第409話 椎名クララとサイボーグ01番、この終盤で輝きを放つ

 3番は『複製人形クローンドール』に戦局を任せて、自分は転移装置の準備に取り掛かかっていた。

 が、そこに3番コピーの1体が慌ててやって来る。


「オリジナル! 少々厄介なことになっています!」

「なんですか。仮にも私の思考をトレースしているのだから、少しの事で慌てふためくのはヤメなさい。情けのないことですね」


 だが、自分のコピーが慌てると言う事態は想定していない3番。

 コピーが指さす海岸線の方向を見ると、それなりに驚かされた。


「あれは……。私が作ったサイボーグ構成員のプロトタイプではありませんか? 確か、デスター失陥の際に自爆させたと報告を受けていますが」

「どうやら敵の手に落ちていたようですね。先ほど、2番様が敵の特異点と定めた逆神なる少年が転移スキルを使用し、出現させました。どうやら、完全に探索員協会の手によって改修されている模様です」


 3番はコピーの報告を受けて、作業の手を止める。

 そして、研究者らしくサイボーグ01番を観察した。


「待ちなさい。あれは……動力が煌気オーラではありませんね。明らかに異質な……。少なくとも現世の技術ではなさそうです。興味深い。つまり、探索員協会はどこかの技術力の卓越した異世界と共闘関係、もしくは同盟関係を持ち、私の作ったプロトタイプを改造したようですね。……全コピーに通達。必ずあのプロトタイプを破壊せずに回収しなさい。是が非でも解剖して、未知の技術を強奪しましょう!」


「コピー、了解。全92体のうち、70体をプロトタイプとの戦闘に参加させます」

「結構。いいですか? 絶対に破壊してはいけませんよ!!」


 ここまで失策もなく、順調に計画を進めて来た3番。

 彼がこの作戦で唯一犯したミスであった。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 ミンスティラリア製の武装を追加されたサイボーグ01番。

 その火力は凄まじく、瞬く間に3番コピーを殲滅していく。


「にゃははー! 焼き払うにゃー!!」

「マスタークララ。ご報告があります」


「どうしたぞなー? もしかして、もっと派手なのがお好みかにゃー?」

「いえ。ワタシの趣味趣向とは関係ありません。マスタークララのご指示通り、派手にぶっ放しておりましたが」


「うんうん! やっぱり派手なのが一番だにゃー!」

「その結果、魔力炉のエネルギーが残り30パーセントを切りました。計算完了。現状では、敵のコピー体の殲滅は不可と判断。具体的には、13体の残存が予測されます」


「うにゃー? つまり、どういうことだってばにゃー?」

「13体のコピー体を残し、ワタシはスリープモードへ移行。結果、予測される被害は戦力が現状のままだと仮定すると、全滅です。確率は88パーセント」


 クララはとりあえず今の01番の報告を聞いている者が周りにいないかを確認した。

 加賀美隊も01番の援護射撃で忙しくしているため、クララと01番の会話にまで注意は及んでいないようだった。


 ホッとその豊かな胸をなでおろすクララ。


「ふぃー。聞かなかった事にすればセーフだ……にゃー……」

「……あの。クララさん? わたくし、こんな時にどういう顔をしたら良いのか分からないのですけれど」


 なお、煌気オーラをほぼ使い果たしている塚地小鳩と55番はガッツリ聞いていた。

 クララは「……こほん」と咳払いをして、2人に言った。



「あたしは悪くないにゃー!!」

「確かにそうかもしれん!!」

「いえ! そうじゃありませんわよね!? クララさん!! 責任から逃げてはダメですわ!!」



 椎名クララ、うっかりやらかす。

 レポート課題の期日を破っても平然としている彼女だが、これはさすがにまずいと感じたらしく頭をかいた。


「困ったにゃー。……小鳩さん、助けてにゃー!! 55番さんでもいいにゃー!!」

「助けたいですけれど、わたくしは煌気オーラが枯渇しておりますのよ! 55番さん? あなたもですわよね? 確かにそうかもしれん以外のお返事でお願いいたしますわ」


「確かにそう……! 塚地小鳩の言うとおりだ! 現状をフラットな目線で見てみたところ、久坂剣友たちの助太刀も期待できず、雨宮順平および逆神四郎もここから距離がある! 現状、01番の攻撃が止まった瞬間に我々は襲われる! 恐らく加賀美政宗以外の全員が死ぬかもしれん!!」



「に゛ゃ゛-!! 確かにそうかもしれん! の方が良かったにゃー! 現実を詳細に報告してこないで欲しいぞなー!!」

「六駆さんや南雲さんたちも気付いてくださらないでしょうし。これはいよいよまずいですわよ……」



 六駆は既に次の戦場目指して飛び出していた。


 悲しそうな顔をするクララを見て、01番が動く。

 彼の胸には、かつて搭載されていた爆弾と動力回路の代わりに、ミンスティラリアの魔力炉とハートフルな心が組み込まれていた。


「マスタークララ。ワタシに策があります」

「にゃんですと!? それ、採用するぞなー!!」


「クララさん……。せめて内容を聞いてからにするべきではありませんこと?」

「だが、塚地小鳩! 既に我々に打つ手がない以上、01番の策に賭けるほかない!!」


「55番さん……。確かにそうかもしれんの方向に戻って頂いて結構ですわ。クララさんの言う通り、あなたの見解は現実的過ぎて心が折れそうですもの……」


 01番は端的に作戦を説明した。


 自分の魔力炉には外部出力機能が付いており、「01番として魔導砲を放つよりも01番と言うエネルギー貯蔵庫として、魔力炉のエネルギーを煌気オーラに変換し強力なスキルを撃つ」のならば、やり方によっては敵の殲滅がまだ可能であると彼は語る。


「データベースによると、マスタークララは遠距離スキルのスペシャリスト。あなたとワタシの相性は極めて良好。グランドマスター逆神六駆もそれを見越してあなたをマスターに選んだのだと思われます」


 クララの決断は早かった。


「よーし! やるにゃー!! このコードをどうすればいいにゃー?」

「武器に接続してください。銀弓ディアーナならば、問題ないと思われます」


 すぐに完成した。椎名クララ・強襲モデル。


「やったるぞなー!! 加賀美さんたち、一旦攻撃ストップしてくださいにゃー!! 『魔導砲・連射弾ターミナスカノン』!!」

「照準はワタシがフォローしますので、マスタークララのお好きなように撃ってください」


「にゃはははー!! うりゃりゃりゃー!!」


 再び勢いを取り戻した椎名クララ。

 彼女は凄まじい勢いで3番コピーを鉄くずに変えていく。


「わたくし、クララさんのシンプルな思考を少し真似しようかと思いましたわ。この局面でよく、こんな簡単に考えを切り替えられますわね……」

「確かにそうかもしれん!!」



◆◇◆◇◆◇◆◇



 海岸線の戦いに終わりが見え始めた頃。

 脱走した豚は安全地帯を探してさまよっていた。


「こ、こんな状況で! 味方もなしに戦えませんからねぇ!! まずは、どこかでやり過ごして……機を見て3番様のところへ行くのが上策と見ましたねぇ!!」


 下柳則夫。

 彼は煌気オーラを過剰に搭載したにも関わらず、戦場を逃げ惑っていた。


「やっべぇー! あっくんがやられちまったよ! いやー! ぶっ飛ばされて助かったぁー! あのままだと殺されてたわ、オレ!」


 2番に殺されかけながら九死に一生を得た逆神大吾。

 彼も似たような思考で、爆心地から逃れていた。


「ふぎぃっ!」

「ぐへぇ!」



 そんな両陣営の豚たちが、戦場の外れで出会った。



「ああん!? てめぇ! さてはアトミルカの野郎だな! なんか見覚えがあるぞおらぁ!!」

「そういうあなたも、どこかで会った事がある気がするんですよねぇ!!」


 逆神大吾と下柳則夫。

 彼らは一歩も引く気はなかった。


 「こいつになら勝てそう!」と、お互いがまったく同じタイミングで確信したからである。

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