第359話 監獄ダンジョン・カルケル ~逆神六駆×お金=奇策~

 川端一真監察官の「よく分かるカルケル」についての解説は続く。


 カルケルが難攻不落の監獄施設として約30年近く鉄壁を誇って来たのには、いくつかの理由があった。

 第一に、カルケルがダンジョンを利用している点が挙げられる。


『かの施設は、俗に監獄ダンジョン・カルケルと呼ばれていまして、その内部は入り組んでおり、管理責任者ですら地図データを持たずに入ると迷ってしまうくらいに複雑な迷路になっています。これは割と知られている情報であり、むしろ侵入者を諦めさせる目的で積極的に監獄側が発信していた時期すらあるのです』


 つまり、こういうことになる。


 収監されているスキル犯罪者を脱獄させようと侵入を試みる不届き者がいたとして、仮に侵入できたとしても目的の人物に会うのは至難。

 仮に会えたとしても相当な時間が経過しているので、今度は脱出をするのが困難。


 二重の構えで悪辣な企みを砕くシステムが構築されていると川端は語る。


『また、カルケルの真横にはもう1つダンジョンがありまして。こちらは看守のみが入る事を許されている連絡通路。名をドノティダンジョンと言いまして、仮に侵入者、あるいは脱獄者が発生した場合はこのダンジョンを潜る事で任意の階層に直接赴くことができます』


 第二の防衛システム。


 看守サイドだけが使えるショートカットダンジョンの存在。

 監獄ダンジョン・カルケルは元々、世界的に見ても珍しい二対のダンジョンであり、その片割れを緊急時には看守が通る事で迅速な事態への対応を可能としている。


「川端さん、ありがとうございました。やはり実際に勤務していた人の話は参考になりますね。……川端さん?」



『よぉし! おっぱい男爵を胴上げだ! 水戸くん、そっち持って! わーっしょい! おーっぱい! わーっしょい! おーっぱい!!』

『すみません、川端さん! 自分が足を担当しないと危険ですので! 不本意ですが!! わーっしょい! わーっしょい!!』



 ストウェア組はいつも楽しそうで結構な事である。

 南雲は「……忙しそうなので、我々で話を進めましょうか」と切り替えた。


「現状、鉄壁の防御は健在だと考えて。それでもアトミルカは襲撃をしてくるでしょう。理由は明確です。デスター急襲作戦でアトミルカは弱体化を世界に知られました。彼らは他の反社会勢力を吸収合併しながら巨大化した組織です。立場の低下は、組織の瓦解に繋がります。また、アトミルカに取って代わろうとしている別の組織から、俗な言い方をすれば舐められる事を彼らは良しとしないでしょう」


 南雲は「2番との通信でも、そう感じられました」と締めくくる。


「そこでだ、諸君。この監獄ダンジョン・カルケルを攻略するならば、どのように敵は打って出るだろうか。こちらにいくつかのパターンを……なんだ、逆神」


 元気よく手を挙げる男。

 その名は逆神六駆。プリンがなくなったらしい。


「おかわりお願いします!」

「よし、分かった。すぐに用意させるから」


「あと、僕だったらまず、隣にあるとか言う連絡通路ダンジョンを制圧しますね。ショートカットができるとか、もうそこから襲って下さいって言ってるようなものじゃないですか。情報管理も結構ガバガバだし、ほぼ確実ですよ」



「……貴様。本当に、間違ってもアトミルカに寝返るなよ」

「プリンのおかわり要求するついでに私たちが頑張って作ったシナリオを秒で看破しないでくれる? ヤダなぁ、君って子は本当に」



 南雲と五楼の連名で起こした、最も確率の高い襲撃パターンがまさにこれである。

 さらに、六駆が手を挙げる。


「逆神くん。君、まさかまだアイデアがあるの?」

「はい! さっきのプランは王道過ぎるので、絶対に対策されますよね? だったら、僕はスキル犯罪者として収監される人間に実力者の刺客を混ぜますかね! 無効化スキルを無視できるくらいの! で、外部襲撃組が行動を起こすのとタイミングを合わせて、内部でスキル犯罪者を一斉に脱獄させます!」



「ええ……。君はプリン食べながらよくそんな悪辣な企みを思い付くなぁ。前世は大犯罪者だったんじゃないの?」

「うわぁ! すごいや、生クリームが大盛だぁ!!」



 逆神六駆、プリンが到着したため会議を離脱。

 イチゴやメロンにサクランボもトッピングされている、いわゆるプリン・ア・ラ・モードだったため、彼はしばらく討論の場に戻って来ないだろう。


「六駆の小僧の言う事にゃあ聞く価値があるで。実際、内部でそがいな大暴れされちゃあ対応が追い付かんのは確実じゃろ」

「そうですな。しかも、精鋭を送り込めば人員も少なく済みますし、何より刺客がスキル犯罪者の体を取る以上、カルケルは必ず収監しなければならない。この縛りが実に厄介です」



「カルケル側は絶対に間者を内部に入れてしまう訳ですか。……あの、私号泣した方が良いですか?」

「泣かんで良い。……しかし、面倒な事になって来たな」



 六駆の立てた襲撃計画は隙のない2段構えで、仮にそのプラン通りにアトミルカが仕掛けて来たら対応は容易ではない。

 監察官たちもそれを理解しているため、しばし発言が少なくなる。


 その沈黙を破るのは南雲修一。

 彼の監察官室に所属しているDランク探索員の意見を求めるのだから、発言役も彼しかいない。


「逆神くん」

「うわぁ! この葡萄、種がない!! 皮ごと食べられるし、すごいや!!」


「逆神くん。ここに10万円がある。君にあげよう」

「う、うひょー!!」



「そこで聞きたいんだけどね、さっきの君の計画に対する防衛策って思いついてたりする?」

「僕だったら、こっちもスキル犯罪者として防衛任務を帯びた人間をあらかじめカルケルの中に入れておきますかね! できるだけ強くて、目立たない人を! そうすれば、内部で怪しい動きをする者を探せますし、万が一発見できなくても敵さんが破壊活動始めた瞬間に制圧しちゃえば問題ないですし!」



 六駆の意見がまたしてもエッジの利いたものであり、監察官たちはしばし黙り込んだ。

 だが、今回はその対応策の穴をすぐに五楼が指摘する。


「悪くはない手だ。なるほど、対処としても上策だろう。だが、カルケルの中に入ってなお破壊活動ができるような手練れが相手となると、それに対処できる協会側の実力者の情報をアトミルカも得ているのではないか」


 五楼の意見を南雲が引き取る。


「そうですね。例えば、監察官。各国のSランク探索員の情報くらいは確実に得ているでしょう。カルケル内で鉢合わせて、あちらはすぐに敵が分かってこちらは多くの候補がいる。これでは危険が大きすぎますね。かと言って、低ランク探索員で実力が傑出している人物なんて早々見つかりませんし」


 深刻さを増す会議室。

 そんな中、プリン・ア・ラ・モードを食べ終えた六駆が事も無げに言った。



「僕、行きましょうか?」

「うわっ! すごい! 逆神くん、条件を全部満たしているじゃないか!!」



 アトミルカに知られていない低ランク探索員。

 実力は探索員協会の中で最強。

 単独で戦えるし、千を超えるスキルが使えるので連絡も容易。


 ズバピタで適合している六駆おじさん。



「ところでぇ……。ねっ? 南雲さん? 五楼さん? ほらぁ! ねっ?」

「……痴れ者が。南雲、カルケル防衛任務の予算編成に取り掛かれ。逆神には、一千万……いや、1500万出そう。それでも安いくらいだ」



 「うひょー!」と叫んだ逆神六駆。

 思っていたよりも報酬が高かったため、彼の頭脳はさらに活性化する。


 結果、お金大好きおじさんの立案する計画がより強固なものになるのだが。

 その全容は次話に譲る事にしよう。

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