第358話 監察官、全員集合! 緊急会議!!

 本日、日本探索員協会の本部は騒がしい。

 監察官会議が行われるのだ。


 日頃から協会本部に常駐している南雲や楠木、雷門などは普段通りであるが、久坂や木原のようにほとんど本部にいない者も出席する。

 さらに、未だイギリスに出張中の人工島・ストウェア組もリモートで参加。


 下柳則夫の後任が決まっていないため、監察官は7人。

 加えて2人の上級監察官。

 全員が会議で顔を合わせるのは極めて珍しく、異例の事態でもあった。


 その目的は当然のことながら、「スキル犯罪者収容施設・カルケルの防衛任務」について話し合うためであり、アトミルカ側がいつ仕掛けて来るのか明確に分からない以上、喫緊の課題であるのは間違いないのである。


「五楼さん! 今日のおやつはなんですか!?」

「……何故、貴様がここにいる。……逆神」



 当然のように席に座るのが逆神六駆。



「いやぁ! ちょうどね、南雲さんにおやつご馳走になろうと思って本部に来たら、なんだかティーパーティーするって言うじゃないですか! こりゃあ見逃せませんよ!!」

「南雲……。この痴れ者を摘まみだせ……」



「五楼さん、五楼さん! なんか南雲さんとデートしたんですってね!!」

「日引ぃ! 逆神の口をおやつで塞げ!! 急げ、何でも良いから持って来い!!」



 会議が終わった後、うっかり口を滑らせた南雲修一は五楼京華からむちゃくちゃ怒られたらしい。

 南雲が「すみません。楽しい思い出だったもので、つい逆神くんに話してしまいまして……」と正直に申し開きをすると、五楼もばつが悪そうに「……まあ、致し方ない」とそれ以上は何も言わなかったとか。


 余談はこのくらいにして、会議の内容に移るとしよう。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 まず、初めにストウェア組の現状報告から会議は始まった。


『いやー! 聞いて下さいよ、皆さん! この間ね、川端さんのおススメの店に行ったんだけど! これがもうね、すごくって! 私もイギリスの女の子を知った気でいましたけど、上には上がいますねぇー! よっ、このおっぱい男爵!! また行きましょうね! そっちで興味ある人、いますかー? 魅惑のお店におっぱい男爵が案内してくれますよ!! うふふっ!!』



「誰か。通信を切れ。……雷門、手を挙げるな」

「こ、これは違うんです! 誤解です! 皆さん!! 違うんです!! ウッグ、ナ゛ッ!!」



 余談はこのくらいにすると言ったはずだが。


 とりあえず、冒頭に行われた雨宮上級監察官による「ストウェアおっぱいリポート」は議事録から削除され、雷門監察官のよくないハッスルが早速飛び出す事になった。

 もう、雨宮と雷門の仕事は終わったとお考えいただいて結構である。


「それにしても、今回の任務は先の急襲作戦とは趣ががらりと変わりますな」

「楠木殿、話題を戻してくださり感謝いたします。南雲、説明を」


 五楼上級監察官に指名された南雲筆頭監察官が「こちらをご覧ください」と言って、サーベイランスを起動させる。

 モニターには、カルケルの見取り図が表示された。


「スキル犯罪者収容施設・カルケルは、元はダンジョンだったものを国際探索員協会が改修して縦に長い監獄へと作り変えたものです。重大犯罪者はカルケルの先にある異世界・ウォーロストにて身柄を拘束してあると言う二重構造になっておりまして、いかにアトミルカでもその攻略は容易なものではないかと思います」


 スッと手が挙がった。


「でも、南雲さん! 難攻不落の監獄って事は、一度内部に入られたら逆に叩き出すのが困難になりますよね? オマケに、中で味方の犯罪者たちをゲットされて勢力拡大された挙句、籠城されでもしたらどうします?」



「逆神くん。問題点の8割以上をなんで君が言うのかね。怖いなぁ、ナチュラルボーンソルジャーって。一目でそこまで計画練るとか、君も脅威だよ」

『あららー? 南雲さん、今、おっぱいの話しました? 胸囲、なんつって!!』

「おい! ストウェアからの通信は切れと言っているだろうが!!」



 日引春香オペレーターが「ダメです! ストウェアの通信、遮断できません!!」と叫ぶ。

 相手は使徒かな?


「ひょっひょっひょ! 今日は賑やかでええのぉ! 六駆の小僧、お主も下柳のが使つこうちょった席に案外馴染んじょるのぉ! もう監察官になるか?」

「ヤメてください、久坂殿。冗談にも言って良いものと悪いものがあります……」


「ちなみに監察官って儲かるんですよね? ね、木原さん!」

「うぉぉぉんっ! オレ様、給与形態は知らんけど、毎月結構な額が振り込まれてるぜぇ!!」


 ちなみに、下柳則夫元監察官の席は、久坂監察官と木原監察官の間にある。

 この並びに何のストレスもなくドンと腰を下ろせるのは、歴戦の勇士か精神がおかしい者、あるいはその両方の資質を備えた者だろう。


「日引。プリンを食堂から大量に持って来させろ。逆神と木原の口を塞げ」

「了解しました。こちら、会議室です。至急プリンの増援を願います」


 しばらくするとプリンが運ばれてきて、そこに生クリームが添えられていた事実は、六駆と木原を見事に黙らせた。


「……話を進めましょう。カルケルに入った事のある監察官は、まず久坂さん」

「おお、2回じゃったか、3回じゃったか。若い頃に行ったで? けどのぉ、なんちゅうか、あんまり面白うなかったけぇよう覚えちょらんのぉ!」


「はい……。分かりました。あとは、私と雷門さんも研修で行った事があります。が、第2層までしか入っていないので、参考にはなりませんね。そうなると、直近で1番関りがあったのは、ストウェアの川端監察官になるのですが」


 川端一真監察官は、2年ほどカルケルの防衛副指令としての任に当たった経験がある。

 それが4年前の事であり、情報として最新ではないものの、古すぎると切り捨てるには惜しいかと思われる。


『……川端です。皆さん、ご無沙汰しております』


 モニターには川端監察官が映される。

 その後ろでは、雨宮上級監察官がうろちょろしており、それを追いかけている水戸監察官の姿も捉えられた。


「後ろの痴れ者たちは何だ……」

「ははっ! 遠縁のじいちゃんが死んで、それを理解できてない幼児が葬式ではしゃいでるみたいですね!!」


「逆神、ヤメろ。軽快なノリでちょっと面白い不謹慎な喩えをするな。川端。報告を」

『……はい。私が赴任していた時には』



『よっ! おっぱい男爵!! 待ってました!! 頑張れー! 負けんなー!! 私たちのおっぱい男爵!! 夜の街なら任せとけ! 昼の街でもおっぱいだ!!』

『……すみません。死にます』



 川端監察官。凄まじい勢いのフレンドリーファイアにさらされる。

 五楼が頭を抱えて「死ぬな。生きろ」と川端を鼓舞した。


『……カルケルは、第11層からなる監獄ダンジョンです。奥になるほど重大犯罪者がいる、と言う訳ではなく、むしろ第1層に近い方に要人が収監されている傾向がありました。ただし、アトミルカのシングルナンバーレベルになると話は別で、異世界・ウォーロストに例外なく幽閉されています』


 どうにか心を取り戻した川端監察官によって、その後もカルケルの構造について説明が続けられた。

 六駆はプリンを食べながら、その話を割と熱心に聞いていた。


 何やら、お金の匂いがするからである。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 その頃、南雲監察官室では。


「それで! 六駆くんと一緒に行ったカフェで!」

「莉子さん? 六駆さんとのデートで1度も殿方がお金を払っておられませんけれど、それって……」


「えーっ? 六駆くんがお金払うなんて、そんなのダメですよぉー!」

「……失礼ですれど、なんだか少しだけお排泄物なカップルの匂いが、いえ! なんでもありませんわ!!」


 六駆について来た莉子と、トレーニングをしていた小鳩がガールズトークに花を咲かせていた。

 旦那の帰りを心待ちにしている莉子さんには悪いが、監察官会議はまだ続くのである。

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