第448話 不運は続くよどこまでも ~逆神六駆を発見してしまった2番~

 姫島幽星は具現化していた煌気オーラ刀で躊躇いなく自分の手首を切り裂いた。

 当然だが、大量の血が噴き出す。


「くっ、くくっ。某にこのスキルを使わせたからには、小僧。無事では済まんぞ」

「ええ……。自分で手首切る人、初めて見た……。うわぁ、ご病気ですか?」


 その様子を見て、逆神六駆は「自傷癖ですか? 大変ですね」と心配した。

 彼の瞳からは6割の気遣いと4割の憐みが向けられており、姫島は憤慨する。


「黙れ! これは自らの血を使ったスキルだ!! 自身を傷つけることで、スキルの出力を上げるための代償行為よ!!」

「あ、良かったー。変態の方でしたか! じゃあ気兼ねせずに倒せるや! それから、変な制約スキルに付けない方が良いですよ? 成長した時に枷になりますから。いるんだよなぁ、手っ取り早くスキル強くしたいからってそういう事する人。三流の考えだなぁ」



「だ、黙れぇぇぇぇ!! このクソガキ!! 絶対に許さん!! 『血刀けっとう二本差しツインブレード』!!」

「あらー! 確かにちょっと良い感じにまとまってる! お相手しましょう! へそ島さん!! 僕に勝てたら今穿いているトランクスを差し上げますよ!!」



 キレて血圧が上がるほど威力を増していく姫島の血液スキル。

 ナチュラルに人を煽らせたら右に出る者なしな逆神六駆。


 両者の相性は意外と良かった。


「六駆さん! お気を付けなさって! へそ島さんと言う方、その血を使ったスキルを出してからはお師匠様も苦戦なさった使い手ですわ!!」

「そちらの女は物事の道理がよく分かるようだ。だが、もう遅い!! かぁぁっ!! 『血霧の鎧ブラッディアーマー』!! ……それから、誰がへそ島だぁぁぁ!!!」


 姫島はさらに出血を激しくさせることで血液を霧状に変異させ、それを凝固させながら身に纏った。

 これが2番に課せられた訓練によって姫島が身に付けた新しいスキルの1つ。


「……なんか、その鎧に斬りかかったら僕の服が汚れそうで嫌だなぁ」

「抜かしておれ!! 『血風刃けっぷうじん竜巻トルナド』!!」


 姫島の血刀が塵となり、巨大な渦を巻きながら六駆に襲い掛かった。


「もう、絶対僕の服を汚しにかかってるじゃないですかぁ!! ふぅぅぅんっ!! 『鏡反射盾ミラルシルド』!! あ、割れる! ならば! 『鏡反射封印ミラルダウン』!!」


 はね返そうとした斬撃が思いのほか強く、六駆はそのまま鏡の盾を3つ具現化して繰り返し反射させることで威力を殺し霧散させる。

 応用力は経験値の差であり、六駆が持つ最大の武器の1つ。


「小癪な真似をする小僧だ。某の斬撃を無効化するとは。だが、久坂剣友を追い詰めたこの剣技ならばどう防ぐ!? 血刀・二刀流!! 『血圧二百四十ハイメガプレッシャー』!!」

「ちょっと僕、この人と相性が悪いなぁ。攻撃が全部血を飛ばして来るとか、生理的に苦戦してるよ。ふぅぅぅんっ!! 『分体身アバタミオル三重トリプル』!! ふぅぅぅんっ!! 曲技! 『自分生贄白刃取りセルフブレイクブレード』!!」



「某の血刀を……折っただと……?」

「そりゃ折りますよ。おじさんの血液で出来た刃が刺さるとか、罰ゲームじゃないですか」



 だが、六駆も攻撃に転じる隙を見つけられないのは事実。

 姫島の『血霧の鎧ブラッディアーマー』は常に一定の間合いを煌気オーラ含有血液によるスキル増幅空間へと変化させている。


 そこに突っ込んでいくと、絶対に知らないおっさん血が身にかかる。

 これは極めて厄介であり、リスキーでもあった。


 膠着状態に移行するかと思われた戦いだが、その様子を見ている者がいた。

 その男は、偶然にこれほど感謝するのは初めてかもしれないと息を呑む。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 異世界・ヴァルガラでは。


 姫島幽星に取り付けてある3番印の発明品『遠視玉ヴィジョンズ』で戦いを見ていた2番が、6番の相手をしている男をハッキリと確認していた。


「……参ったぞ。まさか、この猛者の顔を見ることになろうとは。さすがに私も驚いた。一応確認しろ、3番。逆神で間違いないな?」

「ええっ!? 隣にいる古龍の戦士の照会が先ではありませんか?」



「古龍の何がお前をそうまで駆り立てるのだ。良いから、黙って照会しろ。その後は好きに古龍の戦士を舐め回すように見れば良い」

「了解しました。……はい、間違いありません。カルケルで収集したデータと一致。逆神六駆です。……おおっ! 古龍の戦士の煌気が上がっている!!」



 2番を大きくため息をついて、こめかみに指を当てる。

 「どうしてアトミルカの重要拠点があるダンジョンにこの男がいるのだ」という疑問は「探索員どもが完全に我らの情報を取得した上で、何らかの作戦行動に出ているな」という確信に近い予感へとすぐに結びついた。


 状況は非常に悪かったが、最悪ではない。

 むしろ、悪い中では最良のパターンを引いていると、2番は前を向く。


「この段階で作戦を知り得る事ができたのは、プラスとして考えるべきだろう」

「おおっ!! 古龍の煌気オーラに変異が!? まさか、さらに進化を遂げたのか!? 古龍の戦士・ナグモ!!」


「……ダメだな、こいつは。ザール。少し話し相手を頼めるか。考えを纏めたい」

「はっ! 私でお役に立てますのならば、喜んで!!」


 3番が役に立たなくなったので、愛弟子の10番を呼び寄せた2番。

 彼はいくつかの推論を10番に聞かせた。


「ザール。忌憚のない意見を聞きたい。どう思う」

「お許しを得て私見を述べさせて頂きます。2番様のお考え通り、原因は不明ですが情報の漏洩は明らかかと。シングルナンバーしか知り得ぬ情報まで漏れている点は無視できませんが、かと言ってシングルナンバーに内通者がいるとまで考えを発展させるのはいささか危険かと存じます」


「ほう。その理由は?」

「まず、仮に内通者がいた場合ですが。現在の体制になって日が浅いこの時期に行動を起こすメリットが薄いように考えられます。私ならば、体制が確立され各人が役職を持つ前の時期を狙います。なにより」


 10番は一息入れてから、2番に向かってハッキリと具申した。


「2番様が精査を重ねて選定した者たちです。2番様の目を掻い潜ることができる者など、この世にはおらぬかと私は考えます」

「なるほど。道理だ」


 2番は満足そうに頷いて、命令を出す。


「全構成員に向けて発令。これより我らは最大級の警戒態勢へと移行する。6番は撤退させろ。ヤツにあの猛者の相手はまだ無理だ。それから、7番を呼び出せ。密命を与える。3番。古龍の戦士は捕縛して貴様にくれてやる。仕事をしろ」

「本当ですか! 素晴らしい!! 早速、伝達と命令を。6番くん、撤退命令です。10番くん。君は2桁の構成員の配備の指揮を執りなさい」


 「やれやれ。忙しくなりそうだ」と2番はもう一度大きなため息をついた。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 コラヌダンジョンの6番姫島幽星に撤退命令が下る。

 不承不承ではあるが、彼も組織に属している以上命令を守るリテラシーを持ち合わせていた。


「小僧。この勝負、預ける」

「それは困ります! あなたを逃がすと臨時ボーナスが!! ふぅぅぅんっ!!」


 六駆が煌気オーラを溜めるのを見て、姫島は迷わず血刀を後方に待機していたチーム莉子に向けた。


「かぁぁっ!! 『黒血走りブラックオーバー』!!」

「むっ!! やられましたね! あなた、武人タイプだと思っていたのに!!」


 黒い斬撃の威力が把握できない以上、六駆はチーム莉子の前に移動してその攻撃をいなす。


「……武士道だけでは戦いはできぬ。次に見えた時が貴様の最後だ」

「あああっ! 僕の臨時ボーナスが!!」


 姫島の足は煌気オーラで強化されており、非常に速い。

 追いかけるにしても本隊からの離脱は必至であり、六駆は唇を嚙み締めながらお金が逃げていくのを見送った。


 それを見届けてから、南雲が本部との間に通信回線を開くのであった。

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