第334話 デスターに突入せよ!
六駆は冷静に戦況を分析する。
そろそろ壁の外で戦闘をしている時間的余裕がなくなって来ている事を、百戦錬磨の彼は理解していた。
「ちょっと失礼! 『
「君は本当に器用だなぁ。魚釣りみたいに敵を捕らえるんだもん」
六駆がサンプルにゲットしたのは、アトミルカ構成員。
川端ゾンビによって子ゾンビにされた、右肩に『
「南雲さん、ちょっと持っててくれます?」
「正直嫌だけど、分かった。何をするんだね?」
「ふぅぅぅんっ!! 『
「いや、人道的にこんな事は考えちゃいけないって事は分かってるんだけど。こう身近で寄生された人を見ると、アレだな」
「すっごくキモいですよね!!」
「君のセリフにはオブラートを箱で用意しても意味がなさそうだな」
六駆の『
まず、彼は指揮官に情報を伝える。
端的に。要点だけを押さえて。
「結論から言うとですね。この『
南雲はさらに頭を抱える事になった。
現状、視界に入るだけでも感染者は10人近くいる。
それが、今後さらに感染者を増やすと言う事になれば、パンデミックである。
とても捨て置ける事態ではない。
が、現状がここで時間を使えるギリギリの地点である事は、優秀な南雲だって当然気付いていた。
戦いに「たられば」は禁物であるが、もし和泉正春がこの場にいてくれたらと思わずにはいられない。
非情な決断が求められる局面である。
「こうなれば、致し方ない!」
「南雲さん。僕は別に文句は言いませんけど、部隊を分断するのは」
「分かっている! 我々急襲部隊の本隊は、これよりデスターに突入する!! この場は不本意ながら、雷門監察官および、雨宮上級監察官に一任したい! 雨宮さん、よろしいですか!?」
「おけまる水産よいちょまる! 任せて、任せてー! 私が再生に専念すれば、こんなのものの数じゃないからさー! ねー! おっぱい男爵!」
現場の指揮を委譲された雨宮は、軽薄な返事で快諾した。
彼の言うように、雨宮が再生スキルを同時に発動すればこの場の混乱を納めるのにそれほどの時間は必要としないだろう。
アタッカーならば、既に士気の限界突破を果たした男が復活している。
「……かぁぁっ!! 『
「さっすがー! 川端おっぱい男爵の蹴りは切れ味抜群ー!!」
右胸を貫かれ、膝から下を叩き斬られると言う、常人ならば精神が崩壊してもおかしくない苦行を終えて、彼は帰って来た。
「おっぱい男爵! どんどんやったってつかぁさい!! 私、再生していきますんでね!」
「雨宮さん……。私は自分を押さえられないかもしれない。再生は念入りに頼みます」
不名誉な愛称を付けられた、監察官で1番寡黙な男は悪鬼の表情で蹴りを連発していた。
その威力はもちろんのこと、精度は目を見張るものがある。
武器を用いた攻撃でも、これほどピンポイントに『
「川端さん! 自分もお手伝いをします!」
「水戸くん。君は鞭を使って敵を捕縛してくれ。私には『
水戸と会話をしながら、蹴りによって放たれる鋭く尖った
この場はもう大丈夫だと感じさせるには充分であった。
「急襲部隊は全員! 速やかにデスターの中へ突入せよ!! 援護射撃は雷門監察官がしてくれる!! 繰り返す! 総員、振り返らずに全力疾走だ!!」
まず前線で戦っていたチーム莉子と潜伏機動部隊の2人が、速やかに戦線離脱する。
続いて、南雲と加賀美が敵をけん制しながら道を作る。
クララと雲谷をアタック・オン・リコから守りながら、殿を務めるのが六駆。
「今回ばかりは私、目立たなくて本当に良かった!! 本当に!! 援護します!! 『
急襲部隊の突入を見届けたストウェア組は、この後、ものの1時間で戦場を制圧する事に成功する。
雨宮の再生スキルによって助けられたアトミルカ構成員たちは、捕虜となったのち、口々にこの時の出来事を語る。
「おっぱい男爵の奇跡」として。
◆◇◆◇◆◇◆◇
「うにゃー! なんかずっと一本道ですぞなー?」
「そうですわね。通路らしきものはありますけれど、意図的に閉鎖しているようですわ」
「えっとぉ。六駆くんから習った事がありますよ! こういうパターンは、敢えて侵入経路を絞る事で迎撃をしやすくするのが目的だとか!」
「おっ! 莉子さんや、ちゃんと僕の話を聞いてくれてたんだね! 正解!!」
「えへへー。六駆くんに褒められちゃったー!」
「みみみっ! 六駆師匠の座学は勉強になるです! みみっ!!」
デスターに突入後、彼らは走っていた。
チーム莉子が先頭を任されている。
理由は言うまでもないと思うが、彼らが最も柔軟な対応ができるためである。
「南雲さん! サーベイランスを一基持って来ておきました!」
「おおっ! 加賀美くん、さすがだな! これは助かる!! 山根くん、応答してくれ!!」
加賀美政宗のファインプレーにより、協会本部との連絡が回復する。
『はいはーい。みんなのオペレーター、山根健斗っすよー! ちなみにこっちは午後3時なので、オヤツ食べてるっすよー』
「のんきだな、君は! こっちは時間も分からないよ! キュロドス、太陽が4つもあるんだからな! ずっとお昼だよ!!」
現在、最後方を走るのは屋払と青山のコンビ。
彼らは煌気感知能力に長けている。
そのため、異変にはすぐに気付いた。
「屋払隊長!」
「おう! 『ソニックダンス』!! つりゃあ!!」
屋払文哉が加速スキルで勢いをつけて、壁の1つをぶち破った。
そこには大勢のアトミルカ構成員が潜んでいた。
胸には21の文字。
さらに、23と26もいる。
「南雲の旦那! ここはオレらが!」
「ええ! 悔しいですけど、これ以上の強さになると私たちの次元では対応できません!!」
南雲は2人の意見を尊重する。
「分かった! だが!」
キメ顔の指揮官の言葉を、修正する男がいる事を忘れてはならない。
「何言ってるんですか、南雲さん! どう見ても自軍の方が弱いですよ!」
「ちょ、やーめーろーよー! 逆神くぅん! 今さ、ただし私も残る! って付け加えるところだったのに!!」
六駆は「あ、なんかすみません!」と反省していない謝罪をして、デスターの床に手をついた。
「ふぅぅぅんっ!! 『
六駆が創り出したのは、門と門を繋げる門。
つまり、アタック・オン・リコに出した協会本部に繋がる門を連結させて出現させたのだ。
中から現れたのは——。
「のぉ、聞いちょった話と違うじゃろうが。冷えるっちゅう事じゃから、ワシ、わざわざ腹巻までして来たのに、暑うて敵わんぞ、こりゃあ」
「確かにそうかもしれん! 腹巻は私が預かろう!!」
久坂剣友。および55番。
『
「修一。五楼の嬢ちゃんがのぉ、お主らを早う奥へ行かせろって言うてのぉ。まあ、この辺はワシらに任せぇ。じゃろうが? 潜伏機動部隊の若いの」
「く、久坂監察官と戦えるなんて、光栄です!」
「テンション爆上げなんで、よろしくぅ!!」
後顧の憂いは五楼京華の判断で取り除かれる。
目指すは敵の本丸である。
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