第401話 再会 ~逆神六駆と小坂莉子、久しぶりに会う~

 少し時計の針を戻そう。


 南雲たちはドノティダンジョン第11層で、偵察に行った山根健斗Aランク探索員の操るステルスサーベイランスの帰りを待っていた。


「南雲さん! もぉぉ! 我慢できません! わたし、行きます!!」

「待って! 小坂くん!! まだ6分しか経ってない!!」


「えっ? 今、六駆くんって言いました!?」

「言ってないよ!? 6分としか言ってない!!」



「また六駆くんって言いましたよね!?」

「まずい! 小坂くんが重症だ!! 木原くん!! ちょっと、なんでそんな遠くにいるの!?」



 芽衣は莉子の「六駆成分不足」にいち早く気付き、距離を取る事で発生するであろう巻き添えから身を守っていた。

 さすがはかつて戦闘を極力回避する事だけに情熱を燃やしていただけのことはある。


 そこに、サーベイランスが戻って来た。

 南雲は急いで状況の確認をする。


「やぁぁぁぁっ!!」

「おおおい! ダメだよ、小坂くん! なに煌気オーラ溜めてるの!? 山根くん! 状況報告! 早く、急いで、端的に!!」


 莉子さんが暴発寸前である。

 山根も「ダンジョン崩壊はまずいっすねー」と判断し、素直に南雲の指示に従った。


『不思議なことにっすね。カルケルの異界の門の前には、1人しかいないんすよ。煌気オーラ反応は2つあるんすけど。その1人も、そこまで強くないっす。2南雲くらいっすね』

「私より強いじゃないか!!」



「それなら問題ないですね!!」

「こ、小坂くん!?」



 チーム莉子の良心、小坂莉子。

 その良心は恋心にあえなく完敗していた。


 もはやここで立ち止まっている事に意味はないと判断した南雲修一。

 決断を下す。


「よし! これよりカルケル第11層に突入する! 敵の戦闘不能を確認するまでは、くれぐれも慎重に行動しよう! ……小坂くん? なんで白衣を掴むのかね?」

「みみっ。南雲さん、舌噛まないようにした方がいいです。みみみっ」


「やぁぁぁぁっ!! 『瞬動しゅんどう二重ダブル』!! 行きますよ、2人とも!!」


「うわっ!? おぉぉぉぉぉぉわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」

「みみみみぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ」



 莉子は南雲と芽衣を捕まえて、風のように連絡通路を駆け抜けた。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 アトミルカには異界の門に用がなくなっていた。

 ゆえに、そこを守護する者も1人だけと2番が指示を出していた。


 居残りのハズレくじを引いたのは、囚人ゴリデス・ゴリゴリオ。

 さぞかし筋骨隆々そうな名前だが、見た目はむしろ痩せている。


 ゴリデスも捨て駒として残された訳ではない。

 「無事に異界の門を守り切ったあかつきには、アトミルカの要職を用意する」と2番が約束していたため、彼の意欲は高かった。


 そこにドガンと音を立てて、ダンジョンの外壁が吹き飛んでいく。


「なんだ? えっ!? ちょっと意味が分からない!」


 心中お察しする。


「さあ、着きましたぁ! あれが異界の門ですねっ!!」


 小坂莉子、現場に到着。元気ハツラツ。


「く、首が痛い……。木原くんはよく平気だな?」

「みみっ! 芽衣、三半規管には自信があるです! 遊園地でもクルクル回る系が好きです!! みみっ!!」


 南雲修一のコンディションは著しく低下。

 木原芽衣は変わらず。


「お、お前たち……! どこから出て来た!?」

「もぉ! なんですかぁ!! あなたこそ、どうしてそこに立ってるんですかぁ!!」



 莉子さん、不条理な言い掛かりをつけ始める。



「さては、お前たちが探索員だな!? ふ、ふふっ。いいぞ、ボクにも運が向いて来た! 3人も倒せば、きっと未来は約束される!!」

「き、君。悪いことは言わないから、降伏しなさい。命の保証はする」


「バカが! 唯一の男のお前が死にかけていて、立っているのは女! しかも子供!! 降伏する理由がどこにある!!」

「ほら! そこだよ! ちゃんと力関係すら把握できないレベルの君が、どうやって彼女の前に立ちふさがれるものか!! ヤメときなさいって、悪いことは言わない!! と言うか、そんな君が私より強いってなんかすごく嫌だな!!」


 莉子さん、無言で手の平に煌気オーラを集約させる。

 ブォンと言う音が、死神の鎌の音色に聞こえたと南雲はのちに語る。


「ふふ、ははっ! 子供の剣遊びに付き合うだけで大出世だぁ! いいぞ、来いよ! 出て来い、ボクの考えた最強の魔剣! 『デビル・ザ・そー』」



「やぁぁぁぁぁっ!! 『苺光閃槍いちごジャベリン』!!」

「あっ? ひ、そいぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」



 莉子さん、『苺光閃いちごこうせん』の形質変化を使いこなし始める。

 槍型ならば相手を倒しても周囲に被害は及ばないし、そこまで高出力ではないため敵の索敵にも引っ掛からない。


「ああ……。まだ彼の名前も聞いていなかったのに。まあ、見た感じウォーロストから出て来た囚人だね。とりあえず生きてるから、拘束しておこう」


 ここで、ウォーロストで大吾が『ゲート小窓プチ』を使用した時間と莉子たちの時が重なる。


「痛い痛い痛い痛い! 六駆ぅ! 押すなって! あら! 莉子ちゃんじゃんか!!」

「わぁ! お義父さん! 無事でよかったですー!!」



「木原くん。小坂くんはどうして、急におじさんの生首が出現して、一切動じずに会話ができるのかな? 私だったら尻もちついてるよ?」

「みみっ。莉子さんの愛は既に常人の理解できる域を超えているのです! 考えるだけ無意味なのです! みみみっ!」



 ついに、ウォーロストと現世の連絡が叶った。

 おっさんの生首しか見えない絵面なのが極めて残念。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 六駆もウォーロスト側で、小窓の外に知っている煌気オーラが3人いる事に気付く。

 ならば事情は変わって来る。


「ふぅぅぅんっ! 『光剣ブレイバー』!! 一刀流! 『薪割まきわり』!!」


 六駆はまず、Z4番とZ6番の煌気オーラ封じの手錠を破壊した。


「おい!? どういうつもりだ!? 逆神、てめぇ! つまんねぇ情けをかける気か!?」

「いえいえ。ちょっとお世話になったので、そのお礼です。異界の門の近くだったら、ある程度の実力者がスキルを使えるのは阿久津さんの『結晶シルヴィス』で確認済みですから。お肉って焼いた方が美味しいでしょ? あ、でも、脱獄はしないでくださいね!」


 Z6番は未だに呆気に取られているが、Z4番グレオ・エロニエルは「お前、本当に訳の分からねぇヤツだな」とため息をついた。


「ちょっと前まで敵だったオレとヒャルッツに塩を送るとかよ。それでオレらが何かしでかしたら、全部てめぇの責任になるんだぜ?」

「何もしないでしょ? 何かするつもりなら、脱獄してたはずですし。それに、仮に何かしようものなら僕が責任もってボコボコにするためにやって来ます!!」


 グレオは「はっ! てめぇに勝てねぇはずだぜ」と自嘲気味に笑った。

 六駆も「お世話になりました!」と応じる。


「阿久津さん! クソ親父を小窓から引っこ抜いてください!!」

「逆神ぃ。お前よぉ? 1番嫌な役を押し付けてくんなぁ? ちっ。分かったよ」


 引きずり出される大吾。


「痛い痛い! あっくん! 優しくしてぇ! お尻が痛いのぉ! 優しくしてぇ!!」

「……最悪だぜぇ? 俺ぁ一体、何をしてんだろうなぁ?」


 無事に邪魔者がいなくなった小窓の向こうに、六駆が呼びかける。


「そっちにいるのは莉子と芽衣! それに南雲さんですね!?」

「わぁ! 六駆くん! 良かったぁ! 会いたかったよぉ!!」


「僕もだよ! 早くマクドナルドに行きたいね! でも、まずはここから出ないといけないんだよね! 実はね——」


 六駆は『ゲート』を封じられている状況を説明した。

 続けて、「莉子たちが来てくれたおかげで、正攻法で脱出できるよ!」と言った。



「僕がこっちから異界の門に向かってスキルを撃つから、莉子たちもタイミング合わせてスキル撃ってくれる? それで、異界の門と防御層をぶち抜こう!! この防御層、結構な強度で困ってたんだけどさ! 双方向からの同時攻撃は想定されてないと思うんだよね!!」

「分かったぁ! 任せてー!!」



 カルケル側では常軌を逸したパワープレイの決定に、我らの南雲監察官が貧血を起こして倒れ込んでいた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る