第455話 【久坂隊その4】ここまで来れば、どんな罠でも打ち破れる! ピーライダンジョン最深部

 五楼隊が「逆神大吾に頼る」と言う絶望を背負い、雨宮隊が「ダンジョンと思ってたらダンジョンの形したモンスターだった」と言う大掛かりな詐欺に遭っている頃。

 久坂隊も順調にダンジョンを攻略しており、ついに最深部へと差し掛かっていた。


「もしもーし。福田のー。ちぃと聞きたいんじゃけどのぉ」

『こちら、福田弘道オペレーターです。既に解析は済んでおります。目前にある異界の門ですが、明らかに改造が施されているように見受けられます。うっかりくぐろうものならば、久坂さんと言えど高確率で致命傷を受けるかと思われます』



「お主は話が早うて助かるのぉ。聞きたかったことがだいたい聞けたわ。ほいで、対処法はそっちで見つかっちょるんか?」

『異界の門の合計4か所に核のようなものを感知しています。確実なことは申し上げられませんが、どのような手順でも核は破壊すべきかと』



 福田に「了解じゃ。ちぃとこっちで試してみるわい」と言って、通信を終えた久坂は部隊のメンバーに「全員、身を守ってくれぇ」と命令した。

 続けて、彼は拳に煌気オーラ弾を纏わせ、それを撃ち出した。


「そりゃい! 『鳳凰玉破ほうおうぎょくは』!! おお、こりゃあいけん!!」


 異界の門は久坂の攻撃に反応して、無差別な軌道で光線を放つ。

 加賀美政宗Sランク探索員と55番がそれに対応した。


「せぇや! 守勢・肆式!! 『つるわたり』!!」

「こちらは私に任せてほしい!! 『ローゼンシルト』!!」


 無事に光線の雨をやり過ごした久坂隊だが、問題が明らかになった。

 なかなかの難題であり、彼らは頭を悩ませる。


「参ったのぉ。力加減したスキル攻撃じゃあ逆効果じゃぞ。ちゅうて、全力で攻撃して異界の門壊してしもうたら元も子もなくなるしのぉ」

「確かにそうかもしれん!! だが、足止めを喰らっている間にも南雲隊は危険な陽動役を引き受けてくれている!!」


「ほうじゃのぉ。四郎さん、考えを聞かせてくれりゃあせんか?」

「うーむ。ワシの『男郎花おとこえし』ならば、核を構成しておる煌気オーラを吸収することはできるかもしれませんの。ですが、タイミングが分からん以上、軽々に打てる策ではないと思いますじゃ」


 つまり、四郎の呪いの斧で煌気オーラをごっそり奪っても瞬時にそれを補充されては同じことの繰り返し。

 こちらが消耗する一方になってしまうと老兵は語る。


 と、ここで加賀美隊の若い実力者、土門佳純が手を挙げた。

 「よろしいでしょうか」と控えめに聞く彼女に「もちろんじゃ。なんでも言うてくれぇ」と久坂は応じる。


「私、先ほどの久坂さんの攻撃を見ていて気付いたんですけど。こちらの煌気オーラに反応して、最も近い核がスキルを相殺していたように感じました。でしたら、4か所に同時攻撃をする、と言うのはどうでしょうか?」


 加賀美隊の戦いは「何もしていない時間を作らない」をモットーとしており、パーティーメンバーが攻撃している間、手の空いている者は観察に徹する。

 その日頃の習慣が、ここで光を放つ。


 「ちぃと試してみようか」と久坂が再び煌気オーラ弾を放つと、確かに核と思われる黒いイドクロアが素早く動いてそれを相殺。

 残った核が一斉に光線を斉射した。


「土門の嬢ちゃん、お手柄じゃのぉ! こりゃあ、突破口が見えたで!! きっちり戦功として報告しちょくけぇの! ひょっひょっひょ!」

「お役に立てて恐縮です!!」


「では、僭越ながらワシがトドメを担当しましょうかの。無防備になった核を、『男郎花おとこえし』で干からびさせてもらいますじゃ」


 ならば、残った4人が同時に攻撃をすることになる。

 久坂、加賀美、55番は確定として、もう1人。

 普通に考えれば土門だが、久坂は用心に用心を重ねる。


「土門の嬢ちゃん。頭から石の蛇生やすスキルで、万が一に備えて広域の防御を任せてもええかいのぉ? せーので4人攻撃って言えば簡単に聞こえるけどのぉ。失敗した時に無防備なのはまずいけぇ」

「了解しました! 『八岐大蛇ヤマタノオロチ』を常時発現させます!!」


 そうなると、最後の1人は彼になる。


「山嵐くん! 君の出番だ!!」

「お、オレっすか!? か、加賀美さん……! でも、オレ、失敗するかもしれないし」


「山嵐助三郎! 自信を持って欲しい! あなたの努力を私は知っている!! 努力は必ず実るとは限らないが、諦めてしまっては絶対に花は開かない!!」

「55番さん……!!」


 久坂と四郎が顔を見合わせて微笑む。


「いやはや、久坂さんのご指導は素晴らしいですの。55番さんもまだお若いのに、大切なことをしっかりと理解しておいでですじゃ」

「いやぁ、ワシはなーんもしちょらんですけぇ! 55のが勝手に成長しよるんですわ! まったく、どこでそがいな事を覚えてくるんかのぉ!!」


 ここまでお膳立てされたらば、後は直属の上司が背中を押すだけ。


「山嵐くん! ミスをすれば、ここにいる全員がフォローする! 成功するまでやるんだ!! だから、作戦の失敗は存在しない!! 君が諦めなければ!! そうだろう!?」

「……はい! オレ、頑張ってみます!! うぉぉぉぉぉっ!!」


 山嵐が早々に煌気オーラを溜め始める。

 一番未熟な自分は準備に時間をかけるべきだと、彼は理解していた。


 そこまで分かっているのならば、Bランク探索員からランクアップの時はすぐそこまで迫っているだろう。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 久坂が合図を出す。


「ほいじゃあ、行くで!! くれぐれも力加減を忘れんようにのぉ! 弱すぎず、強すぎずじゃぞ! 門を破壊してしもうたらおしまいじゃけぇ!!」


「加賀美政宗、了解しました!」

「こちらも了解した! 任せてくれ、久坂剣友!!」

「お、オレは全力でいきます!!」


 準備が整い、それぞれが遠距離スキルを放つ。

 何度か失敗することを想定していた久坂は「ほぉ!」と感嘆の声を上げた。


「こりゃあ驚いたわい! お主ら、完璧に合わせて来よったか!!」


 ピタリと寸分違わぬタイミングで放たれた同時攻撃は、ここまで共に作戦行動をしてきた賜物か。

 そうなると、四郎も気合が入る。


「六駆もいいものを譲ってくれましたわい! 『男郎花おとこえし』!! 呪いの力を見せてもらいますぞ!! 『枯れ葉吹雪ライフスポイド』!! ほりゃあ!!」


 異世界製の呪われた斧から怨霊が飛び出し、異界の門の核にとり憑くと一気に煌気オーラを吸い上げる。

 その威力は壮絶であり、瞬く間に核は枯れ果て朽ちていく。


 1分も経つ頃には、核を形成していたイドクロアは光を失いゴトッと音を立てて地面に落ちるのであった。


「ひょっひょっひょ! こりゃあ、ワシは部隊ドラフトで大当たりを引いちょったんじゃのぉ! お主ら、まったく揃いも揃うて優秀で困るわい! 帰ったら美味いウナギ食わせちゃろうのぉ!」


 小さく無言でガッツポーズをする山嵐の背中を叩く土門。

 そこに加わる55番を見て、目を細める加賀美。


 こうして、久坂隊が南雲隊に続いてダンジョン攻略を完了。

 久坂は速やかに本部に報告を入れる。


「もしもーし。こちら久坂じゃ」

『福田です。拝見しておりました。お見事です、久坂隊の皆様。まずは煌気オーラと体力を回復させてください。異界の門の監視は私が担当します。楠木後方防衛司令からすぐに指示があると思いますので、ご準備を』


「おお、了解じゃ。楠木のに伝えてくれぇ! ワシらは全員、コンディション万全じゃってのぉ! ひょっひょっひょ!!」

『了解しました』


 その後、四郎による煌気オーラ回復が行われる。

 ところどころに小さな怪我はあるものの、重傷を負った隊員はゼロ。


 久坂剣友監察官がどうして若手から中堅の探索員に人気なのか、その理由はこの結果を示せばあとは説明不要であるかと思われた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る