第412話 超古龍の戦士・ナグモVS3番クリムト・ウェルスラー

「……ふっ。力に憑りつかれた者たちは、迷宮ラビリンスへと迷い込む。ならば、私の古龍の力で道を照らそう。人は誰だって迷うものさ。さあ、私の輝きを道標にして正しい世界へと戻って来るんだ」


 ナグモ。輝きを放つ宝石のようなナグモ。


「なるほど! 煌気オーラ力学の基礎ですね! 1つの凡庸な煌気オーラも強力な煌気オーラに引かれる事で力を増し、破壊力も雪だるま式に増えて行く! やはり古龍の戦士・ナグモ、侮れません!!」


 なにが「なるほど!」なのか。


「……ふっ。それでも力に固執するか。いいだろう。私の封印されし真なる力、『古龍力ドラグニティハイ』を使う時が来たようだ。くっ、既に私の中で暴れている……! この力は危険だ……! 腕の一本は犠牲にしなければならないだろう」


 ナグモ。もうこれは取り返しがつかないかもしれない。

 あとそんなスキルは存在しない。


「なるほど! ここまで隠し通して来た、秘奥の力を私に見せてくれるのですね! いいでしょう! では、私は防御に徹しましょうとも!! さあ、見せてみなさい!!」


 我々の知らない「なるほど」の意味がそこにはあるらしい。

 一世を風靡した「マジ卍」に通じるものを感じる。


 とりあえず「なるほど!」と利いた風な口を叩いておけば、我々もこの急場をしのげるかもしれない。

 さあ、諸君。ご一緒に。


 なるほど。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 2番が呆れていた。

 彼は戦闘中において、別の事に注意を逸らすような事はこれまで一度として犯したことのない生粋の戦士。


 異世界・ヴァルガラでデカいトカゲを狩る時だって油断や慢心を持ったことはない、バニング・ミンガイル。

 そんな彼が、「……お前たちは何を言っているんだ?」と真顔で考える。


「逆神。教えてくれ。お前の煌気オーラは、常識を持っていた監察官をあそこまでダメな人間にしてしまうのか? 何が目的なんだ」

「特別に教えてあげましょう! 『貸付古龍力レンタラドラグニティ』は無理やり強力な煌気オーラを押し付ける危険なスキルなんです! その負担を解消するためにセットで使うのが『古龍上々ドラグアゲアゲ』なのですよ! 精神を高揚させる事で、煌気オーラに対する耐性を持たせます!!」



 嫌がらせだとしか思えなかった『古龍上々ドラグアゲアゲ』に結構まともな理由が判明した。



 「スキルはメンタル勝負」とは六駆のモットーであり、そこに照らし合わせてみれば、なるほどテンション上がり過ぎて中二っぽくなっている中年男性のメンタルは極めて硬い。

 ダイヤモンドに匹敵すると言っても良いだろう。


「……よく分かった。つまり、それを真に受けているうちの技術屋がバカ者なのだな。あいつ、帰ったら説教だな」

「僕は分かりますよ! 未知のスキルって発見するとワクワクするんですよねー!!」


 2番が『噴射玉ホバー』で上空へと飛び上がる。

 理由は分かっても聞くに堪えなかったのだろうか。


「よいしょー! ふぅぅぅん! 『激飛翔ゴウフライド』! からの『竜翼ドラグライダー』!!」


 続けて六駆も上空へ。

 「ふっ。空を飛ぶくらいお前ならばどうと言う事もない、か」と2番は軽く笑う。


「僕くらいになると、メンタルで古龍スキルも何のその! この境地には、争いの絶えない異世界で20年くらい過ごしていたらたどり着けますよ!!」

「どう見てもお前は未成年に見えるが。まあ、参考にさせてもらおう」


 『魔斧ベルテ』を取り出した2番。

 六駆も『光剣ブレイバー』でそれに応じた。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 ナグモはどうなったのかと言うと。


「……ふっ。古き炎に焼かれ、新たな時代の礎となれ! 『古龍衝撃波ドラグフラッシュ』!!」



 なんか斬魄刀の解号みたいな事を言って、煌気オーラ砲を放っていた。

 そのスキルの名前よりも長い前口上は果たして必要なのか。



「ぐぅぅぅ! ぐはっ! こ、これは強烈ですね……! 今のであばら骨が何本か折れましたよ……!!」


 ならば避ければ良かったのでは。


「ふふふっ。ですが、今のスキルは覚えましたよ! この『記憶玉メモライル』でね!!」


 3番が取り出したのは『圧縮玉クライム』の1つ。

 その名も『記憶玉メモライル』と言う。


 このイドクロア加工物にスキルを受けさせると、ほぼ全ての情報を読み取り解析し、スキルのコピーが可能。

 ただし、一度しか使えないと言う欠点がある上に、必ず攻撃を喰らわなければならない。。


 あと、避ければ良かったじゃないかとか言って申し訳ない。


「……ふっ。古龍の力を舐めるなよ。数千年を生きる過程で生み出されたスキル。そのように容易く模倣できるのならば、やってみるがいい」

「次は私の番だと言う事ですね。では、覚悟はよろしいとお見受けしました」


 どうしてこの2人は順序を守って戦っているのか。

 遊戯王カードで遊んでいるのか。

 決闘者デュエリストなのか。


「……来るがいい! 悪しき者よ! 貴様の企み、真っ向から打ち砕いて見せる!!」

「それではお望み通り、喰らいなさい! 記憶解放! 『古龍衝撃波ドラグフラッシュ』!!」


 3番の『記憶玉メモライル』が、ナグモの放った『古龍衝撃波ドラグフラッシュ』とまったく同じものを吐き出した。

 『記憶玉メモライル』は使用者の煌気オーラを超えるスキルを再現できない。

 それをやってのけた3番の地力が発揮される。


「ぐ、ぐぁぁぁぁぁ!!」

「はぁ、はぁ……。さすがにキツいですね。このレベルのスキルを模倣するのは。ですが! 手ごたえがありましたよ!?」


「ま、まさか……古龍の戦士が私の他にもいるだなんて……! はっ! 貴様、さては暗黒古龍の戦士か!?」



「ちょっと何言ってるのか分かりませんね!」

 3番と同意見である。



 ついに茶番に付き合ってくれなくなった3番。

 自分の撃ったスキルをそのままお返しされてダメージ大のナグモ。


 この戦いはどうなるのか。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 六駆がナグモのピンチを察した。


「南雲さん! しまった、テンションを上げ過ぎた!! 冷静な判断がまったくできてないじゃないですか!!」


 誰のせいだ。


「……お前が言うのか。逆神。お前は間違いなく猛者だが、結構な勢いでその思考には問題があるな。アトミルカにお前は入って欲しくない」


 おっしゃる通りである。


「ふぅぅぅぅん!」

「させんぞ! これ以上の煌気オーラを付与させてたまるものか!! 『フラーベルム』!!」


 2番の『魔斧ベルテ』が八又に変化し、扇のような軌道を描いて六駆に襲い掛かる。


「そう来ると思っていましたよ! あなたは強いから、正攻法を選びがちですよね! 予測がしやすいのは助かるなぁ! それ、僕じゃなくて分身体ですよ! 『幻想身ファントミオル二重ダブル』!!」

「ちぃっ! ぬかったか!!」


「南雲さん! これを使ってください!! 『龍剣ドラグブレイド』!!」


 アンパンマンがピンチの時にリリーフ登板するバタコさんばりのコントロールで、六駆が具現化した剣を2本ナグモに投げて渡した。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 ナグモは『龍剣ドラグブレイド』を受け取ると、素早くそれを両手に持つ。


「……ふっ。戦いの女神がいるとしたら、どうやら私に微笑んだようだな。悪く思うな、好敵手ともよ! つりゃあ!! 古龍二刀流!!」

「ぐっ! し、しかし、もう一度『記憶玉メモライル』を使えば……!! ストックはまだまだありますよ!!」


「私の剣技をそのような石で記憶できると思ってくれるな。いくぞ!! 『雲外蒼天うんがいそうてん竜胆りんどう』!!!」

「がぁぁぁぁぁっ!! い、いけませんね! 『記憶玉メモライル』が……!! まさか割られるとは……!!」


 ナグモの放った剣術スキル。

 普段の彼の必殺技である『雲外蒼天うんがいそうてん紫陽花あじさい』のバージョンアップ版が炸裂した。


「……ふっ。結局、力を制するのに力を用いてしまったか。私もまだまだ甘い」

「が、がふっ! ……参りましたよ! 777……番くん……手筈通りに……」


 ついに倒れた3番クリムト・ウェルスラー。

 辺り一面に蒼いリンドウが花咲いて、その様は幻想的だったと言う。

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