第346話 南雲修一(ノーマル)&加賀美政宗VS6番ヒャルッツ・ハーラント

 六駆の前では4番が、既に隠そうともせず煌気刀を両腕に発現していた。

 「動けば殺す」の意思表示だが、チーム莉子は怯まない。


 先頭に逆神六駆がいるからである。


 彼女たちにとって、これ以上に信頼できる背中は存在しない。

 莉子が、クララが、芽衣が、そして小鳩が。


 「六駆くんならば絶対に守ってくれるはずだから」と信じ、自分たちにできる戦いの用意に取り掛かる。

 もちろん、それは援護射撃の類。


 彼女たちも一線級のスキル使い。

 ならば、手合わせをせずとも4番の相手は六駆にしかできないと感じ取れる。

 少し訂正するのであれば、そう考えている者の中に小坂莉子も含まれている点か。



 莉子さん。あなたなら結構普通に戦えますよ。



 それはそれとして、六駆は「さて、どうしたものか」と考える。

 南雲の加勢に行くべきだろうと彼は思う。

 が、4番を残して莉子たちから離れるのは愚策であるとも思う。


 階下にいる6番も相当な実力者であると見抜き、「南雲さんと加賀美さんのコンビでどうにかなるかな?」と懐疑的であった。


 ちなみに、『貸付古龍力レンタラドラグニティ』の事は未だに忘れ散らかしている。


「ほう。意外と冷静だな。お前らの指揮官が閉じ込められたってのに」

「いや、だってあなたを倒さないと何もできないでしょう」


「なるほどな。いい判断だ。ところで、気になったんだが。いいか?」

「何でしょう? まあ、お話相手くらいは務めさせてもらいますよ」



「いや。すげぇ偉そうな態度だけどよ、お前って最初からいたっけ?」

「いましたよ! 失礼な人だな、あなたは!!」



 4番は少しばかり困惑する。

 それもそのはず、フォルテミラダンジョンでは逆神流を使う事で存在を隠匿。

 異界の門の関所では、どさくさに紛れて下柳則夫と交戦。


 駐屯基地では竜人トリオと古龍の戦士・ナグモを隠れ蓑として活用。

 デスターに突入したあとは『ゲート』を使ったりはしたものの、ほとんど何もしていない。


 ついさっき『瞬動しゅんどう三重トリプル』を使ったが、その時点では既にデスターのモニタリング機能が稼働していなかった。



 逆神六駆、奇跡のようにその存在を隠し通す事に成功する。



「ま、まあ、いいか。一番前のお前。名前は?」

「さかが……じゃなかった! 南雲だ!」


「なに!? お前もナグモと言うのか!?」

「そうだ! お前たちが恐れる南雲修一は僕のおじさんだ!! ざまぁみろ!!」


 4番は警戒のレベルを引き上げた。

 「ナグモの血族は根絶やしにせねばならん」と。


 六駆もここでは普通に戦えるらしい事を理解しているので、4番の注意をめいっぱい自分に引きつける事で南雲と加賀美の援護をする構え。


 『貸付古龍力レンタラドラグニティ』についてはまだ思い出してはいない。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「加賀美くん。困ったことになった」

「分かっています。今の南雲さんはノーマルですから」


「……うん。その表現だと、なんかアブノーマルな私がいるみたいでちょっと嫌だな」


 古龍の戦士・ナグモは充分にアブノーマルなので、安心して欲しい。


「相手は明らかに下柳元監察官よりも強いですよ。ここは、2人でかかりましょう」

「そうだな。正々堂々などとは言っていられない。……『双刀ムサシ』!!」


 加賀美もイドクロア竹刀・ホトトギスを構える。

 6番も別に南雲と加賀美の作戦会議を待っていてあげた訳ではない。

 彼は既に両手にありったけの煌気オーラを凝縮済み。


「古龍の狂戦士にこのようなスキルを使うと嘲笑されそうだがな、行くぞ! 『ハイドロフロストワイバーン』!!」


 6番は初手で切り札を出す。

 相手が格上の場合、この戦法は間違いではない。


 とっておきの攻撃を温存したまま敗北するのが一番の愚行。

 ならば、初手に奥義を持って来るのはスマートである。


 弐対の氷の翼竜が南雲と加賀美に襲い掛かる。


「何と言う煌気!! 攻勢九式! 『風裂かぜさとんび』!! つぅりゃあぁぁぁっ!! ぐっ! これは……! 自分のスキルが押し負ける……!!」


 加賀美政宗の対処も正しかった。

 彼は切断に特化した風の斬撃を選択し、全力でそれを放つ。


 相性は悪くない。

 だが、加賀美のスキルは氷の翼竜によって嚙み砕かれる。


 単純に、煌気オーラの練度で6番に負けてしまった結果である。


「か、加賀美くん! 無事か!?」

「ぐっ……はぁ……。どうにか、生きてはいます! 南雲さんはご自分の身を!!」


 氷の翼竜は同時に放たれたが、対象へ着弾するまでに時間差があった。

 これは、「南雲が味方を庇う場合、攻撃の機会が2回に増える」事を期待した戦略である。


「これは、受け流してはいられない! 加賀美くんの方の竜もどうにかしなければならん! 変刃! 『あまそら』!! 一刀流! 『撃墜山颪げきついやまおろし』!! ぬぉおぉぉぉ!!」


 南雲の刀が星屑を撒く。

 変刃した星刀は煌気オーラを無効化させる。


 そこに逆神流剣術を参考にした、南雲流剣術を畳みかける。

 今の南雲にできる、最大級の攻防一体のスキルであった。


「これが防がれるのは想定内! では、これならどうする!? 『フロストスパイク』!!」


 6番は氷柱を自在に操り、南雲の足元を狙った。


「ぐあぁぁ! くっ、氷の竜を2体も具現化しながら、さらにスキルを!?」

「南雲さん! くそっ! 確かに出し惜しみはできない! 攻勢壱拾四式!! 『みずち』!!」


 加賀美政宗、最大の奥義。

 その名は『みずち』と言う。


 奇しくも6番の『ハイドロフロストワイバーン』と同系統。

 水を纏った竜のような一撃は、氷の翼竜と衝突する。


 ゴォンと音を立てて、相殺される2人のスキル。


「……ナグモだけを標的にしていたが、そうもいかんか。確か、Sランクの加賀美政宗だったな。私のスキルと相打つとは。見事!」

「あなたにこそ、自分は敬意を表します! 2人を相手に退路を断つ戦いを選ぶとは、相当な覚悟の上でしょう!!」


 そこに南雲もやって来た。


「はぁ、はぁ……。確かに、大した覚悟だ。だが、私たちも負けるわけにはいかない!」

「……ナグモ。あなたは私を愚弄するか!!」


 怒りの6番。

 彼は憤怒にその身を震わせながら叫ぶ。



「ええっ!?」

「なぜ本気を出さない! なぜわざとスキルを受ける! 私など、取るに足らぬと言うのか!!」



「えええっ!?」

「私はあなたとの戦いに命を賭けて臨んだ……! にもかかわらず!! 屈辱だ! 許せん!!」



「ええええっ!?」

「いつまでもひょうきんな顔で驚くふりを……!! ナグモぉぉぉぉぉぉ!!!」



 南雲修一、せっかく氷の翼竜を頑張って消滅させたのにそのシーンはカットされ、太ももに氷柱が刺されば「接待プレイしやがって」と激高される。


「かぁぁぁぁぁっ!! 私の煌気オーラを全て込める!! 『ダイダル・アバランシュ』!!!」


 6番は氷の壁に手をついて、煌気を放出した。

 これは、彼の作り出した『ブリザードクラックルーム』でのみ使える、極大スキル。


 双璧が津波のように押し寄せて、天井が雪崩のように崩れ落ちる。

 そのスピードは加速度的に増して行き、最終的にはこの氷の部屋そのものが無に帰すると言う、まさに命を賭した自爆スキル。


 南雲は叫んだ。


 自分だけが犠牲になるならばそれもやむなし。

 だが、加賀美政宗と言う未来ある若者を道連れにしたとあっては、三途の川を渡る時に居心地が悪いだろう。



「逆神くぅん! 例のヤツ! お願い!! お金、お金をあげるからぁぁぁ!!!」




 クライマックス感のまったくない絶叫はお控え頂きたかった。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 逆神六駆は「お金」と言うキーワードで全てを思い出した。

 「いっけね!!」と彼は舌を出す。


 それやるの、2回目ではないか。

 3番戦で一体何を学んだのか。


 失敗から何も学ばないのが、ダメなおじさんなのである。


「ふぅぅぅんっ! 『貸付古龍力レンタラドラグニティ二重ダブル』!!」


 六駆は急いで南雲に古龍の煌気オーラのドーピングを行った。

 「ごめんなさい」の意味を込めて、いつもより余計に煌気オーラを付与したと言う。

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