第408話 正義のサイボーグ01番、起動する
海岸線の戦いは大きな変化を見せていた。
3番の元に777番が到着し、装備を届けた。
たったそれだけの事なのに、これがアトミルカにとっての追い風になる。
「オリベイラくん。君、私の想定よりもはるかにやりますね。まさか捨て駒のつもりだった君がまだ戦線を維持しているとは。驚きですよ。嬉しい誤算です」
「うわぁ、出たよ……。やっぱりボクなんか全然期待されてなかった。もう、そういう空気だったもんなぁ。どうせ、今3番さんが言ってる事も10割がお世辞だよ。嫌だなぁ。本当に、誰かを信じるのって難易度高すぎるよなぁ」
結局、囚人パウロ・オリベイラは加賀美政宗の攻撃を全て躱す事にのみ徹し、加賀美も決定打を与える事叶わず。
そうこうしているうちに、3番がやって来た。
『
もはやアトミルカのお家芸となりつつある複製からの増殖だが、3番の作った発明品を3番が使うとその効果は跳ね上がる。
3番コピーは彼の知力も完璧にコピーしており、その1体1体が全て、実に狡猾な動きを見せていた。
具体的には、既に力を使い果たした者への優先的な攻撃である。
彼らは海岸線ギリギリで迎撃行動をしていたため、背後には海。
図らずも背水の陣の形を取っており、そこに狙いをつけた3番コピーが次々と襲来していた。
雨宮順平上級監察官は「おっぱい男爵と山嵐くんがバラバラにされちゃう!」と、発現中の『
万能で隙の無いスキルだが、「発現中に移動させられない」と言う欠点が存在する。
そんな事は知らなかった3番だが、観察していればすぐに気付く。
「良いですよ! 上級監察官を封殺できるのは実にエクセレント! コピーたち、20体ほどで彼のスキルを囲みなさい!!」
「了解」
「了解」
「了解」
合理的な思考をトレースしている3番コピーたちも、淀みのない行動で3番の命令に従って見せる。
「敵さん、ピータンくんまで狙ってくるじゃないのやだー! これ、ピータンくん見捨てたらあとでおじさんが京華ちゃんに怒られるヤツー!!」
「雨宮さん、ワシがお手伝いいたしますじゃ!」
襲い掛かる3番コピーに対応すべく、逆神四郎が助太刀に加わる。
が、その流れも3番にとってはプラスに働く。
実力者を1か所に集める事ができるのは非常に助かるのだ。
そこに戦力を集中させるだけで済む。
あとは自分と同じ思考を持ったコピーたちがいやらしい攻撃を仕掛けるからである。
が、幸運も続きっぱなしと言う訳には行かないのがこの世の常。
良い事の後に良い事が続くこともあるが、いつかは悪い事もその列に並んでくるものである。
「うぉぉぉぉぉん!! 芽衣ちゃまぁぁぁぁ! おじ様が来たよぉぉぉぉぉぉ!!」
「木原さん! 芽衣ならさっき追い越しましたよ!」
「マジかよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ! 言えよぉぉぉ、逆神ぃぃぃぃ!!」
「だって言ったら木原さん着陸するじゃないですか! せめて僕を送り届けてからにしてくれないと! はい、もう芽衣のところに行っても良いですよ! 見つからなかったら戻って来てくださいね」
「うぉぉぉぉん! お前の意外と話が分かるとこ、好きだぜぇぇぇぇ!!」
「南雲さんによろしく伝えといてくださいね!」
木原久光監察官は煌気を噴射しながら飛び去って行った。
とんでもない高火力のタクシーである。
「クララ先輩! 小鳩さん! 他の皆さんも! ご無事ですか!?」
海岸線の最奥に逆神六駆が到着。
彼は3番コピーに応戦している疲弊した者たちの元へと真っ先に駆け付けた。
確実に査定ポイントが高そうだからである。
「うにゃー! 六駆くん! 久しぶりだにゃー!! 相変わらず、主人公っぽいタイミングでピンチに駆けつけてくれるところはさすがですにゃー!!」
「正直なところ、助かりましたわ! 六駆さんが来てくだされば、このお排泄物なコピー人形の大群も押し返せますわね!!」
六駆は地面に手をついて「とっておきがまだ取ってあるんですよ!!」と笑顔を見せた。
「ふぅぅぅんっ! 『
ミンスティラリア魔王城にある研究所では、とある人物がこの日に備えて待ち構えていた。
諸君、彼の事を覚えておいでだろうか。
門の中からガシャン、ガシャンと音を立てて現れたのは。
「マスター。待ちかねておりました。サイボーグ01番、起動出力90パーセント。魔力炉のコンディション、グリーン。ご命令を、マスター」
「あらー! 良い感じに仕上がってますねー! 01番さん!!」
アトミルカ3番が作り上げた人造構成員のプロトタイプ、01番。
合縁奇縁、不思議な巡り合わせである。
生みの親である3番に対抗する策として、01番、堂々参戦。
◆◇◆◇◆◇◆◇
「にゃにゃー! この子はいつかのサイボーグちゃんだぞなー!!」
「データベース参照。該当者アリ。日本探索員協会所属、椎名クララAランク探索員。お久しぶりです。懐かしいのステータスを確認」
01番くん、チーム莉子でも指折りの影の薄さと扱いの不遇さを誇る椎名クララを真っ先に認識すると言う奇跡をあいさつ代わりに見せつける。
既にこれだけで彼の向上した性能の片りんを見るに十分な成果。
「なんだかクララ先輩と相性が良さそうですね! クララ先輩、まだ余裕ありそうですし!」
「にゃっはっはー! パイセン、
六駆は「なるほど!」と満足そうに頷いた。
彼は元より、この場所に長居するつもりはなかった。
理想としては、加賀美政宗か祖父の四郎辺りに01番を運用させて3番コピーを一掃するつもりだったのだが、もっと身近に適任者を発見する。
「じゃあ、クララ先輩に01番さんを任せちゃおうかな!」
「なんだかよく分からないけど、パイセンもみんなのために頑張るぞなー?」
「01番さん! 指揮官の変更を! これからあなたの臨時マスターはこのクララ先輩です! クララ先輩は遠距離スキルが得意ですから、あなたとの相性も抜群! さあ、頑張ってあなたを見捨てたアトミルカさんにリベンジですよ!!」
キュイーンと何かを読み込む音をさせながら、01番は頷いた。
「マスターから、指揮権の委譲を確認。認証完了。マスタークララ。ご命令を。ワタシは、命を賭してあなたのために働きます」
「おおー! なんかよく分かんないけど、よろしくだにゃー!!」
01番は近くにいる3番コピーに照準を合わせて、クララに質問をする。
「マスタークララ。砲撃の許可を頂けますか」
「やっちゃえにゃー! でっかいのお見舞いしてやるにゃー!!」
01番は「命令、復唱。でっかいのをお見舞いします」と言って、右腕を地面と水平に構えた。
ガシャガシャと音を立てて、右腕から発射口を出現させる。
「魔力炉、高出力強襲モードに移行。『ブラスターβ』、斉射します」
「やっちゃえ、やっちゃえにゃー!!」
ブゥオンと音を立てて、凄まじい速さの光線が放たれた。
発射音に遅れて、地面もろとも3番コピーが数体消し飛んだ。
「にゃははー! すごいぞなー!!」
「お褒めに預かり、恐縮です。マスタークララ」
それを隣で見ていた小鳩は思った。
「なんだか、混ぜてはいけないコンビが誕生した気がいたしますわ……」と。
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