第402話 いま、会いに行きます ~轟く『合体・苺光閃』と『蓋世・大竜砲』~

 異世界・ウォーロストからの脱出方法は決まった。

 だが一時的にとは言え、重大犯罪者たちのいるウォーロストと現世への道を開通させてしまう事になり、それで間違って囚人が脱獄でもしようものなら、割と困る。


 南雲修一は現場指揮官として非常に困る。

 逆神六駆はゲットする報酬が減りそうで困る。


 そこで六駆は聞いてみた。

 誰に。何を。


 囚人たちに。「脱獄しないでほしいんですけど、しちゃいますか?」と。


「オレは当分このウォーロストにいるつもりだからよ、心配すんな。スキルも場所限定で看守にバレねぇようにって条件付きだが、使えるようにしてもらったしな。義理を欠くような真似はしたくねぇ」

「あらー! エロニエルさん、ご立派! いつか出たくなったら、自力で脱獄してくださいね! アトミルカに戻ったら、また僕が捕まえますけど! うふふ!!」


 グレオは「そりゃあ勘弁してほしいな」と笑った。

 現在、ウォーロストの顔役になっているZ4番とZ6番のコンビ。


 彼らが「脱獄を良しとしない」姿勢を見せている以上、囚人たちも騒ぎを起こさないだろう。

 何度も繰り返しているが脱獄の大チャンスがあり、下柳則夫ですらどさくさに紛れてウォーロストから出られた事を鑑みるに、今残っている囚人たちに謀反気はないかと思われた。


「逆神ぃ。お前がいるのによぉ。そのヤベーヤツに無防備な背中見せて脱獄しようって楽天家がいると思うかぁ? 俺ぁ命を賭けてまでそんなリスキーな策は撃たねぇぜ?」


 阿久津の言う事が全てであった。

 そこに逆神六駆がいる。


 これが脱獄防止の最大の抑止力となっていた。


「さてと。こっちの出力は、まあ僕がちょっと本気でスキルを撃てばどうにかなると思うけど。問題は莉子たちの方かな」

「なんでだよ、六駆ぅ! 莉子ちゃんの『苺光閃いちごこうせん』でドカーンじゃね?」


「親父は本当にバカだなぁ。『苺光閃いちごこうせん』には属性がないんだよ。つまり、普通の防御層の類をぶっ壊す事は余裕でも、今みたいに多重に属性を入れ替えしてあるいやらしい防御層が相手になると、少しずつだけど威力が削られていくんだよね。多分、通常版だとギリギリ届かないかな」

「マジかよ! やべぇじゃん!!」


 「あのさ、親父も一緒に作ったよね。『苺光閃いちごこうせん』をさ」と呆れながら、六駆は少しばかり思案する。

 割とすぐに打開策を思い付くのは、もはやいつもの事。


 諸君、理由が必要だろうか。

 愚問であった。


「よし! 『合体がったい苺光閃いちごこうせん』のお披露目にしよう! 南雲さーん! 聞こえてますかー?」

『ああ。聞こえている。つまり、私と木原くんが小坂くんの『苺光閃いちごこうせん』に属性スキルを乗せれば良いんだな?』


「さっすが! 筆頭監察官にもなると理解力が違いますね! ところで、南雲さんって得意な属性はなんですか?」

「得意な、と改めて言われると困るな。私は一通りの属性を使えるが、取り立ててこれ! と言うほど極めている属性はないんだ」



「……南雲さん。がっかりだなぁ。よいっしょー」

『そんな事を言われても……。うわぁ! いきなり小窓から顔を出すなよ! 怖いよ、逆神くん!!』



 六駆の行動は速かった。

 1分1秒を惜しむ現状である。


 地上にアトミルカの本隊が出て行ってしまった以上、それを追いかけなければならない。

 臨時ボーナスをみすみす逃す手はない。


「芽衣は『分体身アバタミオル』でドッペルゲンガーめいっぱい増やして、『煌気散弾銃ショットガン』撃ってくれる? あれ、光属性だから! 煌気オーラなくなっても僕がいれば回復できるし!」

「みみっ! 了解です!! みみみぃっ!!」


 続いて、六駆は指先に煌気オーラを込めて南雲を呼んだ。


「南雲さん! こっち向いてくれます?」

「なんだね?」


「そこだ! 許可取る手間がもったいないので! 『貸付古龍力レンタラドラグニティ二重ダブル』!! そしてぇ! 『古龍上々ドラグアゲアゲ』も付与!!」

「えっ、ちょっ、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」


 南雲修一の体が、ドラゴンの煌気オーラで満たされて行く。

 六駆のスキルを受けてから、わずか30秒。

 すぐに効果が出るのがこのスキルのセールスポイント。



「……ふっ。この力、再び使う事になるとはな。……悲しいな。どうして人は、力を求めてしまうのだろう」


 全国200万人の古龍の戦士・ナグモファンの皆様、お待たせしました。



「さあ。早く済ませてしまおう。声がするのだよ。地上で私の名を呼ぶ声が、ね」


 スーパー古龍の戦士・ナグモ、再臨の時が来た。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 準備が整ったので、六駆はウォーロストの囚人たちを後方に下げて『赤壁の番人レッドブロック』を広域展開する。

 もちろん、『合体がったい苺光閃いちごこうせん』を相殺するつもりの六駆だが、彼は緻密な煌気オーラのコントロールにやや難がある。


 万が一に備えての配慮だった。


「よっしゃ! あっくん! オレらも下がってようぜ!!」

「親父。親父は僕の前に立っててくれる?」


「なんでぇ!? 危ないじゃん! 爆心地のど真ん中じゃん!! お父さん死んじゃうよ!!」

「仕方ないだろ。僕もそれなりにガチでスキルを撃つからさ。手の位置を固定したいんだよね。その点、親父の肩は実にいい塩梅なんだよ」


「納得できるかぁ! ちなみに息子よ? 何使うの? スキル」

「もちろん『大竜砲ドラグーン』だよ。昔、周回者リピーターの頃に作ったけど、使う機会がなかったヤツ」



「おまぁぁぁぁ! それ、強力過ぎるからセルフ封印してるパターンじゃんかぁ!!」

「おお。親父のくせに鋭いね。だから、ちょっと地面に埋まってくれる?」



 「冗談じゃねぇ!!」と暴れる大吾。

 六駆は阿久津にアイコンタクトを試みた。


「分かったぜぇ。親父よぉ。悪く思うなよなぁ?」

「えっ!? なに!? あっくん!? 何すんの!?」


「こんだけ異界の門に近づいて、オマケに小窓で現世との隙間もできてんだからよぉ。まあ、それなりのスキルは使えるよなぁ? 『結晶拘束ペリオリズモス』!!」

「おぎゃあぁぁぁぁぁ!! 体が埋まってくぅぅぅ!! ヤダ、なにこれ!? ヤダぁ!!」


 阿久津のスキルで、綺麗に下半身が地中にナイスインした大吾。

 六駆は速やかにその肩に腕を乗せた。


「莉子! タイミングはそっちに合わせるよ! 芽衣と南雲さんも大丈夫ですね!?」


『うん! 分かったよぉ! 2人とも、がんばろー! おー!!』

「みみみぃっ!! 『分体身アバタミオル二重ダブル』!! 準備オッケーです! みみみみぃ!!」


「……ふっ。誰しもが力を求める。そんな世界を力で守る私も、同じ業を背負いし咎人とがにんなのかもしれないな」


 スーパー古龍の戦士も準備万端だと言っております。


 莉子が手の平に煌気オーラを集める。

 今回は上乗せする属性に負けないため、手加減なしの全力解放。


「いきますっ! やぁぁぁぁぁぁっ!! 『苺光閃いちごこうせん』!!!」

「みみぃっ! 『分体身アバタミオル煌気散弾銃ショットガン』!!」

「……ふっ。力と言うのは虚しいものだ。『古龍波動撃ドラグフラッシュ』!!」


 ゴォンと轟音を響かせて、いつもよりもちょっとどす黒い苺色の光線が3番の作った防御層を破壊していく。

 その気配を察知した六駆も、すぐに応じる。


「ふぅぅぅぅぅぅんっ!! 『蓋世がいせい大竜砲ドラグーン』!!!」

「おぎゃあぁぁぁぁぁぁっ! 肩があちぃぃぃぃぃ!! ちょ、六駆ぅ! お父さんの肩、これスキルに当たってるよね!? なんで!? 土台にするんじゃなかったの!?」



「ごめん、親父。やっぱり親父の肩に手を乗せるには抵抗があって。ふぅぅぅぅぅぅぅんっ!!」

「おぎゃあぁぁぁっ! あっつい! あっ! 感覚失くなってきた! ちょ、待って! オレの肩、まだちゃんとくっ付いてる!?」



 『合体がったい苺光閃いちごこうせん』と『蓋世がいせい大竜砲ドラグーン』が防御層の両側から驚異的な力でそれを破壊する。

 最後にちょうどウォーロストと現世の中央でぶつかり合った超弩級の煌気オーラは、見事に相殺され眩い光を放つ。


 逆神六駆、彼はついに現世への帰還を果たしたのだった。

 これだけやりたい放題やってなお、監獄ダンジョン・カルケルが崩壊していないのも高評価ポイントである。

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