第326話 特攻野郎・逆神&屋払、爆撃される
どうにか3番と777番の急襲をやり過ごした急襲部隊。
彼らは陽動作戦組の和泉正春と竜人トリオに別れを告げて、アタック・オン・リコに乗り込み一気にキュロドスを北上していた。
もはや敵に気取られる心配も必要なくなったので、何の遠慮もなく爆走しているアタック・オン・リコ。
椎名クララのハンドル捌きも安定感を増してきていた。
「うにゃにゃー! 雲谷さんの言った通りですにゃー! トップギアに入れっぱなしで走ると超楽ですぞなー!!」
「あははっ! やっぱり! そうだと思ったよ!!」
なお、現実世界でMT車さんにそんな苦行を強いると、ギア1でアクセルベタ踏みすればエンジンが焼け焦げ、トップギアで停車からの発進を試みれば景気よくエンストする。
いずれも車の寿命を著しく損なうので、諸君に置かれましてはマイカーを大事にして頂きたい。
なお、アタック・オン・リコは移動要塞なので問題ないのである。
「もぉー。六駆くんってばー。わたしが膝まくらしてあげるのにぃー」
「みみみっ。六駆師匠は気持ちよさそうに飛んでいるです! みみっ」
「敵地で空を飛んで移動すると言う発想が既にお排泄物ですわね。さすがは六駆さんですわ」
そうなのである。
逆神六駆はアタック・オン・リコに搭乗していない。
あまりにも乗り物酔いが酷いため、彼はまたしても奇行に打って出た。
「いやー! やっぱり飛行スキルは1つ覚えておくものですね!! 空を自由に飛びたいなっと!! はい、『
竜人たちと話をしていて、六駆は思い出していた。
「古龍スキルでそう言えば羽生やすヤツがあった!!」と。
自在に空を飛ぶ分には、全然酔わない事に気が付いた六駆くん。
車酔いをする人でも、自分がドライバーだと全然酔わなくなる人は意外と多い。
「すげぇぜ、逆神! この風を切って突き進む感覚! オレのバイクに似てやがる!!」
「屋払さんも仕方のない人だなぁ! 普通、高校生の背中に乗って空を飛びたいって言います?」
「いいじゃねぇか! ちゃんと払ったろ! タクシー代!!」
「うふふ! ちょっと背中に屋払さんを乗せるだけで2万円は割が良いですよね! どうせ僕は飛んでるんだから、背中に1人余計に乗せたところで変わりませんし!!」
急襲部隊の中では、「逆神六駆に頼みごとをする時には現金を渡すと実に円滑に話が進む」と言う不文律、もしくは暗黙のルールが定着しつつあった。
六駆はお金が貰えてハッピー。
依頼主もお金で人外の力を得る事が出来てハッピー。
これをハッピーセットと呼ぶ。
なお、オモチャはついて来ない。
アタック・オン・リコの中では、青山が莉子に申し訳なさそうに頭を下げていた。
「本当にごめんなさい。うちの屋払隊長が逆神くんに迷惑をかけてしまって」
「いいんですよぉー! 六駆くん、人助けが趣味ですから! 今もあんなに嬉しそうですし!!」
なお、莉子さんの脳内には「金銭の授受」と言う後ろ暗い行為が勝手に洗浄される機能が搭載されており、六駆の行動は全て善意からの善行であると上書き保存される。
今さら何をと思われるかもしれないが、定期的に言っておかないとならない。
小坂莉子は既に手遅れである。
「……ん? 加賀美くん。このモニターに映っている赤い点って何だったかな?」
南雲は和泉を泣く泣く手放したため、理性的な話し相手が加賀美政宗しかいなくなってしまった。
この状況で加賀美が「ここは自分が受け持つので、皆さんは先に行ってください!!」とか言い出したら、我らが監察官殿は足に齧りついても阻止する構えである。
「少し待ってください。説明書に書いてあった記憶が……」
「困るよね。私たちは確かにルベルバック戦争でこの移動要塞にはお世話になったけども。急にまた乗れって言われても、色々と忘れてるんだもんなぁ」
「南雲さん。赤い点は高い
「うん。見てごらん? 今、逆神くんと屋払くんが飛んできたドローンみたいなヤツに爆撃されたよ。まだデスターまで距離があるのに。見つかるの早かったなぁ」
南雲は被弾した六駆たちの心配よりも先に、敵に捕捉された事を嘆いた。
当然である。
「ちょっと、酷いですよね! いきなり撃って来るんだもんなぁ!!」
「さ、逆神……。お前、自分だけ盾スキル発現させんの、ずるくね? よろしくぅ……」
今さら敵のドローンに爆撃されたくらいで、六駆が撃墜されるはずがないのだから。
◆◇◆◇◆◇◆◇
「うにゃー! 南雲さん! なんかいっぱい飛んできましたにゃー!!」
「これはまずいな! 逆神くんが狙われる分には問題なかったが、このままだとこっちの要塞にも攻撃を仕掛けてくるぞ!!」
言うまでもない事だが、ドローンは軍事拠点・デスターから発進したものであり、3番が開発した高性能な無人攻撃機。
大概の敵はこのドローンだけで殲滅できるだろう。
相手が移動要塞と、逆神六駆ではなければ。
「雲谷くん! 要塞砲でドローンを撃ち落とす事は可能か!?」
「ふ、ふふ……! 可能ですけど、南雲さん。1つ大きな問題があります」
「なんだね!? 君ほどの狙撃手が言うからには、致命的な問題なのか!?」
「いやね、ふふっ。ドローンに人が乗ってないと、撃ち落とす快感が半減しちゃって。あはっ、はははっ!」
「君は心の闇が深いなぁ、本当に。致命的なのは雲谷くんのメンタルだよ。この作戦が終わったら、景色が綺麗なところを旅行してきたらどう?」
「南雲さん。雲谷さんはもう笑顔でドローンを撃ち落としています」
時を同じくして、上空を行く逆神&屋払のぶっこみコンビも攻撃に移っていた。
六駆は器用に翼を操り、ドローンの群れの隙間を飛んでいく。
「屋払さん! お願いします!!」
「任せとけ! 『ソニックスライス』!! 八枚刃なんでぇ! よろしくぅ!!」
飛んでる限りはコンディションがバツグンの六駆。
普段からバイクで峠を攻めている屋払。
この2人にとって、高速飛行をしながら敵機を攻撃するのは朝飯前。
意図した訳ではないが、完璧な別動隊としてぶっこみコンビが光を放っていた。
「ああ……。凄い勢いでドローンの残骸が降って来る。もったいないなぁ。あれも、さぞかし高度な技術が使われているに違いないのに。一機くらい逆神くんに回収してもらうか」
割とのんきに戦況を眺めていた南雲。
そんな彼の耳に、緊急事態宣言が響き渡った。
「な、南雲さん! 何をのんびりしておられますの!? 早く莉子さんを止めて下さいまし!! 指揮官失格ですわよ! なんてお排泄物……!!」
見れば、要塞砲のスキル注入口に手を突っ込んでいる莉子さん。
芽衣が「莉子さんは『
そして、南雲の精神安定剤である加賀美がトドメを刺しに来た。
「南雲さん。説明書にですね。なお、『
「こ、小坂くぅん!! 待って!! 逆神くんなら大丈夫だから!! 落ち付いて!! お願い!! 手の平に
アタック・オン・リコの搭乗員が総出で莉子を制止した。
莉子は「わたしの名前が付いてる要塞なんだから、良いじゃないですかぁ!」とごねる。
どうにか矛を収めてくれた莉子を見届けてから、南雲は「恋愛って本当にマジメな子をダメにするんだなぁ」とため息をついた。
一息入れるために飲んだコーヒーは、味わい深く優しい香りがしたと言う。
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