第413話 逆神六駆with小坂莉子VS2番バニング・ミンガイル

 2番は素直にナグモの健闘を称えた。

 それは多少の驚きをもって行われ、だが手を叩く頃には「いや、まあ当然か」と思い直していたと言う。


「まずは、驚かされたと言っておこう。3番が、クリムトが『圧縮玉クライム』を用いて戦闘で敗れ去るとは。まあ、少しおかしなテンションで相手にペースを握られていた感は否めんが。それにしても、見事だ」


 彼はそう言いながら、チラリと自分の背後を見る。

 そこでは、『隠密玉スパイ』と言う雨合羽のようなイドクロア装備を着て気配を消した777番が3番の作業を引き取り、転移装置の準備を進めていた。


 察するに、あと10分と言ったところだろうか。


「やれやれだな。その10分を稼ぐのが、どれほど困難を極めるか……。だが、やらねばならん」


 2番は『魔斧ベルテ』を手に、逆神六駆との最終決戦に臨む。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 一方、六駆は速やかにナグモから煌気オーラの回収を行っていた。


「ふぅぅぅん! 『受付古龍力ゲッタードラグニティ』!! ちょっといっぱい渡し過ぎました! うわぁ、ものすごく無駄遣いされてるー。半分も返って来ないじゃないですかー」


 六駆も連戦に加え、ウォーロスト脱出の際には極大スキルを使用している。

 少しばかりではあるが、彼は残存煌気オーラに不安を感じていた。

 黄信号が点灯した時分であろうか。


「う、ううっ! 私は……! 私はなんかもう色々とああああああっ!! い、いや、冷静になるんだ、南雲修一。逆神くんのおかげで戦いには勝てたのだから、役目は果たしている。それに、サーベイランスがこの場にいなかった事を幸運と思おうじゃないか。……ん?」


 南雲の目の前には、いつの間にかやって来ていたサーベイランスが。



『南雲さん、お疲れ様っす! 今ね、みんなでナグモの戦いっぷりをね! ぷっ、ふふ、観戦してて……! 安心してください! 録画済みっすよ!! ……ふっ』

「うわぁぁぁぁ! 私はどうすれば良かったんだ!! 適切に南雲とナグモを使い分けるなよ!! そして使い分け慣れるなよ!! ああああっ! もう帰りたくない!!」



 古龍の戦士・ナグモ、終業時間を迎える。

 だが、彼はこの世に悪が蔓延る限り蘇るのだ。


 何度だって。「ナグモ!」と助けを求める声が聞こえたら、すぐに。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 再び、上空。

 2番と逆神六駆が向かい合う形で、大将戦が始まろうとしていた。


「さすがのお前も少しばかり疲労が見えるか。逆神」

「そういうあなたは全然平気そうですね! すごいなぁ! 煌気オーラ総量はうちの莉子に匹敵するんじゃないですか?」


 煌気オーラ総量の単純な比較をすれば、2番のそれは逆神六駆に匹敵している。

 彼らは両名ともに戦い続ける歴史の中で少しずつ煌気オーラの容量を大きくしてきた。


 前述の通り、本日は乱用がたたり残存煌気オーラは六駆の方が少ない。


「我々はそろそろ帰らせてもらう。充分に死力は尽くした。だが、お前と言う猛者の首も獲れたならば言う事はない!! 『魔斧ベルテ多重衝撃デュアルインパクト』!!」

「そう何度も接近戦で相手はしませんよ! ふぅぅぅん! 『紫電の雷鳥トニトルス・パープル』!!」


 六駆の放つ強烈な雷撃を『魔斧ベルテ』で切り裂く2番。

 「やるなぁ!」と感嘆の息を漏らす六駆。


 実際のところ、異世界転生周回者リピーターを終えてから出会った者の中で、2番バニング・ミンガイルの実力は突出していた。

 六駆は戦闘狂ではないが、久しぶりに出会う強敵との戦いを少しだけ楽しんでいる。


 一方で、2番も強者との戦いを普段ならば楽しむ男であるが、現在の目的はとどのつまりが「時間稼ぎ」である。

 転移装置起動までの時さえ削る事ができれば、目の前の猛者との決着を求めずとも良い。


「ふぅぅぅんっ! ……妙ですねー。あなたくらいの使い手なのに、戦いに積極性を感じられない。何か隠してます?」

「さあて。どうかな。単純に、お前の力にひれ伏しているだけかもしれんぞ?」


 六駆にしては時間がかかったものの、この辺りで彼も2番の目的に気が付いた。

 「僕とした事が!」と六駆は少しばかり反省をした。


 1ヶ月にも及ぶ監獄生活と、1日を通して久しぶりの煌気オーラを使い続ける急展開。

 その偶然が、六駆の極めて優れた戦闘勘をいささか奪うと言う大金星を果たしていた。


「南雲さん! まずいです!!」

「ああ。私はもうまずいを超えてダルいよ。本部のオペレーター室、爆発しないかなぁ」


「何言ってるんですか!! 敵さん、どうも逃げる算段が整いつつありますよ!!」

「そうなの!? それはまずいぞ!! かなり数は減らしたが、それでも多くの戦力を回収されたまま逃がしたのでは、アトミルカの再興に繋がる!!」


 お忘れかもしれないが、南雲修一は監察官きっての知恵者で通っている男。

 心の傷にオロナインを塗ったなら、彼の知能は再び働き始める。


「木原さん! 煌気オーラの探知は……。できませんね!?」

「うぉぉぉぉん! オレ様、縦列駐車と煌気オーラ探知は苦手なんだよぉぉぉぉぉ!!」


「知っていました! いっそ清々しい! では、木原くん! 煌気オーラ探知を手伝ってくれ! 2番の位置関係から察するに、この付近に転移装置があるはずだ! 敵の最大戦力を逆神くんが引き付けてくれている間に、我々でそれを叩く!!」

「みみっ! 頑張って探すです!! みみみみみみっ!!」


 芽衣はクララや小鳩ほど煌気オーラの感知、探索能力に長けている訳ではないが、この場では南雲に次ぐ適任者。

 木原久光監察官は言うに及ばず、莉子さんは師匠に似て煌気オーラ感知を苦手としている。


「南雲さん! わたしは何をしたらいいですか?」

「小坂くんは、逆神くんの援護を頼む! 2番を倒してしまえば、全員で転移装置を探す事ができる! それに、逆神くんは一対一にこだわる男じゃないから! 適当に不意打ちしてあげて! むしろ喜ぶよ、彼!!」


 莉子の笑顔が弾ける。

 彼女にとって正義の執行は喜びであり、逆神六駆の役に立てることは至上の幸せである。


 盆と正月が一緒にやって来て、小坂莉子は張り切った。


「分かりましたぁ! やぁぁぁぁぁぁっ!」


 何の迷いもなく、『苺光閃いちごこうせん』の溜めに入った莉子。

 その気配を六駆は、そして2番もすぐに気取る。


 最後の戦いもクライマックスを迎えようとしていた。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 2番は『魔斧ベルテ』を両手に持ち、煌気オーラを放出させる。

 続けて言った。


「どうやら、諸々の企みが露見したようだな。……それにしても、あの少女。逆神。お前もそうだが彼女と言い、その若さでこれほどの力をどこで身に付けた?」

「それは内緒です! 莉子の実力がバレるのは痛いですが、あなたをここで倒せば問題ないので! ちょっと本気でいきますよ!!」


 六駆は両手を組んで、煌気を溜める。


 2番は動かない。

 この場合、六駆か莉子のどちらか1つの砲台を攻撃するのがベターだが、2番は防御姿勢を取った。


 より正確な言い方をすると、動けないのだ。

 彼の背後には、777番がようやく設置し終えた巨大な転移装置がある。


 それを破壊されては本末転倒も甚だしい。


「ふっ。まさか、最後は耐久力の勝負になるとはな。良かろう。私の体とお前たちのスキル。どちらが優れているか、試してみようではないか。……来い!!」

「そう言う堂々とした態度、嫌いじゃなかったですよ! ふぅぅぅぅぅんっ!!」


 地上の莉子がまず動いた。


「やぁぁぁぁぁぁっ!! 『苺光閃いちごこうせん』!!!」

「ぐぅぅっ!? これほどまでとは……!! だが!!」


 苺色の悪夢の直撃を喰らって耐えて見せた、初めての男。

 バニング・ミンガイル。


「卑怯なんて言いませんよね! 戦いは勝つか負けるか! 過程は二の次!! 『麒麟チーリン大竜砲ドラグーン』!!!」


 ここぞのスキル選択で、敢えて意表を突く重力属性の『大竜砲ドラグーン』を選んだ六駆。

 横綱が立ち合いで変化するようなものだが、彼はまったく気にしない。


「ぐぁあぁぁぁぁっ!! これは……!! 私が読み負けるとは……!!」

「正攻法ってあんまり好きじゃないんですよ、僕!!」


 2番が地面に叩きつけられた。

 誰の目から見ても、逆神六駆と小坂莉子の勝利は明らかであった。

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