第360話 ぶっこめ、逆神家! ~監獄に叩き込むのは逆神家三代~

 少し時計の針が進んで、監察官会議を終えた六駆は家に帰っていた。

 莉子も一緒である。


「ただいま」

「おじゃましまーす!」


「おおっ! 六駆ぅ! おかえり! 晩飯なに?」

「……良かった。親父がいてくれて」


 珍しく午後6時に在宅していた逆神大吾。

 今の彼は月に3万円の小遣いを六駆から支給され、その金額内での行動の自由が許されている。


 基本的に最初の1週間で使い果たすのだが、今月は開始2日で全額パチンコ屋に寄付した結果、中年ニートとして六駆の留守の間、逆神家の警備に勤しんでいた。


「親父。10万円欲しくない?」

「う、うひょー! マジかよ、六駆ぅ! そんな大金、お父さんにくれるのかい!?」


「ある仕事を手伝ってくれたらね。ちょっと良い話を南雲さんに貰って来たんだ。ね、莉子さん?」

「し、仕事ぉ? お前の持って来る仕事かぁ……」


「うんっ! お義父さんにピッタリなお仕事ですよぉ!!」

「莉子ちゃんまでそう言うって事ぁ、楽で適当にしてりゃいい仕事だな!?」


 そんな仕事があって堪るか。


 六駆が莉子を連れて来たのは、大吾の警戒レベルを下げるためである。

 最近はこのダメ中年も学習能力を身に着けようとしているらしく、六駆が持って来る美味い話を無条件で受けようとしない事がある。


 先月、「お寿司食べさせてあげるよ」と言ってミンスティラリアに連れて行き、サイボーグ01番の起動実験の的にしたのを根に持っているようだった。

 だが「莉子ちゃんは良い子だからなぁ!」と、清らかな女子高生の事は完全に信じている。


「今月の下旬からね、とある施設に入って過ごしてくれたら良いんだ。僕も行って指示出すから、何も考えなくて良いよ」

「なるほど! 治験のアルバイトみたいなヤツだな!!」


「とりあえず、この契約書にサインしてくれる? 拇印もちょうだいね」

「へいへいっと! オレぁ体は丈夫に出来てるからよぉ! ガッツリ稼ぐぜぇー!!」


 逆神大吾。

 何の疑念も持たず、契約書にサインをする。


 この男は多少の知恵を付けたところで、所詮はダメ人間。

 デスゲーム系の物語だったら2人目くらいに死ぬおっさん。


 世間のために働く準備が整った瞬間であった。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 時間は巻き戻り、監察官会議の終盤へ。


「僕が1人でカルケルに潜り込むと目立つので、うちの親父とじいちゃんも連れて行きましょう!」

「ええ……。逆神くん、君ぃ。仮にも家族を監獄に叩き込むのかね?」



「うちの親父、もう人生が終身刑みたいなもんですから! 場所が変わるくらいなんてことありませんよ!!」

「清々しいほど爽やかな笑顔だね。うん。まあ否定ができないところが悲しいな」



 カルケル防衛任務の内部潜入チームを、逆神家で固めましょうと言うのが六駆の提案。

 これが実に都合の良いことしかないのである。


 まず、逆神大吾は衰えたとは言えSランク探索員程度の戦闘力を持っており、有事の際にはそこそこの戦力として計算できる。

 また、耐久値だけならば一線級。

 間違って拷問されても多分死なない。


 あと、見た目が「こいつは犯罪者だな!」と10人が見れば9人は頷く説得力のある風貌をしている。

 なお、残りの1人は顔をそむける。


「……あの痴れ者を、探索員協会の外部協力者にしろと言うのか」


 こちら、顔をそむける派の五楼京華さん。

 かつて逆神大吾から剣術のいろはを学んだと言う、消したい過去を持っておられます。


「逆神くん。いくらなんでも、1人に1500万は出せないよ?」

「あ、親父なら30万くらいで大丈夫です! どうせギャンブルで散財するんだし、親父の命に30万とか暴利もいいとこですよ!」


 他の監察官たちからは、特に異論が出なかった。

 「お金の魔力にひれ伏した逆神六駆の提案ならば間違いはないだろう」と言う、ある意味では最上級の信頼感を彼らは共有している。


 その手腕はキュロドス急襲作戦で惜しみなく振るわれたと言う実績もある。


「……ううむ。五楼さん。逆神くんの案以上にスマートな方法はないように思えますが」

「ぐっ。生理的に受け付けんが、今の私には客観的な判断ができん。南雲がそう言うからには、有効な一手であると認めざるを得んか」


 それから六駆は、祖父・逆神四郎のプレゼンテーションに移った。


 逆神四郎は支援スキルや構築スキルに秀でており、既に一線を退いてはいるものの、戦闘になってもそれなりの計算ができる。

 「SランクとAランクの間くらいの実力はありますよ」と六駆は言った。


 ここで久坂剣友が六駆の意見に賛同する。


「確かにのぉ。四郎さんとは本部建物を修繕する時にうたが、なかなかどうして。さすがは六駆の小僧のじい様じゃのぉと感心したもんじゃ。煌気オーラのコントロールに関しちゃあ、ワシら監察官レベルじゃったけぇのぉ」


「久坂さんがお認めになるほどの御仁ですか」

「楠木さんはお会いにならなかったんですね。私は拝見しましたけど、見事な構築スキルでしたよ。あ、私、号泣した方が良いですか?」


「泣かんで良い。痴れ者の親で痴れ者の祖父と言うのが非常に気がかりではあるが、話を聞く限り逆神家の中では1番まともな雰囲気ではあるな」

「そうですね! じいちゃんは僕と同じくらいには理性的ですよ!!」



「……一気に不安になった。私はかつてないほどに難しい決断を迫られているぞ。南雲、助けてくれ。いっそ私が犯罪者になった方が良い気がしてきた」

「お気を確かに。身バレしている我々ではこの作戦の意味がなくなります」



 その後、五楼が1時間ほど「どうにか代案はないか」と四方八方を探したものの、ついに見つからずに折れた。

 作戦決行は3週間ののちと言う事になり、時を同じくして防衛部隊をいつでも派遣できるように備えておく事も決まる。


 五楼京華はこの日から、眠れぬ夜を過ごす事になるのであった。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 そして、再び逆神家。

 時系列をあっちこっち移動するのはヤメて欲しい。

 ちなみに、今日の晩御飯は四郎の得意な炊き込みご飯。


「と言う訳だからさ、じいちゃん。協力してよ。じいちゃんには100万出してくれるって南雲さんが言ってたよ!」

「そりゃあ助かるけどなぁ。じいちゃんが行っても迷惑にならんじゃろか? ワシはもう戦わなくなってから久しいぞい?」


「平気、平気! ちゃんと煌気オーラを練る修行はやってるじゃん!」

「それはそうだがのぉ。あれは習慣でやってるだけだぞい? 年寄りのラジオ体操と同じ感覚じゃもん」


 六駆は「頭数が欲しいんだよ。最悪、何もしなくて良いからさ」と、マルチ商法の勧誘みたいなセリフをもってこの会話を締めくくった。

 四郎も「まあ、やるだけやってみるか」と、数十年ぶりの実戦に出る覚悟を決める。


「ふぇぇ。六駆くんとしばらく会えないのが辛いよぉー。わたし、絶対に外部防衛部隊に入るからねっ! アトミルカさんが攻めて来た時に、お隣のダンジョンを守るから!」

「莉子はゆっくりしてればいいのに」


「やだよぉ! 六駆くんと同じ作戦に参加したいもんっ! チーム莉子全員で立候補するからねっ!!」



 チーム莉子、リーダーの恋愛脳に巻き込まれる形で参戦が決まる。



「まあ、出発まで3週間あるから。その間に色々と準備をしておこう。莉子たちも作戦に加わるんだったら、僕は一緒に行けないからね。その辺も踏まえて、みんなに役割分担を徹底させておかなくっちゃ」


 六駆が何だかんだで弟子の面倒見が良いのは諸君もご存じの通り。

 翌日から、彼が隠居する時のために温めておいた『逆神六駆抜きのチーム莉子』の設計に着手するのであった。

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