第463話 【五楼隊その5】前門の人造人間。後門の全裸中年。 異世界・ゲレ

 五楼隊の危機を背負っての大立ち回りを見せた阿久津浄汰。

 浮遊させている『結晶シルヴィス』で作った担架に和泉正春Sランク探索員を乗せて、異界の門を通過した。


「なんだぁ? えらく寒いとこに来ちまったなぁ、おい。和泉さんよぉ。あんた、温度差で死なねぇだろうなぁ?」

「お気遣いありがげふっ。寒冷気候の異世界ですね。本部からの情報では、煌気オーラのこもった無機物の反応が多数あるとのことでしたがふっ」


 阿久津は仏頂面で『結晶シルヴィス』をさらに増やし、衛星に熱線を放つ要領で微弱な暖気を持つ電気ストーブになるような運用をプログラムした。

 続けて、大きなため息をつく。


「このくそ寒い中をよぉ? 全裸で元気よく駆けまわってる親父探すのかぁ? ……なんつーか、こんなに虚しい命令もねぇと思うんだがなぁ」

「大吾さんの煌気オーラは特殊ですので、場所の把握が容易なのは幸いでしたね。ごふっ」


「幸いなんだか不幸なんだか分かんねぇんだよなぁ。で、今の親父の位置を教えてくれるかぁ? 和泉さんよぉ」

「げふっ。ここより2キロほど西に向かった場所におられるようです。高速で移動しているので、肉体強化のスキルを使用しているかと思われげふっ」


 阿久津は「全裸のおっさんが肉体強化してんじゃねぇよ……。まず強化すべきは知能だろうがよぉ……」と呟いて、和泉のナビに従い進路を定めた。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 ここは異世界・ゲレ。

 阿久津が言ったように、極めて気温の低い土地である。

 だが、湿度も低いため雪は滅多に降らない。


 この地にあるのは、4番の管轄する『人造人間製造工場』であり、アトミルカの新たな精鋭戦闘員を無から作り上げると言う一大プロジェクトの最前線。

 4番いわく、「この土地の気候はわたくしの研究に最も適しているのですよ」との事であり、岩と荒地があるだけの殺風景なゲレを元祖アトミルカの頭脳は高く評価していた。


 中型のモンスターは生息しているもののBランク探索員程度の力があれば問題なく討伐できるレベルであるため、先行している五楼隊の障害は少ないと思われる。


 ゲレ本来の環境に限った話ではあるが。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 五楼京華上級監察官は、屋払文哉Aランク探索員と青山仁香Aランク探索員を引き連れてゲレの奥へと進行中である。

 が、その行軍を妨げる者が現れる。


「日引。聞こえるか」

『はい。感度良好です。五楼さん』


「何やら見慣れん輩が湧いてきた。どう見ても人工的に作られた兵器にしか思えんが。念のため、データベースにて照会してくれ」

『了解しました。2分ほどお待ちください』


 だが、目の前の赤い目をした人間のような何かは、律儀に待ってはくれなかった。


「司令官より命令。目標を発見。日本探索員協会、五楼京華上級監察官と一致。攻撃に移行。隊列、Lを選択。リーダー機より伝達」

「命令、了解。攻撃方法選択。『速射冷凍砲バゼルコールド』の用意。充填率70パーセント」


 五楼は目の前の敵が仕掛けてくる事を察知して、身構える。

 煌気刀を具現化し、万全の迎撃態勢へ。


「リーダー機に続き、一斉砲撃。開始」

「了解」


 雪玉ほどの煌気オーラ弾が彼らの肩に備わっている砲門から放たれた。

 五楼は『次元大切断じげんだいせつだん』で対処しようと考えたが、接触寸前に方針を変える。


 続けて、部下たちに向かって叫んだ。


「貴様ら! この弾に触れるな!! 回避しろ!!」

「了解なんで、よろしくぅ!!」

「了! 『ソニックダンス』!!」


 結果的に、五楼の判断は正しかった。

 彼女にしては珍しく根拠が「嫌な予感がした」と言う曖昧なものであったものの、手練れの戦士が刹那に抱く予感は極めて正確なセンサーとなり得る。


『五楼さん! 解析結果が出ました!!』

「そうか。重要な部分だけを掻い摘んで頼む」


『了解です。データベースに一致するモンスターはありませんでしたが、01番さんとの適合率が60パーセント! つまり、相手はアトミルカ製のサイボーグだと考えられます!!』

「ちぃっ。ヤツらも面倒なものを作る……!!」


 五楼隊の前に立ちふさがったのは、サイボーグ戦士。

 識別番号は06であり、4番が開発している人造人間の製造過程で生まれた。

 4番は『06シリーズ』と呼んでおり、その性能はミンスティラリア改修前の01番を上回る。


「隊長! なんでさっきの光弾を避けたんでよろしくぅ?」

「着弾地点を見てみろ」


 雪玉弾が衝突した岩は氷が覆いかぶさるようになっており、綺麗にコーティングされていた。


「恐らくだが、接触した瞬間に煌気オーラ力場を発生させて対象を凍結させる武器だ。我々の力量ならば1分もあれば脱出可能だが、相手の数は見えるだけでも4体。その1分が致命傷になる恐れがある。なにぶん、手の内が分からんからな」


 屋払と青山は息を吞んだ。

 凍結の程度にもよるが、氷漬けになると防御力が極めて低下するのは戦闘の基本。


 相手がサイボーグである事を加味すると、圧倒的な物理攻撃を仕掛けられた場合、たった一撃で命を落とす危険もあった。


「この異世界は、敵の新兵器製造施設なのだろう。つまり、私たちもハズレだ。と言って、このような脅威を捨て置くこともできん」

「うっす! 了解なんでぇ! よろし……」

「どうしたんですか、屋払さ……」


 言葉を失う潜伏機動部隊の2人。

 その視線の先には。


「おおおおい!! 京華ちゅわーん!! オレだよ、オレ!! 逆神大吾さんだぜ!! いやー! 厳しい戦いだったけどさぁ、何とか勝てたのよ!! んで、追加報酬貰おうと思って!! 急いで追いかけて来たの!! いやー、なんかさみぃな、ここ!! ねぇ、お金ちょうだーい!!」



 全裸で極寒の地を元気よく走り回る、中年男性の姿が。



 五楼は「痴れ者が!!」と叫ぶと、右手から高出力の煌気オーラを放つ。


「喰らえっ!! 『皇炎残火カイザーフランメ』!!」

「おぎゃあぁぁぁぁぁぁっ!! なんでぇぇぇぇぇ!?」


 異世界・ゲレにおける五楼京華上級監察官のファーストアタックは、逆神大吾に向けて放たれた。

 対象が存在し続ける限り残火も燃え続けると言う、強力な極大スキルである。


「ちょ、五楼さん! ダメですよ!! 大吾さん、死んじゃいますよ!?」

「青山。気にするな。あの痴れ者はこの程度では死なん」


「こ、この程度って! 極大スキルじゃないですか!!」

「……見てみろ、青山」



「ちょっと京華ちゃん! 何すんのかと思ったら! この永続の炎スキルでオレに暖を取れってことね!! ふぅー! ツンデレなんだから!! あっちぃけど、我慢するぜ!!」

「……聞いたか? 私の極大スキルを我慢でどうにかされる、この屈辱。情けなくて泣けてくる」



 なお、サイボーグ06シリーズたちは「理解不能。現状認識のため、ステータスを観察に移行」と、大吾の奇行におののいていた。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 ゲレの研究所に帰還した4番。

 彼も五楼隊の様子を見ており、「何なんですかねぇ、あの生き物は……」と怯えていた。


 その恐怖が、さらなる兵器を目覚めさせることになるのだった。


「まだ最終調整は終わっていませんが……。起動させるとしましょうか。9番。チェイス・ブラッシュ。目を覚ましなさい」


 棺のような格納庫から、大柄な男が現れた。

 彼は両腕を伸ばしながら、久しぶりの広い環境を懐かしむ。


「4番様。御用か?」

「ええ。あなたの力が必要な事態に陥りました。敵は上級監察官」


「なるほど。貴公に改造されたこの身がお役に立てる時か。上級監察官ならば、相手にとって不足はない」

「言語能力、思考能力共に問題なさそうですね。準備が整い次第、わたくしと共に戦場へ向かいますよ」


「了解した。マスター」

「んっふっふ。先ほどの借りはすぐにお返ししますよ! 逆神大吾!!」


 最後のシングルナンバーは人造人間。

 4番のリベンジが始まる。

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