第462話 【南雲隊その6】チーム莉子と南雲監察官を襲う、未曽有の危機!! 異世界・ゴラスペ

 異世界・ゴラスペにて、発射されたミサイルをスキルで空中爆発させた南雲隊。

 11発もミサイルを撃ったのに被害が0であると知った5番パウロ・オリベイラは当然のようにネガティブを拗らせた。


「うわぁ。最悪だ。最悪ですよ、姫島さん。敵さん、頭おかしいんじゃないですか? 普通、ミサイルを空中で迎撃します? もうそれ、先進国の軍隊がやることじゃないですか。完全に詰んだ。確実にボクは殺される。先に大怪我しとけば見逃してもらえるかなぁ」


 6番姫島幽星はパウロの卑屈さに呆れかえる。


「お主。敵と刃を交えもせずに降伏する気か? それでも戦士か。情けない」

「いや、戦士じゃないですって。ボク、元々はフリーの殺し屋ですよ? 自分で依頼を厳選して、あ、これならボクでも殺せそう! って案件だけをこなしてきたんですから。辻斬り侍マンの姫島さんと一緒にしないで欲しいなぁ」


「某に対する敬意は受け取った。だが、先にも言ったが不始末を犯せば2番様に粛清されるのは必定よ」

「だから詰んでるんですよ。あーあ。敵の部隊、全員食あたりにでもならないかなぁ」


「愚かな事を。もう良い。某は第一砦へ向かう。敵の部隊をそこで殲滅する。くくっ。このイドクロア妖刀『血染ちぞ一文字いちもんじ』の切れ味を早く試したいのだ」


 そう言うと、姫島は駐留している2桁ナンバーの半分を連れて15キロほど離れた第二砦へと出陣した。

 その様子を見て「姫島さん、良い人だなぁ」とパウロは思ったと言う。


 ちなみに、パウロの願いが珍しく叶う事になるのは、この後すぐのことだった。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 南雲隊は第一砦を目指していた。

 ミサイルがあと何発あるのか判然としない以上、砦の無力化は最優先事項。


 ミサイル以外にも凶悪な兵器が隠されているかもしれない。

 まずは隊員の安全の確保を第一に任務を進める、正義と良識の男。

 その名は南雲修一監察官。


「それにしても、遠隔攻撃の兵器を躊躇なく出してくるとは。これは、こちらの作戦がやはりある程度アトミルカ側に露見していると考えるべきだろうな」

『南雲さん。そんな大きな声で独り言を……。疲れてるんすね。お気の毒に』



「違うわい! 逆神くんに話しかけたの!! なんで逆神くんも無視するのさ!?」

『逆神くんなら、南雲さんの隣にはいませんけど?』



 南雲は「なんだよ!!」と言って、六駆の姿を探した。

 繰り返すが、敵に位置を補足されている以上、いつ先ほどのように不意を突いた攻撃が牙を剥くか分からない。


 ならば、最強の男と密に連携を取っておくのがベストな判断。

 だが、その最強の男がいない。


「ちょっと、小坂くん」

「はぁーい。なんですか?」


「逆神くんが見当たらないんだけど。君なら居場所を知ってるんじゃないかな?」

「ふぇっ!? ホントだ!! 六駆くんがいないよぉ!!」


 小坂莉子Aランク探索員の瞳に炎が宿る。

 彼女は小鳩を呼んだ。


「小鳩さん! 『銀華ぎんか』で可能な限り広範囲の防壁を張ってください!」

「え、ええ! かしこまりましたわ! どうなさるおつもりですの?」



「わたしは六駆くんの匂い……じゃなかった、煌気オーラを知り尽くしてますから!! 捜索のためにはこの強風が邪魔なんです!! 嗅覚を強化するんです!!」

「うにゃー。隠し切れてないぞなー。しかもさっきパンツの話したせいで、もう莉子ちゃんが六駆くんの匂いを覚えた過程が他に考えられなくなってるにゃー」



 莉子さんは敢えて否定をしなかった。

 彼女は良心と正義に秀でた、清らかな乙女。


 嘘はつけないのである。


「と、とりあえず、リーダーの指示に従いますわよ! 『銀華ぎんか』! 百二十八枚咲き!! 『シルバーディメンション・グランデ』!!」


 塚地小鳩は絶えず鍛錬を行っているため、まだ成長期の力は作戦をこなす度に伸びていく。

 ついに彼女の『銀華ぎんか』は百枚を超える量を1度に咲かせることが可能となり、攻防のどちらにおいても強力なスキルとして完成しつつあった。


「よぉし! アレンジスキル!! 『超嗅覚クンカクンカ』!!」

「みみっ! すごい密度の煌気オーラが莉子さんの鼻に集まっていくです!!」


 小坂莉子、初めてのアレンジスキル。

 これまではアレンジスキル自体を六駆に習って使っていたが、旦那のピンチにまた一皮剥ける戦乙女。


 ネーミングセンスが雨宮順平上級監察官レベルなのはご愛敬。


「……ふぁ! あっちから六駆くんの匂いがする!! えへへ。いい匂いだよぉ」

「これはもう、あたしでもフォローし切れなくなってきたぞなー。しかも必要以上に踏み込むと、多分スカートを強奪されるから危険だにゃー」


 莉子さん、警察犬のように六駆の匂いを感知して『瞬動しゅんどう』を使い砂漠を駆ける。

 南雲の指示で、残ったメンバーも彼女を追いかけた。


 ようやく追いついた先には砂に埋まった逆神六駆が倒れており、一同は目を疑った。

 彼が倒れるところを見たのは、これが初めてだからである。


「六駆くん! しっかりして!! 大丈夫!? おっぱい触る!?」

「……南雲さん。リアクション、お願いいたしますわ」


「えっ!? 嫌だよ!! 私がそれ言ったらセクハラになるし!! あと、多分『苺光閃いちごこうせん』でこの世から消されるし!!」

「みみっ。莉子さんがすごい速さでクララ先輩を捕まえたです!」


 莉子さん、旦那の緊急時につきなりふり構わない。

 クララの肩を掴んで、六駆に差し出した。


「じゃあ、クララ先輩のおっぱい触る!?」

「うにゃー。莉子ちゃんが行くところまで行きついたにゃー。あたしのファーストおっぱいが奪われるぞなー。助けてー、小鳩さーん!」


 だが、クララの純潔は守られた。

 六駆が力なく言葉を発したからである。


「う、うう……。莉子……。よく聞いて……。僕はもうダメだ……」

「やだっ! 嫌だよぉ! 六駆くん、そんなこと言わないでよぉ!!」



「お腹がね、痛いの……。多分ね、敵の最新兵器による攻撃だよ……」

「うん。逆神くん。君、ダンジョンでクリスタルメタルゲルの外皮をお好み焼きに付けて食べてたよね? 確実に原因はそれだと思うんだけど。山根くん!!」



 南雲はサーベイランスを呼んだ。

 優れた開発者でもある南雲修一の作った万能遠隔メカには、メディカルチェック機能も搭載されている。


『スキャンするっすねー。発汗や発熱、血圧に脈拍、諸々のデータを収集するっす。……えーと。軽度の食あたりの可能性が92パーセントって出たっすよ』

「そら見たことか!! モンスターの外皮なんか食べるからだよ!! 逆神くん、君の事だから、何か反則的な体調回復スキル使えるんじゃないの?」



「南雲……さん……。お腹痛いのスキルで治せたら……ノーベル賞もらえますよ」

「君ぃ!! 千を超えるスキル使えるのに覚えてないの!? 嘘でしょ!?」



 六駆は治癒スキルや回復スキルの習得に積極的ではなかったとかつて語ったことを、諸君は覚えておいでだろうか。

 彼自身が傷ついたり、病に臥せることが29年間の周回者リピーター時代に皆無だったため、興味のないスキルを覚えなかったのである。


 ここで小坂莉子さん、パーティーリーダーとして行動する。


「南雲さん! わたし、六駆くんを連れて一度現世に帰ります!!」

「え゛っ!?」


「緊急事態ですから! 【稀有転移黒石ブラックストーン】、使いますね!! 六駆くんが元気になったら戻ってきますから!!」

「ちょ、ちょっと待って! 逆神くんと小坂くんに抜けられたら!! せめて、椎名くん辺りに任せよう!! ね、小坂くん! 聞いてる? あれ? 小坂くん? ちょっと?」


 バシュンと音を立てて、六駆を抱えた莉子が転移した。

 取り残された南雲は、誰に言うでもなく呟く。



「どうするの、これ……。戦力が一気に10分の1くらいになったけど」

『あ、南雲さん。前方に人間の煌気オーラ反応が多数確認されたっす。なんか戦車っぽい機影も』



 南雲隊、突然絶体絶命の危機に陥る。

 監察官きっての知恵者は論理的に考えた。


 「まあ、恋人が急病じゃ仕方ないよね……。小坂くん、優しいし……」と。

 遠くに見える大きな機影をぼんやり見つめながら。

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