第345話 軍事拠点・デスターの最奥へ!!
南雲は協会本部と通信を行っていた。
100メートル先では、木原久光が暴れている。
この状況ならばもはや通信の傍受を恐れる事もないかと思われ、むしろこんな大惨事の中で傍受できるものならばそれはもう称賛に値するのでご自由にどうぞ。
そんな南雲の考え通り、4番と6番は司令官室で待ち構えている。
『南雲。まずは貴様に謝らなければならん。木原をそちらに行かせたのは、私のミスだ。最悪の場合、作戦の成否にかかわっていただろう』
「いえ。結果オーライでしたので、お気になさらず。木原さんがいてくれたおかけで、こちらは最後まで逆神くんの力を隠し通していられました」
『ふっ。南雲は優しいな。だが、敵に向ける情はほどほどにしておけ。貴様に死なれると、私も色々と退屈になるからな』
「了解しました。それでは、残ったアトミルカの幹部、4番および6番の無力化と捕縛を実行します。……ところで、デスターがこのままだと崩れ去りますが?」
五楼はこめかみを抑えて苦い顔をした。
どうやら、頭痛の種が開花したらしい。
『デスターの情報は国際探索員協会からも是非欲しいと通達がきている。可能な限り保全に努めるよう、こちらで手配しよう。そろそろ屋外の戦闘が終結しそうだからな。雨宮たちを木原のところへ向かわせる』
南雲は「了解しました!」と敬礼する。
五楼も「武運を祈る。無理はするな」と応じて、通信は終わった。
「諸君。聞いてくれ」
「南雲さん。僕、のろけ話は聞きたくないです!」
「おおい! やめろよ、逆神くん! 別に、普通の通信してただけでしょうが!!」
「だって、莉子が言うんですもん! 南雲さんは五楼さんの事が絶対に好きだって! 莉子が言う事は全て正しいはずなので、南雲さんのオフィスラブは確定ですよ!」
「こ、小坂くん……。信じていたのに」
「だっ、だってぇー。南雲さん、結構おじさんなのに独身だから、ステキな恋が始まって良かったなぁって思ったんですー……。ごめんなさい」
「あー。南雲さんが最終作戦の前にうちの主砲をしょんぼりさせたにゃー! 指揮官が士気を下げたにゃー! 五楼さんに言い付けるにゃー!」
「ダメですわよ、クララさん。南雲さんはお排泄物よりも少し綺麗な殿方ですが、一皮むけばお排泄物な欲望にまみれた中年男性! 五楼上級監察官の恋心が冷めますわ!」
「みみみっ! 芽衣はまだ恋とか分からないので、小鳩さんのお尻にくっ付いておくです!」
南雲は「この作戦で今が最も気まずいんだけど」と思った。
すると、サーベイランスから山根の声がする。
『ちなみに、今の会話は全部五楼さんに届いてるっすよー! よっ、この色ボケ中年!!』
「なーんでだよぉー!! 通信終わったらそっちで切りなさいよ!! 性格が悪いなぁ、山根くん!! もういい、こっちで切るから! ……ボタンがない」
山根は『あー。南雲さん側からは切れないっすよ? そういう仕様なんす』と答えた。
「どういう仕様だよ!!」とツッコミを入れた頃には、本当に通信が切れていたと言う。
「……諸君。もう、なんか色々と緊張感がどこかへ飛んで行ってしまったが、プラスに考えよう。リラックスしているようでなにより。この先には大きな部屋が1つしかない。司令官室だろう。我々は突入ののち、4番および6番の身柄を拘束する!」
「陣形はどのようにしますか? 自分と塚地さんはまだ前衛でいけますが」
「ああ! その加賀美くんのマジメな反応が愛おしい! ……こほん。先陣は、私と加賀美くんで務めよう。敵は2人だ。受け流しスキルの多い我々が先頭ならば、向こうの初手を封じられる可能性は高い」
チーム莉子のメンバーも頷いた。
だが、六駆はまだ納得していない。
「南雲さん! 次が最後って事は、僕も本気出して良いんですか!?」
「ええ……。うん。そうだな。私が許可を出したらね?」
「つまり、待機せよと言う命令ですね? おいくらになりますか!?」
「5……いや、7万円で手を打とうじゃないか」
「う、うひょー! 何もしていないのに7万円! 僕、全力で待機します!!」
「何よりの朗報だよ。……では、行くぞ! 道中、木原監察官の『ダイナマイト』に巻き込まれないように注意せよ!!」
南雲修一を先頭に、彼らは長い廊下を駆ける。
その先にはラキシンシで出来た大きな扉が待ち構えていた。
「押し通るぞ、諸君! 『
南雲の放った
いよいよ、長かった急襲部隊の旅路もクライマックス。
軍事拠点・デスター。
その最奥にたどり着いたのである。
◆◇◆◇◆◇◆◇
「来やがったか。ヒャルッツ!!」
「心得ている! 『ブリザードクラックルーム』!!」
6番ヒャルッツ・ハーラントは、もう30分も同じ姿勢で急襲部隊の急襲を待ち構えていた。
迎撃戦の不利は、任意のタイミングで戦端を開けない点にある。
が、迎撃戦の有利は、あらかじめトラップを仕掛けておくことができるのだ。
「ぐっ! 足場が!?」
「南雲さん! 危ない!!」
司令官室の床には大穴が開いており、それは6番のスキルによるものだった。
彼は氷属性のスキルで作った氷柱のドリルでラキシンシ製の床を3メートルほど掘り進み、司令官室に地下1階を作り上げていた。
先頭を走っていた南雲と、少し遅れて敵の攻撃に対応すべく構えていた加賀美が氷の地下1階へと落下する。
「ナグモさーん! 生きてますかー!」
「この程度で死んでたまるか! あと、スカレグラーナ訛りで呼ぶなよ!!」
「いや、だって何故かアトミルカさんたちってこのイントネーションで呼ぶから! 合わせた方が良いかなって!」
「なんでその協調性が普段から顔を出さないのかな!? 今は別に顔を出してくれなくて良いんだけど!?」
リアクションを見る限り、南雲は無傷のようであった。
当然、加賀美もダメージは受けていない。
訓練された2人は、喩えところどころに氷柱のトゲが生えていようとも煌気を高めることで対応できる。
2人は最強の探索員協会が誇る、筆頭監察官とSランク探索員。
この程度では遅れを取らない。
「ヒャルッツ。良いんだな?」
「構わない。『フリージングシーリング』!! ぜぇやぁっ!!」
6番も氷で出来た地下1階の特設ステージへと下りた。
かと思えば、次の瞬間にはもう
「あらら。閉じ込められちゃった。どうしようか、莉子さんや」
「うーん。南雲さんの指示があるうちは、動かない方がいいかもだと思うけどぉ」
「おっ! すごいや! 僕と同じ意見! 莉子は本当に成長するのが早いなぁ!」
「えっ、ホントぉ!? 六駆くんとお揃いだぁー!」
4番は、地上に残されたチーム莉子を見くびっている訳ではなかった。
「明らかに若いな」と怪訝には感じたものの、「ここまで無事に辿り着いた」と言う実績を踏まえて、何かあればすぐに首を飛ばす程度の備えをしている。
当然だが、六駆はその殺意に気付いている。
彼も4番同様に、「敵が動けば南雲さん無視してぶっこもう!」と考えていた。
その結果、両者が睨み合いの形となり、戦いが先に始まるのは氷の地下1階。
「古龍の狂戦士・ナグモ。敵ながら、あなたと戦える事を本懐とする!!」
「えっ!? ああああっ!!」
南雲は気付いた。
「逆神くん、私に古龍の
ご存じだろうか。
仕事の大事な局面でこそチョンボを犯す。
これは、おじさんが持つ108ある必殺技のうちの1つである。
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