第380話 あっくん参陣! 四郎も出獄! 混沌の監獄ダンジョン!!

「おおおっ! あっくんじゃねぇか! 無事だったのか! 良かったぜー!!」

「くははっ。逆神の親父に言われちゃ、俺も落ちるとこまで落ちちまったなぁ! よぉ、南雲! その通信メカで聞いてんだろ? 久しぶりだなぁ!!」


 阿久津浄汰。

 彼はアトミルカの19番モリーナ・ザクダッシュが解放した囚人の中に紛れ込んでいた。


 まんまと手錠を外させる事に成功したこの男、騒動を傍観していたのだが、そこに飛び込んで来たのが逆神大吾とステルス機能を外したサーベイランス。

 ルベルバック戦争で何度も目にした南雲修一が発明したメカを見て、すぐに事態を察したらしい。


 相変わらず、良くも悪くも頭が切れる男である。


『阿久津くんか。君の存在は既に把握していた。どうする気だ? アトミルカに与して、再び我々と敵対するつもりかね?』

「くははっ。それもいいかもなぁ! おもしれぇ暇潰しになりそうだ!」


「あっくんは悪い子じゃねぇよ、南雲さぁん!!」


『協会本部としては、実に不本意だが……。君が協力をするならば、大幅な減刑に応じる用意がある。日本探索員協会の上級監察官による書面もここに。見てくれ』

「へぇー。ずいぶんと気前がいいじゃねぇか! なんだぁ? そんなに事態はひっ迫してんのかぁ? 正義の協会様が、俺に助けを求めるとはよぉ!!」


「南雲さん! あっくん、この間さ、白身魚のフライ分けてくれたんだよ!!」


『……好きに考えると良い。だが、現状のままならば君は良くて終身刑。聴取を拒み続けても、いずれはウォーロスト送りになるだろう。そうなれば、面白い事など何もなくなる。そこを有期刑にしようと言うんだ。悪い取引ではないだろう?』

「くははっ。南雲らしくねぇなぁ? さては、ガチで協会本部のお偉いさんの知恵かぁ? さぁて、どうするかねぇ」


「あっくん、昔はちいせぇ借家に住んでたんだって! 苦労してんだよ、この子!! トイレットペーパー買う金なくて、隣の家でうんこしてたんだぜ!! 多分だけど!!」



『阿久津くん。大吾さんに気を許し過ぎたな? この人は、聞いたことを全て、ありとあらゆるところで吹聴するぞ。さっきから聞いていれば分かるだろう? ある事ない事、君の名前を使って、面白おかしく語り尽くされるぞ?』

「よーし、分かった! 協力してやるよ! 忘れんなよぉ? 減刑の話をよぉ!!」



 逆神大吾は交渉の役に立たない。

 むしろ邪魔にしかならないこの男を見事に交渉のテーブルに運んで来た、南雲修一の手腕が阿久津の生理的嫌悪感とジャズった瞬間であった。


『……よし。大吾さん。阿久津くんと協力して、解除キーを死守してください。阿久津くん。君、ずっと収監されていたが、戦えるのかね?』

「あぁ? ……なるほどな。『外殻ミガリア』なしじゃ俺ぁ役立たずってかぁ? 心配には及ばねぇよ。俺だって、具現化スキルくれぇ使えるって話だ」


 阿久津浄汰が煌気オーラを解放する。

 その出力は、Sランク探索員にも匹敵する煌気オーラ総量。


「うぉらぁぁぁ!! 『結晶外殻シルヴィスミガリア』!! 本物の『外殻ミガリア』にゃちと劣るが、この状態でも南雲ぉ! てめぇには勝てるぜぇ?」

「すげぇ! あっくん、キラキラしてんじゃん! なにそれ、高そう!! いいなぁ!!」


 そして『結晶外殻シルヴィスミガリア』は父と息子の2世代にわたり、逆神家の心を魅了する。


「お、お前ぇ! 裏切るのか!!」

「あぁ? うるせぇな、モブキャラが。そもそも、てめぇら名もなきモブと結託した覚えなんかねぇよ」


「言わせておけば、この野郎……! ぶっ殺す!! おい、集まれ!! こいつらがキー持ってるぞ!! 10万ドルは山分けにしようぜ!!」

「そうだな! つって、お先に! 『キラーハウンズ』!!」

「抜け駆けすんなよ! 『シャドウボール』!!」


 阿久津は『結晶シルヴィス』をコントロールして、囚人たちの真上に展開する。


「はぁ。俺ぁこんなのと一緒にされてたのかぁ? 正直ショックだぜ。死んでろ! 『拡散熱線アルテミス』!!」


「あげぇえぇぇぇぇっ!!」

「あ、あちぃ! うわ、やめてくれぇぇぇ!!」


「くははっ! 見たかよ、逆神の親父よぉ! ……あぁん?」



「ぎゃあああああっ!! あちぃぃぃぃ!!! 近くで見ようと思ったのが間違いだったぁぁぁぁ!! おぎゃあぁぁぁぁぁっ!!」

「……俺ぁ、これと今から共闘しようってのかよ」



 ゴロゴロと地面を転がって火のついた囚人服の上着を脱ぎ捨て消火する大吾。

 彼は「ふぅ、あぶねぇとこだったぜ!!」と黄色い歯を見せた。


「さすがだなぁ、逆神ぃ。俺の『結晶シルヴィス』喰らって平然としてるってのは、面白ポイント高ぇぜ? どうなってやがんだ、てめぇら親子は」

「おっしゃあ! かかって来いやぁ、犯罪者ども!! 正義の使徒のオレとあっくんが相手してやらぁ!! ふんっ! 『煌気極光剣グランブレード』!!」


 阿久津は『結晶シルヴィス』を操り、囚人たちを一気に焼き焦がしていく。

 その最中、ずっと考えていた。


 「こいつ、なんでフォークとスプーンで戦ってんだ?」と。


 なお、既に戦闘不能に陥りながらもカルケルの司令官として事の成り行きを見守っているズッケローニも考えていた。


 「それな。あとさ。煌気オーラ刀の刃、短くない?」と。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 その頃、第3層では。


「分かりましたじゃ。ワシは地上に向かえばよろしいんですな?」

『はい。四郎さんにお願いするのは心苦しいのですが。私が精いっぱいサポートしますので!!』


「ほっほっほ。この老骨がお役に立てるとは、嬉しい事ですぞい。日引さんや、少しばかり待ってくださいのぉ」


 四郎は協会本部のりオペレーター日引春香Aランク探索員から指令を受けて、待機していた第3層の房から出る事にした。

 そんな彼の前に立ちふさがる影がいくつか。


「そりゃねぇぜ、四郎さん。あんただけは殺したくなかったのに」

「本当だよ、おじいちゃん。どうしてアトミルカに協力してくれないの?」


 ボブとマイクが四郎の行く手を阻むべく、拳銃を構える。

 彼らはアトミルカの27番と31番。

 隠してあったイドクロア装備で第3層の刑務官たちを全滅させつつあった。


「あんたは何もしないから、てっきり我々についてくれると思っていたのにな」

「マイクさん。ワシは指示があるまで待機しておっただけですぞい。実に心苦しかったですがの。共に過ごした人たちが傷つけられるのを黙って見ておるのは」


 四郎もかつては周回者として異世界を平定した男。

 心を鬼にして、蹂躙される刑務官たちから目を逸らさずにいた。


「し、四郎さん……。逃げろ……」

「チュンさん。ちと待っていてくだされ。すぐに治療しますでの」


「おじいちゃん。お別れだね。『オーラショット』!!」


 ボブがイドクロアで作られた拳銃から放った煌気弾が四郎に迫る。

 四郎は懐に忍ばせておいた【黄箱きばこ】を解放した。


「ほいっ! ありゃ、間違えたぞい。こっちじゃなかったが……まあ、大丈夫かの。『かま太刀風たちかぜ』!! そうりゃ!!」


 四郎の手には、巨大な鎌が握られていた。

 これは彼が作戦に備えて作った装備。名前は『枯花かればな』と言う。


 ちなみに、本当に出そうとしたのは『蟹鋏かにさん』と言う弓だったのだが、結果オーライ。


「な、なんで……。煌気オーラ弾が斬れるんだ……よ……」

「くっそ……。本当に、すごいおじいちゃんだったんだ……ね」


「ほっほっほ。ワシはもう老いさらばえた身ですからの。武器を使わせてもらいますじゃ。六駆のようにスキルの種類もそう多くはないですからの」


 四郎は【黄箱きばこ】から『縁側いやし』と言う名の範囲指定型治癒スキルを常時展開する装備を取り出して、傷ついた刑務官たちに応急手当をした。


「……では、行きますぞい!!」


 そう言うと、四郎は地上に向けて走り始めた。

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