第316話 物損事故! アタック・オン・リコ!! ~急襲する予定のない基地を急襲する人たち~

 南雲の視力ではまだ見えないが、雨宮監察官室では必須スキルの視力強化を極めている雲谷陽介Aランク探索員。

 彼が「見える」と言うのだから、それは疑う余地のない事実。


 南雲修一総指揮官は考えた。


 地図を確認すると、予定よりもかなり東側を走っているアタック・オン・リコ。

 ここで駐屯基地と一戦交えると、デスターに到着する頃にはあちらも準備万端に整っているだろう。


 加えて、問題がある。


 最強の手札である逆神六駆が、乗り物酔いでダウンしている。

 これは看過しがたい特記事項である。


 具体的には、『極大・蜃気楼テオバニッシュラル』の効果をいつまで維持できるのか。

 その点が激しい不安要素であった。


 だが、南雲の不安はすぐになくなる。

 結果として、現実がやって来たからに他ならない。


「あはははっ! 南雲さん! あっちの基地から何か撃ってきますよ! 大砲かな?」

「なんで!? 逆神くんのステルススキルを見破ったと言うのか!?」


 六駆の保護者と恋人を兼任する莉子が、控えめに申告した。



「あのぉ。六駆くん、5分前くらいから横になってます。スキル投入口から手も抜いてるので、多分今、わたしたちって丸見えなんじゃないかとぉ……」

「逆神くぅん!! うわぁ! すごく顔色が悪い! そんな様子を見ると文句も言いにくい!! だけどさ、せめて一言だけでも報告してから倒れてくれよ!!」



 雲谷の目はさらに凶報を告げる。


「あっはっは! 大砲の着弾まであと2秒ってところですかねー! ふふふっ」

「笑ってる場合じゃないよ! 椎名くん! 回避して!!」


 クララは慌ててシフトレバーを操作した。

 シフトレバーを操作する時に慌てている時点で、フラグは立っているのだ。


「うにゃー!? なんか変なとこにレバーが入っちゃったぞなー」

「あー。加速って書いていりますね! ふふ、けっさく!!」


 アタック・オン・リコはそれまでの2倍の速度で前進する。

 南雲の目でも駐屯基地が見えるようになり、それがどんどん近づいてくる。


「椎名くん! ダメだよ! 止まって! いや、バックして!! これ、完全に向こうの射程に入ってるじゃないか!! 接近してくる要塞とか、いい的になるよ!!」

「了解ですにゃー!! うにゃー!!」



「あっ。椎名さん、それ5速に入ってるよ。ふふっ、ドジっ子だなぁ!」

「おおおい!! ダメだよ、なんで加速からトップギアに切り替えるの!? あああ! すっごい基地が迫って来る!! ダメだ! 総員、衝撃に備えて!!」



 暴走するアタック・オン・リコ。

 スピードが落ちる事もなく、無事にキュロドス東の駐屯基地に到着した。


 と言うか、外壁に衝突した。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 敵基地の外壁にぶっ刺さると言う物損事故を起こしたアタック・オン・リコ。

 それでもほとんど衝撃がなかったのは、製作者が逆神六駆であり、整備士がシミリートだったおかげだろう。


「もう、こうなっては仕方がない! 速やかにこの基地を制圧する!! 確実にデスターに連絡がいっただろうから、もう後の事は考えなくて良い! 全員、戦う準備はできているか!?」


「南雲さーん! 六駆くんが動きません!! わたし、ついていてあげたいんですけどぉ!!」

「も、モルスァ……。ブルスコ、ブルスコ、ファー」


 急襲部隊における最強の手札が2枚ともなくなった。


「くそぅ! 私には高校生カップルの仲を引き裂くことができない!! 他のみんなは出られるね!?」

「南雲総指揮官! 意見具申よろしいでしょうか!!」


「えっ!? 青山くん!? ちょっと、やだ! あんまりよろしくないよ!?」

「屋払さんが知らないうちに乗り物酔いしていました!!」


「バイクと違うバイブレーションには、オレのバイブスが付いて行かなかったんで、よろしくぅ……」

「韻を踏む余裕があるなら戦いなさいよ!! ああ、もう! よし、では残りのメンバーで出撃するぞ!!」


 すると、さらに手が上がる。

 この弱々しさは、和泉正春Sランク探索員。


「ごふっ」

「和泉くんは仕方ないね!! 何も言わなくて良いよ!! ゆっくり横になって! 小坂くん、和泉くんの介護も頼むぞ!!」


 どんどんカードが減っていく急襲部隊。

 そんな事をしていると、基地からアトミルカの構成員が出て来てしまった。


「まずい! アタック・オン・リコを取り囲まれてしまう! さすがに包囲された上に攻撃を加えられると、この要塞も故障するかもしれん!!」

「自分が出ましょう! この部隊で1番若い彼女がすでに出張っていますから! 大人として、放ってはおけません!!」


 気付けば、外に出ていたのは木原芽衣。

 彼女は必要な時ではないと判断すると、極限まで戦いから遠ざかる。


 だが、有事の際には誰よりも冷静な分析のもと、「自分の担うべき役割」を素早く理解して動けると言う、稀有な才能を開花させていた。


「みみみみみみっ! 『超幻想・分体身ファンタスティック・アバタミオル』!! みみみみぃっ!!!」


 芽衣が200人に増えた。


「な、なんだこの子供は!? どういうスキルだ、これは!?」

「落ち着け! 子供とは言え、敵だ! 撃て! 撃てぇ!!」


 アトミルカのトリプルフィンガーズが芽衣と交戦を開始する。

 その数、約80人。


 芽衣のドッペルゲンガーは15人。

 だが、彼女は戦いを繰り返すごとにドッペルゲンガーの扱いが上達している。


「みみみっ! 『円陣サークル煌気散弾銃ショットガン』!! みみみみみっ!!!」


「はぎゃあぁぁぁっ! なんだこの子供!! 意味が分からねぇ!!」

「盾スキルで対応しろ! おべぇぇぇぇぇっ!?」

「盾なんて意味ねぇよ! いつの間にか全方位囲まれてるじゃねぇか!!」


 芽衣は185体ある自分の幻で敵をかく乱している間に、ドッペルゲンガーを基地の入口を取り囲むように配置していた。

 その状態から撃ち出される、芽衣の煌気オーラ全部乗せした『煌気散弾銃ショットガン』は強力。


 トリプルフィンガーズでは対処できずに、次々と倒れていく。

 幼い探索員の大金星であった。


 そこに参戦するのが、大人の役割。


「木原さん、素晴らしい活躍だったね! 煌気オーラを使い果たしたんじゃないかい? 続きは、自分が引き受けよう!」

「みみっ! きっと加賀美さんが来てくれると思っていたです! よろしくです!! みみみっ!!」


 加賀美政宗、愛刀のホトトギスを携えて参陣。

 せっかく混乱している戦場である。


 ならば、それを利用しない手はない。


「視界も奪わせてもらう! はぁぁっ! 舞い飛べ、『白煙はくえん朱鷺とき』!!」


 加賀美の放つ剣技は様々な特性を持った鳥を具現化するものが多い。

 これは、師匠である雷門善吉監察官が構築スキルのスペシャリストである事が関係している。


 構築スキルと具現化スキルは分類するとかなり近しい関係にあり、加賀美の戦い方に合わせてこの具現化スキルは多彩な変化を見せる。


 煌気オーラを含んだ白い煙を吐く朱鷺。

 手で払ったとこで意味はない。

 その煙の煌気オーラをコントロールしているのが加賀美だからである。


 だが、アトミルカもバカではない。

 基地のほぼゼロ距離に敵がいるのであれば、対処の種類も増える。


「基地主砲、目標合わせ!!」

「目標合わせ、良し!!」


 キュロドスにある基地には、煌気オーラ大砲が標準装備されている。

 ラキシンシで作られた砲弾は誰が撃っても高い威力を発揮し、何よりの利点は「ラキシンシが煌気によって変容し辛い」特性を持っている事である。


 つまり、対応できる種類のスキルがかなり限られる。


「木原さん! アタック・オン・リコの中へ! これは自分が防げるかどうか分からない!!」

「みみみっ! だったら、芽衣のドッペルゲンガーもお手伝いするです!!」


 だが、大砲は放たれなかった。

 何故か。


「あははっ! 視界不良の中の狙撃って、気持ちいいんだよなー! あー! 軽くイキそう!!」


 急襲部隊には、極めて優れたスナイパーがいる。

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