第370話 準備完了! カルケル防衛部隊、出揃う!

 逆神家収監から5日が過ぎた。


 五楼上級監察官室に、南雲修一と久坂剣友がやって来ていた。

 南雲はカルケル防衛部隊選出の認可を得るために。

 久坂は防衛部隊に帯同する命令を受けるために。


「……よし。南雲のプランで問題なかろう。防衛部隊は2つのパーティー。南雲監察官室のチーム莉子と、雷門監察官室の加賀美隊に任せることとする」

「まあ、無難じゃろうのぉ。修一のとこの嬢ちゃんたちは六駆の小僧との連携を考えれば鉄板。そこに柔軟な対応ができるパーティーっちゃあ、数がそりゃあもう絞られるけぇのぉ。Sランクがリーダーやっちょるパーティーがそもそも少ないけぇ」


「久坂さんのお墨付きを頂けると、私も安心します。今回は部隊指揮官までお任せして申し訳ありません」


 頭を下げる南雲を見て、「ひょっひょっひょ」と久坂は笑う。


「なぁに。ワシの弟子が2人も作戦に参加するとなりゃあ、師匠が出張らんでどがいするんじゃ。危のうなったら六駆の小僧の『ゲート』を頼らせてもらうわい」


 久坂の言う弟子とは、塚地小鳩と55番の事である。


 小鳩はチーム莉子に所属しているので言うまでもないが、世界でも類を見ない「元アトミルカの探索員」として55番も防衛部隊に加わる事になった。

 久坂は反対したのだが、国際探索員協会が「出せるものは全て出せ」と圧力をかけて来たのだ。


 よって「ほいじゃあ、ワシも連れてってもらうぞい」と久坂が立ち上がった。

 この老兵は情に厚く、損得は気持ちで決める。

 ならば、立候補するまでのプロセスなど必要はないだろう。


「ほいで、防衛部隊はどういう風に待機させるんじゃ? 特に修一。お前さんとこのパーティーは学生が多かろう? 四六時中本部にらせる訳にもいかんじゃろう」

「そうですね。五楼さんから許可を頂ければ、特例として小坂くん、椎名くん、木原くんには【稀有転移黒石ブラックストーン】を携帯させようかと思っています」


 五楼は即答した。

 組織のトップに求められるものは数多あるが、決断力は欠かせない。


 余談だが、同じくトップの雨宮上級監察官も、夜のお店の選択は極めて速いと言う。

 失礼。本当に余談だった。


「良いだろう。許可する。それぞれの学校に私の名前で公欠届も出しておこう。雑事は任せておけ。南雲と久坂殿は、早速だが午後から防衛部隊とブリーフィングを頼む」


「了解しました。お互い知っている者同士なので、連携にも不安はありません。どちらかと言えば戦術に重点を置きたいと思います」

「ああ。それで良い。久坂殿、よろしく頼みます」


「ひょっひょっひょ。こがいな局面で年寄りを頼るっちゅうのはなかなかできん事じゃけぇの。五楼の嬢ちゃんの期待くらいは越えにゃあいけんのぉ。よし、行くぞい! 修一!!」


 久坂に続いて退室する南雲。

 ふと思いついたことがあり、振り返ってから五楼に向かって言った。



「五楼さん。この戦いが終わったら、お連れしたい店があるんです。特にデザートのパインケーキが絶品でして」

「ヤメんか、死亡フラグを立てて去っていくのは。食事ならいくらでも付き合う。……そんな事を言っていると、お前、また前線に担ぎ出されるぞ」



 この世界の神はイタズラが大好きである。

 南雲修一はこれまで散々翻弄されて来たが、今回はどうなるのか。


 それは、まさに神のみぞ知ると言ったところであろう。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 午後になり、チーム莉子と加賀美隊は第2演習室に集まっていた。

 それぞれが「ひさしぶり」と挨拶を交わす。


 それもそこそこに、南雲が「諸君。聞いてくれ」と作戦について説明を始めた。


「事前に通達しておいた通りだが、現在、監獄ダンジョン・カルケルに外部協力者が潜入している。これは、アトミルカが予告する襲撃作戦に備えた措置である。諸君には、有事の際に外部で敵を迎撃して欲しい。また、場合によってはカルケルの隣にある、ドノティダンジョンに潜ってもらうことになるかもしれない。詳しくは手元にある作戦概要に目を通してくれ」


 作戦概要には、カルケル防衛任務の全てが分かりやすくイラスト付きで記されていた。

 作成担当は山根健斗Aランク探索員と、日引春香Aランク探索員。


 山根いわく「春香さんのイラストが可愛いんすよ!」との事である。

 チェックポイントには、動物さんのイラストが躍っていた。


「はいはい! 南雲さん! 質問があるにゃー!!」



「はい。椎名くん。先に言っておくけど、大学休んじゃダメだよ? 休んで良いのは作戦行動時だけだからね」

「にゃん……だと……」



 クララが勝手に白く燃え尽きた。

 続けて、加賀美隊のリーダー、加賀美政宗が手を挙げる。


「はい。加賀美くん」

「このカバさんの項目なのですが。カルケルの先にある異世界・ウォーロストから囚人が脱獄した際について、いささか不安があります。これは、場合によると我々防衛部隊が外と内から挟撃される可能性があるのでは?」


 久坂が手を叩く。


「ほお! すぐカバさんに気付くとは、やるのぉ! 55の。お主も加賀美の小僧から色々と学ぶんじゃぞ」

「確かにそうかもしれん! 加賀美政宗! あなたを尊敬する!!」


 久坂は「おっ、すまんのぉ。話の腰を折ってしもうたわい」と南雲に謝り、ハンドサインで「続けてくれぇ」と促した。


「久坂さんの言う通り、さすがだな加賀美くん。この作戦で想定される最悪のパターンがそれなんだよ。だが、恐らくそうはならない。内部にいるのが逆神くんだからね。しかも、結構な額の報酬に目がくらんだ逆神くんだよ」



「なるほど! 凄まじい安心感ですね!!」

「だよね。もう、全盛期のオリバー・カーンかってくらい危険を防ぐよ、彼は」



 南雲はさらに補足説明を加える。


「ただし、物事に絶対はない。万が一、ウォーロストからの脱獄囚を防ぎきれないと逆神くんが判断した場合は、随時『ゲート』によって追加の戦力を投入する予定になっている。具体的には、雨宮上級監察官や、木原監察官が控えて下さっている。その際は、カルケルの副指令に復職している川端監察官がセキュリティを解除してくれるので、防衛部隊もカルケル内に入ってもらう事になるかもしれない」


 つまり、南雲の立てた計画書のパターンはこうなる。


 1つ目。イラストはウサギさん。

 外部からカルケルに侵入しようとするアトミルカを発見し次第、迎撃。

 そののち、速やかに捕縛する。


 2つ目。イラストはワニさん。

 カルケル内で暴動や脱獄騒ぎが起きた場合、隣に伸びている連絡用通路・ドノティダンジョンに潜り、目的の階層へ赴きそれを鎮圧する。


 3つ目。イラストはカバさん。

 仮に異世界・ウォーロストからアトミルカの旧シングルナンバーを含む凶悪な脱獄囚が出て来てしまった場合、防衛部隊もカルケルに入り、先に潜伏している逆神家と協力してそれを鎮圧する。


 もちろん、1つ目で全てが片付けば言う事はない。


「学生組には【稀有転移黒石ブラックストーン】を特例で貸し出すから、はい。作戦の決行タイミングが敵の襲来になってしまうのが難しいところだね。その時はスマホで連絡するから、なるべく日頃から心の準備をしておいてね。当然だけど、今この瞬間から諸君には緊急の手当てが支給されるから」


 チーム莉子と加賀美隊。

 合わせて総勢8人は「はい!」と揃った返事をした。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 その頃、監獄ダンジョン・カルケルの第5層では。


 お昼ご飯を食べていた六駆が、何かに気付いた様子だった。


「どうしたんですか? 逆神さん」

「ああ、銀行強盗さん。いえね、僕が知らないところで、なんだかお金の匂いがしたんですよ!」


 説明不要の嗅覚によって、数分後にサーベイランスを通じて本部に「僕にも手当ください!!」と要求した六駆。

 南雲が「……なんで分かったの? あげるけどさ」と応じたと言う。

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