第405話 監察官・木原久光の復活と、上級監察官・雨宮順平の油断

 逆神六駆の帰還に気付いた久坂剣友監察官。

 老兵は速やかに助けを求める。


 「若い者には負けん」と言う気概も大切だが、困った時は若者に頭を下げられるのが正しい年寄りの流儀であると久坂は知っていた。


「六駆の! ちぃとこっちに手ぇ貸してくれ!! 木原の小僧がまったく役に立たんけぇのぉ! あやつが戦いで役に立たんとか、もう一大事じゃろがい!!」

「久坂さん! お久しぶりです! ちなみにそのミッションって」


 六駆の言いたい事を全て理解した上で、久坂は頷く。



「ワシが追加の報酬50万ほど出しちゃろう! あと、美味いうなぎを食わせちゃる!」

「莉子、芽衣! 南雲さんと一緒に海岸の方のフォローをお願い! 僕は緊急ミッションが発生したから行って来るよ!!」



 逆神六駆プレイングチケットは先着順に消費されて行く。

 今回は久坂剣友の電光石火が功を奏した。


「うんっ! 分かったよぉ! 六駆くん、気を付けてね!!」

「莉子もね! 芽衣と南雲さんを守ってあげて! 3人とも、僕にとっては欠かせない人だってカルケルに来て思い知らされたよ!!」


 そう言うと、六駆は駆けだしていた。

 残された3人が同時にトゥンクと胸を脈打たせる。


 「逆神くんの口からお金以外のものを大事だと聞く日がくるなんて」と南雲は感動した。

 監獄ダンジョン・カルケルで心がちょっと綺麗になった逆神六駆である。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 木原久光監察官は六駆の到着を待ち切れずに、強行策と言うか、凶行策に打って出ていた。


「木原さん! うわぁ! 何やってるんですか!!」

「うぉぉぉん! 逆神じゃねぇのぉ! ナイフの先っぽ取ろうとしてたら、腕に穴が空いちまったんだよぉぉぉぉ!!」


「あー。これ、なんか妙な煌気オーラを感じますね! さては煌気オーラ封印系の何かですか。僕に任せて下さい! まずはこのナイフの先に『煌気オーラS極』! そして、僕の右手に『煌気オーラN極』!! ふぅぅぅんっ! 『磁石で魚釣りするヤツマグネットフィッシング』!!」


 煌気オーラを封じる『封印玉シール』だが、その『封印玉シール』に煌気オーラが通じないとは誰も言っていない。

 六駆のお手軽工作で、木原の腕から忌々しいイドクロアが抜け落ちた。


「うぉぉぉぉん! 逆神ぃ、お前ってやっぱいいヤツだなぁぁぁ!! 今度小遣いやるよぉぉ! 200万くらいで良いかぁぁ!?」



 逆神六駆の中で木原久光の好感度が跳ね上がった瞬間であった。



「本当なら、あそこで怪しい動きしてるアトミルカの3番ですっけ? あの人のところに行こうかと思ってたんですけど! 木原さん! 一緒に久坂さんを助けましょう!!」

「うぉぉぉぉん! 任せとけぇぇ!! 背中に乗れよぉ、逆神ぃ!! 行くぜぇぇぇ!! ダァァァイナマイトォォォォ!!」


「あっ! これは便利だなぁ! よいしょっと!」


 逆神六駆、木原久光に搭乗する。

 現世で最も凶悪な騎馬戦が始まろうとしていた。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 かつて、人工島・ストウェアを襲ったアトミルカ7番を諸君は覚えているだろうか。

 今はZ7番に身をやつしながらも、無事にウォーロストから脱獄していた。


 名前をロン・ウーチェン。

 先に敗れた5番アルジニー・グクオーツはリアリストであったが、このロン・ウーチェンはエゴイスト。


 自分の利益を優先するきらいがあり、性質的には3番に近い。

 そこで、3番から密命を受けていた。


 それは「雨宮上級監察官を無力化せよ」と言うものであり、Z7番の手には先ほど六駆が破壊した『封印玉シール』が握られていた。


「せいぜい派手に注意を引いてくれよ、囚人ども」


 Z7番は煌気オーラを消して、海岸の岩陰に身を隠す。

 彼は魚釣りを嗜む男であり、好機が来るまでじっと耐え続けるのは得意である。


 ただいま雨宮順平はポール・ノリスと交戦中。

 とは言え、実力の差は明らかだった。


「ジーザス! 野郎、スキルが当たらねぇ! 『バイブレーション・ガム』!!」

「あららー。残念だけど、君さ、弱いなぁー! そのベトベトした触手で拘束するのがセオリーなんでしょ? いくらなんでも遅すぎるよー!」


 ポールの『バイブレーション・ガム』はカエルの舌のように伸びる触手を、振動により複雑な動きを加えることで敵を翻弄するスキル。

 使い方によっては強力なスキルだが、今回は相手が悪い。


「ガッデム! ブシドーはどうした、ジャパニーズ!! 正々堂々とスキル同士で戦え!!」

「ヤダー。おじさんと価値観が合わないねー、君。バンドだったらもう解散してるかなー。舞妓さんの話するからさー、その辺りは趣味が合うかと思ったのに」


「それならば! 喰らえ! 『ガム・タックル』!!」


 ポールは全身に粘着性の物質を具現化し、そのまま雨宮めがけて突進してくる。


「ごめんねごめんねー! くっ付くのはキャシーとじゃないとね! 君はそこに岩とでもくっ付いてなさい! なんちゃら棒術! 『犠打で本塁打フルパワーバント』!!」

「ハーッハァ! 武器を手放すとは愚かなジャパニーズ! これで条件は五分五分になっあぁぁぁぁぁぁ!? あぎぃぃぃぃぃっ!!」


 雨宮が押し付けた『物干竿ものほしざお』ごとポールが吹き飛んで行った。


「その棒なら、あげるよー。おじさんね、スペアがイギリスにあと20本くらいあるから! ……あ! ごめん! キャシーじゃなくてジェシーだ! あとジェニファーも!!」

「く、クレイジー……」


 雨宮順平、ポール・ノリスを順当に倒す。

 一方、『新緑の眩しい緑モリモリグリーン』の中で絶賛回復中の川端一真監察官が、彼に向かって何かを叫んでいた。


「あららー! 大丈夫! ジェニファー言ってましたよ、川端さん! ミスター川端はおっぱい触らせてあげるだけで満足してくれるナイスガイだって!!」


 川端は、もちろんジェニファーについて色々と言いたい事があったものの、この時は別件について大声を出していた。


 「雨宮さん、後ろ、後ろ!!」と。


 気付けば雨宮上級監察官のすぐ近くまでにじり寄っていたZ7番。

 雨宮の弱点は「負けた事がないゆえの警戒心の薄さ」である。


 ストウェア襲撃の際も、ガッツリ『幻獣玉イリーガル増殖ゾンビ』を喰らってゾンビ化していた事実を、その時指揮していたロン・ウーチェンは覚えていた。


「……獲った!!」

「あららー。なんだか見覚えのある顔のような、そうでもないようなー?」


 不意打ちを避けようとしない雨宮。

 ひとつでもボタンが掛け違っていたら、彼の煌気は封じられていただろう。


「ほいさぁ! 逆神流針術!! 『海月くらげし』!!」

「ぐぁあぁぁっ! どこから出て来た!? このじじい!!」


 逆神四郎、ここに健在。


 彼は【黄箱きばこ】から取り出した『魔針マシーン』でZ7番の手の甲を突きさした。

 四郎の援護を受け、ようやく雨宮も「自分が何をされようとしていたのか」について興味を抱いたらしくZ7番を見る。


 すぐに理解ができるのも雨宮の実力ならば当然。


「あら! やだー!! 私、大ピンチだったじゃないですかー!! 四郎さん、ありがとうございます! 今度、行きつけのおっぱいをご馳走しますよ! ほら、あそこにいるおっぱい男爵が詳しいんで!」


 四郎はにっこりと笑って、答える。


「ワシにはまだ最愛の嫁がおりますじゃ。今は息子の妻の面倒を見るために別居しとりますがの。みつ子は裏切れませんわい」

「くぅー! 四郎さん、カッコいいー!! じゃあ、おじさんがこれから頑張るので、四郎さんは休んでてください!」


 四郎は「では、ワシは山嵐くんの治療を引き受けますじゃ」と言って、後方に下がった。

 なお、山嵐助三郎は本日3度目の『白い魔法の粉ハッピーターン』である。

 『新緑の眩しい緑モリモリグリーン』との併用でもある。


 諸君、『白い魔法の粉ハッピーターン』は用法用量を守って摂取して欲しい。

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