第457話 【大吾と決死隊その1】逆神大吾と哀しみの仲間たちVS4番ロブ・ヘムリッツ

 最も深いダンジョン攻略を担当した、五楼京華上級監察官率いる五楼隊。

 彼らの苦難の道のりも、ようやく終わろうとしていた。


 なお、新たな悲劇の産声と共に。


 最深部に到達した五楼隊を日引春香オペレーターの報告通り、多数の『機械魔獣マシーンキメラ』が待ち構えていた。

 その奥には4番ロブ・ヘムリッツ。


「んっふっふ! 来ましたね、実験体の皆様! お待ちしておりましたよ! まさか上級監察官のモルモットが手に入るとは、素晴らしい僥倖ですねぇ!!」


 五楼は短い号令を出した。


「屋払! 青山!! 私に続け!!」

「了解なんでぇ!!」

「よろしくです!!」


 部隊の最高戦力であり、最高指揮官でもある五楼がまさか戦場を放棄して一直線に異界の門を目指すとは、4番にとっては想定外。

 そもそも彼は3番よりもさらに研究者としての色が濃く、戦場で戦う事に関してはそれほど優れた戦士とは言えない。


 ならば、状況分析も同様である。


「これはいけません!! 『機械魔獣マシーンキメラ人型ゼータ』!! ヤツらを止めるんですよ!!」

「ガギガガガガガ」


 『機械魔獣マシーンキメラ』の中でも『人型ゼータ』は汎用性に優れており、いかなる局面でも力を発揮できるのが強み。

 南雲修一の『古龍化ドラグニティ』の試運転相手として六駆が認めた実績もある。


 だが、相手は五楼京華。

 いくら強力な駒でも、彼女を止めるには数の桁が1つ足りない。


「どかんかぁ! 痴れ者が!! 皇帝剣フェヒクンスト!! 『真空しんくう桜花おうか十文字じゅうもんじり』!!」

「うおっ! すっげぇ威力なんでぇ! 追撃ぃ!! 『ソニックブロー』!!」

「こちらのトドメは私が! 『ソニックニードル』!!」


 戦鬼の如き勢いで敵を薙ぎ払った五楼京華上級監察官。

 屋払文哉Aランク探索員と青山仁香Aランク探索員を引き連れて、異界の門へと突入していった。


 一度も振り返らなかったのは、残留組への信頼の証か。

 多分、違う。


「なんという失態をしてしまったのでしょうか!! これは、すぐに追わなければ!! わたくしの研究施設が!!」


 踵を返す4番に対して、斬撃が襲い掛かる。


「うおらぁぁぁ!! 二刀流!! 『飛燕ひえん十文字じゅうもんじり』!!」

「ちぃっ! 雑魚が残っていましたか!! どう見ても足止めの捨て駒ですね!!」


 4番の認識は概ね正しい。

 やる気満々の中年男性が独り、煌気オーラ刀を振り回している。


 その後ろには既に頭を抱えた男が1人。

 さらに、既に地面に倒れている男が1人。


「あぁ? ……和泉さんよぉ? 俺ぁ、言ったよなぁ? 先手必勝しか活路はねぇから、初手は全員で合わせて攻撃するってよぉ? 記憶違いかぁ?」

「小生は独身で、恋人もおりません。両親も早くに亡くしておりますので、貯金と保険金は児童養護施設に全額寄付するように遺言にしたためておりまげふっ」


 阿久津浄汰は和泉正春Sランク探索員の遺志に対して、「ご立派だぜぇ」と感想を述べた。


「おらぁぁ!! 見たかこの野郎!! オレ様の剣技を!! そうよ! さっき京華ちゃんが使った剣技のオリジナルが、今のオレのヤツ!! ビビったろ? おおん!?」


 なお、そのオリジナルスキルは4番に届いてすらいない。

 『機械魔獣マシーンキメラ人型ゼータ』によって防がれている。


「ほう。その言いようですと、あなた。まさか上級監察官の師だと言うのですか?」

「おいおい! よせよ、おっさん! そんなお前!! オレの実力認めやがって!! あっくん! 和泉さん!! こいつぁ、良い戦いになりそうだぜ!!」


 阿久津は用意していた策を3つほど諦めて、『結晶外殻シルヴィスミガリア』を具現化し身に纏う。

 いくつかの『結晶シルヴィス』は和泉の周りを漂う衛星として配置。


「……おや。君には見覚えがありますねぇ? 2番様に不遜な攻撃を仕掛けて、倒された男ではありませんか? ええ、ええ。間違いありません。カルケルの囚人ではありませんか。あなた、探索員だったのですね」


「うるせぇなぁ、おい。俺ぁ別に探索員じゃねぇよ。傭兵みてぇなもんだ」

「そうだ! この野郎!! あっくん舐めんな!! あとな、オレもカルケルでは大活躍してんだからなぁ!! その回覧板みてぇなパソコンで確認してみやがれ!!」


 阿久津は「時間稼ぎにしちゃあ上々だがよぉ。なんでおっさんは、端末見たら全部パソコンって言うんだろうなぁ?」とため息をつきながら、次の策を巡らせる。


 一方、4番は情報端末で逆神大吾の煌気オーラを照会していた。

 すぐにデータが表示され、彼は幽霊でも見た若い娘のように「ひぃぃっ」と声を上げる。


「に、にに、2番様に殺害されながら、生存している……!? この醜い中年のどこにそんな力が!? 煌気オーラ総量はそれなりですが、出力など『機械魔獣マシーンキメラ』レベルなのに!?」


 阿久津は「こりゃあ……。めっけもんだなぁ」と策を閃く。


「あぁ。この親父はよぉ。どんな攻撃を受けても死なねぇ秘奥義を持ってんだよなぁ。あんた、科学者だろ? 気にならねぇかぁ? あぁ?」

「いいでしょう。計画を変更します。まあ、異世界の方にも対策は講じていますからね。あなた方を倒してからでも充分に間に合うでしょう。見せて頂きますよ!! 2番様に何度も相対して生存した、秘奥義の正体とやらを!!」



「えっ? あっくん? ちょっと何言ってんのか分からねぇんだけど?」

「あぁ。意味は分かんねぇ方が助かるぜぇ。親父よぉ。逆神大吾軍団の実力を見せるんだろぉ?」



 阿久津浄汰は、かつて異世界ルベルバックを智謀と交渉のみでその手中に収めた経歴を持つ。

 それは当然褒められた過去ではない。阿久津自身も悔いているが、彼が本来は策を弄しながら戦う強者であることの証明でもある。


「おっしゃあ!! 逆神大吾軍団! 行くぜぇぇぇ!!」

「さて。どう立ち回るかなぁ?」


 敵は『機械魔獣マシーンキメラ』が12体。

 さらに4番ロブ・ヘムリッツは何やら妙な装備を身に纏っている。


 戦況は極めて悪いが、戦いが始まった。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 阿久津がまず動く。


「まずは周りのくず鉄を片付けるぜぇ! 『拡散熱線アルテミス』!!」

「ガギギギギギギギ!!」


 『結晶シルヴィス』から放たれる熱光線は、『機械魔獣マシーンキメラ』を2体ほど溶かす。

 だが、そこは学習する機械モンスター。3体目からは対応策を講じる。


「ちぃっ。シールド出せんのかよ。生意気なくず鉄だなぁ、おい!」

「げふっ。『異空間吸引圧縮トラクタービーム』!! ごふっ!」


 和泉正春は治癒に特化した探索員である。

 が、攻撃スキルが使えない訳ではない。


 煌気オーラを攻撃に転用する事を不得手としているだけで、燃費は悪いが強力なスキルをいくつも携えている。

 それでなくてはSランクを名乗れない。


「へぇ! やるじゃねぇかよぉ、和泉さん! そりゃあ、空間属性ってヤツかよ」

「ごふっ、げふっ。小生は近接戦ができない身ですゆえ、遠距離攻撃のスキルには多少の覚えがあるのでげふっ」


「そうかよぉ! 今のでかなり数が減ったぜぇ! あんたはしばらく休んでなぁ! おらぁぁ! 爆ぜろ、鉄くず!! 『結晶爆発エクスプロード』!!」

「お、おのれ! わたくしの『機械魔獣マシーンキメラ』たちを!! ただの雑魚ではないと言うことですか!!」


 敵の集団に明らかな優劣がある場合、「弱い者から倒していく」と言うのは、正解の1つ。

 阿久津の選択は間違っていない。


 だが、セオリーを無視する男がいる事を忘れてはならない。


「隙ありぃぃぃ!! 死ねぇ、このインテリ野郎!! 『大々ビッグ大太刀風おおだちかぜ』!!」


 確かに大吾は4番の隙を突いた。

 彼の背後から強烈な一撃を見舞うことに成功する。


 が、上手くいくかは別問題。



「……なにかしましたか? わたくしの体の周りにあるバリアを、まさか見抜けなかった訳ではありませんよね?」

「あ。ごめんなさい。間違いました。ちょっと一回、一回待ってもらってもいいですか? いやー。よく見たらあんた! 渋い顔して! 俳優みたいね! ステキ!! オレ、好きになっちゃいそうだわ! へへっ!」



 逆神大吾、命の危機に瀕する。

 だいたい予想通りである。

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