第420話 ついに両親がやって来た ~椎名クララ、色々と追い詰められる(今季初 通算4回目)~

 逆神六駆と小坂莉子がイチャコラしてゴールデンウィークを過ごしている一方。

 椎名クララはと言えば。


「うにゃー。なんか人がいっぱいいるぞなー。お祭りでもやってるのかにゃー?」


 テレビを見ながら、ゴールデンウィークの存在にようやく気付いていた。

 なお、彼女が見ているのは報道ステーションであり、ついさっき起床したばかりだという事も付言しておく。


 5月3日も終わりに近づく中、世間は連休で賑わっている事を知るクララ。

 だが、彼女は慌てない。


「にゃははー。みんな、あんな人混みの中で出かけるなんて、すごいにゃー」


 とりあえず、寝起きに缶チューハイを一杯。

 カップ焼きそばと一緒に召しあがる優雅な午後10時台を過ごすクララ。


 よれよれのタンクトップと短パンを着替える事もせずに、彼女は空腹を満たしたのち再びベッドに寝転がる。


「ふぃー。じゃあ、今週は大学がお休みだったのかにゃー」


 大学はお休みだが、大事なことなので明言しておこう。

 椎名クララの新年度になって大学に行った日数である。



 なんと、驚異の、脅威の2日。



 そのうちの1日は健康診断の日であり、「やっぱり探索員は体が資本だもんにゃー」と彼女は出掛けて行った。

 特に異常はなく、胸囲が2センチほど成長していたらしい。


 もう1日は履修登録の日であり、クララの通う日須美大学ではオンラインの履修登録が認められていないため、大学に出向く必要がある。

 クララが珍しく自発的に大学へ登校したとお考えの諸君。


 甘い。それでは全国25人のクララファンは名乗れない。


 南雲修一監察官がわざわざ訪ねて来て「椎名くん! お願いだから履修登録だけは済ませておこう!! じゃないと君ぃ! 前期が今日で終わるんだよ!?」と必死の説得を試みたからである。


 なお、クララは「美味しいフレンチが食べたいですにゃー」とのたまい、南雲の行きつけのレストランでディナーをご馳走になった。

 ただし、履修登録をしたからと言って、ログインボーナス的に「じゃあ、これは手付の4単位ね」などと単位が増えるシステムは採用されていない。


 履修登録をしたら授業に出席する必要がある。

 何を当然のことを言っているのかとお思いかもしれないが、世の中にはごく少数、このルールを知らない大学生が存在するのである。


 お気付きになられただろうか。

 椎名クララが大学に登校したのは、前期が始まって2日。


 今は5月の連休中。



 既に終わりの始まりの鐘が鳴っているのである。



 クララは両親との間で「探索員になるのならば、大学だけはちゃんと出るように」と約束している。

 「もちろんですにゃー!」とその豊かな胸をドンと叩いて、心臓を捧げたのは在りし日の椎名クララ。年は17歳。


 あれから3年と少し。


 クララは大学四年生になっているはずなのに、2周目の大学三年生を過ごしていた。

 ついでに、このまま順調に行くと3周目の大学三年生が待っている。


 そんなどら猫のアパートの呼び鈴が鳴った。


「誰だにゃー? こんな時間にー。あっ! 注文しておいたおっきいボトルに入った柿の種が届いたのかにゃー! はいはい、今行きますぞなー!!」


 タンクトップに短パンで玄関を開けるクララ。

 そこに立っていたのは。


「クララ。電話に出ないから来たぞ」

「本当に、心配するでしょう」



 クララの両親であった。



 どら猫は無言で玄関の扉を閉める。

 「おい、こら! 開けなさい!!」と言う父親の声をBGMに、クララは電話をかける。


「あーっ! 小鳩さん!! 助けてにゃー!! 大ピンチなんですにゃー!! 死んじゃうぞなー!!」


 この後、大急ぎで駆け付けて来た小鳩がクララの両親と玄関先でエンカウントする。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 クララの部屋は、脱ぎ散らかした服と読み散らかした本。

 食べ散らかしたインスタント食品の容器とチューハイの空き缶で大惨事になっていた。


 「脱ぎ散らかした下着がなかっただけでもセーフですわね」と、それを片付けながら小鳩は考える。


 塚地小鳩は、長らくぼっちを苦にして生きていた乙女。

 ゆえに、後輩から「助けてー」と頼りにされると、ちょっと嬉しいまである。



 そんな小鳩の中から、感情が消えようとしていた。



「ごめんなさいね。塚地さんと仰いましたよね? うちのクララがご迷惑を」

「あ、いいえ。とんでもありませんわ。クララさんには日頃から良くして頂いておりますのよ。……本当ですわ」


 クララ母の目を真っ直ぐに見られない小鳩さんであった。


「それで。クララ、約束を覚えているな?」

「うにゃー。いっぱいあり過ぎてどれの事だか分かりませんぞなー」



「全部だ! 学業も、生活態度も! 将来の事についても!! 全部だよ!! お前、何一つとして約束を果たしていないじゃないか!!」

「にゃははー。パパ、よく考えて欲しいにゃー。まだ大学生活は2年もあるぞなー」



 クララ父は叫ぶ。

 「本来ならばあと1年だったはずだろうが!!」と。


 小鳩は「ああ……。正論過ぎて、わたくしでは援護射撃もできそうにありませんわ……」と天井を仰ぎ、一本の電話をかける。

 みんな、困ると電話をかけるのが好きなのである。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「すみません! 夜分に大変失礼いたします!! 私、以前にも一度お目にかかりましたが! 日本探索員協会の監察官をしております!! 南雲修一と申します!! ご両親がいらっしゃっていると聞き及びまして、おっとり刀で駆け付けました!! 監察官室にこのようなものしかなかったのですが、どうぞ!! ちょっといいお店の大福です!!」


 南雲修一。

 珍しく今回の日常回では酷使されないのかと思っていたのに、出番がやって来た。


「ああ。南雲さん。あなたには感謝していますが、クララの自堕落な生活を確認しました。もう探索員の仕事からは足を洗わせます」

「南雲さん! 助けてにゃー!!」


「し、椎名くんは非常に優れた探索員でして! 私の監察官室でも欠かす事の出来ない存在でして!! 本当に、アレがナニでして本当に!!」

「娘を評価して頂くのは嬉しいですが。このままでは約束していた大学卒業も果たせそうにない。そんな体たらくで探索員になれば、自堕落さは増すばかりでしょう。見て下さい、この格好を。年頃の娘がなんとはしたない」


 南雲は小鳩に耳打ちした。



「塚地くん! ちょっとはしたない恰好になってくれ!!」

「な、なにをお排泄物なことを!? くぅ、分かりましたわ……!! いや、分かりませんわよ!!」



 小鳩にもはしたない恰好をさせて現状を中和しようと試みるも、叶わず。

 代わりに、南雲は小鳩を前面に押し出す作戦に打って出た。


「お父さん! こちらの塚地くんは、大学を首席で卒業したほどの才女なんです! そんな彼女が、明日から椎名くんの専属家庭教師として、おはようからおやすみまで娘さんをサポートします! ですから、せめて前期が終わるまでは判断をお待ち頂けないでしょうか!!」



「え゛っ」

「うにゃー! 小鳩さん、ありがとうだにゃー!!」



 その後、南雲は小鳩の出身大学と成績表のコピーを取り出し、探索員の仕事と両立していた実績をサーベイランスのモニター機能を駆使してプレゼンした。


「……なるほど。確かに、塚地さんは優秀なようだ。つまり、彼女に任せておけば、うちのクララも少しは自立した女性になると、そう仰るのですな?」

「はい! もちろんです!! 塚地くんのようになります!! 絶対です!!」


「……分かりました。南雲さんをもう一度だけ信じましょう。そして、塚地さんを。うちのクララをよろしくお願いいたします」

「よろしくお願いですにゃー! にゃははー!」



「……南雲さん? 後でお話がありますわ」

「えっ?」



 この後、塚地小鳩にめちゃくちゃ怒られた南雲修一であった。

 なお、元凶のどら猫はノーダメージだった事もお伝えして結びとさせて頂く。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る