第454話 【雨宮隊その4】呆気ないダンジョン攻略完了。と言う名の罠。 エドレイルダンジョン最深部

 こちらは雨宮隊。

 北極海の底にあるエドレイルダンジョンを潜り続けてかれこれ5時間。


「こちら川端監察官。応答願う」

『はい。福田弘道オペレーターです。川端さん、どうぞ』


「福田くん。我々はどうやら最深部に限りなく近づいているように思えるのだが、それは間違いないか」

『ご明察です。さすがは川端さん。監察官の目は伊達ではありませんね。参考までに、どうしてそう思われたのかお聞きしても?』


 川端は視線を前方に向ける。

 そこには地獄が広がっていた。


「うわぁぁぁぁぁ!! なんだこの機械モンスター!! 壁に攻撃繰り返してると思って見てたら! 海水がぁぁぁ!! 完全に自分たちを亡き者にするつもりですよ!!」

「あっはっは! 機械っていいよねー! 恐怖とか感じないもんねー!! でも、大丈夫だよ! 水戸くん! 私なら自前のスキルで助かるからさ!!」


「くそぉぉぉぉぉぉぉ!! この人、自分だけ助かる気だ!! ヤメろ、止まれよ!! この機械!! ちくしょう、なんて固いんだ!! 川端さぁぁん!! このままだともうちょっとで自分たち、死にます!!」


 川端は黙って頷いたのち、サーベイランスの方へ向き直った。



「監察官としての経験と直感だな。ダンジョンの最深部が近づくと、命に危機が迫るのが相場だと記憶している」

『ご立派です。ちなみにですが、その機械モンスターが仮に壁を破壊すると、雨宮さん以外の生存確率は1パーセントを切ります』



 川端は通信回線を遮断して、全速力で前線へと駆けあがった。


「っりゃい!! 『断崖蹴気弾だんがいしゅうきだん乳房ちぶさ』ァァァ!!! こんなところで死んでたまるか!! 私は! 私は!! おっぱいに囲まれて死ぬと決めている!!」


 なお、彼らの相手をせずに遮二無二になって壁を削っているのは『機械魔獣マシーンキメラ螺旋型ラムダ』である。

 お察しの通り、侵入者を感知した場合ダンジョンごとそれを亡き者にするようプログラムされている。


「雨宮さん!! さっきまで使ってた、なんかヤバいスキル!! あれの出番ですよ!! 川端さんの蹴りを喰らっても平然としてるんですから、もう自分たちの攻撃スキルはこいつに通りません!!」

「オッケー! 任せといて!! 多分、煌気オーラ膜のコントロールが甘くなるけど!! そこは許してヒヤシンス!!」



「ちくしょう!! この世には神も仏もいないんですか!! 川端さぁぁん!!」

「ああ。瞳を閉じるとおっぱいがいっぱいだ。そうか、こうすればいつだって会えたのか。そうか、そうだったのか……」



 それから雨宮順平上級監察官による『恥ずかしい思春期を思い出す灰色ジタバタグレー』がさく裂し、『機械魔獣マシーンキメラ螺旋型ラムダ』は塵となって消えた。

 その間に川端一真監察官は水戸信介監察官に自分の煌気オーラを与えることで若者を守り、彼は右足を溶かした。


 「またおっぱい男爵は無茶するんだから! もう、ぷんぷんがおーだぞ!!」と雨宮によって再生が施されている途中で、サーベイランスが再びやって来た。

 福田弘道オペレーターが持ってくるのは、吉報か。それとも凶報か。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「えっ!? 2つ下が最深部なんですか!?」

『はい。間違いありません。また、煌気オーラ反応も完全に消滅。どうやら、先ほど皆さんが倒された機械モンスターが最後の砦だったようです』


 意外にも、福田がもたらしたのは吉報だった。


「つまり、もう敵はいないと。そういう事か?」

『はい。異界の門周辺も索敵しましたが、煌気オーラ反応はまったく感知されませんでした。つまり、少なくともエドレイルダンジョン内にはモンスターはいないものと考えて良いかと愚考します』


 すっかり見慣れた、緑の煌気オーラに包まれて再生中の川端の質問にハッキリと答える福田。

 彼の敏腕っぷりは監察官たちの間でも有名であり、その彼が「もう大丈夫」と言ってくれる事実に、水戸と川端は少しだけ泣いた。


「でもさ、福田くん。異界の門に守備要員がゼロって言うのは妙な話だよね? だって、さっきの機械くん見たでしょ? ダンジョンぶっ壊しても先に進ませたくないって構えだったのに。おかしいよね?」


 急にまともなことを言い始める雨宮。

 大吾と言い、急に核心を突かれるとこちらも戸惑うからヤメて頂きたい。


「多分、敵もさっきのドリルモンスターが破壊されるのは想定外だったんですよ!」

「そうだねぇ。そうだとしてもさ、私ならあそこまでしたんだから、何かしらの防衛措置は取ると思うんだけどなぁ。ねぇ、おっぱい男爵? 男爵だってさ、ジェニファーちゃんの指名チケットを金庫に入れて保管してるじゃん? さらにその金庫を大きい金庫に入れてるじゃん? ねぇ、おかしいよね?」



「確かに。よく分かります。ジェニファーちゃんの指名チケットを雨宮さんから守るためならば、私はどれほどの労力も惜しまない」

「でしょー? おじさんが察するに、これ多分罠だと思うんだよねー。あ、それからね、川端さん。指名チケット、この間使っちった! てへぺろ!!」



 無言で涙を流す川端。

 そんな話を聞いていると、水戸も不安になってくる。


「福田さん。罠の可能性はどの程度あるとお考えですか?」

『雨宮さんのご指摘を加味して考えると、それなりにあると思わざるを得ません。が、先ほども申しましたように、煌気オーラ反応はゼロなのです』


「つまり、煌気オーラを用いていない罠の存在にも気を付けた方が良いと言うことですか」

『こればかりは現場の判断を優先して頂くほかありません。オペレーター室で可能性を述べたところで、机上の空論の域は出ませんので』


 そうこうしているうちに川端の再生が終わり、「とりあえず進んでみるかい!」と雨宮が号令をかけて3人は最深部に向けて歩き始めた。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 彼らの予感は悪い方向にピタリ賞であった。

 このエドレイルダンジョン、ただのダンジョンではない。


 まったく野生のモンスターが生息していない点や、毒の瘴気が充満している点。

 各階層に『機械魔獣マシーンキメラ』しか現れない点。


 これらには理由があった。


 エドレイルダンジョン。

 またの名を『機械魔獣マシーンキメラ要塞型アルファ』と言う。


 始祖の『機械魔獣マシーンキメラ』であり、最初に開発されたものでもある。


 つまり、ダンジョンの姿をした超巨大な機械型モンスターがエドレイルダンジョンの正体なのだ。

 計画立案と設計を4番ロブ・ヘムリッツが。

 実際の建造と運用は3番クリムト・ウェルスラーが担当した、アトミルカ製イドクロア兵器の中でもかなり古く、凄まじく大掛かりなもの。


 元からあったダンジョンを少しずつ改造して『機械魔獣マシーンキメラ』化させているため、内部に存在する異界の門はしっかりと作動する。

 だが、基本的に緊急時以外は転移装置でダイレクトに先の異世界へ飛ぶため、異界の門を使用するのは極めて稀なケースと言える。


 ここまで厳重な警備を施されているエドレイルダンジョン。

 その先に待ち受ける異世界は果たしてどこなのか。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「あらー! 見てよ、二人とも! 異界の門があったよ!!」

「本当ですね! ……でも、なにか妙じゃないですか? モンスターなどの煌気オーラ反応がないのは知っていましたけど、異世界から漏れ出している煌気オーラも感じられないと言うのは」


 順調に階層を進み、最深部に到達した雨宮隊。

 隊長である雨宮は、水戸の意見を聞いて行動に出た。


「よし! 試してみよう!! てってれれー!! 『物干竿ものほしざお』!! そぉぉぉい!! 『癇癪起こして槍投げマジアリエンティー』!!」


 異界の門に投げつけた雨宮の『物干竿ものほしざお』が弾かれると、けたたましい警報が鳴り始めた。

 すぐに彼らは理解する。



 「あ。これ罠だ」と。



「だから言ったじゃないの! 罠だってさ!!」

「でしたら、どうして慎重に行動してくださらなかったのですか……」


 ダンジョンのからくりに気付けるのか、雨宮隊。

 気づいた後はどうせ無茶苦茶するのだろう、雨宮順平上級監察官。

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