第404話 「お待たせしました!」逆神六駆、戦場へ到着する 監獄ダンジョン・カルケル 地上

 久坂剣友監察官を筆頭にアトミルカをカルケル内に押し戻そうとするチーム。


 それとは別に、先ほどまで海岸線で大規模な対空迎撃戦を繰り広げていた加賀美隊と椎名クララ。

 さらに「お主らはここにおったほうがええじゃろ」と言って久坂剣友に待機を命じられた、塚地小鳩と55番。


 彼らは疲労の色が濃い。

 そして、得てしてそんなシチュエーションに降って湧くのが敵役。


「ピータン! ピータンじゃないか! なんてこった! 真っ二つになってやがる!! ジャパニーズのブシドーに慈悲はないのか!?」

「あっちで倒れてる姫島を見つけたよ……。2番さんが言うから、一応3番さんに引き渡して来たけどさぁ。あの人、全然喋らないから苦手なんだよなぁ」


 現れたのはウォーロストに収監されていた囚人が2人。


「シット! ジャパンの舞妓ってガールズは大好きなんだけど、ブシドーは好きになれそうにないぜ!! こうなったら、ピータンの仇はオレが!!」


 この陽気な男はポール・ノリス。

 尊敬する人はチャック・ノリス。

 好きなブランドはポール・スミス。


 そんな彼は、ポール・ノリス。


「うわー。マジかよ。ボク、アトミルカに入るんだ……。嫌だなぁ。ウォーロストよりはマシだと思ってついて来たけど、人と戦うの嫌いなんだよなぁ。……ボクのポリシーは暗殺・瞬殺・謀殺なんだけどなぁ。正直に言ったら、置いて行かれそうだもんなぁ」


 逆に、このネガティブな男はパウロ・オリベイラ。

 争いごとが大嫌いで、嫌うがあまり暗殺家になった奇妙な男。

 既に隠密行動で姫島幽星を確保、保護した仕事のできる男でもある。


「うにゃー! なんだかヤバそうな人たちがこっちに来たにゃー!!」


 どら猫クララさん、久しぶりに喋る。


 なお、彼女の弓スキルでアトミルカの空襲部隊の4割を撃墜しているのだが、例によってその活躍はまったく描かれていない。


「困りましたわね。わたくし、煌気オーラの残量にかなり不安がありますわ。クララさんはどうですの? まだお顔は余裕そうですけれど」

「にゃははー。スキルは使えるぞなー! だけど、あたしのスキルが通じる気は全然しないんだにゃー! にゃっはっはー!!」


 小鳩は思い出していた。



 「あ。この子、危機意識が極めて希薄なのでしたわ」と。

 昨年度留年をしたのに、今年度も留年しそうなクララを見て、小鳩は「人は同じものさしでは測り切れないものですわね」とため息をつく。



「ここは自分が……! 土門さん、坂本くんと山嵐くんにも下がらせてくれるかい? あれ? 山嵐くんは!?」


 加賀美政宗Sランク探索員はまだ余力がある様子。

 だが、逆神四郎の『魔法の白い粉ハッピーターン』で2度目の復活を遂げた山嵐助三郎隊員の姿を見失っていた。


「加賀美さん! オレならここです! ご迷惑をおかけした分、露払いは任せて下さい!! うぉぉぉ! 『ガイアスコルピウス』!!」


 ついにカルケルにやって来て、ただやられ続けて来た山嵐がスキルを発現させる。

 が、遠距離攻撃スキルを敵の目の前で構築すると言うミステイク。


「うわー。目が合っちゃった。じゃあ、殺さないと。『スティンガー』!」

「げふっ! あ、あれ!? 血、血が……」



「山嵐くん!!」

「これ、1人にカウントして良いのかなぁ。いや、怒られそうだよなぁ。雑魚狩りして偉そうにしてんじゃねぇぞとか。3番さん辺りが言いそうだもんなぁ」



 山嵐助三郎、パウロの突き出したトゲで腹を貫かれる。

 だが、安心して欲しい。


 この場には、回復に長けた者が2人もいるのである。


「あららー! うちの子に酷い事してー! そっちの君は舞妓さんに興味あるの? おじさんはね、舞妓さんがお化粧落としたところが好きなんだよねー! 自分だけに見せてくれる素顔とか、ステキじゃん?」


 雨宮順平上級監察官。

 すぐさま山嵐を『新緑の眩しい緑モリモリグリーン』で包み込む。


 この場にいる緑の再生膜に覆われた人間が3人になってしまった。

 ちょっとしたホラー映像である。


「ううむ。六駆は間に合いませんでしたかの。では、この老いぼれが時間稼ぎを務めますじゃ。加賀美さんや。年寄りの介護を任せるようで申し訳ないですが、共に戦ってくれますかの?」


 逆神家の良心。逆神四郎もまだまだ健在。

 そこに加わる加賀美政宗。


「ええ! 弱卒の身ですが、四郎さんの戦い方を学ばせて頂きます!!」


 海岸線の戦いは一見すると探索員チームに不利な条件が揃っているように見える。

 が、戦力的には囚人2人がかりでも雨宮1人に勝てはしないだろう。


「ふむ。こちらは計画通りですね。結構。777番くん。装備を持ってこちらに来なさい」

『了解しました。3番様』


 非道な策ならこいつにお任せ。

 アトミルカのドライアイスこと、3番クリムト・ウェルスラー。


 彼の狡猾な誘導によって、2人の囚人が捨て駒として消費されようとしていた。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 彼の気配にまず気付いたのは、やはり2番だった。


「……来たか。思ったよりもずっと早いな。これは少しばかり面倒だ」

「こ、この煌気オーラは! 2番様を相手にしてまったく退かなかった小僧のものですか!?」


 2番の隣で命令系統の補佐を務める10番が息を呑む。


「そうだ。私の計算では、3番の防御層から脱出するのに半日はかかると思っていたのだが。数時間で出て来られては面目丸つぶれだな」

「誰を当てますか!? 3番様は転移の準備をするとおっしゃってどこかへ行ってしまいましたし! ……ここは、自分が!!」


 2番は10番を一喝する。


「バカを言うな。10番。若く功に焦る気持ちは分かる。それは必要な感情だ。しかし、思い上がるな。戦場で驕った考えをすれば、そのまま敗北に直結する」

「も、申し訳ありません!!」


「いや、意地の悪い言い方をしてしまったな。要するに、お前では手に負えん。その気持ちだけを受け取っておこうと言う話だ」

「そ、それでは!?」


「もちろん。私が出る。あの猛者を相手に渡り合えるのは、3番か私だけだからな」

「……了解しました。命令を円滑に通すため、通信回線を開いたままにする事をお許しいただけますか?」


 2番は「よし。いい判断ができるではないか」と10番を小突いた。

 バニング・ミンガイルは『魔斧ベルテ』を発現させ、2度ほど振り回した。


 戦いの用意はそれで完了したらしい。

 彼は、猛者と認めた男が転移してくるのを静かに待つ。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 【稀有転移黒石ブラックストーン】の発着座標に巨大な門が生えて来た。

 そのスキルの主は、もちろん6つの異世界を1人で平定した最強の男。


「いやぁ! シャバの空気は久しぶりだなぁ!! ああ! もう気持ちいい! カルケルの中は暗かったですからね! ああー! 太陽がまぶしいや!!」


 逆神六駆、ついに戦場に馳せ参じる。


「逆神くん! 凄まじい煌気オーラが近づいてくるが!」

「大丈夫です。僕に策があります!」


「その笑顔を信じて私は一体、何杯のコーヒーを噴き出したことだろう!!」

「ふぅぅぅぅんっ!! 『親父囮弾発射ダメニンゲンデコイ』!!」



「おぎゃあぁぁぁぁっ! 痛い! ちょっと、六駆!? なんでお父さん急に蹴るの!?」

「……貴様。まさか生きていたとは。と言うか、私の攻撃を受けた傷が治っていないか?」



 逆神六駆。

 この戦場で最も強い男だと確信している2番バニング・ミンガイルに、何の躊躇いもなく自分の父親をぶつける作戦に打って出た。


「逆神くん!! お父さんが死んじゃうよ!?」

「大丈夫ですよ! 多分! その前に、色々なところの戦局を1つずつ潰していった方が良いと思いまして! 親父は大丈夫です! 知りませんけど!!」


 辺りに広がる、賞金首のお花畑。

 逆神六駆は一体、いくつのお花を摘み取るのだろうか。

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