第450話 【雨宮隊その3】雨宮上級監察官の新スキル! の、代償に寒くなって来た2人 エドレイルダンジョン第10層

 協会本部が出した「作戦の根本的な変更」は、エドレイルダンジョンを進んでいる雨宮隊にも届いていた。


「こちらは川端監察官です。楠木さん、ご指示を承りました。つまり、現状は南雲隊が最も近いとは言え、最初に異世界に到達した部隊が陽動役を買うということですね」

『そうなります。非常に危険な役割を押し付けてしまうため、心苦しいのですが』


「何をおっしゃいます。我ら探索員、職務のためなら危険もいとわぬ覚悟を皆持っております。できることならば、雨宮隊がその役を拝命したく存じます」

『大変心強いです。やはり、少数精鋭、監察官のみの部隊は安心感が違う。それでは、オペレーターの福田くんに引き継ぎます。健闘を祈ります』


 川端一真監察官は敬礼して楠木との通信を終えた。

 そして、先頭を行く雨宮順平上級監察官を見る。


「あらー! 出たわね、機械のモンスター! 今度のヤツは牛みたい!! 赤べこに似てない? ねぇ、水戸くん! 赤べこ!! 私ね、赤べこって好きなのよ! 可愛いじゃない!! そうだ、今度ストウェアにでっかい赤べこ飾ろう!! よし、決まりね!!」

「うおぉぉぉっ!! 渦巻け、『ムチムチウィップ』!! 『回転しながら周りを回る鞭ローリングサイクロンウォール』!!! どうでもいいです! とりあえず、戦ってください!! あなたが先頭は任せろって言ったんですよ!?」


「いやー。おじさんもね、別に戦わないって訳じゃないのよ? たださ、物干竿出すのも面倒だし、なにか画期的なスキルでも思いつかないかなぁって思ってさ! あ、そうそう! キャシーがね、もう会いたいってメールしてきたの! 違った、ジェシーだ!!」

「川端さぁぁん!! 助けてください!! 自分だけではもう手に負えません!!」


 川端は論理的に考えた。

 考えた末、「さっきの発言は無責任だったな」と反省した。



「すみません。楠木さん。私たちが一番になるのはおそらく不可能です」

「うわぁぁぁぁ!! あの機械の牛、よりにもよって鋭利な物理攻撃してきますよ!! 煌気膜に穴が開くじゃないですかぁぁぁぁ!!!」



 眼前には『機械魔獣マシーンキメラ牛型イオタ』が多数。

 エドレイルダンジョンは特に『機械魔獣マシーンキメラ』の出現回数が多い。


 既に水戸信介監察官からは疲れが見え始めており、川端に至っては毒の瘴気で一度軽く溶けている。

 が、そんな窮地に珍しく雨宮が輝く時が来た。


 「あ! いいこと思いついた!!」と言った彼は、煌気オーラを集約させてからこれまでにない構築術式を組み込んでいく。

 期待しないで応戦している水戸とそこに加わる川端だったが、今回はいい意味で予想を裏切られる形となった。


「よいしょー!! 『恥ずかしい思春期を思い出す灰色ジタバタグレー』!!」

「ガガガカ。ガガ……ガ……」


 雨宮のスキルを受けた『機械魔獣マシーンキメラ』が文字通り灰になって消えていく。

 とりあえず、水戸は「巻き添えを喰らったらヤバい!!」と距離を取る。


 思わず見とれていた川端は逃げ遅れた。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「あらー! 意外と上手くいくものだねー!! 見ました? おっぱい男爵!! 私の新スキル!! これはね、思春期の頃に学校でちょっとアレなキャラを演じていた時の事を思い出す精神的ダメージを表現したんですよ!」

「せ、精神的なダメージで機械を破壊したのですか!?」



「やだなー! 今のはイメージの話ですよ! おっぱいだってロケット型とかあるけど、実際にロケットじゃないでしょ?」

「なるほど。よく分かります」



 雨宮はスキルについて説明した。


 彼のメインは再生属性。

 これは、主に治療や修復に長けている支援色の濃いものであり、それ単体を攻撃に転用することはこれまでなかった。


 だが、雨宮は考えた。


 「再生させ続けたら、だいたい組織が壊れて再起不能になるよね。よし、過剰に再生してみよう!!」と。

 結果、それが見事にハマる。


 例えば、細胞などは活性化させることで傷を塞ぐ効果を引き上げる事が可能だが、それも過ぎれば細胞そのものが寿命を迎えて死んでしまう。

 「対象の内部を過再生させる事で破壊する」という、割と恐ろしいスキルを誕生させた雨宮であった。


「ですが、雨宮さん。その理屈でいくと、機械モンスターにも効果が出るのは不可解だと思うのですが」

「ねー。私もそう思う! でも、効いちゃったから仕方ないよねー! おじさん、スキルってフィーリングで使ってるからさー! もう難しいこと考えられないよ!!」


 「多分、機械モンスターを構成している重要な部品に過再生で負荷をかけたから効果があったのだろう」と川端は考察した。

 実際のところは分からないので、正解を知っている方は取り急ぎエドレイルダンジョンに通信を送ってあげて欲しい。


「あ、雨宮さんが……! まともに戦っている……!!」

「失礼だなぁ、水戸くん! 私、いつもマジメに働いてるじゃない!」


「どの口が言うんですか!! あなたの攻撃は煌気纏わせた棒を振り回すか、ひどい時にはぶん投げて『送りバント本塁打』とかしょうもないことを言ってるじゃないですか!! 自分があなたに弟子入りしてから、まともな戦闘なんて見たことないですよ!!」



「えー? じゃあ水戸くん、どうやって成長したの? 不思議ー!!」

「本当ですよ!! 自分でもそれが最大の謎なんです!!」



 まともに戦ったと言うだけで部隊を混乱させる男、雨宮順平。

 ただ、彼の新スキルの効果は絶大であった。


 襲い掛かってくる『機械魔獣マシーンキメラ』の全てを一撃で葬り去る姿は圧巻の一言。

 水戸も川端も「雨宮さんの背中がこんなに大きく見える日が来るとは」と感極まったと言う。


 が、第10層に入ったところで問題が発生する。


「あの、川端さん? なんか寒くないですか?」

「私の気のせいじゃなかったのか。雨宮さんの煌気オーラ膜に覆われているから、暑さや寒さを感じるはずはないのだが」


 水戸と川端は、お互いをじっくりと観察した。

 すぐに原因は分かった。


「川端さん……。煌気オーラ膜がところどころ、薄くなってますよ」

「水戸くん、君もだ。というか、君の場合もうほとんど穴が開いている。我々が感じている寒気の正体は、毒に体が侵されている過程の症状なのだろう」


 2人は黙ってうなずいた。

 それからすぐに叫んだ。


「雨宮さん! 雨宮さん!! その新スキルに集中するあまり、明らかに自分たちの煌気オーラ膜のスキルのコントロールが甘くなってますよね!? ちょっと、一回止めてください!! 自分が前衛に回りますから!!」

「あ、雨宮さん……。なんだか、視界が暗くなってきました……。あ、今光ったのはおっぱいかな?」



「雨宮さぁぁぁん!! 川端さんがほぼ逝きかけてますから!! お願いですから助けてください!! 『OPPAI』の代金、向こう3回自分が払います!!」

「えー!? ほんとー!? あららー。どうしたの、お二人さん。煌気オーラ膜がダメージジーンズみたいになってるじゃないの!!」



 その後、雨宮が『青い新鮮な空気の青クンカクンカブルー』を再び再構築して、川端はギリギリのところでこの世に踏みとどまった。

 優れた最新技術には代償がつきものであると痛感した2人。


「雨宮さん。そのスキルはダンジョンを抜けてから使いましょう。それまでは先ほどまでのように、私たちが戦闘を担当します」

「そうです! そうしてください!! 雨宮さんのおかげで、ずいぶんと体を休めることができましたから!!」


 ただし、心は休まらなかった。


「あららー。そう? まあ、2人がそこまで言うなら、おじさんも楽をする分にはやぶさかじゃないからねー。じゃあ、お願いしちゃおうかな!!」


「水戸くん。前方に敵だ。私が仕掛ける。援護を頼めるか」

「任せてください。自分は川端さんの背中をしっかりと守りますよ!」


 その後、連携に磨きがかかる水戸と川端の監察官コンビであった。

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