第379話 今明かされる逆神家最大の謎 ~1話に情報詰め込み過ぎてアレがナニする~

 大吾がサーベイランスに向かって功を誇る。


「ちょ、見てた!? 今の撮ってた!? 福田さん!! オレ、ちょーカッコ良かっただろ!? ねえ、撮ってた!?」

『大吾さん、南雲です。申し訳ないのですが、サーベイランスの煌気オーラ残量にも限りがありますので、今回は撮影していません』


 大吾は「ええっ!? マジかよぉ!!」と悔しそうに地団駄を踏む。


「アナスタシアに見せてやろうと思ったのにぃ!!」

『アナ……? ああ、ガールズバーの女の子ですか?』



「何言ってんだよ、南雲さん! オレの嫁だよ!! 逆神アナスタシア!!」

『ぶふぅぅぅぅぅぅぅっ!! げっほ、ゔぉえ、がはっ!!』



 南雲監察官がオペレーター室でコーヒーを噴きました。

 オペレーター室は飲食禁止なので、このあと五楼さんに怒られます。


 だが、そんな些末な事を気にしてはいられない事実が飛び出した。

 逆神大吾に妻がいる事は分かっていた。


 逆神六駆と言う彼の息子がいるのだから、当然母親もいるだろう。


 だが、我々は半ばそれを疑っていた。

 「六駆は養子で、大吾の妻と言うのは想像上の生き物ではないのか」と。


 南雲も同じ思いだったらしく、コーヒースプラッシュから復帰したのち、すぐに問いただした。


『だ、大吾さん!? あなた、本当に奥さんがいらっしゃったんですか!?』

「いらっしゃるよ。オレ、既婚者だって何回も言ってるじゃんか」


『な、なるほど。外国人の方でしたか……。確かに、海外は日本と価値観が違いますもんね。なるほど、世界は広いなぁ』

「いいや、違うぜ? 南雲さん、まだまだ若いなぁ! 想像力が足りねぇって!!」


 お前が言うな。

 いい年をしているお前が言うな。


『え……? もしかして、キラキラネームですか? 大吾さんの年代にもあったんですね。驚いたなぁ』

「いやいや、本名だって!」


『……すみません。ちょっと意味が分からなくなってきました』

「アナスタシアは異世界人だからよ! オレにすっかり惚れちまって、現世について来ちまったんだよ! いやー、オレったら罪作りな、お・と・こ!!」


 ご注意ください。

 南雲監察官は心を落ち着けるために、コーヒーを飲んだばかりです。



『ぶふぅぅぅぅぅぅぅっ!!! えええっ!? あ、あなた、異世界人を現世に連れ帰って、あまつさえ結婚したんですか!?』

「そうそう! 今は別居して、嫁さんは実家の近くに住んでるけどな!!」



 今明かされる、驚愕の事実。


 それを明かすのはこのタイミングでなくてはいけなかったのか。

 もしかして、逆神大吾はこの戦いで死ぬのだろうか。


『ま、まさか、逆神家は皆さん、異世界人と結婚しているんですか!? そ、そうか! それならば、特殊な能力にも説明がつくぞ!! そうなんですね!?』

「いや、オレの母ちゃん日本人だぜ? みつ子って言うの。実家は広島。今はアナスタシアと一緒に住んでる」



『もう意味が分かりませんよ! ヤメてください! これから指揮を執らなくちゃいけないのに、冷静な思考が失われます!!』

「ええっ!? オレが怒られんの!? ちなみに、広島にアナスタシアの故郷に繋がるダンジョンがあるんだってよ! これ、内緒な!!」



 危うく広島が異世界になるところだったが、それは大吾の説明によって未然に防がれた。

 本部にいる南雲は意味が分からな過ぎて何故だか涙が出て来たらしいが、戻って来た五楼にハンカチを差し出され、「なんか知らんが、落ち着け」と諭されたと言う。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 第11層は地獄絵図と化していた。


 アトミルカの潜入者によって、ほとんど全ての囚人がカルケルから脱獄すべく暴動を起こしている。

 この階層で働く刑務官たちは皆がAランク探索員以上の実力を持っているのは前述の通りだが、スキル犯罪者の中にはそれを大きく上回る戦闘力の者がざらにいる。


 オマケに、その刑務官の中に5番がせっせとアトミルカの構成員を忍ばせていたため、彼らは次々と囚人の手錠を解除して悪鬼を解き放っている。


「やべー。これ、超やべーヤツじゃん。マジやべー。何人いるんだよ。……22までは数えられたぞ! あとは分かんねぇ!!」


 第11層に収監されている囚人は全員で38人。

 その誰もがAランク探索員を凌ぐ実力を持っていると考えれば、それは脅威以外の何物でもなかった。


「ぐっ、ああ……。そこの囚人。……君はどうして、脱獄に参加しない?」

「うわぁぁあ! きたねぇおっさんの死体が喋ったぁぁぁぁぁ!!」


 今回はお前が言うな案件が多すぎる。


「わ、私は、監獄ダンジョン・カルケルの司令官。ズキッチョ・ズッケローニ……だ……。縁もゆかりもないが、君に頼みがある……」


 ズッケローニ司令官、早まってはいけない。


「おお! なんか知らんが、この空間でまともにお喋りできるのは安心するから、聞くだけ聞いてやるよ!! なぁ、南雲さん?」

「な、南雲だと……!? き、君は一体、何者だね……?」


 サーベイランスのカメラがズッケローニ司令官を映すと、「ぶふぅぅぅぅぅぅぅっ」と音がして、十数秒ののち南雲がかしこまった声を出した。


『ズッケローニ司令官! どうなさったのですか!? こちらは日本探索員協会の南雲修一監察官であります! そこにいるのは、我々が秘密裏に送り込んでいた外部協力者の逆神大吾さんです』


 ズッケローニは柱に背を預けて、サーベイランスをしっかりと見据えた。

 続けて、「そうだったか」と納得する。


「お互いに、どこから情報漏洩するか分からんと言う事で……。ぐっ。機密事項や作戦行動を伏せておいたかいがあったな……。そうか、彼が君たちの言っていたジョーカーか」



「おうよ! オレ様が逆神大吾!! ババ抜きは最初に上がる男! よろしくな、おっさん!!」

『すみません。ズッケローニさん。その人は違います。我々のジョーカーは彼の息子です。大吾さんはドロー2みたいなものです。そもそもカードの種類が違います』



 ズッケローニは「えっ。マジで?」と絶望に暮れた。

 目の前に現れたのが、まさかトランプのカードですらなかったとは。


 だが、ズッケローニも長年監獄ダンジョン・カルケルの鉄壁を守って来た男。

 有事の際は臨機応変に対応すべきと心得ている。


「では、逆神大吾くん……。君に、この階層の鎮圧を依頼したい。わ、私が持っている、この異界の門の防御壁の解除キー。これをどうにか、死守してくれ」

「ええ……。それ持った瞬間に鬼ごっこの鬼になるんだろ? ヤダー」


 ドロー2を加えた手札でババ抜きをしても永遠に上がれないし、大貧民をしても場に出した瞬間に負けてマジ切れして美味しいパスタ作ったお前になるのが関の山であった。


 だが、そこは我らの南雲監察官。

 逆神家の操縦なら彼が一番上手くできる。



『大吾さん。追加でもう10万円出します。逆神くんには内緒で』

「おう、おっさん!! この監獄の未来は任せな! オレが10万に代わって守って見せるぜ! この解除キーを持ってアメフトしてりゃいいんだな!?」



 この時の大吾の声は、10万円の効果によって高揚しており、それはもう大きなものだった。

 ならば、近くにいる囚人が血眼になって探しているキーアイテムの名を聞き間違えるはずもなく。


「てめぇら! あったぞ!! 異界の門の解放するためのキーだ! あのきたねぇジャパニーズが持ってやがるらしい!!」

「よっしゃ! 殺せ、殺せぇ!!」


 大吾はポカンとしていた。

 仕事でやらかした時、何をやらかしたのか分からずに立ち尽くす。


 これはおっさんの持つ108ある必殺技の1つである。


「よぉ! なんか面白そうな事になってんなぁ! 逆神ぃ!! くははっ!」


 そこに加わる不敵な笑い声。

 敵か味方か、それとも阿久津か。

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