第335話 難攻不落の門番、現る

 久坂剣友がデスターに到着してから、5分の時が流れた。

 わずか5分である。


「おーおー。お主ら、ちぃと訓練が足りちょらんようじゃのぉ? そがいな腕で監察官とやり合おうっちゃあ、いくらなんでも厚かましいで?」


「す、すご過ぎます……! これが協会本部の生き字引……久坂監察官!」

「マジでオレらの出番なかったんでぇ。よろしくぅ」



 探索員協会の最長老、20番台の構成員3人を5分で始末する。



「やれやれ。手加減して戦うのが一番疲れるわい。55の。後は任せたけぇの」

「了解した! 久坂剣友!」


 久坂は55番が家に下宿するようになってから、毎日55番を鍛えていた。

 彼は、弟子を取るのは塚地小鳩で最後にするつもりだった。

 そして、小鳩は立派な探索員になった。


 だが、元は敵だった55番がやたらと自分に懐いてくる。

 初めは困っていたが、これだけ慕われるとやはり情が湧いてきてしまうのが久坂剣友と言う男の生まれ持った性質。


 結果、彼にとって本当の最期の弟子は、現在急成長中である。


「残党狩りくらいならオレらも余裕なんで! よろしくぅ!」

「あなたも噂に聞いています! 55番さん! 助太刀いたします!! 3人で掛かれば、先行した南雲さんたちにも追いつけますよ!」


「確かにそうかもしれん! では、私が道を切り拓く!! 『ローゼントルナード』!!」


 55番が繰り出したのは、薔薇の花びら。

 それが竜巻のように回転しながら敵を襲う。


 久坂のスキルはそもそもが我流。

 よって、探索員としての本道を教える事は苦手としている。


 その点、55番のスキルは本道から大きく外れており、久坂流のスキル指導との相性も良かった。


 久坂が協会本部に申告した55番のスキルは、薔薇属性。

 もちろん、そのような属性はこれまで存在していない。

 だが、一点もののスキルと言うものは対策が立てづらく輝きを放つのが戦場の常。


「よっしゃ! 行くぞ、青山! 合わせてよろしくぅ!!」

「了! はぁぁぁっ!!」


「いくぜ、いくぜぇー! 『ぶっこみ・ソニックバースト』!!」

「トドメは私が! 『ソニックニードルスピア』!!」


 指揮官を失った構成員たちは、既に部隊としての形を維持できなかった。

 そんな不安定な相手に遅れを取る3人ではない。


「ひょっひょっひょ! お主ら、やるのぉ! こりゃあワシ、もう出番ないかもしれんのぉ。まあ、ええか。とりあえず修一たちを追うけぇ、ついて来い!」

「確かにそうかもしれん! 久坂剣友! あなたに続こう!!」


 そう言うと、久坂は足に煌気オーラを溜めて猛スピードでデスターの廊下を駆ける。


「……とんでもねぇじいさんなんで、よろしくぅ。オレらの『ソニックダンス』より余裕で速いんだわ」

「55番さんは付いて行ってますよ? 私たち、この作戦が終わったら修行のやり直しですね」


 潜伏機動部隊の2人はここで戦線を離脱。

 彼らについて行っても役に立てる局面はないかと思われ、2人は壁の外のゾンビがデスター内に侵入しないよう防ぐ役割を受け持つことにした。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 先行していた急襲部隊。

 気付けば人数も減っているが、それぞれが一騎当千の実力者。


 ならば、20番台の迎撃部隊など相手にならない。


 だが、そんな事はアトミルカ側も承知しているのである。

 4番グレオ・エロニエルは、手元には置いておきたくない駒を使用する。


 「この男の存在は自分の手に余る」と考え、最終局面には参加させない。

 だが、遊ばせておくには強大な駒。もったいない。

 ならば、早いところ使ってしまうのが良い。


 事が済むなら、それはそれで結果オーライとして。

 仮に探索員部隊に敗れたとしても、4番にはノーダメージ。


「またお会いしましたね。ナグモ。それと、隣にいる若い少年。……んー。その他大勢とは言えない手練れが多そうだ。なるほど、これは捕える事が出来れば、実に優秀なモルモットになりますね」


 3番。クリムト・ウェルスラー。

 デスターの中で最上位のナンバーである男が、早々と急襲部隊の前に立ちはだかった。


「あらら。敵さんも色々と考えますねぇ。戦い慣れてるもんなぁ。なんだか、周回者リピーターの頃を思い出して嫌だなぁ。僕は平和にダンジョンで小銭稼ぎしていたいのに」


 あの逆神六駆が3番を前線に出すと言う策を、手放しで褒める。

 それだけでこの状況が極めて深刻な事をメンバーたちは理解する。


「六駆くん? どうしたの?」

「いやね、なんだか妙な気配が……。ふぅぅん! 『集束マイクロ大竜砲ドラグーン』!!」


「ぐあっ!?」


 六駆が壁と同化していた777番を撃ち抜いた。

 その手には、川端一真おっぱい男爵の人生をおっぱいで歪めた『幻獣玉イリーガル増殖ゾンビ』が装填された速射砲。


「ほう! 素晴らしい! よく気が付きましたね、777番くんの存在に! 私の『圧縮玉クライム』の中でもとびきり上等のステルス装備を! 少年、名を聞いておきましょうか!」


 六駆は「ふふっ」と少し笑って、答えた。



「僕は南雲修二だ! 南雲修一の甥だ!! そして、さっきの攻撃もおじさんに指示されただけだ! 南雲の力を舐めるなよ!!」

「おおおい! 何言ってくれてんの、逆神くぅん!? あと南雲の力とか言うなよ! なんで邪眼の力を舐めるなよのトーンで言うの!? 飛影はそんなこと言わない!!」



 3番は「なるほど、なるほど」と何度も首を縦に振った。


「ナグモは一族でしたか! では、やはり始祖であるナグモ本体を狙うとしましょう! いくら少年が達人とは言え、所詮はナグモよりも格下! であれば、サンプルに加えるのは非効率と言うものですからね! 777番くん!」

「はっ! ナグモ一族以外を抹殺すればよろしいのですね?」


「結構。ナグモに煮え湯を飲まされたにもかかわらず、私怨で動かないところは素晴らしい。私が君を買っているのは、そういうところです」

「痛み入ります。では、すぐに済ませますので!」


 777番が前衛に構えていた小鳩に襲い掛かる。

 彼には「女は殺さない」などと言う騎士道精神が存在しない。


 代わりに、「3番のために身を捧げる」と言う、ある意味では狂信的な思考が1つ、太く丈夫な筋として精神を正している。


「そうはいきませんわよ! 『銀華ぎんか』! 十六枚咲き! 『銀華立体盾シルバーディメンション二重ダブル』!!」

「塚地さん! 援護する! ぐおぉぉぉっ!! ったぁ! 『紫電しでん雷鳥らいちょう』!!」


 777番はわざと攻撃を喰らう。

 小鳩と加賀美は当然、追撃態勢に移る。


 その結果、急襲部隊は綺麗に南雲と六駆。

 それ以外の者に分断された。


「あーあー。ダメだなぁ。戦力を分散させるなんて、愚策ですよ。ねえ! おじさん!」

「誰が誰のおじさんだ! ヤメなさいよ!! 逆神くん!!」


「ふふふ。戦力を分散させられたのは、どちらでしょうか? たっぷりとデータを採らせてもらいますよ、南雲修一!」


 ついに3番が自らの手で戦いに加わる。

 彼は『圧縮玉クライム』を取り出し、それを展開した。


「おわっ! すごいものが出ましたよ、おじさん!」

「ヤメて! それで、何がすごいの!? あの大きなはさみはただの武器じゃないのか?」


 3番の取り出した武器は鋏。

 『フライシザーズ』と名の付けられた、3番自慢の逸品であった。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 時を同じくして、久坂と55番が戦場に到着した。


 55番は未だにアトミルカの構成員時代の装備を使っている。

 それが「久坂剣友と出会った時のままの私でいたい」と言う彼の意志によるものなので、誰も咎めない。


 だが、3番から見れば、敵側に裏切ったばかりの構成員にしか見えなかった。


「……愚物は死になさい。『シザーズショック』!」


 3番の飛ばした鋭い煌気オーラ弾は、タイミング的に55番の心臓を捉えていた。

 が、彼は無事だった。


 何故か。


「……今のはちぃとばかり目に余るのぉ、そこの小僧。よそ様の家族に手ぇ出すっちゅうことは、つまり覚悟ができちょるって事でええんじゃの?」


 久坂剣友の傍にはいつも55番がいる。

 ならば、55番の隣には。


 3番は怒らせるべきではない老人の逆鱗に触れたようである。

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