第460話 【雨宮隊その5】究極おっぱい同盟VSダンジョンそのもの エドレイルダンジョン最深部

 南雲隊に続き、久坂隊が。

 そして五楼隊も未踏ダンジョンの攻略を完了させた。


 こちらはエドレイルダンジョン。

 雨宮隊もクライマックスを迎えていた。


「こちらは川端監察官。オペレーター。状況が分かるか? 把握できている限りで良いので、教えてくれ」

『福田です。突然、ダンジョン全体から煌気オーラ反応が発生しました。その規模、一般的なSランクの15人相当。過去に例を見ない規模です。先日、呉で確認された煌気障害に匹敵します』


 川端一真監察官は慌てない。

 彼だっていくつもの死線を潜り抜けてきた猛者。


「原因について分かる事はあるか?」

『手の空いているオペレーターが総出で計算中です。私見を述べさせて頂くと、まるでダンジョンそのものが1個の生物のように思えます。煌気オーラの循環はまるで血液のように規則正しい軌跡を描いていますので』


 福田弘道オペレーターの分析力は言うまでもない。

 また、同様の推察を既に数分前の段階で雨宮順平上級監察官が口にしていたため、川端も納得せざるを得なかった。


「つまり、このダンジョン自体が敵と言う事か……」

『私はそう愚考します』


「福田くん。教えてくれ。あとどれくらいの時間、我々がいる最深部の安全は保たれる?」

『……申し上げにくいのですが』


 川端は「ふっ」と笑った。

 彼はどんな時でも最善を尽くす男。

 絶望的状況に負けたりはしない。


 その覚悟を悟った福田は、正確なタイムリミットを告げる。



『何の対策も取らないと言う前提であればですが。あと5分ほどで、川端さんたちの滞在している最深部は高密度の煌気オーラによって焼失します。運よく命が助かったとしても、今度は毒の瘴気が。それを奇跡的に回避した後には、北極海の冷たい海水が襲い掛かるかと』

「モルスァ」


 川端一真監察官。

 想定していた絶望よりもはるかに絶望的な事実に、一時意識を失う。



 ちなみに、サーベイランスの通信はオープンになっているため、雨宮と水戸信介監察官も聞いていた。

 慌てる水戸と、「いやぁ。大変なことになったねぇ」とのんきに構える雨宮。


「川端さん! 川端さぁぁん!! 帰ってきてください!! 5分後にはどうせ死ぬんですから!! 勝手に先に逝って楽にならないでください!! 失礼します! せいっ!!」

「ぐはっ!? 水戸くん、どうして私は殴られたのだ?」


 川端は正体を失っていた事実を認識し、若き監察官に醜態を詫びた。


「私としたことが……。最後の最後まで諦めてはならないと言う、探索員の基本を失念していた。水戸くん、ありがとう。気合が入った」

「いえ、自分こそ先輩に手をあげてしまい申し訳ありません!!」


「私は、私にできる最大の奥義を使う事にする。できれば、これだけは使いたくなかった」

「そ、そんな凄まじい切り札があったんですか!? 川端さん、さすがです!!」


 川端は咳ばらいをして、声を張った。

 それは、彼の命を燃やす叫びだった。


「雨宮さん!! 生きて現世に戻ることが出来れば!!」

「あららー。どうしたの、川端さん?」



「私のおっぱい貯金を使って、『OPPAI』を3日……いえ、1週間!! 貸切ります!! もちろん、全キャストを指名します!! そこで、雨宮さんには1週間、お好きなように過ごして頂きたい!! これが、私に出せるこの場で最大の切り札です!!」

「ええー!? おっぱい男爵!! それは本当のことかい!? キャシーもジェシーもジェニファーも!?」



 川端は力強く首を縦に振り、「リリアンとクロエとマリリンもです!!」と付け加えた。

 雨宮の煌気オーラが一気に膨れ上がる。


「おっぱい男爵の覚悟、見せてもらいましたよ……!! ならば、私も本気を出す時のようですな!!」

「ええ。私はおっぱいに嘘はつきません!!」


 目と目で通じ合う、雨宮と川端。

 その様子を眺めながら「自分は30代の間に絶対結婚しよう。小さくても良いから、幸せな家庭が欲しい」と、水戸信介は何故だか涙が止まらなかったと言う。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 雨宮は右手に煌気オーラを集めて、壁にそれを放出する。


「よいしょー! 『白ってなんか色々と見える白スケスケホワイト』!! ……なるほど! 煌気オーラの流れはだいたい把握できましたよ。このダンジョンちゃん、核がないですねー。どうやら、本当に煌気オーラを絶えず循環させる事で起動してるっぽいゾ!!」


 続けて、左手にも煌気オーラを込めた雨宮は地面に向けてそれを撃ち出した。


「どっこいしょー!! 『黒く塗りつぶしたらとりあえず解決の黒ケシケシブラック』!!」

「ど、同時に2つの極大スキルを発現させてるんですか!? 雨宮さん、そんな事までできたんですか!?」


 通常スキルならばまだしも、極大スキルの同時発現はこれまで逆神六駆しか成功させていない神業である。

 極めて繊細な煌気オーラコントロールと熟練のスキル構築センスが求められる、スキル使いの最高到達点の1つとして、全ての探索員が憧れる深奥。


「おじさんもこれが出来るって気づいたのはね、つい最近なのよ。5年前くらいかな?」

「結構前じゃないですか!! じゃあ、なんでもっと早くやらないんですか!!」



「それはね……。おっぱいに導かれた結果……かな……」

「うわぁぁ! もうぶっ飛ばしたいなぁ!! なんで自分はこの人の弟子なんだろう!!」



 雨宮が発現中の『黒く塗りつぶしたらとりあえず解決の黒ケシケシブラック』は、再生スキルの真逆の特性を持つ。

 抹消スキルとでも呼ぶのが正しい表現か。


 この黒い煌気オーラは、煌気オーラそのものを打ち消す。


 得意属性の反転は割と習得する者が多い。

 例えば、火炎属性を主戦として扱うものが凍結属性も扱えるとなれば、その応用範囲は格段に広がる。


 表裏一体の属性ゆえに習得すること自体はさほど難しくない。

 が、どちらの属性もトップクラスに使いこなせる者となると、一気にその候補は狭まることになる。


「今ね、おじさんがダンジョンちゃんの煌気オーラをここで止めてるの。さっき福田くんも言ったでしょ? 煌気オーラが血液みたいになってるって。つまり、それを遮断するとどうなるでしょうか! はい、おっぱい男爵!!」

「生物としての構造をしている以上、重篤な欠陥が発生すると思われます!!」


「はい! 正解! おっぱいは?」

「ジャスティス!!」

「何言ってるんだ、この人たちは……」


 だが、雨宮のスキルは彼の目論見通り効果を発揮した。

 循環している煌気オーラが1か所で抹消され続ければ、いずれその流れは途絶える。

 続いてエネルギー源が枯渇すれば、『機械魔獣マシーンキメラ要塞型アルファ』は活動を停止する。


 アトミルカナンバー3と4の科学者コンビも、ここまで反則みたいなパワープレイは想定していなかった。

 結果、4分ほどでダンジョンの揺れは収まり、全ての決着がついたのだった。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「あー。疲れたー。やっぱり無茶するもんじゃないねぇ。おじさん、年甲斐もなく張り切っちゃったよ。失敗したねー。この部隊、煌気オーラ回復してくれる子がいないもんなぁー」


 こうして、雨宮隊もエドレイルダンジョンを攻略完了する。

 が、前述の通り。傷やダメージは雨宮の再生スキルで治せるが、肝心の煌気オーラの回復手段がないのがこの部隊唯一にして最大の欠点。


「どうしますか? 一度、本部に転移しますか?」

「いやー。男爵。それは悪手だよー。これだけ派手に動いたからには、敵にも行動は筒抜けだろうからさー。進むしかないんだよねー」


「あ、雨宮さんが……! なんか上官っぽい事を言っている!!」

「だってほらー! 早いところ作戦を終えてさ! おっぱいパーティーと洒落こみたいじゃない!! ねー、男爵! 合言葉は?」



「おっぱい!!」

「ふぅー! おっぱい! いぇー!!」

「不安しかない……。やっと北極海の底から出られるのに。なんだろう、この不安は」



 雨宮隊、異界の門を制圧。

 これより異世界へ進軍すると本部に告げるのだった。

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