第458話 【大吾と決死隊その2】知略が冴えるあっくん。奮闘する和泉正春。死なない親父。

 4番ロブ・ヘムリッツの専門は研究職。

 弟子である3番クリムト・ウェルスラーの研究は主に兵器に特化したものだが、対して4番は人造人間から巨大要塞型モンスター、さらには武器や防具と言ったものまで実に雑多な範囲をカバーする。


 これは、彼がアトミルカの筆頭研究員だった頃には他の研究者が育っておらず、やむを得ない事情でほとんど全ての科学技術分野を担当していた事に起因する。


 「苦労もしたが、多くの技術を複合的に学べた」とは4番の弁。

 彼の身に纏っているバリア、『ミラーコート』もその副産物。


 大吾の放った『大々ビッグ大太刀風おおだちかぜ』は4番の体の数センチ前でピタリと動きを止める。

 それを彼は手袋をした手で掴み、観察する。


「ほほう。面白いスキルですねぇ。煌気オーラをダイレクトに刃状の形へと変質させているのですか。技術としては興味深い。……ですが、なんと非力な威力でしょう。お返ししますよ。5倍ほどに増幅して!! 『ミラーバイト』!!」


 『大々ビッグ大太刀風おおだちかぜ』が分解され、煌気オーラの塊に再構築されたのち大吾に向かって放たれる。

 かなりのスピードであり、距離のある阿久津、さらに後方の和泉にはどうすることもできない。


「なんだ、こんなただの煌気オーラの塊!! スキルも使えねぇのかよ、おっさん! 煌気オーラ弾にすらなってねぇぜ! はははっ、はっ? おぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」



 逆神大吾、光に包まれる。



 煌気オーラの塊は大吾の言ったように「スキルとして形成される前の資材」と表現してもいいものであり、攻撃力はスキルの方がずっと優れているのも事実。

 だが、巨大な煌気オーラをスキルに変換するにはそれなりの技量と労力が必要とされる。


 ならば、その前段階の煌気オーラの塊を敵にぶつけてしまった方が効率的な場合もある。

 規模の大きな塊となれば、接触しただけで身は爆ぜ、塵と化すほどの破壊力を持つ。


「どうされましたか? あなた方のリーダーが今、お亡くなりになったのですよ? 哀悼の気持ちを口に出されてはいかがですか? それとも、ショックで言葉も出ませんか? んっふっふ」


 阿久津は「くははっ」と軽く笑って、4番にも分かるように指をさす。


「おい、ちゃんと見てみろよなぁ? お前の攻撃した、敵の死体をよぉ」

「ちっくしょぉぉぉ!! いてぇぇぇ!! うわ、おい嘘だろ!? オレのジャージが灰になってんじゃねぇかよぉぉぉ!! これ、お気に入りだったのにぃぃ!!」



「……はっ?」

「あぁ。気持ちは分かるぜぇ」



 4番は、冷静に考えをまとめる。


 自分の放った煌気オーラの出力が不足していたのか。

 否。並の使い手10人は余裕で殺せるほどの威力を内包していたはずだ。


 ならば、奇跡的に回避したのか。

 否。そう考えるとジャージが消し炭になっている説明がつかない。


「こ、これが……! 2番様と相対して生き残ったと言う……秘奥義なのですか……!」


 体を震わせて現実と向き合おうとする4番。

 だが、生粋の研究者である彼は自分の計算とまったく合わない不合理な現実を受け入れることが出来ない。


 阿久津の目の奥が光る。


「あぁ。これが親父の持ってる超スキルなんだよなぁ。信じられねぇならよぉ。もう1回。いやぁ、もう2回でも3回でも、試してみるといいぜぇ?」



「えっ? あっくん?」

「親父ぃ。そっちは任せるぜぇ。俺と和泉さんで鉄くず掃除しとくからよぉ」



 4番は認められない現実をどう対処するか考え、答えを出した。


「……いいでしょう。わたくしも武器を用いることにします。『巨光熱射砲ギガバーナー』を喰らいなさい。ダンジョンを崩壊させてしまうかもしれませんがね!! そらぁ!!」


 凄まじい火力の放射が大吾に襲い掛かる。

 だが、彼も腐ったとは言え元周回者リピーター

 潜って来た修羅場の数は10や20ではない。


「おらぁぁぁぁ!! 『煌気極光剣グランブレード』!! 一刀流! 『次元大切断じげんだいせつだん』!! オレに火の玉投げてくるとか、バカなおっさんだぜ! 周回者リピーター時代は火を見たら斬るのがオレのスタイルで! ……あれっ。ちょっと斬撃浅かったかな。ちょっと待って。ごめんなさい。一回、ストップしてもらってもおぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」



 腐っても鯛と言うが、相手が腐っていない鯛の場合は普通に負ける。



 その頃、阿久津と和泉はコンビネーションプレイが冴えわたり、最後の『機械魔獣マシーンキメラ』を異空間に吸い上げて粉砕したところであった。


「ふ、ふふふっ! なるほど! リーダーを捨て駒にして、『機械魔獣マシーンキメラ』を殲滅しましたか! 悪くない策ですね! ですが、わたくしと言う最強の敵が存在している以上、いくら駒を片付けようとも……。…………oh」


 何かを見てしまった4番。


「あちぃぃぃぃぃ!! おっまえ! ふざけんなよ!! 裸のヤツに普通、火炎放射器ぶっ放すか!? もう、いい感じに日焼けしたみてぇになってんじゃん!! オレ、色白なのがセクシーポイントだったのによぉぉ!!」



「……どうなっているのですか?」

「そりゃこっちのセリフだわ! ああもう、考えらんねぇ!! 悪いと思ってんなら、なんか着るもの寄越せ! あと、慰謝料も!! 5万円!!」



 すかさず、阿久津が4番に宣言する。

 彼の交渉術は戦局の中でさらに冴えを見せ始め、ついには希望の光となりつつあった。


「くははっ。いいのかぁ? この親父、ダメージを受ければ受けるほど強くなって甦るぜぇ?」

「ば、バカな! そのような事があってたまりますか!! 現に、煌気オーラ検知器の数値も変わっていませんよ!!」


「あぁ? 検知器だぁ? バカだなぁ、お前。何しても死なねぇ親父のポテンシャルが、そんな検知器で測れると思ってんのかぁ? どうすんだよ。今にも親父が本気を出すぜぇ?」

「う、ううっ!! 確かに、殺す気だった2番様を退けた実績は無視できない……!!」



「マジで!? あっくん! オレにそんな隠れた力があったんけ!?」

「……あぁ。親父は黙っててくれよなぁ。頼むからよぉ」



 4番の知能の高さが、安全マージンを確保せよと彼に警鐘を鳴らす。

 ここで自分が倒れることとなれば、被害は計り知れない。


 ならば、一時撤退して2番の指示を仰ぐべきである。


 彼がそう決定づけるまでに時間はかからなかった。


「あなたの名前、確かに覚えましたよ! 逆神大吾!! 今は一時の勝利の余韻に浸っているが良いでしょう!! 次は必ず殺します!!」


 そう言うと、4番は自前の転移装置を起動させる。

 次の瞬間には、もう彼の姿はルブリアダンジョンから消えていた。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 ほとんど阿久津のはったりで急場をしのいだ決死隊。

 和泉が協会本部と通信を開いた。


『こちらは楠木秀秋後方防衛司令官です。まずは阿久津くん。大金星を挙げてくれてありがとう。その機転には助けられました』

「あぁ。俺ぁこんなに肝を冷やしたことはねぇぜ」


『大吾さんと君は外部協力者ですから、ここで離脱してもらっても構いません』

「そうさせてもらうぜぇ。いくらなんでも、リスクが高すぎんだよなぁ。この現場はよぉ」


『では、大吾さんと共に転移してください』

「了解だ。……待て。和泉さんよぉ。親父はどこ行った?」


 和泉はまず「小生に体力があれば……」と目を伏せた。

 それだけでだいたいの事態を把握した阿久津である。


 彼は本部に問い合わせた。


「確認だがよぉ。俺だけ転移させてもらうって事ぁ、可能だよなぁ?」

『……阿久津くん。【稀有転移黒石ブラックストーン】は各部隊に1つずつしか用意されていないのですよ。つまり、君だけの帰還は認めるわけにはいかない』


 阿久津は現場に出てきて1時間ほどで、天を仰いだ回数が3を超えた。

 「……分かったよ。くそったれ」と返事をした彼は、横たわる和泉に声をかける。


「親父を追うぜぇ、和泉さんよぉ」

「申し訳ないのですが、小生……ごふっ」


 阿久津は「なんて日だって話だよなぁ」とため息をついて、『結晶シルヴィス』を展開して移動式の担架を作った。

 続けて、いつの間にか異世界に出発していた大吾の後を追って、彼らも異界の門をくぐるのであった。


 なお、逆神大吾は現在全裸である。

 お食事中の方、大変汚らわしい情報を付言して申し訳ない。

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