第424話 サイボーグ01番のとある1日
監獄ダンジョン・カルケル防衛任務が終わり、探索員協会は新たに『アトミルカ重要拠点同時攻略作戦』の立案に舵を切っている。
その作戦の土台となっているのは、かつてアトミルカ3番クリムト・ウェルスラーが製造した人造構成員・プロトタイプ01番。
軍事拠点・デスター失陥の際に「自爆させる」と言う形でアトミルカが所有権を放棄したものを、逆神六駆の手で救出、回収され異世界・ミンスティラリアへと運び込まれた。
そこで生まれ変わった正義のサイボーグが彼女、01番である。
彼女に内蔵されているデータには、アトミルカの機密情報も多く遺されている。
今回はそれを有効活用してアトミルカの根幹を叩き潰すと言う、ある意味では多くの因縁がうごめく仇敵との最終決戦。
そのため01番は「臨時探索員」として協会本部建物に駐在する事になり、逆神六駆が後見人として「絶対大丈夫ですよ! 安全ですって! 僕が保証します!!」と太鼓判を押した事もあり、行動の自由も与えられていた。
なお、何かが起きた際に責任を取らされるのは南雲修一監察官である。
今日は、そんなサイボーグ01番の1日の様子を観察してみよう。
◆◇◆◇◆◇◆◇
「うっす! 今朝もコンディションは上々っすね!」
「はい。マスター山根の丁寧なメンテナンスのおかげで、ワタシは今日も元気です」
「ははっ! 自分はシミリートさんの送ってくれた仕様書を片手に異常がないか点検してるだけっすよ! しっかし、ミンスティラリアの技術ってすごいっすねー。魔力炉の仕組み、構造は理解できるっすけど。それを使って何かしろ! とか言われても、自分はお手あげっすよー」
彼女の朝は、山根健斗Aランク探索員によるメンテナンスから始まる。
メンテナンスとは聞き触りの良い言葉に置き換えただけで、国際探索員協会の理事たちから「毎日点検しろ! 異常があればすぐに廃棄処分だ!!」と圧力をかけられているため、実質行われているのは驚異判定の確認。
「申し訳ないっすね。自分みたいな男に体をいじられるの、嫌っすよね? 01番さん、女の子っすから」
「いえ、マスター山根。お心遣いは大変嬉しいですが、ワタシは機械です。命令に対して嫌だと感じる機能は備わっていません」
「そうなんすか? でも、自分は01番さんを大事にしたいので! 何かあれば遠慮なく言ってくださいっす!」
「了解しました。マスター山根」
それからしばらく問診による01番のコンディションチェックを行い、それが終わる頃に南雲監察官室ラボのドアが開いた。
「あ、よかったー。健斗さん、じゃなかった! 山根さん、こちらでしたか!」
「お疲れっす、春香さん! どうしたんすか?」
「どうしたんすか? じゃないですよー! ほら、お弁当忘れてます! せっかく早起きして作ったのに!!」
「うわ、これは自分としたことが!! 申し訳ないっす!! 別に、春香さんの事をないがしろにした訳じゃないんすよ!?」
彼女は日引春香Aランク探索員。
山根健斗の恋人であり、実は先月から同棲している。
「ふふっ、分かっています! 今朝は寝坊しちゃいましたものね!」
「いやー。最近、仕事がちょっと忙しくて! お昼、ありがたく頂くっす!」
「はい! そうしてください! それじゃ、私も仕事に戻ります!」
「うっす! 春香さんも無理しないようにしてくださいっす!」
ひらひらと手を振って去っていく日引。
それを見送った山根は、再び01番の方に向き直った。
「やー。すみません。話が途中になっちゃったっすね」
「お気になさらず、マスター山根。ワタシのコンディションは常に良好な状態で保たれています」
山根は「何よりっす!」と答えて、今日の01番の報告書を作るため、今度はパソコンとにらめっこを始める。
01番は邪魔にならないようにと配慮をして、「ワタシは施設内を巡回して来ます」と部屋を出た。
◆◇◆◇◆◇◆◇
01番は協会本部建物の中であれば、自由な行動を許可されている。
これは前述した逆神六駆が「この子もうちの親父より賢いんですから、人として扱ってあげてください!」と五楼京華上級監察官に申し出たことによる措置。
五楼に対して「逆神大吾よりも賢いから人間」と言う理屈は非常に鋭く心にぶっ刺さり、「逆神の言う通りだ」とほぼ全面的に主張を認めるに至った。
「……カフェテリアにて、既知の人物反応を確認。さり気ない挨拶を実行」
01番のセンサーの先にいたのは。
「うにゃー! 鎌倉時代の人の名前、同じ苗字が多すぎるにゃー!! 小鳩さーん! もう日本史は諦めようにゃー!! 大河ドラマ見るから、単位くれるように教授と交渉してみるぞな!!」
「何を言っておられるのですか……。大河ドラマを見る事で講義に取り組むきっかけにするのならまだしも、どうしてそれで単位がもらえると思うんですの?」
「だってー。大泉洋も小栗旬もカッコいいにゃー?」
「えっ!? どうして疑問形なんですの!?」
「こんにちは。塚地小鳩Aランク探索員。ステータスの軽微な異常を確認。適切な糖分摂取を推奨します」
「あら、01番さん! ……お心遣い痛み入りますわ」
「おおー! 01番ちゃんだぞなー! そうだ! 01番ちゃん、カンニングの手伝いをお願いしたいにゃー!!」
「マスタークララ。その命令は実行できません。倫理的、法令順守的な観点から、その行為は不適切だと判断。諦めて下さい、リトルマスタークララ」
いかに命令権を持っている者の指示でも、「悪いことを悪いと言える機械乙女」が01番。
ちなみに、諸君。お気付きだろうか。
クララのマスターランクがこの会話で少し下がった事を。
「小鳩さーん! やっぱり日本史は無理だにゃー! 数字関係ならまだやれるぞなー!!」
「まったく。分かりましたわ。では、マクロ経済学のレポートを仕上げますわよ」
「あ、小鳩さん。そのマグロ遠洋漁業とか言うのはちょっと無理だにゃー」
「あなたはどうして商学部を選んだんですの?」
椎名クララは頭が悪いわけではない。
現に、日商簿記の2級を一発で合格しているし、日須美大学の偏差値だって低くはないのに現役合格しているのだ。
やる気がないだけなのである。
それが一番の問題じゃないかとすぐに思われた方々には、すぐにクララの家庭教師の権利を譲渡する用意が小鳩にあるらしいので、協会本部まで急ぎお越し願いたい。
「ピコマスタークララ。失礼ながら、レポートを拝見しました。23の誤字と、5か所に論点から逸脱した部分を確認。想定される評価は『可』が32パーセント。『不可』が43パーセントです」
01番も自発的にクララに協力する。
彼女の自律思考は極めて優秀なのである。
「うにゃー……。あれ? おかしいぞなー! パーセンテージが合わないにゃー! これは、『可』よりも上の可能性もあるぞな!?」
「いえ、ピコマスタークララ。『除籍』の可能性が25パーセントあります」
クララは「にゃん……だと……」と呟いて、テーブルに突っ伏した。
大きくて柔らかいくらいしか取り柄のない胸部が自己主張をする様子を見て、「ここに莉子さんがいなかったのが救いですわね」と小鳩は前向きな感想を抱いた。
「それでは、ワタシは巡回に戻ります」
「お待ちになってくださいまし! 01番さん! お暇なのでしたら、ここにいてください!! わたくしストレスで倒れそうですの!!」
「ミス塚地の意見を判定。否定する要素は検出されません。では、ワタシはここにいます」
このようにして、01番は日々成長を続けている。
彼女はこれから、どんどん人間らしい感情を学習していく。
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