第451話 【久坂隊その3】じいちゃんのスケールはダンジョンに収まらず! ピーライダンジョン第11層

 久坂隊も楠木秀秋後方防衛司令官の命令を受け、ダンジョン攻略速度を上げていた。

 だが、この部隊は大所帯。


 スピードを上げると、どうしても行動にほころびができてしまう。


「う、うわぁぁぁぁぁぁ!!!」

「山嵐くん!!」



 たった今、山嵐助三郎Bランク探索員が転移装置トラップに落ちたところである。



「もしもーし。福田のー。応答してくれぇ」

『こちら福田です。確認しております。山嵐Bランク探索員の所在地を捜索した結果、2層下の第11層にて煌気オーラを検知。無事なようです』


「そりゃあ良かったわい。異世界に吹っ飛ばされよったらどがいしようか思うちょったところじゃ。ほいで? 山嵐のの周りは安全かいのぉ?」

『いや。トラップの転移先ですので、状況は良くありません。周囲に機械型のモンスターが多数。4……6体ほど確認されました』


「では、自分がすぐに追います!!」

「待て、待て。加賀美の。お主、ちぃと煌気オーラの消耗が激しいけぇのぉ。気持ちは分かるんじゃけど、ここは自重せぇ」


 「ならば」とすぐに逆神四郎が救出部隊に名乗りを上げる。


「ワシがそのトラップで転移して、山嵐さんのご助力に参りましょうかの。どうやら、決まった一定の地点に転移させるもののようですし、若い才能の危機ならば黙っとれませんぞい」

「四郎さん、行ってくださるんか! そりゃあ助かるで!! ほいじゃあ、55の! お主も四郎さんについて行って、お手伝いせぇ!! きっとお役に立てるじゃろうて!」


「確かにそうかもしれん!! 逆神四郎! 私のような弱卒で申し訳ないが、この微力、使ってくれ!!」

「ほっほっほ。これは心強いですな! それでは、加賀美さん。お弟子さんの事はこのじじいにお任せくださいませじゃ」


 加賀美は沈痛な面持ちで「すみません……!!」と頭を下げた。

 「ほっほっほ」ともう一度笑った四郎は、転移装置の渦に巻かれて消えていく。


「さすがじゃのぉ。躊躇がないもんのぉ。トラップの性質が分かっちょってもなかなかこうはいかんで」

「確かにそうかもしれん!! では、私も行ってくる!!」


 2人を見送った久坂と加賀美、そして土門は通常のルートで第11層を目指す。

 道中に何か発見があるかもしれないし、考えたくはないがトラップの先が極めて危険で3人が致命傷を負うかもしれない。


 「作戦の遂行が不可能」になる事こそ最も避けるべき悪手であり、久坂剣友は情に溢れる老兵だが物事の優先順位は順守する。

 願うは、トラップの先の3人の無事だけであった。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「う、うわぁぁぁぁ!! なんだ、こいつら!! オレのスキルが弾かれる!!」


 トラップ転移装置の先には、『機械魔獣マシーンキメラ鏡型カッパ』が6体ほど待ち構えていた。

 その名の通り、巨大な姿見のような見た目の機械モンスターは煌気オーラの反射に長けている。


「ガギギギギギ。ギィィィ」

「く、くそぉ!! こんなところで死んでたまるか!! 攻勢壱式! 『つちきじ』!!!」


 無情にも、山嵐のスキルはやはり反射される。

 『つちきじ』は一直線の軌道で放たれる攻撃スキルのため、真っ直ぐに反射されると術者である山嵐本人にそっくりそのままお返しされる事になり、彼は死を覚悟した。


「ほっほ! 間に合って良かったですじゃ! 『石壁グウォールド』!!」

「し、四郎さん!?」


 山嵐助三郎、九死に一生を得る。


「私もいるぞ、山嵐助三郎! 喰らえ!! 『ローゼンランツェ』!!」

「55番さんも……!! オレのために、すみません!!」


「なんのなんの、お気になさるな。山嵐さんがトラップに掛かってくれなければ、多分ワシが引っ掛かっとりましたからの。ワシみたいなじいさんは多分もうやられてましたぞ。反省が済めば結果は前向きにとらえて、先を見据えるのが戦場のコツですじゃ」

「確かにそうかもしれん!! 山嵐助三郎が無事で、私は嬉しい!!」


 さすがは「参加したい部隊ナンバーワン」を誇る、久坂隊。

 やらかした隊員へのフォローも一線級である。


「さて、まずはこのモンスターをどうにかしないとなりませんの。55番さんのスキルのチョイスはなかなかナイスですぞい! ご覧くだされ! 薔薇の刺突は反射できずにモンスターに突き刺さっとりますじゃ。つまり、無条件に何でも反射できる訳ではないようですの」

「これも山嵐助三郎が先に攻撃を試してくれていたおかげだ!!」


 55番が薔薇スキルの追撃の用意をするが、それを四郎が止める。

 代わりに彼は【黄箱きばこ】を取り出した。


「55番さんもそれなりに煌気を消耗しておられますからの。ここは老いぼれにお任せ下され。いい武器があるんですじゃ! ほいっ!!」


 そう言って取り出したのは、禍々しい斧だった。

 名前を『男郎花おとこえし』と言い、過去に六駆が一度だけ使用したことがある異世界の武器。


 周囲の煌気オーラを吸い取る特性を持つ装備であり、取り扱いには注意が必要。

 六駆はそれを嫌って「面倒だからじいちゃんにあげるよ」と所有権を放棄していた。


「お二人はこっちの【黄箱きばこ】に入っておる『白い魔法の部屋ハッピールーム』の中に! 煌気オーラを回復させる煙を吐き出すイドクロア装備ですじゃ。すぐに済ませますからの。ほんの少しだけその中で辛抱してくだされ!!」


 四郎はにっこりと笑うと、『男郎花おとこえし』を振りかぶり『機械魔獣マシーンキメラ鏡型カッパ』と向き合う。

 続けて、彼は言う。


「久坂さんの大切な部下を傷つけようとは、いささか見過ごせませんの。何より、彼らはワシにとっても大切な仲間。こんな年寄りに良くしてくださる若者に対して、少しばかり狼藉が過ぎたようですの。……ふんっ!!」


 四郎が斧を一振りすると、前衛を務めていた『機械魔獣マシーンキメラ鏡型カッパ』の3体が「ガガガガガ」と異音を発して、そののち崩れ落ちる。

 いかに機械でできたモンスターでも、動力源が煌気オーラであればそれを吸い取られて活動できる道理はない。


「ほっほっほ! これは大量の煌気オーラを持ってましたの! ワシとて、煌気オーラ総量には限りがありますから、使えるものは有効活用させて頂きますぞい!! 山嵐さん、55番さん! 煌気オーラで身を守ってくだされ! 少しばかり大技なんぞを使ってしまいますからの!!」


「むっ! 山嵐助三郎!! これは危険だ!! 私の後ろへ!!」

「う、うっす!! すみません、お世話になります!!」


「気にしなくて良い! 『ローゼンシルト・大満開だいまんかい』!!」


 煌気オーラを回復した55番の構築した防御結界を見て「ほほう、素晴らしいですぞい!」と満足そうに頷いた四郎は、呪われた斧を持って飛び上がった。


「ほいっ! 『激飛翔ゴウフライド』! 六駆のようにはいきませんがの!! 乾坤一擲!! 『スカル断撃ヘル』!!!」


 禍々しい呪怨が『機械魔獣マシーンキメラ鏡型カッパ』に襲い掛かる。

 無機物に忍び寄る骸骨の怨霊は、相手が生命力を持っているのならばそれを容赦なく奪っていく。


 結果、数秒で敵は全滅した。


「す、すげぇ……!! さすが四郎さんだ……!!」

「確かにそうかもしれん! 逆神六駆を思わせる強力なスキル! これこそが逆神流の神髄なのだろう!!」


 四郎は『男郎花おとこえし』を封印して、「お待たせしましたじゃ」と再び柔和な顔を見せる。

 彼は先々代の異世界転生周回者リピーターであり、そこで得た経験は加齢ともに円熟味を増す。


「さて、久坂さんたちを待ちますかの。おや、あそこにもモンスターがおりますの。ついでですじゃ、ワシが片付けて来ますぞい!!」


「55番さん……。オレ、何年かけたらあんな風になれるでしょうか?」

「あれは憧れるものであり、目標にするものではないと私は愚考する!!」


 若者たちに見守られる中、逆神四郎は1人で第11層のモンスターを殲滅したのだった。

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