第407話 逆神大吾&あっくんVS2番バニング・ミンガイル

 監獄ダンジョン・カルケルの地上では、各所で激闘が繰り広げられていた。

 正義は勝つと言いたいが、アトミルカも強敵ぞろい。


 ある場所では探索員チームが勝ち、時に負ける。

 だが、状況は少しずつ好転しつつあった。


 言うまでもなく、きっかけは逆神六駆の参戦である。

 彼はこの短時間で無力化されていた木原久光監察官を回復させ、その勢いで背中に飛び乗ってZ5番を秒で片づけて見せる。


 そのまま木原久光の背中に乗って、彼は海岸線の戦場へと飛んでいく。

 さらに向こうでは3番が暗躍しており、どうやらその拠点を攻撃するつもりらしい。


 南雲修一および小坂莉子と木原芽衣もそちらに向かっているため、戦局は前述の通りかなり探索員チームに傾いていると言っても良いだろう。


 だが、局地的な事となると話は別である。


「おうおうおう! てめぇ、この髭野郎! 髭ダンディズム野郎!! さっきはよくもやってくれやがったなぁ! この野郎!! この髭! ダンディ! ダンディ!!」

「……くははっ。最後の最後でなんつーハズレ引き当てちまったんだ、俺ぁよぉ」


 2番バニング・ミンガイルと対峙しているのは、逆神大吾。

 何となく巻き込まれた阿久津浄汰もその場にいた。


 既に2番の射程圏内に入っていると悟った阿久津は無理な逃走を諦める。

 彼もSランク探索員か、甘く見積もれば監察官に匹敵する実力者。

 「みっともなく背中に傷つけられて死ぬのはごめんだぜぇ」と覚悟を決めていた。


「言い遺しておく事はあるか? 私は同じ相手と2度戦闘した経験が極めて少ないのが自慢でな。貴様たちはどうやら、私の自慢を砕くのが得意らしい。ならば、3度目は絶対にない事をその身をもって理解せよ!!」


 2番が煌気オーラを解放する。

 凄まじい圧は熱風のようであり、阿久津は「ちぃっ!」と舌打ちをして『結晶シルヴィス』で防御壁を作る。


「おぎゃあぁぁぁぁぁ! あっちぃぃぃぃ!! なんか今日のオレ、焼かればっかじゃね!? うぎゃあぁぁぁぁ! 腰みのに引火しやがったぁぁぁぁぁ!!」

「マジかよ、親父よぉ……。なんでお前ぇ、そんな至近距離で立ってられんだぁ?」


 大吾は絶叫していた。

 が、2番と1メートルも離れていない場所から一歩も動いていない。


 ちなみに阿久津は5メートルの距離を取ってもなお、その煌気オーラに気圧されている。


「……貴様。名を聞いておこう」

「なんだ、この髭! やんのか!? よっしゃ! 聞かせてやるぜ!! オレの名前は逆神大吾!! てめぇをぶん殴って10万ゲットする男ってのは、オレの事だぜ!!」


 ほとんど全裸のおっさんが、自分の全開にした煌気オーラに怯みもせず、陰部すらも隠さずにこちらを指さして来る事実。

 2番はちょっとだけ汚物に名前を聞いた事を後悔していた。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 2番は容赦をしない。

 既にせっかく脱獄させた将来性のありそうな囚人を何人か失っている。


 彼が特に連れて帰りたいのは姫島幽星とパウロ・オリベイラ。

 姫島幽星のスキルは希少価値が高く、鍛え方によっては化けるだろう。

 パウロ・オリベイラは脱獄した囚人の中で最も強く、現時点でも既にシングルナンバーの上位を任せられる逸材。


 よって、2番はこれ以上の時間の浪費を何よりも嫌った。

 『魔斧ベルテ』を振りかぶり、大吾と阿久津に襲い掛かる。


「喰らえ。『アマ・デトワール』」


 2番の斧から無数の煌気オーラ弾が星屑のようになって降り注ぐ。


「ちぃっ! おらぁ! 『金色結晶流星群ディアトン・アステラス』!!」

「ヤダ! あっくん……! オレのために……!!」


 星と聞いては黙っていられない阿久津浄汰。

 『結晶外殻シルヴィスミガリア』をフルアーマーで展開し、どうにか2番のスキルを相殺して見せる。


「ほう。なかなかの使い手だな。どうだ? アトミルカで働く気はないか?」

「くははっ。その誘い文句は聞き覚えがあんだよなぁ! 悪ぃが、俺ぁもう誰かの下につくのはごめんなんでなぁ!!」



「あっくん! 今、オレたちって探索員協会の下についてね!?」

「親父よぉ。少しだけ黙っとけねぇのかぁ? 空気読めよなぁ?」



 2番は『魔斧ベルテ』を分裂させ、片方を力任せに投げつけた。

 続けて、巨大な煌気オーラ弾で追撃する。


「……これは驚いた。『エアラリス』も防いで見せるか」

「くっ、くははっ! てめぇよぉ。スキルの名前がヨーロッパ圏の言語まざり過ぎだろぉ? そういうの、俺ぁ気になるんだがよぉ」


「ふっ。減らず口も叩けるか。すまんな。私は若い頃、欧州の各国を転々としていたためスキルの名前もバラバラなのだ。習得した土地の言葉を使うのが私の流儀でな」

「あぁ、そうかよ。そりゃあ結構な趣味だなぁ?」


 阿久津は会話を引き延ばしながら、大吾に目配せをした。

 距離と位置関係を考えれば、不意の一撃を喰らわせる事が叶う可能性は大吾の方がずっと高い。


 その一撃に賭けるしか、勝機はないと既に阿久津は悟っていた。


「本来ならば戦いを楽しみたいところだが。残念だ」


 2番が『魔斧ベルテ』を一瞬だけ消して見せた。

 その隙を待っていた阿久津は叫ぶ。


「くははぁ! 喰らえよ! 『金色結晶巨星砲アステリ・ベケルゼズ』!! 親父ぃ、今だ!!」

「よっしゃあ! 任せとけ、あっくん!! 『煌気極光剣グランブレード』!! 二刀流、奥義!! 『逆神大斬慈さかがみだいさんじ』!!」


 具現化できる『結晶シルヴィス』全てを集約させて放った阿久津の煌気オーラ砲と、大吾がフォークとスプーンで繰り出した逆神流剣技の奥義が2番を襲う。


 が、「ふっ」と不敵に笑った2番はまず素手で阿久津のスキルを弾き飛ばす。


「……ちっ。マジかよ。こりゃあ、相手が悪すぎたなぁ、おい」

「いや、貴様は健闘した。褒美に手加減なしのスキルをくれてやる。『シュテルン・ファオスト』!!」


 目にも留まらぬ速さで移動した2番の拳が阿久津浄汰を捉えた。

 阿久津が身に纏っていた『結晶外殻シルヴィスミガリア』がガラガラと崩れ落ちる。


「あ、ああ、あっくぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅん!!」

「うるせぇなぁ、おい……」


「心配するな。殺しはせん。気骨のある男は嫌いではない」

「あ、ああああん、あっくぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅん!!」


「貴様とも出会い方が違えばと思わんでもない。私に倒された事を今は誇るが良い」

「……くっそが」



「あ、あんあんあん! あっくぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅんっ!!」

「……最悪だぜぇ。俺が負けたってのに、なんかコミカルな空気になりやがる」



 大吾は悔しがった。

 パチンコでなけなしの30000円が一度も当たる気配を見せずに吸い込まれていった時と同じくらいに悔しがった。


「ちくしょう!! どうしてオレの奥義が効かねぇんだ!!」


 それは多分、得物がフォークとスプーンだからである。


 フル装備でも多分効かないのに、どうしてフォークとスプーンでアトミルカ実働部隊のトップを倒せると思ったのか。


「あっくんの仇は、オレがとって見せる!!」

「ほう。貴様にもそのような気概があったか。では、これをどう受ける?」



「あっ! ごめんなさい!! やっぱり無理だ! あんた強いなぁ! うひゃー! びっくりしたぁ! よし、ここは引き分けにしよう! ね! いい戦いだったよ、お互いさ!! あらぁ、よく見たらお髭がとってもセクシーで!! あたい惚れちゃいそう!! ね、仲良くしまょう、ダンディなおぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」


「……私がこれまで相手にして来た者のリストに、貴様だけは入れたくないな」



 無言の煌気オーラ拳で吹き飛ばされた逆神大吾。

 こうして、2番は戦いを終える。


「さて。私も次の戦場へ向かうか。……ふむ。海沿いに3番がいるな。10番、応答しろ。現状を報告するのだ」


 2番に敗れた阿久津浄汰だったが、彼の悪人なりの矜持を見た気がした。

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