第449話 【五楼隊その3】作戦変更! 全速力でダンジョン攻略を完遂せよ!! ルブリアダンジョン第15層

 協会本部では、南雲修一監察官の報告を受けた楠木秀秋監察官が決断を下していた。

 アトミルカの判断も早かったが、こちらも負けてはいない。


「作戦が露見しましたか。考えられる最悪のパターンを今のところ辿っていますが、想定の範囲にまだギリギリ入っています。山根くん、福田くん、日引さん。各部隊に通達。プランDに移行します。各部隊、全速力でダンジョンを攻略し、異界の門へ。そのまま異世界を制圧、無力化する事を最優先に」


 仮に作戦行動中にアトミルカ側がそれを知るに至った場合、1つの部隊を陽動役として動かし、残った3部隊は重要拠点の制圧を第一に行動する。

 これは事前に決まっていたプランの1つであるが、協会本部としては最も取りたくなかったプランでもある。


「山根くん。南雲隊には更に連絡を。現状、確実にアトミルカから認識されたのは彼らですので、そのまま陽動役を引き受けてもらいます。他の3部隊はまだ敵に捕捉されていないものと考え行動をするように」

「了解っす! 大丈夫っすよ! 南雲隊には逆神くんもいますから!! 敵の目を引くにはもってこいの人材っす!!」


 現時刻をもって、作戦内容の大幅な変更が行われる。

 緊急時にはシンプルな命令がベター。


 各部隊、可及的速やかにダンジョンを攻略せよ。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 こちらはルブリアダンジョンの五楼隊。

 日引春香オペレーターからの通達を聞いて、短く「了解」と答えた。


 続けて、隊員に向かって端的な指示を出す。


「貴様ら。聞いての通りだ。作戦は失敗の瀬戸際に立たされている。よって、我々は本部の命令を是としルブリアダンジョンの最深部まで一気に駆け抜ける」


「了解なんでぇ! よろしくぅ!!」

「了! アクシデントには慣れていますので、微力を尽くします!!」

「ごふっ。皆さん、小生が逐次回復スキルを使いますので、疲労は気にせず進んで下さい」


 だが、「ちょっと待ってくれよ、京華ちゃん」と異を唱える者がいる。

 「公営ギャンブルって国が認めた健全な賭け事だから、トータルで見たら負けねぇんだろ!?」が口癖の逆神大吾、その人だった。


「……なんだ。貴様が臭い息を吐く時間も惜しいのだが」

「いやな、これまでの報告全部盗み聞きしてたんだけどさ。このダンジョンの最深部にも煌気オーラ反応があるんだよな? って事は、オレらも敵さんに捕捉されるの覚悟でぶっちぎるって事で良いのか?」



「本部! 痴れ者がまともな口を利いている!! 作戦は失敗だ!!」

「落ち着いて下さい、五楼さん!! 大吾さんだってたまにはまともな事を言いますよ!!」



 体を震わせ、声も震わせる五楼を必死でなだめる青山。


 正論を吐くことで場を混乱に陥らせる男、逆神大吾。

 だが、彼の言はもっともであり、五楼隊の危惧すべき本質をついていた。


「無論、そのような事は貴様に言われずとも分かっている。敵の幹部が待ち構えているのであれば、私が切り伏せるまで!」

「ダメだって、京華ちゃん! 京華ちゃんが異界の門で足止め喰らったら、オレらだけで異世界の制圧するんだろ? そりゃあ愚策だぜ? 異世界に入ってから、更に強い敵が待ってねぇ保証なんかないんだからよ!!」



「貴様……。痴れ者ではないな? さては、敵のスパイか!!」

「ご、五楼隊長! 煌気オーラ刀具現化すんのはヤベーんで、よろしくぅ! 冷静になってよろしくぅ!!」



 既に皇帝剣フェヒクンストで目の前の汚い中年を仕留めるしか心の安寧はないと悟った五楼。

 今度は屋払が必死に止める。


 彼に背負われている和泉は死を覚悟したと言う。


「ぐへへ! そこで、オレに名案があんのよ! 実は、親父に秘密兵器を渡されててな! 一度きりしか使えねぇけど、煌気オーラを増幅させるイドクロア装備がこの【黄箱きばこ】に入ってんの!! だからよ、最深部の敵はオレに任せとけって!!」

「……何が望みだ」


 五楼京華上級監察官の脳内では、混乱しながらもわずかに残った正常な思考が情報を並列処理する。

 大吾の提案が現状、最もスマートであると認めたくないものの認めざるを得ない結論を弾き出していた。


「へへっ! 話が早ぇや! ちょっとね、追加の報酬が欲しいなって!!」

「よし。15万やろう」



「マジで!? そんなにもらえんの!? ひょー!! やる気が湧いて来たぜぇー!!」

「貴様がやっぱり痴れ者で安心した。では、心行くまで足止めを任せる」



 相変わらず命の価値が安い男である。

 自己評価が低いのだから、誰が異を唱えるはずもない。


 五楼隊のルブリアダンジョンは他のダンジョンに比べて階層が多い。

 彼らは速やかに変更された作戦行動を開始した。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 強行策になると、この部隊はメンバーが輝きを増す。


「次の階層にはモンスターが……6! うち、強力なのは1体なんでぇ! 青山、よろしくぅ!!」

「了! 私、先行して敵を殲滅します!!」


 隠密機動部隊に所属している屋払、青山の両名は本来の主戦場がイレギュラーだらけなので、むしろ緊急事態になればそれに即した行動を選択できる強みがある。


「げふっ。青山さん、小生が防御スキルを。『アーマード・エクセレス・ソニック』!!」

「ありがとうございます! 和泉さん!! わっ! すごい煌気オーラ量!!」


「支援役の小生にはこの程度のお力添えしかできませんが、がふっ」

「とても心強いです!! では、行きます!!」


 和泉元春Sランク探索員も多くの経験を積んでおり、有事の際に自分が行う最適解を常に割り出すことができる。

 彼は監察官室に属していないフリーのSランクであるため、初見の相手とも難なく連携が取れる点も非常に大きなアドバンテージ。


「よし。かなり良いスピードで進めている。貴様たちの奮戦は期待以上だ」


 何より「後詰に五楼京華が控えている」という事実は、彼らに「多少の無茶をしても大丈夫である」と安心感を与えることで、部隊のより大胆な行動を可能にしていた。


「おらっしゃぁぁぁい!! オレも働くぜぇ!! 一刀流!! 『次元大切断じげんだいせつだん』!!」

「おおーっ! 大吾の旦那、すげぇぜ! それで何発目の大技だよ!? さすがは逆神の親父なんでよろしくぅ!!」


 追加報酬で張り切る逆神大吾も立派な戦力になっていた。

 これは五楼にすら予測できなかった事実。


「大吾さん……。今、あなたが叩き切ったモンスターですがふっ。極めて弱いので、煌気オーラ刀で一突きすれば倒せていました……げふっ」

「和泉。良い。好きにやらせておけ。むしろ、この痴れ者に背中を預けると不安で仕方がない。先行させて適当に暴れさせておくのが一番だ」


 ただし、ハッスルが明後日の方を向きがちなのは逆神大吾クオリティ。

 それでも煌気オーラ総量が多いためガス欠しないのは、腐っても安心と信頼の逆神流ブランドの一員であることの証明か。


 次の階層に突入し、青山と合流する。

 彼女の手によって大型のモンスターは掃討済み。


 後は、次の階層に向けて各人が同じように行動を繰り返すのみである。

 五楼隊の快進撃は続き、瞬く間に第15層まで到達した。


 が、そこでついに彼らの足が止まる。


『五楼さん。前方に隊列を組んで待ち受けているのは、他のダンジョンでも確認されている機械のモンスターです!』

「出たか。まあ、そうだろうな。すんなりと行かせてくれないであろう事は分かっていた」


 『機械魔獣マシーンキメラ人型ゼータ』が4体。

 『機械魔獣マシーンキメラ鳥型イータ』が8体の団体で五楼隊を歓迎する。


『最深部までの索敵、完了しました! 第33層に異界の門があります!』

「まだ半分と言ったところか。ならば、速やかに敵を片付けて先を急ぐぞ!!」


 五楼京華が剣を抜く。

 現場から遠ざかっていても、やはり上級監察官は頼りになるものなのである。

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