大げさな特殊能力を備えている訳ではない。

 ただ、「古龍の煌気オーラを増幅させ、最も効果的な形で発現する」事のみに注力して作られた武器である。


 つまり、繰り出すナグモの一撃は必殺剣となるのだ。


「うぉぉぉぉっ!! 『古龍ドラグ一刀両断フルブレイク』!!!」

「ぬぅっ!! 実に強烈……!! だがっ!!」


 どうにか刀で一撃を受け止めた姫島。

 だが、ナグモはさらに煌気オーラの出力を上げる。


「ここからが『ジキラント』の本領だ!! うおぉぉぉぉっ!! ジェロードさん、力を貸してください!! 出力を上げるぞぉぉぉぉぉ!!」

「ぐぬぅっ!? こ、これほどとは……!! がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」


 決着はあっけないものだった。

 だが、その短い時の最中には、ナグモと姫島の全力が内包されていた。


 両者とも、悔いのない戦いだったと言う。


「……某の負けだ。古龍の戦士よ。某がウォーロストに収監された時には。……新鮮な下着を差し入れてはくれぬか。もはや自分で盗むこと、叶わぬ」

「ふっ。良いだろう。力の支配から解放された者には、下着と言う名の安寧をあぁぁぁぁぁい!! 危ない!! バカか! 私もあなたも!! 誰が下着を差し入れるものか! 自分のパンツでも頭にかぶってフガフガ言ってなさいよ!! 救いようのない変態だな、この人!! ガチだ、ガチの人だ!! うちの子たちに相手させなくて良かった!!」



「へ、変態ではない……。某は、ただのしがない、侍よ……」

「侍に失礼でしょうが!! あなたはどこに出しても恥ずかしくない変態だ!! この社会の敵!! これまで戦ってきたどのシングルナンバーよりもダメな人だな、この人!!」



 古龍の戦士・ナグモ、6番姫島幽星を撃破。

 だが、南雲隊は指揮官を含めて全員が満身創痍。


 まだ姫島よりも強大な敵がゴラスペに控えている事実から目を逸らすことはできない。

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