第452話 【南雲隊その4】やはり陽動部隊は彼ら! ダンジョン攻略完了!! コラヌダンジョン最深部

 南雲隊の進軍速度は他の部隊に比べても抜きんでていた。

 理由はいくつか挙げられるが、最たるものは「もう敵に気取られた以上、遠慮して進まなくても良い」と言う事実。


「よいしょー!! 『螺旋太刀風らせんたちかぜ』!! はい、片付いたー!!」

「逆神くん? 気のせいじゃなかったらだけど、なんか八つ当たり気味にモンスター倒してないか?」


「だって! 南雲さん!! 僕の100万円チャンスがなくなったんですよ!? そりゃあ、スキルでも使って発散しないと!! あー! こんなことなら、へそ島さんに僕のトランクス買ってもらっとけば良かった!!」

「……いや、姫島は辻斬りで捕縛された男だからね? 捕まった時に、何故か女性ものの下着と自転車のサドルを持っていたらしいけど。……あと、君の下着は誰も欲しがらないと思うな」



「ふぇっ!?」

「うにゃー。莉子ちゃんが心の底から驚いてるにゃー。六駆くんのパンツ欲しがるのは莉子ちゃんだけだから、安心して独占するといいにゃー」


 莉子さん、手遅れの深度がさらに一段階増したご様子。



 主に六駆おじさんの八つ当たりと言う名の暴力で、南雲隊のスピードはどんどん増していく。

 第14層を過ぎたあたりでようやく気が済んだのか、「あとは若い子たちで!」と言って勝手に隊列の最後尾に引っ込んでいったが、南雲は「結果的にタダでものすごい量のモンスターが討伐された……!」と、ちょっと得した気分になったと言う。


「よし。山根くん。索敵を頼む。そろそろ最深部が近いはずだ」

『うーっす。そんじゃ、ちょいと待っててくださいっす! 南雲さんはカフェイン摂った方がいいっすよ!』


「なんだね、ずいぶんと気を遣ってくれるじゃないか。どういう風の吹き回し?」

『いえね! 現状、南雲隊がぶっちぎりでダンジョン攻略してるんすよね。つまり、陽動部隊はうちでほぼ決まり! 南雲さんがこれから苦労すると思うと、ベストコンディションで苦しんでほしいなって! そっちの方が映えるんすよ!!』


 南雲は黙ってコーヒーを淹れる。

 それをゆっくりと啜りながら「あ、この子さ。また私に無断で色々と撮影してるよ」と真実を見通した。


「逆神くん。コーヒー飲むかい?」

「いただきます! お好み焼きの残りがあったので、飲み物欲しかったんですよ!」


「ああ、そうなの。……君さ、その【黄箱きばこ】にさっき、クリスタルメタルゲルの外皮入れてなかった?」

「そうなんですよ! なんだかちょっと塩辛いです!!」


 南雲は「そうなんだ。メタルゲルって塩味なんだね」と言って、コーヒーを注いで彼に渡した。

 もはや六駆の奇行くらいでは動じない男、監察官きっての知恵者。


 もちろん、彼はチーム莉子の乙女たちにもコーヒーを勧めようとしたが。


「だってぇ! 洗ってない六駆くんのジャージとか、こっそり着ますよね!? これって普通ですよね!? ね、クララ先輩!?」

「にゃははー。パイセン、そーゆうのはちょっと分からないぞなー」


「みみみっ。少女漫画とかでたまに見かけるシチュエーションだから、芽衣は何となく分かるです! みみっ!!」

「わぁ! 芽衣ちゃん、さすがだよぉ! じゃあ、お洗濯するときに六駆くんのパンツが混じってたらドキドキするよね!?」


「み゛み゛っ!?」

「あっ! もちろん、何もしないよぉ! もぉ! 芽衣ちゃんってばー!! 想像力が豊かなんだからぁ!!」



「あ、あの、莉子さん? 芽衣さんが妙なお声で鳴いたのは、多分そうじゃないかと……。あ、いえ、何でもありませんわ」

「小鳩さんがすっかり丸くなったぞなー。昔だったら、お排泄物ですわ……! って言ってたのににゃー!」



 かなり際どいガールズトークが展開されており、しかも議題が逆神六駆のトランクスだった事は南雲の手の動きを止めた。

 「逆神くんの下着の話を肴に私のコーヒー飲まれるの、嫌だな……」と感じたらしい。


 しばらく六駆と一緒にコーヒーを飲んでいると、サーベイランスが戻って来た。


『南雲さんの見立て通りっすね。2つ下の第16層が最深部っぽいっす。異界の門も確認されたっすけど、見張り役はいないっぽいっすね』

「無警戒なのか。と言うよりは、無警戒を装って我々を誘い込もうとしていると見た方が良いだろう。どう思う、逆神くん」


「僕も同感です。ところで南雲さん」

「うん。コーヒーのおかわりかね?」



「銀色のお好みソースだと思って、メタルゲルの外皮をちょっと食べちゃったんですけど! お腹痛くなったら帰っていいですか!?」

「おおおい! 何やってんだ、君ぃ!! メタルゲルの外皮食べるとか聞いたことないぞ!? あれ金属生命体だよ!? あと、絶対に早退しないでよ!? 重要作戦行動中だからね!?」



 それから南雲はチーム莉子のメンバーを集めて、情報を共有する事にした。

 なお、今のところ彼らは「モンスターの外皮食った話」と「おっさんのトランクスの話」しかしていない。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 異世界・ゴラスペ。

 砂漠地帯の広がる粉塵が常に舞う乾燥地帯。


 大型モンスターが生息しており、過酷な環境を利用したアトミルカ構成員の訓練施設がある。

 2桁ナンバー以上の者が多く常駐しており、訓練以外にも新型イドクロア装備の起動実験なども行われている。


 いわば、アトミルカの火薬庫と言っても良いだろう。


「ええー。ここに2番さんが危険視してる部隊が来るんですかー? そりゃないですよー。ゴラスペは安全だからって言うから、ボク引き受けたんですよ? この異世界の責任者。うわぁ、もう完全にフラグだったよ。中学生の頃、友達がボクの好きな子の話をやたらするなと思ってたら、卒業式で普通にカップルになってたもんなぁ。あの時と同じ気配を感じるんだから、嫌になっちゃうよなぁ」


 この地を統べるのは、アトミルカナンバー5。

 パウロ・オリベイラ。


 彼の実力は2番でさえ未だに測り切れておらず、相当な実力者であるということ以外は分かっていない。

 だが、そのネガティブ過ぎる思考回路は周囲に悪影響を及ぼすため、とりあえずこの辺境の地を任せる事になったという経緯がある。


「お主。少しは自分に自信を持てぬのか」

「無理ですよ、無理。姫島さんはいいですよ。なんか、華々しい経歴で捕まってたじゃないですか。ボク、勘違いで自首して捕まったんですよ? そんな間抜けが悪の組織で上手くやっていけると思います?」


 なお、アトミルカナンバー6。

 姫島幽星は鍛錬のため、このゴラスペにはよく訪れている。


 先ほどの遭遇戦で消耗した煌気も回復させ、専用装備を磨きながら逆神六駆との再戦の時を心待ちにしていた。


「パウロ。お主がここの責任者であるぞ。敵は目前。いかがする」

「無条件降伏するのはどうですか?」


「2番様に殺されるであろうな」

「ほらぁ。詰んでるんだよなぁ。曲がり角で右と左どっちを進みますかって聞かれて、どっちに行っても結局交通事故に遭うパターンだよ。嫌だなぁ、もうさぁ」


 そう言いながら、5番はネガティブに戦いの準備を進めていた。

 つまり、南雲隊は当たりを引けなかったのである。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 順調に階層を進み、異界の門の前までやって来た南雲隊。

 彼らは先の異世界がどこに繋がっているのかまだ知らない。


「はい! 南雲さん、『基点マーキング』作っときましたよ!」

「ああ。ありがとう、逆神くん。では、みんな。準備は良いか?」


 チーム莉子の乙女たちは「はーい!!」と声を揃えた。

 陽動部隊として戦う事になった彼らは、一足早くダンジョン攻略を終え、新たな戦局へと歩みを進める。


 協会本部の最強部隊にハズレを引かせた辺り、やはりツキはアトミルカにあるのか。

 ただし、ツキなどと言う不明確な要素は圧倒的な力の前には無力である。


 南雲隊、先陣を切る準備は完了した様子であった。

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