第393話 上級監察官・雨宮順平VS囚人ピータン・スリッピー

 雷門善吉監察官の使った【稀有転移黒石ブラックストーン】で、監獄ダンジョン・カルケルの発着座標に戦士が降り立った。


「ここが竜宮城かー!」

「何を言っておられるんですか。監獄ですよ!」


「もー! 雷門さんってば、マジメなんだから! 今のはジョークに決まってるでしょ!」

「雨宮さん。国際探索員協会も絡んでいる、非常に重要な任務なんですよ」


「分かってますよってば! ここが竜宮城かー!」

「雨宮さん……。確認なんですが。あなた、酔ってますよね?」


「えー? やだなぁ! 酔ってませんよ! ちょっとジェシーのおっぱいの谷間にバーボン溜めて飲み干すって遊びを7周ほどしただけ!」

「酔ってるじゃないですか!!」


「あっ! 待って、雷門さん!!」

「な、なんですか!? まさか、敵の待ち伏せですか!?」



「ジェシーじゃなくて、ジェニファーだった!」

「イィエアッフゥゥゥゥー! 私かて、一生懸命、精一杯やってニョホォォォー! せやけど、力足りへんからァンフゥ、ハァ! 無力なことが情けなくてナァアァァン゛ッヘサァァァ!! ナ゛ッ!!」



 雨宮は親指を立てて雷門に言った。

 その時の表情は実にいい顔をしており、雷門はさらに号泣する事になる。


 おっさんが張り切るとろくなことがないと、雷門は知っている。


「じゃあね、おじさんが軽くパシーンやったりますから! 雷門さんはこの座標ポイントを守っといてください! 大丈夫、そろそろ敵さんもこのポイントを奪いに来ると思うけど、雷門さんなら勝てる、勝てるー!!」


 雷門は声を押し殺して泣いた。

 早く援軍が来てくれないと、私独りでは絶対に無理だと泣いた。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「ふひっ、ふっひ! オレの外皮、出せる薬、変わる! 例えば、この監察官……ふひっ! 緑色の泡にして溶かすこともできる!」


 その頃、川端一真監察官は生きるか死ぬかの瀬戸際に立たされていた。

 ピータン・スリッピーの胸三寸で緑色の泡になって溶けるらしい。


「こりゃあ参ったのぉ。川端のも監察官として働こうちゅうて頑張った結果じゃから、悪う言えんしのぉ。こがいな有効な人質の取られ方もなかなかないでぇ?」

「確かにそうかもしれん! これでは川端一真が緑色の泡になって溶けるまで、我々は手が出せない!」


「55の。滅多なことを言うちゃいけん。そがいな事は、心の中で思うもんじゃ」

「確かにそうかもしれん! …………!!」


 膠着状態が続き、百戦錬磨の久坂剣友も打開策を見つけられずにいた。

 この場に逆神六駆がいれば。

 そう思わずにはいられない。何度でも。


 六駆のスキルさえあれば、川端が緑色の泡になっても対応できるかと思われ、失ってさらに分かる最強の男の有用性。

 だが、色々できる上級監察官ならば既にカルケルの地に上陸している。


「あららー! 川端さん! なにそれ!! 鋼の錬金術師に出て来るキメラみたいになってるじゃないのー! それ、女の子にウケるかなー?」


 雨宮上級監察官、ほろ酔いで戦場に到着。

 彼は状況を一瞥しただけで理解する。


「よいっしょー! 『物干竿ものほしざお』ー!! はい! 痛いのは一瞬ですよー! 『すごい勢いの棒捌きハイパーフルスイング』!! パシーンってね!!」

「ぬぅっ! くぅあぁぁぁぁぁっ!!」


 川端の右足を叩き切って、彼を救出した雨宮。

 すぐに『新緑の眩しい緑モリモリグリーン』で頑張った同僚を包み込む。


「久坂さん! ここは私が! あっ、ちょっと待って!」

「お、おう。どがいした、雨宮の。敵になんかされたんか!?」



 ご注意ください。

 お食事中の方はここで一旦離脱する事を推奨いたします。

 大丈夫ですか?

 本当に? では、続きをどうぞ。



「いや、ちょっと飲み過ぎて気持ちわるおろろろろろろろろろろろっ」


 酔っ払いのおっさんにされて嫌な事ランキング、トップ3は確実なアレをしでかす、雨宮上級監察官。


 サイコパスの極みのようなピータン・スリッピーも、空気を読んで攻撃してこない。

 もしくは、気持ち悪くなったおっさんがこっちに向かってくるのを嫌ったのか。


 多分そうだろう。

 誰だってそう思う。


「あー。ダメだ。『白いミント味の白シャキシャキホワイト』!! あー。やっぱ酔った時はこれに限るねー。我ながら、いいスキルを作ったもんだよー!」


 再生属性使いの雨宮順平。

 胃と肝臓の再生もお手の物。


「こ、こいつ、頭、おかしい。ふひっ。頭おかしいヤツ、オレ、嫌い」


 ちょっと引いているピータン。

 だが、雨宮はむしろグイグイと迫る。


「うちのおっぱい男爵に酷いことをして! 許さないぞ! ジェニファーと仲良しした事を! この戦いで活躍して川端さんに許してもらうんだ!!」


 『新緑の眩しい緑モリモリグリーン』に包まれていた川端一真の目がカッと開いた。


「え、あ、雨宮さん!! あなた、私のジェニファーとまさか!? 雨宮さん!!」

「えー? あはは! ごめーん、川端さん! 何言ってんのか分かんないや! でも、とりあえずごめーん!!」


 久坂と55番は既に戦線を離脱。

 少し離れたところで全体の戦局を見極めていた。


「55の。よう見ちょけ。雨宮の小僧は人間性に難ありじゃけど、その実力だけは本物なんじゃ。ちゅうかの、その実力しか認められちょらんのに上級監察官になったっちゃあ、これ、大事おおごとじゃぞ」

「確かにそうかもしれん! 私は初めて戦った探索員があなたで本当に良かった!!」


 雨宮が気持ち悪くなくなったので、改めて『物干竿ものほしざお』を構える。

 ピータン・スリッピーも空気を読んでそれに応じた。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「おじさん、君に恨みはないけどね! 明日は明日のおっぱいが待ってるのよ! おっぱい男爵の仇は取らせてもらっちゃうよ!」

「ふ、ふひっ。こいつ、ヤバい。全力、出す。ふ、ふひっ。ふーっひひ、『バンジーポイズン』!!」


 ピータンの体から、緑色の毒液が紐のようになって四方八方に伸びる。

 それが一斉に雨宮へと襲い掛かった。


「おじさん相手に触手プレイはなしかなー! と言うか、ごめーん! 私に毒は効かないんだよねー! ご自由にどうぞ! ほらほら、近づいちゃうよ?」

「ふっ、ふひひっ! 『ポイズン・クラッシュ』!!」


 9本の毒の紐が全て、雨宮の体を貫いた。

 緑色に染まっていく上級監察官。


 だが、顔はニコニコ。満面の笑みである。


「ごめんねー? もしかして、決まったと思ったかな? 私のスキルも緑色だったからさー! 紛らわしかったよねー! ごめん、ごめん! これね『新緑の眩しい緑モリモリグリーン全開ターボ』って言うの!」

「ふ、ふひっ?」


 雨宮は『物干竿ものほしざお』を振りかぶりながら、説明を続ける。


「このスキル使ってる私には、状態異常が効かないんだよね! 喰らった瞬間、勝手に再生しちゃうから! 君と私、相性が悪かったね! ごめーん!」

「ふ、ふひっ! ま、また、異世界、嫌だ! 『グランドぽいず」


 ピータンが繰り出そうとしたのは、恐らく自爆技。

 死なばもろともで周りを巻き込む毒の散布攻撃だったのではないかと思われる。


 推測しかできないのは、そのスキルが放たれる事がなかったからである。


「よいっしょー!! 『筋骨隆々の無茶な振り回しガチムチアッパースイング』!!」

「ふ、ふ、ふひひひひっ!? だ、だぁああぁ! じ、じっけ、ん」


 下から斬り上げた『物干竿ものほしざお』は、ピータン・スリッピーの体を真っ二つにした。

 いくら囚人相手とは言え、殺人はご法度。


 ゆえに、雨宮はすぐに『新緑の眩しい緑モリモリグリーン』を発現させる。


「まあね、悪いことしたくなる日もあるかもだけどさ。おっぱいにむしゃぶりつくくらいにしときなさいよ。監獄の中におっぱいはないでしょ?」


 酔っぱらって吐いて味方を斬って敵も斬った雨宮順平上級監察官。

 そのむちゃくちゃっぷりは、まごう事なき高ランクのサイコパスであった。


 ピータンは、戦う相手が悪すぎたのである。

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