第317話 監察官・南雲修一の「もうヤダ、この子たち」(今季5回目・通算37回目)

 アタック・オン・リコの中では、南雲が決断を迫られていた。


 逆神六駆と屋払文哉が乗り物酔いで倒れ、和泉正春は普通に倒れ、小坂莉子は彼氏が心配だからと戦わない。

 外では木原芽衣と加賀美政宗が奮戦しているが、基地の主砲がまだ生きている以上、近距離戦闘をメインにしている2人の身の安全が心配である。


 アタック・オン・リコの天井には、加賀美の放った煙幕スキルに身を隠して狂気は隠さない男、雲谷陽介が主砲に近づく者を笑いながらスナイプしている。

 そのかいあって、戦況は動いていない。


 だが、主砲が何基あるのか判然としない以上、雲谷1人の狙撃では対応できなくなる可能性は高い。


「小坂くん! 逆神くんはまだダメそうか!?」

「ダメです! 六駆くん、コーラが飲みたいって言ってます!!」



「意外と余裕がありそうなんだけど!? それ、本当にダメなの!?」

「南雲さん、ひどいですよぉ! こんなに弱った六駆くんを見て、そんな事を言うんですかぁ!?」



 最大戦力の片割れに怒られた総指揮官。

 「うん。じゃあ、ごめんなさい」と何故か彼は謝った。


 そうなると、アタック・オン・リコの中にいる青山仁香を出撃させるか否かの判断がやって来るが、それは即答できる。

 彼女も近距離攻撃を主戦とするスタイル。


 この上、基地の外に近距離戦闘員を増やしても状況は改善されない。

 「こうなれば、私が出るか!」と南雲が覚悟を決めた時、彼女が口を開いた。


「南雲さん、南雲さん。あたしにいい考えがあるにゃー!」

「ああ! 椎名くん! そうか、君がいた!!」



 完全に思考の中からチーム莉子のどら猫が消えていた南雲である。



「六駆くんにこの新型アタック・オン・リコの説明受けたんですけどにゃー。煌気オーラ砲、一基はステルスに転用しちゃったから使えないけど、もう一基あるんですにゃー。六駆くんが生前、こっちは使えるって言ってましたぞなー!」


「本当か!! よし、ならば小坂くん! 景気よく弩級スキルをぶっ放してくれ!!」

「ダメですよぉ! 今、六駆くんにひざ枕してあげてますから!! 動けません!!」



「ええ……」

「それは仕方がないにゃー。南雲さんが撃ったらどうですかにゃー?」



 南雲も一通りのスキルは習得しているが、得意とするのは装備を用いたスキル。

 元から遠距離攻撃を想定した武器を作るので、いざ手ぶらで撃てと言われると、非常に心許ない事は自分で分かっている。


 ならば、選択肢は1つ。


「椎名くん! 君に要塞の煌気オーラ砲を任せたい!!」

「えー。あたしですかにゃー? あんまり自信ないですにゃー」


「いや、君、ルベルバック戦争で煌気オーラ砲使った事があったろ!? 今思い出したけど!!」

「うーん。じゃあ、南雲さんお願いきいてくれますかにゃー?」


「なんか嫌な予感しかしない! けど、言ってみて!!」

「来年の前期試験の時に、多分きっと余裕で追試受けるので、またカンニングさせてくださいにゃー!!」



「……君も大概には逆神くんに毒されて来たな。人としてのラインギリギリだよ」

「にゃっふっふー。南雲さん、これはあたしの生まれ持った特性ですぞなー」



 南雲は不承不承ながら、頷かざるを得なかった。

 怠惰などら猫が突破口として立ち上がる。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 煌気オーラ注入口に手を突っ込んだクララ。

 照準を基地の屋上に合わせると、スキルを放った。


「うにゃにゃー! 『グラビティレイ・キャノン』!! それいけにゃー!!」


 アタック・オン・リコの煌気オーラ砲は、元のスキルを数倍の威力に高めて発射する。

 クララが撃ったのは重力系のスキル。


 それが基地の屋上に直撃した。


「し、椎名くん!! 君ぃ! よりにもよって、重力系をチョイスしたのか!? ダメだよ! そんなの屋上に撃っちゃ!!」

「でも、これが1番効率よく敵を排除できますにゃー?」



「考え方が逆神イズムに染まっている……!! 基地が崩れたら、怪我人が山ほど出るでしょうが!! と言うかね、下手すると死人も出るよ!!」

「にゃははー。それは考えが及びませんでしたぞなー」



 南雲の予見はバッチリヒット。

 彼の嫌な予感の的中率は、全盛期のイチローに匹敵するとか、しないとか。


「木原くん、加賀美くん! 一旦要塞の中に撤収するんだ! 基地が崩れるぞ!! 巻き込まれてしまう!! 急げ!!」


「木原さん! 聞いた通りだよ! さあ、先に行くんだ!」

「みみっ! 加賀美さんも急いでください! みみみっ!!」


「ふふっ、誰も俺の事を心配してくれないんだもんなぁ! あははっ! ついでにトドメ刺しとこう! 『空間震動弾クエイクブレイクショット』!!」


 雲谷の一撃が、ギリギリで持ちこたえていた基地の均衡を破壊した。

 ガラガラと中央に向かって崩壊していくアトミルカの駐屯基地。


「おおおい! 雲谷くぅん! 何やってんだ!! 君ぃ! 中には大勢の人がいるんだぞ!?」

「ふふふ、でも南雲さん! 敵ですよ? そしてこれは戦争です! あははっ!」



「くそぅ! こんな子たちばっかりだよ、うちの部隊は!! 椎名くん、スピーカーのスイッチ入れて! 早く! 急いで!!」

「了解にゃー! あっ、これ『煌気網射出ベタベタネット』って書いたあったにゃー! にゃははー。こっちですぞなー。ポチッとなー」



 基地から飛び出して来るアトミルカ構成員たち。

 彼らに向かって捕獲用の煌気オーラを帯びたネットが襲い掛かる。


「……私ね、投降を呼びかけようとしたんだよ? それが、椎名くん。なんか色々と台無しになってるんだよね」

「な、南雲さぐはっ。まだ間に合います。どうぞ、呼びかけをごふっ」


 「いのちだいじに」をモットーに生きる和泉に背を押され、南雲はマイクを手に取った。


『あー。私はこの部隊の指揮官である。我々には君たちの投降を受け入れる用意がある。もう、何と言うか、全然説得力がない事は私もよく分かっているが、投降してくれ。身の安全は保障するし、怪我の治療も受け持つ。温かい食事に毛布を提供しよう。うん。分かっている。説得力が皆無だと言う事は。だが、信じて欲しい』


 不幸中の幸いだったのは、南雲の優しい声がアトミルカの構成員たちに届いたことだった。

 最上位ナンバーの60番が代表して、「我々は降伏する」と申し出て来た。


 負傷者を出しながらどうにか全員が脱出し終えると、基地はタイミングを計ったかのように崩れ落ちる。

 彼らの治療は和泉が行い、結果として死傷者なしで基地を破壊したのだが、急襲部隊が割と大きな代償を支払っている事実にはまだ誰も気付けていなかった。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「グレオ。通信が入った。東の駐屯基地が落とされたそうだ」

「やっぱり鼠が入り込んでやがったか。何かデータは取れたか?」


 4番グレオ・エロニエルは机に足を乗せたまま、6番ヒャルッツ・ハーラントに尋ねた。


「かなりの短時間で崩壊させられたようだが、敵の指揮官の音声データは手に入った。しかし、音声だけではどうにもならないか」


 グレオは少し考えて、「日本探索員協会のデータがあったろ」とヒャルッツに確認する。


「下柳が持ち帰ったデータか。確かにあるが」

「音声データを照会してみろ。多分ヒットする。あの豚野郎、何か仕込まれてやがったな。連絡が途絶えた事を合わせて考えると、もう身柄を抑えられてんだろ。つーことは、こっちの情報も結構漏れてんな。どうだ、出たか?」


 ヒャルッツは驚きながら答える。


「ヒットしたぞ。南雲修一監察官だ」

「よーし。こっちの端末にも情報回せ。……なるほど、それなりに強いな。だが、豚野郎と同格程度か。なら、強力な助っ人と同伴か? くくっ。こりゃあいい!」


「なるほど。そういうことか」

「そういうことよ。日本探索員協会の野郎どもを生け捕りにする。たんまり情報吐かせて、オレの出世に役立ってもらう」


 この瞬間、急襲部隊と軍事拠点・デスターの双方がお互いを敵と認識したのであった。

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