第461話 【久坂隊その5】追加任務! 囚われの探索員たちを救出せよ!! 異世界・クモリメンス

 1時間ほどたっぷりと休息を取った久坂隊。

 全員の体力、煌気オーラともに完全回復したタイミングで、サーベイランスが飛んできた。


『久坂さん。お疲れ様です』

「おお! 楠木の! お主こそ大変じゃろうて! 4つも部隊が作戦行動しよって、それを統括するっちゃあ、ワシにゃ絶対できんわい!」


『私は皆さんの活躍を見守っているだけですよ。……本題です。福田くんの索敵によって、異界の門の先の異世界の様子が判明しました』

「ほぉ。それで、ワシらは当たりを引いちょったんかいのぉ?」


『結論から先に申し上げますと、その先にあるのはアトミルカの本拠地ではありません』

「ほうじゃったか。しかし、なーんも無いわけじゃなかろう?」


『はい。異世界には収容施設が2つほど確認されました。どうやら、各地のダンジョンで行方不明になった探索員がそこに囚われているようなのです。わずかに採取できた煌気オーラ情報を照会したところ、海外の探索員が数名ヒットしました』

「なるほどのぉ。55のが言うちょった、罠にかかった探索員か。ちゅうことは、ワシらの任務はそやつらの解放じゃの?」


 楠木は「ご明察です」と頭を下げた。


『危険な任務になりますが、発見してしまった以上我々としても無視はできません』

「分かっちょるで。日本探索員協会はカルケルの件でちぃと風当りが強いけぇの。ここいらでよその国のお偉いさんらに恩でも売るとしようかの! ひょっひょっひょ!!」


 久坂は任務を拝命して通信を終えた。

 続けて、待機していた隊員に新たな任務を告げる。


「ちゅうことじゃ! ワシらはこれから、探索員の解放へ向かうで! なぁに、収容施設とやらを解放しちゃれば、捕まっちょる探索員がそのまま戦力になってくれるはずじゃけぇ! そがいに難しい話でもないわい!!」


 実際は難易度の高いミッションなのだが、久坂は敢えて飄々と振る舞う。

 無意味に危険だと叫んで隊員を委縮させても得るものはないと、この老兵は経験により知っているのだ。


「とりあえず、福田のが送ってくれた地図で近い方の施設目指して行軍じゃのぉ。15キロもあるらしいけぇ、ええ運動になるで」


 久坂剣友監察官を先頭に、久坂隊は異界の門をくぐった。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 クモリメンス。

 これが久坂隊の挑む異世界の名前である。


 異世界・クモリメンスは豊富な水源が各所にあり、気候は温暖で自然の猛威が振るうような場所ではない。

 そもそもかなり小さな異世界であり、平和な事以外は特色がないことが特色と言うくらいしか表現のしようがないとも言い換えることが出来る。


 面積が狭いことは、そのまま管理が容易であることに通じる。

 つまり、捕らえた探索員が脱獄を企てても、よほどの事がない限りは異界の門にたどり着くまでに警戒網に掛かり再び捕縛される。


 管理責任者はアトミルカナンバー7。

 ギッド・ガードナー。


 元探索員の経歴を生かして、時に脅し時に宥めすかして囚われの探索員たちをアトミルカに勧誘している。

 7番はアトミルカに対する忠誠心があまり高くない。

 その点も考慮して、常に3番が監視しているこのクモリメンスの駐在司令官に任命した背景もあるとか。


 だが、諸君もご存じの通り、その7番が今は2番の指令を受けて国際探索員協会へ出張っている。

 この点は久坂隊に幸運が味方していた。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 久坂隊はクモリメンスの地に降り立つと、まず四郎の【黄箱きばこ】からイドクロア装備を取り出した。

 『黒子の暗幕ステルスカーテン』は、その名の通り一定範囲の煌気オーラ反応を極めて希薄になるよう構築された装置であり、四郎が周回者リピーター時代に作り上げた信頼と実績の逆神印。


「あの、不謹慎かもしれませんが」

「どうしたんだい、山嵐くん」


「いえ。めちゃくちゃ良いところですね、この異世界。空気は澄んでるし、水も綺麗で。アトミルカの施設があるって聞くと、なんだか地獄みたいなところを想像していたんですが」

「確かにそうかもしれん!! 実際、劣悪な環境の異世界をアトミルカは好む傾向にある。原住民がいなかったり、協会の攻略対象に入りづらかったりと理由は様々だが」


 それだけに、この居心地の良い異世界がなおさら異質に感じられる。


「ほっほっほ。まあ気を張り過ぎてもいけませんからの。良い景色でも眺めて、適度なリラックスを維持するのが行軍のコツですじゃ」

「四郎さんの言う通りじゃぞ。無警戒になられると困るが、ガチガチに緊張しちょったらいざっちゅう時に力が出せんからのぉ。四郎さんの装備のおかげで、視認できる範囲のみの警戒で済むけぇ」


 老兵たちはさすがの心構え。

 彼らは体力をはじめ能力が既に年々下降しているため、効率の良い力の使い方をマスターしている。


 それからしばらくは何もない、平穏な時が過ぎる。

 が、突如として彼らの目の前に人影が現れたのは、収容施設Aまであと3キロに迫った地点のことだった。


「た、助けてくれぇ!! あんたたち、アトミルカの人間じゃないんだろ!?」


 長髪の男が血相を変えて久坂隊の前にやって来る。

 見たところ、囚われている探索員のようだった。


「こちらは国際探索員協会のチームラビットじゃ。お主、所属は?」


 久坂の言葉で、隊員たちはすぐに指揮官の真意に気が付いた。

 だが、まだ行動は起こさない。


「自分はマルコ・アバーテ。イタリア探索員協会に所属している。Aランク探索員だ。実は、仲間たちと共に脱獄したところでな。後ろの森に待機してもらっている。あんたたちが味方かどうかを自分が確認しに来たという訳だ」

「そりゃあ大変じゃったのぉ。じゃけど、安心せぇ。ワシらは多国籍の救出部隊じゃ。仲間も呼んで構わんで」


 マルコは「そうか。良かった」と言うなり、手首に装備していた腕輪型のイドクロア武器から鎖を発射した。

 それは真っ直ぐ、久坂に向かって高速で伸びる。


「そうはさせない! 久坂剣友の前には私がいる!! 『ローゼンランツェ』!!」

「55番さん! 援護します!! 『アイアンツインテール』!!」


 マルコは不意打ちを決めたつもりでいたため、55番と土門佳純Aランク探索員による予想外の反撃に戸惑う。


「何故気付いた? じじい!」

「ひょっひょっひょ! お主、大根役者じゃのぉ! 薄情な国際探索員協会が部隊なんか出すわけなかろうが! キャリアがそこそこの探索員なら誰でも知っちょるで!!」


「ちっ! 小賢しいじじいだ! おい、全員出てこい! 相手はたったの5人だ! こっちは30人!! 物の数じゃねぇ! ……おい!!」

「君! 少しばかり注意力も足りないようだね! 自分たちは5人ではなく、6人の部隊だ!!」


 森の中から顔を出したのは、逆神四郎。

 手にはもうすっかりお馴染み。

 異世界産の呪いの斧、命を吸い取る『男郎花おとこえし』が握られていた。


「ほっほっほ! 久坂さんが注意を引き付けてくださったおかげで、こっちのじじいはノーマークで動けましたじゃ! お仲間の皆さんは、一足お先にお休みになられとりますぞい!」

「くっそ! こうなったら、1人でも多く道連れに!!」


「久坂さん! 自分が!!」

「よっしゃ。任せたで、加賀美の。こがいな小物、尋問したところで大した情報も持っちょらんじゃろ」


「了解!! 攻勢・玖式!! 『てつく白龍はくりゅう』!! 悪いけれど、行動の自由を奪わせてもらうよ!!」

「がっ!? なんだぁ、こいつら……」


 マルコと名乗ったアトミルカ構成員が氷漬けになる。

 「見事じゃわい」と加賀美に称賛を送る久坂剣友。


「しっかし、面倒じゃのぉ。やーっぱりバレちょったか。異界の門を派手に突破したから嫌な予感はしちょったが。仕方ないのぉ。お主ら、作戦変更じゃ。一気に施設を攻め落とすで!!」


 電撃作戦に切り替えた久坂隊。

 7番不在のまま、異世界・クモリメンスを制圧できるか。

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