第411話 監獄ダンジョン・カルケル、最後の攻防戦
監獄ダンジョン・カルケルでは、アトミルカが引き際とした時がいよいよ迫っているらしく、彼らの動きは慌ただしくなっていた。
Z3番が久坂剣友監察官率いる戦闘から離脱し、2番の命を受けて「回収可能な者の退避準備」にフェーズを移行。
脱獄チームもひっそりと倒された者が多く、現状、両足で立っているのはパウロ・オリベイラのみ。
Z3番は椎名クララとサイボーグ01番による砲撃の爆炎を隠れ蓑にして、まずパウロに『
そのまま2人は無造作に転がしてあった姫島幽星の元へ向かい、意識不明の彼には『
「これでこちらの準備は整いましたが。ええい、かつての勘さえ取り戻していれば! わたくしが2番様の元へ馳せ参じると言うのに!! ですが、今の戦闘勘を失っているわたくしではかえって足手まといになるのは必定……! 口惜しいですねぇ……!!」
Z3番はかつてのアトミルカナンバー3であり、若かりし頃の2番と肩を並べて組織を動かしていた男。
肉体の感覚は鈍っていても、状況判断能力に衰えは見えない。
「うわぁ、マジで? これ、どこまでがマジなんだろう。助かるぞ! って思わせといてからの直前で方針転換。こいつはここに置いて行く! のパターンなんだろうなぁ。ボクが優遇される理由がないもんなぁ。もう、ここで溜めるのヤメて欲しいよ。中学生の頃に好きな子に告白して、ちょっと考えさせてって言われてそのまま卒業した時の事を思い出すなぁ。卒業式で帽子投げる瞬間まで、もしかして? って思ってたもんなぁ。酷いよなぁ」
雨宮順平上級監察官、逆神四郎、加賀美政宗Sランク探索員、サイボーグ01番と言う、とんでもない戦場から五体満足のまま引き上げる事が叶った男、パウロ・オリベイラ。
もうその実力は「幸運だったから」と言うだけでは説明がつかない。
彼は本物であるとZ3番も判断していた。
「このネチネチと女々しい独り言がなければ、なお良いのですが……。ジャパンの念仏と言うヤツもこのような感じなのでしょうかね。ただ待つだけの状況で隣からネガティブのソロライブとは……。気が滅入りますね……」
Z3番が見つめる先には、かつての弟子である3番と今も変わらぬ上官の2番。
彼らはアトミルカの未来を持ち帰る事ができるのか。
◆◇◆◇◆◇◆◇
集まった人員から考察する戦況は、極めて探索員チームの優勢だった。
最強格の木原久光監察官を筆頭に、南雲修一監察官と監察官が2名。
加えて、探索員協会のエースアタッカー小坂莉子。
ファンタジスタの木原芽衣。
ジョーカーの逆神六駆が揃っている。
だが、そのジョーカーの表情がいささか暗い。
ゆえに、楽観視する者は1人もいなかった。
「木原さん。ぶっちゃけ、その腕じゃ満足に戦えませんよね? 敵にやられたならまだしも、自分でやっちゃってるんですから。最強の盾を最強の矛でぶっ刺したら、盾の方が壊れてついでに矛も折れてますよね?」
六駆は既に悟っていた。
木原久光が自分を背に乗せて大人しく、いやさ充分に暴れてはいたが。
彼にしては大人しい戦法に徹していたのも、腕がまともに機能していないからに他ならなかったから。
そうなると、一気に切れるカードが減る。
まず、莉子と芽衣が選択肢から消える。
理由は簡単である。
負ける確率が2桁パーセントもある状態で、育成中の弟子を戦わせる愚かな師匠がいるだろろうか。
世の中には探せば結構いるだろう。
だが、逆神六駆は愚か者ではない。
「困りましたね。南雲さん」
「君の言いたい事は分かるつもりだ、逆神くん。どうやら、私と君でどうにかするしかないようだな。雨宮さんや久坂さんの援護を待っていては、逃げられてしまう」
南雲修一は日本探索員協会が誇る「
共に戦うのも何度目になるか。
ならば、少年の姿をした百戦錬磨のおじさんが何を考えているかくらいは察しが付く。
「そうですね。ですが、絶対に逃がす訳にはいきません!!」
「六駆くんっ! 責任感に燃える男の子ってカッコいいよぉー!!」
莉子さん、違う。そうじゃない。
「3番と2番とか、絶対に報奨金の高さランキングでもワンツーでしょ! こんな美味しい獲物を逃がすなんて、とんでもない!!」
「わぁ! 戦う決意をする男の子ってカッコいいーっ!!」
莉子さんは違わなかった。この子、六駆くんが何をしても多分同じことを言う。
「南雲さん! 僕に策があります!!」
「ああ、聞かせてくれ! ……ごめん、ちょっと待って。なんでそんなに笑顔なの? やっぱりごめん。聞きたくないから、言わないで? あ、待って、動かないで? 嫌な予感しかしないんだよ!!」
「ふぅぅぅぅんっ!! 『
「うわぁぁぁ! ほら見たことかぁぁ!! ああああ! ダメだ、力が溢れるぅぅぅ!!!」
逆神六駆と南雲修一。
この2人で3番と2番を倒すしかない。
「莉子! 戦況に応じて手伝いを頼むかもしれないから、集中してて! 木原さんは芽衣を守っていてください!!」
「うんっ! 分かったよぉ! まっかせてー!!」
「うぉぉぉぉぉん! 逆神よぉぉぉ!! お前、むちゃくちゃ良いヤツだなぁぁぁぁ!!」
「……みみっ。……みみみっ」
戦いの準備は整った。
「南雲さん! イケますか!?」
「……ふっ。力をもってしか力を封じる事ができないなら。私はこの
超古龍の戦士・ナグモも準備万端だそうである。
◆◇◆◇◆◇◆◇
3番が興奮を隠しきれない様子で2番に報告をする。
「み、見て下さい! 2番様! あれが古龍の戦士・ナグモです!! 報告書に纏めておいたかいがありましたよ!! ちゃんと実在したでしょう!?」
「……ああ。確かに、とんでもない化け物だな。あのクソ長い報告書を2時間もかけて読んだのは無駄ではなかったか。付属の用語集まで全部読んでいる」
2番は少しだけ考える。
もちろん、どう捌くのが最も効率の良い戦局になるか、についてである。
「3番。お前はナグモの相手をしろ。私は猛者をやる」
「よ、よろしいのですか!? 私がナグモの解剖をしても!?」
「興奮するな、バカ者。察するに、あれは猛者の少年が付与しているスキルだろう。まあ、このとんでもない出力に適合している時点でナグモも充分おかしいが。とにかく、元を叩けばナグモも先ほどの常識ある監察官に戻るはずだ」
「ええ……。2番様。私に時間稼ぎをしろと申されるのですか?」
「3番。お前、ここに来て面倒な駄々をこねるな。役割を粛々と果たせ」
3番は「しかし、古龍の戦士・ナグモは研究対象として!!」となおも食い下がる。
「分かった。帰ったら好きなだけ報告書を出せ。全部私が責任をもって読む」と言って、どうにか3番を納得させる2番。
「お話は済みましたか?」
「ふっ。お前は冗談も言えるようだな。我々に攻撃を仕掛けなかったのは、後衛の隊列を整えるためだろう」
「あららー。バレてましたか! 本当にこのおじさんは厄介だなぁ! ね、南雲さん!」
「……ふっ。厄介な炎ならば、更に大きな炎で焼き尽くすまで。……悲しいな。せっかく得た力をこんな風にしか使えないなんて」
『
満足な意思疎通が取れているのか不明瞭なまま、まずナグモが仕掛ける。
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