第426話 「拝啓。川端一真です。早くイギリスに帰りたい」 ~カルケル、復旧作業中。あっくんと共に~

 監獄ダンジョン・カルケル。

 アトミルカとの激闘が繰り広げられた彼の地では、急ピッチで復旧作業が行われていた。


「トーマスくん。国際協会から派遣されて来た構築スキル使いの指示を任せる」

「了解しました。川端さんは今日もあちらですか?」


 トーマス・メケメケマル副指令。

 彼が現在のカルケル司令官代理である。


 ズキッチョ・ズッケローニ司令官は未だ入院中の身であり、司令官代理には川端一真監察官を推挙した。

 これは、メケメケマルが文官にかなり偏った男であり、対して川端は文武共に優秀な万能タイプだった事に起因する。


 もちろん、メケメケマルもその判断を受け入れた。

 が、当の川端がその任命を固辞する。


 彼は言った。


 「これからの時代を担う若者にこそ、その重責は相応しいでしょう。トーマスくんは力を付けさえすれば次期司令官として立派にやっていける。私はそれまでの補佐をしたいと思います」と。


 その様は実に堂々としており、ズッケローニ司令官もメケメケマルも「この男はなんと立派な考えを持っているのだろうか」と感嘆の念を抱いた。

 だが、川端の本心は違っていた。


 彼は司令官代理の話が来た瞬間に心の中で叫んだ。



「そんな役を受けたくない! このおっぱいの先っちょもない孤島で一体何年過ごせばいいのか!! 日本に帰りたい! イギリスに戻りたい!! Yo! おっぱいさえあれば紛争地帯だって構わない!! 司令官代理なんてとんでもない!!」


 急に韻を踏み始めるおっぱい男爵の内なる叫び。

 川端一真監察官の心には、一本の太い筋が通っているのである。



 と言う事で、川端は1日でも早く人工島・ストウェアに戻りたい。

 イギリスの行きつけのお店に行って、ジェニファーの活きの良いおっぱいにご挨拶がしたい。


 つまり、遊ばせている時間など1秒だってないのである。


「では、行って来る。何かあれば通信を。国際協会のスキル使いの腕もそこそこだからな。明後日には中央制御室も完成するだろう」

「お気をつけて! 自分は川端さんと働けて幸せです!!」


 川端は「ああ。私もだよ」と言って、右手を挙げる。

 そして、第11層に転移して行った。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 カルケルの第11層には異界の門がある。

 それを襲撃事件の際にアトミルカが無理やりこじ開けてしまった。


 ついでにその後、逆神六駆と小坂莉子の共同作業で異界の門ごとぶち壊してしまった。

 あの時は緊急事態でその件は重視されなかったが、再建するとなれば無視できない問題があるのだ。


 異世界・ウォーロストと隣にあるドノティダンジョンから、大量のモンスターがカルケルに侵入していた。

 防壁を作動させていため第11層から上の階層へは行けないものの、強力なモンスターたちを野放しにしていては補修要員である並レベルのスキル使いを入れる事ができない。


 つまり、復旧が遅れる。


 おっぱいが遠ざかる。


 よって、川端一真監察官は危険なモンスター討伐の任を自ら率先して引き受けた。

 もちろん、単身では何があるか分からない。

 そのため1人の助っ人を要請していた。


「もう来ていたのか。早いな」

「あんたがおせぇんだよなぁ。つーかよぉ、俺ぁ病み上がりだぜ? それをやたらと硬ぇモンスター相手にさせるとか、鬼かって話だよなぁ?」


 彼の名前は阿久津浄汰。


 カルケルに収監されていた重大スキル犯罪者だが、先の防衛作戦で半ば巻き込まれる形ながら協力し、多くの戦功を挙げた。

 その成果が評価され、彼には「監察官の監視下でのみ行動の自由を与える」措置と、「その行動が協会にとって有益な場合は減刑に応じる」決定が国際探索員協会によってなされている。


 これは、日本探索員協会の働きかけが大きく影響している。

 特に「逆神大吾の代わりに2番と戦い、瀕死の重傷を負った」と言う事実は、五楼京華上級監察官を唸らせるどころか、軽く感涙までさせた。


 「あの痴れ者のために命を張るなど、並大抵の事ではない」と彼女は立ち上がったのだった。


 と言う訳で、予定よりもずっと早く回復した阿久津は早速仕事に駆り出されていた。

 依頼主はもちろん、川端監察官。


「では、始めよう。南雲さんから預かっている『怪物魅了香ビーストフェロモン』を使う。準備は良いか?」

「あぁ。監察官殿のタイミングで構わねぇよ。ったく、減刑って聞いて喜んだのによぉ。なんだよ、刑期80年ってのは。ぜってぇ盛ってるだろうが」


 実際のところ、国際探索員協会が刑期を盛ったのは事実である。

 しかし、阿久津の実力を考えれば意外と早くその刑期を消化できるのではないかとも思える。


 南雲監察官室で作られた、通称「モンスターホイホイ」によって獣型のモンスターたちが集まって来た。


「おーおー。団体さんじゃねぇかよ。川端さんよぉ? 俺ぁ何匹倒せばいいんだ?」

「無論、倒せるだけ倒してもらう」


「かぁー。マジメな野郎だなぁ、あんた。監察官ってのはお堅いねぇ」


 違う。おっぱいのためである。

 むしろ柔らかい。


「君の働きは正当に評価するつもりだから、安心してくれ」

「そうかよ。そりゃあ助かるぜ。おらぁ、行くぜ!! 『結晶外殻シルヴィスミガリア』!!」


 長い監獄暮らしから出たばかりの襲撃事件時と違い、阿久津浄汰は煌気オーラコントロールの勘を取り戻していた。

 『結晶シルヴィス』を複数同時に操作し、効率よくモンスターを焼き払っていく。


「頼りになる男だ。……私も負けてはいられない!! つぁりゃ!!」

「おー。とんでもねぇ蹴りだなぁ、おい。スキルなしでそれかよ」


 川端一真も同様である。

 おっぱい断ちをしていた襲撃事件時のあと、彼は打ち上げで協会本部の近くにある『OPPAI日本支店』にて英気を養っていた。


 モンスターを20体ほど片付けたところで、2人の前に大物が現れる。


「こいつぁ面倒くせぇのが出たぜ。川端さんよぉ」

「……照会したところ、名前はキメラトロル。人獣モンスターでは世界3位の大きさらしい」


 『ダンジョンモンスター百選』にも掲載されている強力なモンスターである。


 まず、阿久津が動いた。


「陽動役をさせてもらうぜぇ。こんなデカブツに真正面から当たると傷に障るんでなぁ! 『拡散熱線アルテミス』! 多重展開!!」

「ゴルゥゥゥア!! グラァァァァァッ!!」


 獣には炎がまずはベター。

 幸運にも、キメラトロルは人間の作った基本的イメージに忠実なモンスターだった。


 巨大な獣人は目の前を乱舞する熱線に怯む。


「おらぁ! 川端さんよぉ! 一発で仕留めてくれよなぁ!!」

「無論だ。つぁりゃあ!! 喰らえ! 『断崖蹴気弾だんがいしゅうきだん乳房ちぶさ』!!」


 川端一真の必殺技がキメラトロルを真っ二つに叩き割った。

 ところで、諸君。お気付きだろうか。



 必殺技の最後に我が物顔で「乳房」がくっ付いている事に。



 当然だが、阿久津もその違和感に物申さずにはいられない。


「おい、川端さんよぉ? そのスキルはあれかぁ? 恥ずかしい名前付けることが制約になって、なんか威力が上がったりすんのかよ?」

「いや。だが、私は乳房が好きなのだ。上官が勝手に名付けたのだが、一周回ってこれもアリだと気付いた。威力は上がらんが、私の気分が高揚する」


「監察官ってのにはよぉ。頭がおかしくてもなれるもんなんだなぁ?」

「ヤメてくれ。私の悪口はいくらでも言って構わんが、おっぱいの事を貶すと……私は君を相手に戦うことになるぞ!!」



「あんたの悪口しか言ってねぇよ……」

「そうだったのか。では、討伐を続けよう」



 その後、川端&阿久津のコンビは1週間で第11層にいたモンスター、大小合わせて200体を討伐したのであった。

 阿久津の刑期が4年減り、川端はジェニファーのおっぱいに少し近づいた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る