第427話 こちらも特訓中! 加賀美隊!!

「いや、申し訳ない。南雲くん。急に仮想戦闘空間を使わせと欲しいなんて無理を言って」

「気にしないでくださいよ、雷門さん。同期のよしみじゃないですか」


 南雲監察官室では、訪ねて来た雷門善吉監察官にコーヒーが振る舞われていた。

 この2人は年齢こそ雷門の方が上だが、探索員になった年が同じと言う事で良好な関係を育んでいる。


 南雲、雷門の両名が監察官に出世すると言うプチ奇跡が起きても、彼らの仲の良さは変わらない。

 数か月に一度は飲みに出掛けたりもする。


「それにしても南雲くん。五楼上級監察官と結婚するんだって?」

「ぶふぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ!!! げっほ、げほ! ゔぉえ!!」



 南雲修一が久しぶりにコーヒーを噴いた事をお知らせいたします。



「ど、どこでそんな話を!?」

「どこって。監察官はほとんど知ってるんじゃないかな?」


「なんで!? ウソでしょう!?」

「だって、君のところの山根くんがわざわざ教えに来てくれたんだよ」



「やーまーねぇー!! おおい、やーまーねぇー!!! 君ぃ、なんちゅうことをしてくれとるんだ!? 妙だと思ったんだよ!! 久坂さんがこの前、牡蠣とニンニク山ほどくれたの! ものっすごい笑顔で!! 精を付けにゃあのぉ! とか言って!!」



 だが、山根健斗Aランク探索員は返事をしない。

 5分くらいしてから、やっと応答した。


「雷門さん! 仮想戦闘空間の調整完了したっすよ! レベルBに設定しといたんで、スキルもバリバリ使っちゃってくださいっす!!」

「ああ! ありがとう、山根くん! 君は本当に優秀な男だなぁ! うちの監察官室に欲しいよ。南雲くんがうらやましい!」


 雷門は立ち上がり「コーヒー、ごちそうさま」と言って隣の部屋へと移動していった。

 南雲は独りで自分の噴いたコーヒーを拭くのであった。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 仮想戦闘空間には、加賀美隊のメンバーが揃っていた。

 本日、加賀美政宗Sランク探索員と雷門善吉監察官によって、特別訓練が行われるのだ。


 監獄ダンジョン・カルケル防衛任務ではチーム莉子に比べて力不足を痛感する事になった加賀美隊。

 ならば訓練しない理由を知りたいと彼らは言う。


 やる気と向上心を魂に宿すのが加賀美隊の流儀。


「それでは、今日はイドクロア竹刀・キツツキを使用したスキルの強化をテーマに訓練して行こう! まず、土門さんは土属性の煌気オーラを斬撃に纏わせる練度を上げよう!」

「はい! 加賀美さんの教えてくれた攻勢剣技を元にオリジナルのスキルを作ります!!」


 土門佳純Aランク探索員は既に自分の訓練の方向性がハッキリしているため、加賀美と雷門は心配していない。

 ここからが今日の主役である。


「山嵐くんと坂本くんは、まず基本スキルを固めよう! 君たちの覚えるものは、攻勢壱式『土のきじ』だね。土属性と剣技スキルをバランスよく合わせたスキルだから、これ1つを極めるだけでも攻撃の選択肢はかなり広くなるよ!」


 加賀美流剣道スキルは「加賀美自身が最も力を発揮するよう」作られたものであり、それをそのまま覚えても使用者のスペックが加賀美に劣っていれば、当然だが本来の力は発揮されない。

 むしろ、煌気オーラ消費量だけ高くなる可能性すらある。


 そのため、雷門と相談して新しくカスタマイズした攻勢および守勢の型。

 これを、まずはBランク探索員の2人には覚えさせる事となった。


「加賀美さん! オレ、頑張ります!! 今度こそ、次の昇進査定ではAランクに!!」

「ひえー! 山嵐さん、鬼ヤベェ覚悟っすねー。うっわ、すげぇー」


 雷門が2人の現在地を示す。


「山嵐くんは土属性の基礎をマスターしているから、問題は剣技の方だ。これまで得物を使った戦闘をしてこなかったのだから、それも仕方がない。まずは、加賀美くんに剣技を学ぶべきだろう」

「はいっ!!」


「坂本くん。君はね、土属性も剣技もそれなりにできてるんだよ。君に足りないのはやる気と真剣さだ。やりさえすれば伸びるんだから、頑張りなさい」

「やー。マジでぇ、オレもガチりたいんすけどー。モチベ上がんねーって言うかー」


 そこに1人の乙女がやって来た。

 スタイルの良い彼女にくぎ付けになるさかもっちゃん。


「失礼いたしますわ! 土門さんがこちらで訓練されていると聞いたので、お邪魔でなければわたくしもご一緒させて頂けないでしょうか?」


 どら猫クララのお世話を終えて出勤して来た、塚地小鳩Aランク探索員である。


「え、ちょ、マジっすか。やー。あのぉ、オレ、塚地さんから習いたいっす!」


「困ったな。一応聞いてみよう。塚地さん」

「はい。どうされましたの? 加賀美さん」


「せっかくの機会なので、うちの若いBランクの2人を見てあげてくれないかな?」

「ええ。かまいませんけれど。でも、わたくしの武器は槍ですわよ?」


「やー! マジでぇ、槍も剣も煌気オーラ伝達させる構成は同じだと思うんでぇー!」

「確かにそうですわね。分かりましたわ。わたくしでよろしければ」


 小鳩が飛び入り参加して、加賀美隊の特訓が始まった。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「うぉぉぉ!! だぁりゃ!!」

「山嵐さん、煌気オーラを振り絞り過ぎですわよ。それですと、一撃の威力は高まりますけれど数発で煌気が切れてしまいますわ」


「は、はい! 気を付けてもう一度やってみます!! でぇぇい!!」


 山嵐助三郎は不器用で、決して物覚えが早い方ではない。

 だが、善玉に生まれ変わった彼はひたすらに努力を繰り返す。


 5発撃つ頃には形が見え始め、10発撃つ頃には形が整い始める。

 一方、坂本アツシはと言えば。


「ちょれぇぇぇぇい!!」

「……あのな、坂本くん。できるなら、どうして今までやらなかったんだ? うちの監察官室の方針は、努力に全力なんだぞ?」


 雷門の前で、ほぼ完ぺきな『土の雉』を放つ坂本。

 彼は軽薄さが前面に出過ぎて他の情報がかき消されているが、19歳でBランクまで上り詰めているのはかなりのエリートと呼んでも良い。


「やー。オレぇ、努力とかあんまキャラじゃねーんで。マジで」


 努力をないがしろにする発言を小鳩の前ですると言う、死亡フラグを構築していくさかもっちゃん。

 既にオチが見えるようである。


「お排泄物な言葉が聞こえましてよ? では、山嵐さんとスキルの撃ち合いをなさってみてはどうですの?」

「やー。ダルいんで……。いや、塚地さんがデートしてくれんなら、うっす!」


「山嵐さんに勝てれば、いいですわよ」

「ちょ、ちょっと! 塚地先輩! 困りますよ!!」


「ご自分で努力を信じなくては、強くなれませんわよ? 山嵐さん!」


 にっこり笑う小鳩に背中を押されて、妙な勝負が始まった。

 雷門が立ち合い、合図をすると同時に2人が相手目掛けてスキルを放つ。


「ちょれぇぇぇぇい!!」

「だぁぁぁぁっ!! おりゃあぁぁ!!」


 双方から漆黒の雉が飛び立ち、せめぎ合いを始める。

 が、少しずつ坂本の雉が伸びていくように見えた。


「ははーっ! これ、デート来たんじゃね! ひょー!!」

「うぉぉぉぉっ!! だぁぁぁぁっ!!」


 勝負の分かれ目だった。

 勝ちを確信して煌気オーラの放出をないがしろにした坂本に対して、山嵐は愚直に煌気オーラを振り絞り続ける。


 すぐに山嵐の雉が坂本のそれを喰らい尽くし、勢いそのまま対象に向かって飛んでいく。


「はっ? あべぇぇぇぇぇぇっ」



 さかもっちゃん。壁に叩きつけられる。



「こ、この感触は……!!」

「必要に応じて煌気オーラの出力をコントロールするコツを掴みましたわね。その調子ですわよ」


 山嵐の成長を見て、目を細める加賀美。

 加賀美隊はまだまだ強くなれると隊長は確信していた。


「さあ! 坂本くん! 君も頑張らないと置いて行かれるよ!」

「う、うっす。すんませんしたっ。マジですんません!! 山嵐さん!!」


 それから頻繁に仮想戦闘空間へと向かうようになる坂本アツシBランク探索員であった。

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